記事一覧
回想・植本一子・滝口悠生『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』(私家版、2022年)
以前の話。
職場の仕事部屋で仕事をしていると、夕方に職場の若者がたずねてきた。
「お伝えしたいことがありまして…。実は今年でこの職場を辞めます」
「今年?今年度ではなく?」
「ええ、この12月をもって、です」
私にわざわざそのことを伝えに来たのは、2年間ほど一緒に仕事を進めてきたという経緯からである。
てっきりこの職場が嫌で辞めるのかと思ったら、そうではなく、自分がステップアップできる新しい職場を
いつか観たドラマ・「高原へいらっしゃい」(山田太一脚本、TBSテレビ、1976年)
TBSテレビで、1976年に放送していた山田太一脚本、田宮次郎主演のドラマ「高原へいらっしゃい」は、おそらく日本のドラマの中で、私が一番好きなドラマである。
信州の八ヶ岳高原に、何度も人手に渡り、経営が難しいとされるホテルがあった。このホテルの支配人をまかされた面川(田宮次郎)は、このホテルを限られた予算内で経営し、軌道に乗せようと、人を集め、ホテル再建に乗り出す。しかし、なかなかお客は集まらない
読書メモ・小田嶋隆『友だちリクエストの返事が来ない午後』(太田出版、2015年、『小田嶋隆の友達論』イースト・プレス、2022年として再刊)
コラムニスト・小田嶋隆さんの『友だちリクエストの返事が来ない午後』は、私にとっての「友だち論」のバイブルである。
その最終章、「第24章 友だちはナマモノだよ」に書かれている最後の言葉は、どうにも救いようがない。
「ただ、友だちは、ナマモノなのだ。
化石として鑑賞することはできるし、ガラスケースに入れて展示することもできるだろう。
でも、もはや、一緒に遊ぶことはできない。
大学時代に行き来のあっ
いつか観た映画・『青春デンデケデケデケ』(大林宣彦監督、1992年)
大林宣彦監督の映画「青春デンデケデケデケ」(1992年)は、直木賞をとった芦原すなおさんの同名小説を映画化したものである。
1960年代、香川県観音寺市に住む高校生、ちっくん(林泰文)が、ある日突然、ロックに目覚め、友達と一緒にロックバンド「ロッキングホースメン」を結成する。青春映画の金字塔である!
若いころに見たときは、ちっくんをはじめとする高校生に感情移入して見たものだが、大学の教員稼業に就い
忘れ得ぬ人々・第10回「かけ橋」
私が韓国に留学していたのは、2008年12月~2010年2月末までの1年3カ月間である。そこでは非常に多くの出会いがあったが、それを一つ一つ書き出すと1冊の本になるほどである。
日本の大学院生のTさんは、2009年6月から11月末までの半年間、交換研修という制度で、ソウルにある博物館で研修をした。
Tさんは、背が高くてさわやかな青年である。人間性もすばらしく、まわりに対する気遣いも抜群である。た
いつか観た映画・ソロモンさん(後編)
「ソロモンさん」こと広瀬正一は、本多猪四郎監督の映画「キングコング対ゴジラ」で、キングコングのスーツアクターをしていたという。
ところで、本多猪四郎監督の「ゴジラ」第一作は、1954年11月に公開されている。ちなみに「七人の侍」の公開は、1954年4月。栩野さんの話によれば、1954年3月の第五福竜丸のビキニ環礁での被ばく事件のあと、1954年の5月に「ゴジラ」の企画が持ち上がり、8月に撮影を開始
あとで読む・第46回・木寺一孝『正義の行方』(講談社、2024年)
折にふれてよく見ている「ヒルカラナンデス」というYouTube番組で、『正義の行方』(木寺一孝監督、2024年公開)というドキュメンタリー映画を強く奨めていたので、これは観に行かなければいけないと、時間を見つけて観に行くことにした。いまのところ東京では渋谷のユーロスペースでしか上映されておらず、しかたなく苦手な渋谷を歩いていると、周囲にはライブスポットが多いらしく、「推し」目当ての若者がたむろして
もっとみるいつか観た映画・『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイ監督、2023年、日本公開は2024年)と『異人たちとの夏』(山田太一原作・市川森一脚色・大林宣彦監督、1988年)
『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイAndrew Haigh監督、2023年、日本公開は2024年)という映画が公開されているという情報を若い友人に教えられ、矢も楯もたまらず観に行った。ほんとうはもっと時間が経ってから書こうと思ったのだが、記憶が鮮明なうちに書きとどめることにした。
イギリス映画『異人たち』は、山田太一の小説『異人たちとの夏』を原作にした
オトジェニック・スターダスト・レビュー「木蘭の涙」(1993年)
2年ほど前(2022年)、NHK-BSP「The Covers」の「スターダスト☆レビューLIVE」(5月27日放送)を見た。感染対策に配慮しつつ観客を入れたLIVEだったが、客層は明らかに、アラフィフの年代の人ばかりである。
とりあえず、「木蘭の涙」が、世の中を席巻したアコースティックバージョンではなく、オリジナルのバンドバージョンだったのがよかった。
「木蘭の涙」は、何といってもオリジナルのバ
オトジェニック・小椋佳「想い出してください」(1980年)
昨年(2023年)の春、比較的大きな企画展示を担当した。初めての体験で、準備はかなり大変だったけれど、支えてくれるスタッフをはじめ、人間関係の幸運に恵まれ、それはそれは楽しい時間だった。
企画展示には展示図録というものを作らねばならず、そのためには、展示作品の写真を集めなければならない。もし写真がなければ、先方から展示作品をお借りするよりも前に、あらかじめ写真を撮りに行かなければならない。企画展
オトジェニック・坂田明『ひまわり』(2006年)
東日本大震災で津波の被害を受けた岩手県陸前高田市に初めて訪れたのは、2012年5月末のことである。
道中、友人のKさんの運転する車の中でかかっていた音楽が、ふいに私の胸を打った。映画「ひまわり」のテーマ曲とか、「見上げてごらん夜の星を」とか、「遠くへ行きたい」とかといった印象的なメロディを、アルトサックスの独特の音色で奏でているCDである。
高校時代に吹奏楽でアルトサックスを吹いていた私は、そのC