鹿沢みる
古い映画を見ているとモラルや倫理の観点から、正気なの?と疑うようなストーリーやシーンがよくある。 落語もそう。 女は何かあるとすぐ吉原へ行くし、何もなくてもすぐ買…
落語を聴きに行ってるとたまに、面白くないなーと思うことがある。理由はいろいろ。 芸が未熟、噺自体がつまらない、噺や演者の感性が古い、私に知識が足りない、体調が悪…
錦糸町でやってた河内音頭のラストで、やけに目につくお囃子の人がいた。 アドリブ入れたり佇まいもかっこよくて、気になって調べてみたら東家浦太郎師匠の弟子だった。 …
今日は『東京のバスガール』が頭の中でずっと流れていた。 3番の歌詞が酔った客に絡まれて泣くという内容で、なぜかそこがループ。 だんだん酔って絡んだ客に腹が立ってき…
ここ最近、蚕が気になっている。 きっかけは春先に見に行ったビョークのライブだ。 人類が花や獣や虫になり、花が人類や虫になり、または全く新しい未知の姿に変わったり。…
梔子のうわさをきいたよ還俗をしたらしいよと風が仰る 霧雨の奥で爛れるように咲く躑躅おまえも泣いているのか たましいが夕庭の奥にゆれていて話しかけたら白薔薇むすう
くつ下の蛍光色だけ浮いていて本日きみは深海魚のよう そののちを百年雨はふりつづき水母が唸るあおい浪曲 公園から出られなくなるおまじない幼い頃にかけられたまま 信…
歌集の帯にそよぐ和毛に陽があたりそこからさきは風の領域 秋霖をもてあまして飲むアーモンドミルクのうすいうすい肉色 アカーキイ・アカーキエウィッチを追悼しダイアロ…
きみが生きるの嫌になったとか言うから すわ木犀香る苛烈に 知りたいなら汝の虚を見せてみろと埴輪おとこが洞から覗く 私だけ海に暮らしているみたいあなたが泡を吐く嘘…
トーストが焼けるうちにも朽ちてゆく私の細胞そちこちに散る 誰ひとり匂いも感受できぬまま街の骸のうえに立つ街 吐息よりはやく走って夏がくる厚い胸板ああこの馨り ヤ…
鳩尾に沈む情緒を食い荒らしまるまる肥える私の鼠たち 朽ちてゆくために貪る日々束ね軒へ吊るす きょうはいい天気 みどりいろばかり重ねて井の頭公園夏みたいな顔をして…
蝶の臨終に立ち会う 声はなく、はるかな羽ばたきをひとつだけ 山百合になりたいと女は筆を執り錆色の斑点を頬にのせる 空蝉のそっくり溶けた夜を齧る ああ湾ありありと…
理のほつれ繕う瑠璃小灰蝶すわかついつい滑空ふたつ クリープが沈んでいくのを見届ける安寧ですか沖ノ鳥島 夕ぞらの甕をのぞくとまだあかるくて夜をひと匙かきまぜてみる…
耳元の空気がゆれるふりかえる今ふれたのはどなたの熊鈴 土に還るまでが遠足 分裂を繰り返しながら町まで帰る ゼラチンを溶かした湖面をわたるようにだれも起きない夜を…
アウトラインを春の霞に剥がされてひろいひらたい関東平野 真新しい五月の森のふりをしたフリルレタスを堆く盛る あの長回しはいらなかったかも。アップリンクから遠回り…
せめて二日前には知らせてください。あの角曲がると海があるって たぶんあれは夢だと思うモノクロの砂漠の丘に灯るデニーズ こう長く雨が続くと痛みだす鎖骨の下のラビリ…
2023年9月26日 16:13
古い映画を見ているとモラルや倫理の観点から、正気なの?と疑うようなストーリーやシーンがよくある。落語もそう。女は何かあるとすぐ吉原へ行くし、何もなくてもすぐ買われる。それが当たり前の時代だったし、終わってしまった時代に今から文句を言っても仕方ない。けれどそういうシーンが出てくると、物語に入り込めなくなることが増えた。十年前ならふつうに楽しめていたコンテンツが、今は苦しい。二年前に近美
2023年9月11日 19:49
落語を聴きに行ってるとたまに、面白くないなーと思うことがある。理由はいろいろ。芸が未熟、噺自体がつまらない、噺や演者の感性が古い、私に知識が足りない、体調が悪い、などなど。他にも会場が暑すぎるとか、隣の客がずっと喋ってるとか、集中できなくてつまらなくなることもいくらでもある。こういうことは、映画でも博物館でも遊園地でも起こる。けれどそういうとき、とくに落語に顕著に表れる感覚がある。虚し
2023年9月8日 20:09
錦糸町でやってた河内音頭のラストで、やけに目につくお囃子の人がいた。アドリブ入れたり佇まいもかっこよくて、気になって調べてみたら東家浦太郎師匠の弟子だった。浦太郎師匠は私の憧れの浪曲師だった。国本武春師匠が亡くなってからも、たまに浪曲を聴きに寄席へ行っていたのは、浦太郎師匠がいたからだ。浪曲のことをいいなと最初に思ったのは武春師匠を観たときで、この人はNHKでうなりやべべんとかやってた
2023年9月1日 11:44
今日は『東京のバスガール』が頭の中でずっと流れていた。3番の歌詞が酔った客に絡まれて泣くという内容で、なぜかそこがループ。だんだん酔って絡んだ客に腹が立ってきて、そこからバスガールの涙(と表出されない怒り)⇒女にしか就けない(女でも就けた)仕事⇒現代まで脈々と続く女の悲哀へと思考が転がりはじめる。最終的にネットで宮沢りえが出ていた『東京エレベーターガール』というドラマを見つけたところでタブを
2023年6月22日 20:36
ここ最近、蚕が気になっている。きっかけは春先に見に行ったビョークのライブだ。人類が花や獣や虫になり、花が人類や虫になり、または全く新しい未知の姿に変わったり。人類の変態をテーマにしたような演出が素晴らしかった。特にTobias Gremmlerの映像。日本的なアニミズムとは少し違い、すべての生の進化を見つめていくような視点。変わってはまた戻る、その変態のシームレスなこと。そこにビョー
2023年6月6日 18:04
梔子のうわさをきいたよ還俗をしたらしいよと風が仰る霧雨の奥で爛れるように咲く躑躅おまえも泣いているのかたましいが夕庭の奥にゆれていて話しかけたら白薔薇むすう
2023年4月12日 15:32
くつ下の蛍光色だけ浮いていて本日きみは深海魚のようそののちを百年雨はふりつづき水母が唸るあおい浪曲公園から出られなくなるおまじない幼い頃にかけられたまま信号がさびしい影となるころに おかあさん、ぼくを憶えていますか?早々にこわい話をやめにして笹船ひとつ流しましょうかわたしたち類稀なる泥人形おおきいほうの心をあげる
2022年9月13日 15:49
歌集の帯にそよぐ和毛に陽があたりそこからさきは風の領域秋霖をもてあまして飲むアーモンドミルクのうすいうすい肉色アカーキイ・アカーキエウィッチを追悼しダイアローグに火をつけていくあおいろの香を焚くとき彷徨える無風帯の風の手ざわりこころなど見透かされつつ鈴懸の素肌をおもうあなたも斑始発電車がさざ波を立てて走っていく靴下は履かない濡れるから 2022年2月号
きみが生きるの嫌になったとか言うから すわ木犀香る苛烈に知りたいなら汝の虚を見せてみろと埴輪おとこが洞から覗く私だけ海に暮らしているみたいあなたが泡を吐く嘘を吐く縄文人みたいな写真を撮る人よ無垢であることは無罪ではないずいぶんと遠くへきたと冥王星の平野を見下ろすまだ名前のない 2022年1月号
2022年9月13日 15:48
トーストが焼けるうちにも朽ちてゆく私の細胞そちこちに散る誰ひとり匂いも感受できぬまま街の骸のうえに立つ街吐息よりはやく走って夏がくる厚い胸板ああこの馨りヤマシギにおやすみなさいと促され秋は縫いとじられていきますたぷたぷと午のひかりがゆれている零さないよう春まで運ぶ 2021年12月号
2022年9月1日 17:12
鳩尾に沈む情緒を食い荒らしまるまる肥える私の鼠たち朽ちてゆくために貪る日々束ね軒へ吊るす きょうはいい天気みどりいろばかり重ねて井の頭公園夏みたいな顔をしている似た顔の蟻に囲まれ齧られる土となるまであとどのくらい本当だよ天使を見たよラベンダー色の帽子が似合っていたよ2021年11月号
2022年9月1日 17:11
蝶の臨終に立ち会う 声はなく、はるかな羽ばたきをひとつだけ山百合になりたいと女は筆を執り錆色の斑点を頬にのせる空蝉のそっくり溶けた夜を齧る ああ湾ありありと匂い立つほら見てと変な形の屋根を指す変な形だねとしばらく見る月のない夜だったので鉄塔に誓いを立てたそれだけの夜いつの世の記憶で歩く蜜色の森にさそわれ奥へ奥へといのちのち春をたゆたう風になるくすぐったいねまたねさよなら
2022年9月1日 17:09
理のほつれ繕う瑠璃小灰蝶すわかついつい滑空ふたつクリープが沈んでいくのを見届ける安寧ですか沖ノ鳥島夕ぞらの甕をのぞくとまだあかるくて夜をひと匙かきまぜてみるみたこともきいたこともないのりものの轍をのこし去りゆく夕秩序よ! 時計の針はひんしゃんと私たちの朝をしらせる結構です。わたしの骨はたれも名をよばなくなった遺跡ですから2021年9月号
2022年9月1日 17:08
耳元の空気がゆれるふりかえる今ふれたのはどなたの熊鈴土に還るまでが遠足 分裂を繰り返しながら町まで帰るゼラチンを溶かした湖面をわたるようにだれも起きない夜を抜け出す人間のからだはふしぎ靴下をはいたまま遠浅の海へ今日のことはまた思いだすよ無防備な日焼けは遅れてやってくるから2021年8月号
2022年9月1日 17:06
アウトラインを春の霞に剥がされてひろいひらたい関東平野真新しい五月の森のふりをしたフリルレタスを堆く盛るあの長回しはいらなかったかも。アップリンクから遠回りして帰るツツジにも抱えきれない痛みがあってツツジは咲くよ爛れるように右頬に海の刺繍を入れました忘れたくないことがありますことばってメタフィジカルなレゴブロックつなげてあそぶあなたにもあげる 2021年7月号
2022年9月1日 17:05
せめて二日前には知らせてください。あの角曲がると海があるってたぶんあれは夢だと思うモノクロの砂漠の丘に灯るデニーズこう長く雨が続くと痛みだす鎖骨の下のラビリンス器官脊椎のない鮎のようタクシーは温い街まちすうすうすすむくちびるにとどきはじめた前髪の時間はなにをゆるしてくれた 2021年6月号