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原合(ハラ アイ)
2020年10月15日 00:03
その日から私たちは、練習の場をカズさんの家からライブハウス「レヴェル」に移した。思いっきり大きな音で楽器を鳴らせることができて、ハルは毎日嬉しそうだった。しかしそれはハルだけではない。ヒロもカズさんも、心なしかどこか楽しそうだった。私自身、本物のドラムを叩く感触は、想像以上に気もちいいと感じていた。最初は拙かっただろう私たちの「宝の地図」の演奏も、時間も忘れて練習するうちどんどん一体感を増して良
2020年10月7日 22:02
「こんなところにつれてきて、何のつもりだ?」(いいからついてきてよ)苛立ったように言うヒロに、ハルがそう言った。私たちがいるのは、しんとした商店街…“だった”場所だ。日本城の城下の中で一番さびれたこの町の、一番さびれた区域がここ『ゴーストストリート』だ。もちろん本当の名前ではないが、シャッターが閉まった商店街がずらりと並んでいるからそう呼ばれている。くすんだアーケードに、今にも壊れそうな錆び
2020年9月28日 22:37
それから、ハルによる地獄の猛特訓がはじまった。毎日、学校が終わればカズさんの家に集合。そして、皆それぞれのパートを練習するのだ。曲は、もちろん「幽霊船」の「宝の地図」だ。カズさんはもともとベーシストの素質があったのか、まるでスポンジのようにハルの言う事をすべて吸収し、みるみるうちに上達していった。それが本人も嬉しいのだろう、毎日ベースを抱えるのがたのしみになっているようだ。この間学校で、またサボ
2020年9月25日 17:27
その日の夕方、私とヒロはカズさんの家へと集まった。誰も住んでいないという証言通り、そのボロアパートはまるで幽霊屋敷のようにひっそりしている。それに合わせたかのように、カズさんとヒロの顔もまるで幽霊のようにげっそりしていた。私と同じく、きっと一睡もできなかったのだろう、ヒロにいたっては今日すべての授業を居眠りして過ごしていた。けれどその理由を理解している私も今回ばかりは、いつかのようにヒロの机を足で
2020年9月13日 23:18
次の日の朝、おじいちゃんに開口一番「どうした」と言われた。「な、なんでもないよ」わたしはそう言ったが、自分でもびっくりするぐらい声がやつれていた。きっと顔色も悪いにちがいない。そりゃそうだ、昨日は一睡もできなかったのだ。緊張感や興奮、そして恐怖が抜けきらず、布団の中でじっとしているも気がついたら朝になっていた。それに、顔のところどころにつけた絆創膏に、足につけたシップ。昨夜家をこっそり抜
2020年8月29日 09:23
仮面のフロアから、ロックンロールの展示場所は思ったより近かった。歩いて一分もたたずに、厳重な鍵が何個もかかっている鉄製の重そうな扉が、私たちを待ち構えていたのだ。「ロックンロール展示・関係者以外立ち入り禁止」という文字が、侵入者をはねつけるかのごとく大きく書かれている。 ハルにせかされ、私は鍵の束を取り出した。そしてその中からひとつひとつ試していって、やっとこの扉にあう鍵を見つけ出した。「
2020年8月28日 19:29
その日の夜、私はおじいちゃんの目をかいくぐって家をでて、王国博物館わきの王国公園へと向かった。ぽつぽつとともる街灯の下、ヒロとカズさんはもうすでに集合場所にいた。公園わきには、カズさんのものであろうオンボロの軽自動車が一台止まっている。二人の顔色は悪く、嫌々ここにやってきたという感情がにじみ出ている。「言っておくが、俺は納得してやるわけじゃない。特にお前ら二人に関してはな」 開口一番、カ
2020年8月27日 20:49
放課後の保健室は、あたたかな日差しが入り込む心地のいい場所だった。春のおわり、梅雨に入る少し前。暑くもなく寒くない、そんな陽気が開けた窓からゆるゆると入り込んでくる。 そんなさわやかな風景の中、三人……私、ヒロ、カズさんは暗い表情のまま、黙り込んでいた。グラウンドから、サッカー部のかけ声や吹奏楽部の音色が賑やかに聞こえてきて、それがよりいっそう保健室の空気の重さを際立たせた。「……そういえ
2020年8月26日 08:40
「おいおいサキ、本当にあんなうさんくさい話信じてもいいのか?」「だって、しょうがないでしょ。あの幽霊がそう言ってるんだから…他に頼るものなんてないし」「わかってるけどよ…こんなマネして、バレたら問題だぜ」 ヒロにそう言われて、わたしはうっと言葉をつまらせた。こんなマネ、とは他でもない。私たちが今やっている行為…カズさんの「尾行」だった。『とりあえず、明日カズさんの家にいってごらんよ』
2020年8月25日 21:28
#2 目次 次の日の朝。登校してきてすぐに私はヒロの姿を探したが、教室のどこを見ても見つからない。ヒロの友人にきけば、学校で姿は見かけたと言っていた。 けれど、1時間目、2時間目と、彼の席は空っぽのまま…と、いうことは。 休み時間を告げるチャイムと共に、私は足音荒く保健室へとむかった。「失礼します」 ガラリと保健室のドアをあけると、カズさん……保健の先生が、ずずずーっとコーヒーを
2020年8月24日 12:15
#1 目次「サキ先生、ありがとうございましたー」「うん、また水曜日ね」 へとへとになりながら縁側に座っていると、稽古を終えた生徒たちが私に手を振りながら去って行った。子供達にむけて笑顔を必死につくってはいるものの、頭の中はぼんやりしている。さっき、学校の帰りに見たあの光景が忘れられない。 幼なじみであるヒロは、もともと幽霊にとっつかれやすい性質だった。なぜそんなことを知っているか
2020年8月23日 17:42
69P【新しい日本王国のはじまり】20××年、日本国王【佐藤清(さとうきよし)】から【ロックンロール禁止法】が発令された。それ以来、日本は外国から伝わった【ロックンロール】とよばれる激しい音楽の日本国への持込を一切禁止し、レコード、カセット、CDやデータにいたるまで、その存在すべてを処分した。これに伴い、日本のロックバンドはすべて強制解散され、日本中のギター、ベース、ドラムなど騒音の元と