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#自由詩

ソラシド

海の中だね、ここ、海の中だね
触れたらはじけて死んでしまうしゃぼん玉の泡を食べながら
きみはくつくつ笑う。
最初から存在しない旅立ちだった
帰ってくることを想定しない
ううん、そうじゃない
帰ってなんて、きたくなかった。

触れていたかった、ずっとふたりきり
きみとだけ一緒に眠り続ける

幼い子に語りかけるように

なでつけて、可愛がるだけの、愛おしい
わたしだけの顔をして

孕まないわたしときみ

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万年

開いた本のカビ臭さに咳をして
ここに何年もあった事実を吐き出す
ただしく
正しく
正常に
折り重ねていかねばならない生活が
目の前にいて
いま、ここ、このいっときに
正しく正常な
反論をせねばならない
思いを全部口にして
投げだされた音が痛い

わたしは
いつかの母と同じ台詞を言って
押し黙る
これきっと血
正しい血統を持ったわたし

何年もここにあって本を手放すということは
わたしが切断されてい

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無感覚なままで生きているんです。心躍る出来事のない生活というものがこんなにも単調でこんなにも平和的でそしてこんなにも穏やかなことを知りませんでした。わたしは、
声が出ているんでしょうか。
仕事はどうですか、と聞かれるたびにどう答えて良いのかわからずに笑う癖をお辞めなさいと、言ってあげたかった。泣くのを、堪えたまま、笑うのは、情けのない、気持ちになります。岩石みたいなチョコレートケーキで誤魔化して、

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ナウシカ

緊急事態宣言が発令された大型連休に乗換の地下道にいて、ただどこにいくあてもなくぼんやりと発車を知らせるアナウンスや、移動はおやめくださいという聴き慣れてしまった声を聞き流していた。どこにいけるあてもないのにポスターは渋谷にある老舗のカフェや新緑の鮮やかな京都を勧めてくる。どこにもいくことができないのに無人の駅に無人の電車が来て無人まま去っていく。
宛名を書き忘れた手紙みたいな人々が街にはたくさんい

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新たなる人

誰かのことを責めたかったわけじゃない
けれど責め立てなければ泣くことが出来なかった、怒らないでください、奪わないでください、できないんです、声が追いつかないんです、ごめんなさい、ごめんなさい、こんな人でごめんなさい、なにもできなくてごめんなさい、大人になったわたし、なにもできないままで、誰にも愛されない、何にだってなれるよ、だから自分を信じて。と投げられた言葉を何一つ理解できなかった、18歳の頃、

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差違

今夜はたくさん星が落ちてくるからってふたりで青山のイルミネーションをこの世から断絶した
暗闇は男も女もわからなくなる
最初から何も見えないまま出会えばよかったんだって、眼球ごとすり潰して、醜いほど美しい曲線を持つきみの横顔、隣合わせ香りだけ嗅ぐ犬のような
あなたは友達だからって
いつかきみが話してくれた
きみは男の人と手を繋いでいて
笑うと、きらきらきらきらきらきらきらきら
男の人はみな一様に

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ちよのほし

なにもなかったんだ、ほんとう
満員電車の中でもう合えない人の顔を重ねる
そらがぴかぴかして、ほら、ぴかぴかして、終わらない朝焼けに真冬なのにあせをぐっしょりかいてわたしの首は斜め45度になる。
カンパネラ、どこまでも一緒にいられればよかった。再建を壊し続けてひとはいつだって失ってしまう。喪失に慣れてさよならも亡霊もこわくない。どこにもいかないって約束したお母さんのゆりかごを壊されて床にどすりと転が

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囀り

ありあわせの嘘でしか運命を語れない
朽ち果てたからだ 精神が浮かんで見ている
最後に。って、話す校長の挨拶は長かった
愛してる。って、泣いたはずのあなたは存在しない人だった

暗がりで服を脱いで 眼を閉じて
耳をふさいで
こころを殺して
さぁ、一息。深呼吸で消えるわたし

死にたかったわけじゃない 消えたかったんです

理科の実験、水中に消えたアンモニアの気体のように
かげもかたちもかおりも

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秋の瀬

夕暮れの鱗雲を眺め
綺麗 と 呟く
と 同時に
死にたい と 呟く
こころが
どこにあるのか
死にたいと言いながらも
わたしは
物を食べ
水を飲み
排泄をし
ひとを好きになろうとし
愛そうとし
触れようと
夜を泳ぐ
こころがどこにあるのか
わたしは
死にたい と 溢れ落ち
崩れた
言葉のかけらから
生きたい と 同等の重さを拾い集める
手のひらから
指の隙間から
輝かんとするそれらを
もう一度口に

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ふたり

ほら、あそこが僕の家だったところ。

助手席から眺めたそこは、車が数台止まった駐車場だった
知らない間に家がなくなったと
前を見ながら明るく話す

同じように明るく笑いながら
そっか、あそこが。と、外を眺め続けた
遠ざかっていく駐車場
車内は青春時代の洋楽が流れていて

同じタイミングで
同じものを食べたいと思うようになる
同じタイミングで
同じ歌を歌いだす
同じタイミングで
同じ人を思い出

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真夏のインスタ

三ツ矢サイダーは口に優しい泡
日差しに顔が当たれば粒になって身が弾け飛ぶ

わたしまた夏を愛せなかった
暑さの熱の重量を抱きとめられずに
弾け出された身ごと蒸発する
わたしの人生も分かりやすく誰かが『いいね!』ってボタンを押してくれたらいいのに。弾けちゃって可愛いね!いいね!夏を愛せないってエモいね!いいね!とりあえず見ましたよ!閲覧!いいね!いいね!いいね!って世界中に許されて蒸発した人々が赤い

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調律の正しい反響

眠れないといえば労働が足りないせいだと言われ、そうか自分は怠け者なんだと知る。人類の役に立ちそうもないのでなるだけ静かに呼吸をした。身体の重たい朝、満員電車、理不尽な叱咤、付き合いという名の無料奉仕、負けるな負けるな負けるな。
そう唱えるたびに何と戦っているのか分からなくて泣きそうになる
そういうの、重たいんだよね。うざいっつーか、めんどい。
部屋とか片付けなくていいから。なんていうか、問題なにも

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十代

肉を削ぐような生活を過ごしてきた

皿の割れる音と怒鳴り声
おびえた泣き声と叫び
加虐から逃げ出した身体
息を潜めた勉強机の下は黴臭く冷たかった

息をゆっくりと吐いて
冷静に切ったわけではなかった
消しゴムをひとつ失くしただけでもそれは起こった
存在すべきものが存在しない
ない ない ないない ないないない
視えているはずの視覚が小刻みに揺れ始める
右 左 右 ぶるぶるブル
音が襲い掛かってく

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背景のある虚室

ー祖母が買ってくれたシルバーグレー色したチェックのワンピースは第二次性徴期が始まった女児のスピードに追い立てられてすぐに着れなくなってしまったのを覚えていますー

わたしだけの わたしだけの わたしの為だけに存在するものを
常に求めていて、わたしだけの わたしの為だけのものならば
それが汚れた布切れでも嬉しくて

ー送られてきたチューリップハットは祖母たちの年齢相応のもので受け取ったわたしはそ

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