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塔10月号 月詠

蝶の臨終に立ち会う 声はなく、はるかな羽ばたきをひとつだけ

山百合になりたいと女は筆を執り錆色の斑点を頬にのせる

空蝉のそっくり溶けた夜を齧る ああ湾ありありと匂い立つ

ほら見てと変な形の屋根を指す変な形だねとしばらく見る

月のない夜だったので鉄塔に誓いを立てたそれだけの夜

いつの世の記憶で歩く蜜色の森にさそわれ奥へ奥へと

いのちのち春をたゆたう風になるくすぐったいねまたねさよなら

2021年10月号

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