鹿沢みる

文筆・短歌 || 遺跡・博物館・やきもの(古代の土器・陶磁器)をもっと身近に、もっ…

鹿沢みる

文筆・短歌 || 遺跡・博物館・やきもの(古代の土器・陶磁器)をもっと身近に、もっと楽しくをモットーに || 塔短歌会

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記事一覧

憧憬

古い映画を見ているとモラルや倫理の観点から、正気なの?と疑うようなストーリーやシーンがよくある。 落語もそう。 女は何かあるとすぐ吉原へ行くし、何もなくてもすぐ買…

鹿沢みる
8か月前
1

落語を迎えに行けない

落語を聴きに行ってるとたまに、面白くないなーと思うことがある。理由はいろいろ。 芸が未熟、噺自体がつまらない、噺や演者の感性が古い、私に知識が足りない、体調が悪…

鹿沢みる
8か月前
4

浪曲界の推し

錦糸町でやってた河内音頭のラストで、やけに目につくお囃子の人がいた。 アドリブ入れたり佇まいもかっこよくて、気になって調べてみたら東家浦太郎師匠の弟子だった。 …

鹿沢みる
8か月前
1

浜辺にて

今日は『東京のバスガール』が頭の中でずっと流れていた。 3番の歌詞が酔った客に絡まれて泣くという内容で、なぜかそこがループ。 だんだん酔って絡んだ客に腹が立ってき…

鹿沢みる
9か月前

変態

ここ最近、蚕が気になっている。 きっかけは春先に見に行ったビョークのライブだ。 人類が花や獣や虫になり、花が人類や虫になり、または全く新しい未知の姿に変わったり。…

鹿沢みる
11か月前

初夏 三首

梔子のうわさをきいたよ還俗をしたらしいよと風が仰る 霧雨の奥で爛れるように咲く躑躅おまえも泣いているのか たましいが夕庭の奥にゆれていて話しかけたら白薔薇むすう

鹿沢みる
1年前
3

連作 水母

くつ下の蛍光色だけ浮いていて本日きみは深海魚のよう そののちを百年雨はふりつづき水母が唸るあおい浪曲 公園から出られなくなるおまじない幼い頃にかけられたまま 信…

鹿沢みる
1年前
2

塔2月号 月詠

歌集の帯にそよぐ和毛に陽があたりそこからさきは風の領域 秋霖をもてあまして飲むアーモンドミルクのうすいうすい肉色 アカーキイ・アカーキエウィッチを追悼しダイアロ…

鹿沢みる
1年前

塔1月号 月詠

きみが生きるの嫌になったとか言うから すわ木犀香る苛烈に 知りたいなら汝の虚を見せてみろと埴輪おとこが洞から覗く 私だけ海に暮らしているみたいあなたが泡を吐く嘘…

鹿沢みる
1年前
1

塔12月号 月詠

トーストが焼けるうちにも朽ちてゆく私の細胞そちこちに散る 誰ひとり匂いも感受できぬまま街の骸のうえに立つ街 吐息よりはやく走って夏がくる厚い胸板ああこの馨り ヤ…

鹿沢みる
1年前
1

塔11月号 月詠

鳩尾に沈む情緒を食い荒らしまるまる肥える私の鼠たち 朽ちてゆくために貪る日々束ね軒へ吊るす きょうはいい天気 みどりいろばかり重ねて井の頭公園夏みたいな顔をして…

鹿沢みる
1年前
1

塔10月号 月詠

蝶の臨終に立ち会う 声はなく、はるかな羽ばたきをひとつだけ 山百合になりたいと女は筆を執り錆色の斑点を頬にのせる 空蝉のそっくり溶けた夜を齧る ああ湾ありありと…

鹿沢みる
1年前

塔9月号 月詠

理のほつれ繕う瑠璃小灰蝶すわかついつい滑空ふたつ クリープが沈んでいくのを見届ける安寧ですか沖ノ鳥島 夕ぞらの甕をのぞくとまだあかるくて夜をひと匙かきまぜてみる…

鹿沢みる
1年前

塔8月号 月詠

耳元の空気がゆれるふりかえる今ふれたのはどなたの熊鈴 土に還るまでが遠足 分裂を繰り返しながら町まで帰る ゼラチンを溶かした湖面をわたるようにだれも起きない夜を…

鹿沢みる
1年前
1

塔7月号 月詠

アウトラインを春の霞に剥がされてひろいひらたい関東平野 真新しい五月の森のふりをしたフリルレタスを堆く盛る あの長回しはいらなかったかも。アップリンクから遠回り…

鹿沢みる
1年前

塔6月号 月詠

せめて二日前には知らせてください。あの角曲がると海があるって たぶんあれは夢だと思うモノクロの砂漠の丘に灯るデニーズ こう長く雨が続くと痛みだす鎖骨の下のラビリ…

鹿沢みる
1年前
憧憬

憧憬

古い映画を見ているとモラルや倫理の観点から、正気なの?と疑うようなストーリーやシーンがよくある。
落語もそう。
女は何かあるとすぐ吉原へ行くし、何もなくてもすぐ買われる。
それが当たり前の時代だったし、終わってしまった時代に今から文句を言っても仕方ない。
けれどそういうシーンが出てくると、物語に入り込めなくなることが増えた。
十年前ならふつうに楽しめていたコンテンツが、今は苦しい。

二年前に近美

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落語を迎えに行けない

落語を迎えに行けない

落語を聴きに行ってるとたまに、面白くないなーと思うことがある。理由はいろいろ。
芸が未熟、噺自体がつまらない、噺や演者の感性が古い、私に知識が足りない、体調が悪い、などなど。
他にも会場が暑すぎるとか、隣の客がずっと喋ってるとか、集中できなくてつまらなくなることもいくらでもある。

こういうことは、映画でも博物館でも遊園地でも起こる。
けれどそういうとき、とくに落語に顕著に表れる感覚がある。
虚し

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浪曲界の推し

浪曲界の推し

錦糸町でやってた河内音頭のラストで、やけに目につくお囃子の人がいた。
アドリブ入れたり佇まいもかっこよくて、気になって調べてみたら東家浦太郎師匠の弟子だった。

浦太郎師匠は私の憧れの浪曲師だった。
国本武春師匠が亡くなってからも、たまに浪曲を聴きに寄席へ行っていたのは、浦太郎師匠がいたからだ。

浪曲のことをいいなと最初に思ったのは武春師匠を観たときで、この人はNHKでうなりやべべんとかやってた

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浜辺にて

浜辺にて

今日は『東京のバスガール』が頭の中でずっと流れていた。
3番の歌詞が酔った客に絡まれて泣くという内容で、なぜかそこがループ。
だんだん酔って絡んだ客に腹が立ってきて、そこからバスガールの涙(と表出されない怒り)⇒女にしか就けない(女でも就けた)仕事⇒現代まで脈々と続く女の悲哀へと思考が転がりはじめる。
最終的にネットで宮沢りえが出ていた『東京エレベーターガール』というドラマを見つけたところでタブを

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変態

変態

ここ最近、蚕が気になっている。
きっかけは春先に見に行ったビョークのライブだ。
人類が花や獣や虫になり、花が人類や虫になり、または全く新しい未知の姿に変わったり。
人類の変態をテーマにしたような演出が素晴らしかった。
特にTobias Gremmlerの映像。
日本的なアニミズムとは少し違い、すべての生の進化を見つめていくような視点。
変わってはまた戻る、その変態のシームレスなこと。
そこにビョー

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初夏 三首

初夏 三首

梔子のうわさをきいたよ還俗をしたらしいよと風が仰る

霧雨の奥で爛れるように咲く躑躅おまえも泣いているのか

たましいが夕庭の奥にゆれていて話しかけたら白薔薇むすう

連作 水母

連作 水母

くつ下の蛍光色だけ浮いていて本日きみは深海魚のよう

そののちを百年雨はふりつづき水母が唸るあおい浪曲

公園から出られなくなるおまじない幼い頃にかけられたまま

信号がさびしい影となるころに おかあさん、ぼくを憶えていますか?

早々にこわい話をやめにして笹船ひとつ流しましょうか

わたしたち類稀なる泥人形おおきいほうの心をあげる

塔2月号 月詠

塔2月号 月詠

歌集の帯にそよぐ和毛に陽があたりそこからさきは風の領域

秋霖をもてあまして飲むアーモンドミルクのうすいうすい肉色

アカーキイ・アカーキエウィッチを追悼しダイアローグに火をつけていく

あおいろの香を焚くとき彷徨える無風帯の風の手ざわり

こころなど見透かされつつ鈴懸の素肌をおもうあなたも斑

始発電車がさざ波を立てて走っていく靴下は履かない濡れるから



2022年2月号

塔1月号 月詠

塔1月号 月詠

きみが生きるの嫌になったとか言うから すわ木犀香る苛烈に

知りたいなら汝の虚を見せてみろと埴輪おとこが洞から覗く

私だけ海に暮らしているみたいあなたが泡を吐く嘘を吐く

縄文人みたいな写真を撮る人よ無垢であることは無罪ではない

ずいぶんと遠くへきたと冥王星の平野を見下ろすまだ名前のない


2022年1月号

塔12月号 月詠

塔12月号 月詠

トーストが焼けるうちにも朽ちてゆく私の細胞そちこちに散る

誰ひとり匂いも感受できぬまま街の骸のうえに立つ街

吐息よりはやく走って夏がくる厚い胸板ああこの馨り

ヤマシギにおやすみなさいと促され秋は縫いとじられていきます

たぷたぷと午のひかりがゆれている零さないよう春まで運ぶ



2021年12月号

塔11月号 月詠

塔11月号 月詠

鳩尾に沈む情緒を食い荒らしまるまる肥える私の鼠たち

朽ちてゆくために貪る日々束ね軒へ吊るす きょうはいい天気

みどりいろばかり重ねて井の頭公園夏みたいな顔をしている

似た顔の蟻に囲まれ齧られる土となるまであとどのくらい

本当だよ天使を見たよラベンダー色の帽子が似合っていたよ

2021年11月号

塔10月号 月詠

塔10月号 月詠

蝶の臨終に立ち会う 声はなく、はるかな羽ばたきをひとつだけ

山百合になりたいと女は筆を執り錆色の斑点を頬にのせる

空蝉のそっくり溶けた夜を齧る ああ湾ありありと匂い立つ

ほら見てと変な形の屋根を指す変な形だねとしばらく見る

月のない夜だったので鉄塔に誓いを立てたそれだけの夜

いつの世の記憶で歩く蜜色の森にさそわれ奥へ奥へと

いのちのち春をたゆたう風になるくすぐったいねまたねさよなら

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塔9月号 月詠

塔9月号 月詠

理のほつれ繕う瑠璃小灰蝶すわかついつい滑空ふたつ

クリープが沈んでいくのを見届ける安寧ですか沖ノ鳥島

夕ぞらの甕をのぞくとまだあかるくて夜をひと匙かきまぜてみる

みたこともきいたこともないのりものの轍をのこし去りゆく夕

秩序よ! 時計の針はひんしゃんと私たちの朝をしらせる

結構です。わたしの骨はたれも名をよばなくなった遺跡ですから

2021年9月号

塔8月号 月詠

塔8月号 月詠

耳元の空気がゆれるふりかえる今ふれたのはどなたの熊鈴

土に還るまでが遠足 分裂を繰り返しながら町まで帰る

ゼラチンを溶かした湖面をわたるようにだれも起きない夜を抜け出す

人間のからだはふしぎ靴下をはいたまま遠浅の海へ

今日のことはまた思いだすよ無防備な日焼けは遅れてやってくるから

2021年8月号

塔7月号 月詠

塔7月号 月詠

アウトラインを春の霞に剥がされてひろいひらたい関東平野

真新しい五月の森のふりをしたフリルレタスを堆く盛る

あの長回しはいらなかったかも。アップリンクから遠回りして帰る

ツツジにも抱えきれない痛みがあってツツジは咲くよ爛れるように

右頬に海の刺繍を入れました忘れたくないことがあります

ことばってメタフィジカルなレゴブロックつなげてあそぶあなたにもあげる


2021年7月号

塔6月号 月詠

塔6月号 月詠

せめて二日前には知らせてください。あの角曲がると海があるって

たぶんあれは夢だと思うモノクロの砂漠の丘に灯るデニーズ

こう長く雨が続くと痛みだす鎖骨の下のラビリンス器官

脊椎のない鮎のようタクシーは温い街まちすうすうすすむ

くちびるにとどきはじめた前髪の時間はなにをゆるしてくれた



2021年6月号