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宇禰 日和
2023年7月13日 22:50
海の中だね、ここ、海の中だね触れたらはじけて死んでしまうしゃぼん玉の泡を食べながらきみはくつくつ笑う。最初から存在しない旅立ちだった帰ってくることを想定しないううん、そうじゃない帰ってなんて、きたくなかった。触れていたかった、ずっとふたりきりきみとだけ一緒に眠り続ける幼い子に語りかけるようになでつけて、可愛がるだけの、愛おしいわたしだけの顔をして孕まないわたしときみ
2022年1月30日 23:15
開いた本のカビ臭さに咳をしてここに何年もあった事実を吐き出すただしく正しく正常に折り重ねていかねばならない生活が目の前にいていま、ここ、このいっときに正しく正常な反論をせねばならない思いを全部口にして投げだされた音が痛いわたしはいつかの母と同じ台詞を言って押し黙るこれきっと血正しい血統を持ったわたし何年もここにあって本を手放すということはわたしが切断されてい
2021年3月13日 21:44
無感覚なままで生きているんです。心躍る出来事のない生活というものがこんなにも単調でこんなにも平和的でそしてこんなにも穏やかなことを知りませんでした。わたしは、声が出ているんでしょうか。仕事はどうですか、と聞かれるたびにどう答えて良いのかわからずに笑う癖をお辞めなさいと、言ってあげたかった。泣くのを、堪えたまま、笑うのは、情けのない、気持ちになります。岩石みたいなチョコレートケーキで誤魔化して、
2020年5月6日 13:32
緊急事態宣言が発令された大型連休に乗換の地下道にいて、ただどこにいくあてもなくぼんやりと発車を知らせるアナウンスや、移動はおやめくださいという聴き慣れてしまった声を聞き流していた。どこにいけるあてもないのにポスターは渋谷にある老舗のカフェや新緑の鮮やかな京都を勧めてくる。どこにもいくことができないのに無人の駅に無人の電車が来て無人まま去っていく。宛名を書き忘れた手紙みたいな人々が街にはたくさんい
2020年4月11日 09:20
誰かのことを責めたかったわけじゃないけれど責め立てなければ泣くことが出来なかった、怒らないでください、奪わないでください、できないんです、声が追いつかないんです、ごめんなさい、ごめんなさい、こんな人でごめんなさい、なにもできなくてごめんなさい、大人になったわたし、なにもできないままで、誰にも愛されない、何にだってなれるよ、だから自分を信じて。と投げられた言葉を何一つ理解できなかった、18歳の頃、
2019年12月23日 01:38
今夜はたくさん星が落ちてくるからってふたりで青山のイルミネーションをこの世から断絶した暗闇は男も女もわからなくなる最初から何も見えないまま出会えばよかったんだって、眼球ごとすり潰して、醜いほど美しい曲線を持つきみの横顔、隣合わせ香りだけ嗅ぐ犬のようなあなたは友達だからっていつかきみが話してくれたきみは男の人と手を繋いでいて笑うと、きらきらきらきらきらきらきらきら男の人はみな一様に顔
2019年12月19日 12:43
なにもなかったんだ、ほんとう満員電車の中でもう合えない人の顔を重ねるそらがぴかぴかして、ほら、ぴかぴかして、終わらない朝焼けに真冬なのにあせをぐっしょりかいてわたしの首は斜め45度になる。カンパネラ、どこまでも一緒にいられればよかった。再建を壊し続けてひとはいつだって失ってしまう。喪失に慣れてさよならも亡霊もこわくない。どこにもいかないって約束したお母さんのゆりかごを壊されて床にどすりと転が
2019年9月5日 23:37
ありあわせの嘘でしか運命を語れない朽ち果てたからだ 精神が浮かんで見ている最後に。って、話す校長の挨拶は長かった愛してる。って、泣いたはずのあなたは存在しない人だった 暗がりで服を脱いで 眼を閉じて耳をふさいでこころを殺してさぁ、一息。深呼吸で消えるわたし 死にたかったわけじゃない 消えたかったんです 理科の実験、水中に消えたアンモニアの気体のようにかげもかたちもかおりも
2019年11月22日 15:59
夕暮れの鱗雲を眺め綺麗 と 呟くと 同時に死にたい と 呟くこころがどこにあるのか死にたいと言いながらもわたしは物を食べ水を飲み排泄をしひとを好きになろうとし愛そうとし触れようと夜を泳ぐこころがどこにあるのかわたしは死にたい と 溢れ落ち崩れた言葉のかけらから生きたい と 同等の重さを拾い集める手のひらから指の隙間から輝かんとするそれらをもう一度口に
2019年9月1日 00:42
ほら、あそこが僕の家だったところ。 助手席から眺めたそこは、車が数台止まった駐車場だった知らない間に家がなくなったと前を見ながら明るく話す 同じように明るく笑いながらそっか、あそこが。と、外を眺め続けた遠ざかっていく駐車場車内は青春時代の洋楽が流れていて 同じタイミングで同じものを食べたいと思うようになる同じタイミングで同じ歌を歌いだす同じタイミングで同じ人を思い出
2019年8月4日 01:35
三ツ矢サイダーは口に優しい泡日差しに顔が当たれば粒になって身が弾け飛ぶわたしまた夏を愛せなかった暑さの熱の重量を抱きとめられずに弾け出された身ごと蒸発するわたしの人生も分かりやすく誰かが『いいね!』ってボタンを押してくれたらいいのに。弾けちゃって可愛いね!いいね!夏を愛せないってエモいね!いいね!とりあえず見ましたよ!閲覧!いいね!いいね!いいね!って世界中に許されて蒸発した人々が赤い
2019年6月20日 01:23
眠れないといえば労働が足りないせいだと言われ、そうか自分は怠け者なんだと知る。人類の役に立ちそうもないのでなるだけ静かに呼吸をした。身体の重たい朝、満員電車、理不尽な叱咤、付き合いという名の無料奉仕、負けるな負けるな負けるな。そう唱えるたびに何と戦っているのか分からなくて泣きそうになるそういうの、重たいんだよね。うざいっつーか、めんどい。部屋とか片付けなくていいから。なんていうか、問題なにも
2019年5月31日 01:40
肉を削ぐような生活を過ごしてきた皿の割れる音と怒鳴り声おびえた泣き声と叫び加虐から逃げ出した身体息を潜めた勉強机の下は黴臭く冷たかった息をゆっくりと吐いて冷静に切ったわけではなかった消しゴムをひとつ失くしただけでもそれは起こった存在すべきものが存在しないない ない ないない ないないない視えているはずの視覚が小刻みに揺れ始める右 左 右 ぶるぶるブル音が襲い掛かってく
2019年5月24日 01:16
ー祖母が買ってくれたシルバーグレー色したチェックのワンピースは第二次性徴期が始まった女児のスピードに追い立てられてすぐに着れなくなってしまったのを覚えていますー わたしだけの わたしだけの わたしの為だけに存在するものを常に求めていて、わたしだけの わたしの為だけのものならばそれが汚れた布切れでも嬉しくて ー送られてきたチューリップハットは祖母たちの年齢相応のもので受け取ったわたしはそ