十代

肉を削ぐような生活を過ごしてきた

皿の割れる音と怒鳴り声
おびえた泣き声と叫び
加虐から逃げ出した身体
息を潜めた勉強机の下は黴臭く冷たかった

息をゆっくりと吐いて
冷静に切ったわけではなかった
消しゴムをひとつ失くしただけでもそれは起こった
存在すべきものが存在しない
ない ない ないない ないないない
視えているはずの視覚が小刻みに揺れ始める
右 左 右 ぶるぶるブル
音が襲い掛かってくる
叫んでいないはずの 自分の声が 繰り返し繰り返し
頭上から突き刺さる
赤く腕に切り込まれたそれは
乱れた思考を切り開く為の突破口だった


同じ制服を着ているのに
一緒に帰る友人がいなかった
早帰りになった午前の日差しがまぶしくて
だらりと全身が崩れそうだった
道端のブーゲンビリアが蛍光ペンのように記憶を強調する

同じ制服を着て同じ駅で同じように一人でいるあなたを見ていた

好きだ。と、いうことも
毎日、今晩死のう、明日死のう。と思っていたことも
伝えるのに十年かかった


母はすっかりあの日々を忘れてしまった
幼いわたしと手を繋いだまま わたしだけが記憶と共に取り残された
平気なのね。と言い放たれたときから
わたしは分裂してしまった

でも、好きだから、それでも、好きだから。
言い聞かせながら
ごめんなさい いい子じゃなくて ごめんなさい。
泣いたままの幼いわたしをあやす
ベランダの柵に掛けられた足をそっと下ろさせる


君が死ななくて良かった。と
もう一度会えて良かった。と
言ってくれたから
書く意味もわからないまま
生かす為に書く
今、死にたくはない。


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