三上喜孝

本と映画と音楽についての過去・現在・未来。書ける範囲のことを書いていきます。

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    「ふとしたとき、どうしているのかな?と気になってしまう。自分の中に爪跡を残している。でも、連絡をとったり会おうとは思わない。そんな、あなたの「忘れ得ぬ人」を送ってもらっています」 という、TBSラジオ「東京ポッド許可局」のコーナー「忘れ得ぬ人々」にヒントを得て書いています。

記事一覧

回想・植本一子・滝口悠生『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』(私家版、2022年)

以前の話。 職場の仕事部屋で仕事をしていると、夕方に職場の若者がたずねてきた。 「お伝えしたいことがありまして…。実は今年でこの職場を辞めます」 「今年?今年度で…

三上喜孝
4時間前
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いつか観たドラマ・「高原へいらっしゃい」(山田太一脚本、TBSテレビ、1976年)

TBSテレビで、1976年に放送していた山田太一脚本、田宮次郎主演のドラマ「高原へいらっしゃい」は、おそらく日本のドラマの中で、私が一番好きなドラマである。 信州の八ヶ…

三上喜孝
1日前
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読書メモ・小田嶋隆『友だちリクエストの返事が来ない午後』(太田出版、2015年、『小田嶋隆の友達論』イースト・プレス、2022年…

コラムニスト・小田嶋隆さんの『友だちリクエストの返事が来ない午後』は、私にとっての「友だち論」のバイブルである。 その最終章、「第24章 友だちはナマモノだよ」に書…

三上喜孝
2日前
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いつか観た映画・『青春デンデケデケデケ』(大林宣彦監督、1992年)

大林宣彦監督の映画「青春デンデケデケデケ」(1992年)は、直木賞をとった芦原すなおさんの同名小説を映画化したものである。 1960年代、香川県観音寺市に住む高校生、ち…

三上喜孝
3日前
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忘れ得ぬ人々・第10回「かけ橋」

私が韓国に留学していたのは、2008年12月~2010年2月末までの1年3カ月間である。そこでは非常に多くの出会いがあったが、それを一つ一つ書き出すと1冊の本になるほどである…

三上喜孝
4日前
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いつか観た映画・ソロモンさん(後編)

「ソロモンさん」こと広瀬正一は、本多猪四郎監督の映画「キングコング対ゴジラ」で、キングコングのスーツアクターをしていたという。 ところで、本多猪四郎監督の「ゴジ…

三上喜孝
5日前
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いつか観た映画・ソロモンさん(前編)

YouTubeで配信されている「とっち~ちゃんねる」にチャンネル登録している。 …あれ?ご存じない?「とっちー」と言えば、俳優で劇用刺青師でおなじみの栩野幸知(とちのゆ…

三上喜孝
6日前
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あとで読む・第46回・木寺一孝『正義の行方』(講談社、2024年)

折にふれてよく見ている「ヒルカラナンデス」というYouTube番組で、『正義の行方』(木寺一孝監督、2024年公開)というドキュメンタリー映画を強く奨めていたので、これは…

三上喜孝
7日前
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いつか観た映画・『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイ監督、2023年、日本公開は2024年)と『異人たち…

『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイAndrew Haigh監督、2023年、日本公開は2024年)という映画が公開されているという情報を若い友人に教えられ…

三上喜孝
8日前
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オトジェニック・スターダスト・レビュー「木蘭の涙」(1993年)

2年ほど前(2022年)、NHK-BSP「The Covers」の「スターダスト☆レビューLIVE」(5月27日放送)を見た。感染対策に配慮しつつ観客を入れたLIVEだったが、客層は明らかに、ア…

三上喜孝
9日前
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オトジェニック・村下孝蔵「踊り子」(1983年)

小椋桂さんのことを書いていたら、村下孝蔵さんのことを思い出した。背広を着てギターを奏でながら歌う姿がよく似ていた。村下孝蔵さんも、サラリーマンをしながらシンガー…

三上喜孝
9日前
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あとで読む・第45回・山本周五郎『季節のない街』(新潮文庫、1970年、初出は1962年)

テレビ東京で金曜日の夜に宮藤官九郎(クドカン)脚本の『季節のない街』という連続ドラマをやっているのを知った。すでに昨年、映画配信サービスで全話配信されていたそう…

三上喜孝
11日前
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オトジェニック・小椋佳「想い出してください」(1980年)

昨年(2023年)の春、比較的大きな企画展示を担当した。初めての体験で、準備はかなり大変だったけれど、支えてくれるスタッフをはじめ、人間関係の幸運に恵まれ、それはそれ…

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12日前
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いつか観た映画・『天間荘の三姉妹』(北村龍平監督、2022年)

当時4歳だった娘と2人で『天間荘の三姉妹』を観に行ったのは、若い友人にのんさん主演の映画『さかなのこ』(2022年)を薦められて、娘と二人で観に行ったことがきっかけで…

三上喜孝
13日前
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牧野富太郎『なぜ花は匂うか』(平凡社、2016年)

2018年のこと、ふとしたことが縁で、アジア・太平洋戦争中にマーシャル諸島で亡くなった日本兵の佐藤冨五郎さんが死の直前まで書いた日記を解読するお手伝いをした。鉛筆書…

三上喜孝
2週間前
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オトジェニック・坂田明『ひまわり』(2006年)

東日本大震災で津波の被害を受けた岩手県陸前高田市に初めて訪れたのは、2012年5月末のことである。 道中、友人のKさんの運転する車の中でかかっていた音楽が、ふいに私の…

三上喜孝
2週間前
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回想・植本一子・滝口悠生『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』(私家版、2022年)

回想・植本一子・滝口悠生『往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ』(私家版、2022年)

以前の話。
職場の仕事部屋で仕事をしていると、夕方に職場の若者がたずねてきた。
「お伝えしたいことがありまして…。実は今年でこの職場を辞めます」
「今年?今年度ではなく?」
「ええ、この12月をもって、です」
私にわざわざそのことを伝えに来たのは、2年間ほど一緒に仕事を進めてきたという経緯からである。
てっきりこの職場が嫌で辞めるのかと思ったら、そうではなく、自分がステップアップできる新しい職場を

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いつか観たドラマ・「高原へいらっしゃい」(山田太一脚本、TBSテレビ、1976年)

いつか観たドラマ・「高原へいらっしゃい」(山田太一脚本、TBSテレビ、1976年)

TBSテレビで、1976年に放送していた山田太一脚本、田宮次郎主演のドラマ「高原へいらっしゃい」は、おそらく日本のドラマの中で、私が一番好きなドラマである。
信州の八ヶ岳高原に、何度も人手に渡り、経営が難しいとされるホテルがあった。このホテルの支配人をまかされた面川(田宮次郎)は、このホテルを限られた予算内で経営し、軌道に乗せようと、人を集め、ホテル再建に乗り出す。しかし、なかなかお客は集まらない

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読書メモ・小田嶋隆『友だちリクエストの返事が来ない午後』(太田出版、2015年、『小田嶋隆の友達論』イースト・プレス、2022年として再刊)

コラムニスト・小田嶋隆さんの『友だちリクエストの返事が来ない午後』は、私にとっての「友だち論」のバイブルである。
その最終章、「第24章 友だちはナマモノだよ」に書かれている最後の言葉は、どうにも救いようがない。

「ただ、友だちは、ナマモノなのだ。
化石として鑑賞することはできるし、ガラスケースに入れて展示することもできるだろう。
でも、もはや、一緒に遊ぶことはできない。
大学時代に行き来のあっ

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いつか観た映画・『青春デンデケデケデケ』(大林宣彦監督、1992年)

いつか観た映画・『青春デンデケデケデケ』(大林宣彦監督、1992年)

大林宣彦監督の映画「青春デンデケデケデケ」(1992年)は、直木賞をとった芦原すなおさんの同名小説を映画化したものである。
1960年代、香川県観音寺市に住む高校生、ちっくん(林泰文)が、ある日突然、ロックに目覚め、友達と一緒にロックバンド「ロッキングホースメン」を結成する。青春映画の金字塔である!
若いころに見たときは、ちっくんをはじめとする高校生に感情移入して見たものだが、大学の教員稼業に就い

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忘れ得ぬ人々・第10回「かけ橋」

私が韓国に留学していたのは、2008年12月~2010年2月末までの1年3カ月間である。そこでは非常に多くの出会いがあったが、それを一つ一つ書き出すと1冊の本になるほどである。

日本の大学院生のTさんは、2009年6月から11月末までの半年間、交換研修という制度で、ソウルにある博物館で研修をした。
Tさんは、背が高くてさわやかな青年である。人間性もすばらしく、まわりに対する気遣いも抜群である。た

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いつか観た映画・ソロモンさん(後編)

いつか観た映画・ソロモンさん(後編)

「ソロモンさん」こと広瀬正一は、本多猪四郎監督の映画「キングコング対ゴジラ」で、キングコングのスーツアクターをしていたという。
ところで、本多猪四郎監督の「ゴジラ」第一作は、1954年11月に公開されている。ちなみに「七人の侍」の公開は、1954年4月。栩野さんの話によれば、1954年3月の第五福竜丸のビキニ環礁での被ばく事件のあと、1954年の5月に「ゴジラ」の企画が持ち上がり、8月に撮影を開始

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いつか観た映画・ソロモンさん(前編)

いつか観た映画・ソロモンさん(前編)

YouTubeで配信されている「とっち~ちゃんねる」にチャンネル登録している。
…あれ?ご存じない?「とっちー」と言えば、俳優で劇用刺青師でおなじみの栩野幸知(とちのゆきとも)さんですよ!
番組では、映画で使用する小道具の作成過程を見せてくれたりするのだが、時折、ご自身が出演された映画の撮影秘話を話してくれて、これがめちゃくちゃおもしろい。
最初にこの番組を観たのは、大林宣彦監督の思い出を語った回

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あとで読む・第46回・木寺一孝『正義の行方』(講談社、2024年)

あとで読む・第46回・木寺一孝『正義の行方』(講談社、2024年)

折にふれてよく見ている「ヒルカラナンデス」というYouTube番組で、『正義の行方』(木寺一孝監督、2024年公開)というドキュメンタリー映画を強く奨めていたので、これは観に行かなければいけないと、時間を見つけて観に行くことにした。いまのところ東京では渋谷のユーロスペースでしか上映されておらず、しかたなく苦手な渋谷を歩いていると、周囲にはライブスポットが多いらしく、「推し」目当ての若者がたむろして

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いつか観た映画・『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイ監督、2023年、日本公開は2024年)と『異人たちとの夏』(山田太一原作・市川森一脚色・大林宣彦監督、1988年)

いつか観た映画・『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイ監督、2023年、日本公開は2024年)と『異人たちとの夏』(山田太一原作・市川森一脚色・大林宣彦監督、1988年)

『異人たち』(原題:All of us strangers、アンドリュー・ヘイAndrew Haigh監督、2023年、日本公開は2024年)という映画が公開されているという情報を若い友人に教えられ、矢も楯もたまらず観に行った。ほんとうはもっと時間が経ってから書こうと思ったのだが、記憶が鮮明なうちに書きとどめることにした。

イギリス映画『異人たち』は、山田太一の小説『異人たちとの夏』を原作にした

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オトジェニック・スターダスト・レビュー「木蘭の涙」(1993年)

オトジェニック・スターダスト・レビュー「木蘭の涙」(1993年)

2年ほど前(2022年)、NHK-BSP「The Covers」の「スターダスト☆レビューLIVE」(5月27日放送)を見た。感染対策に配慮しつつ観客を入れたLIVEだったが、客層は明らかに、アラフィフの年代の人ばかりである。
とりあえず、「木蘭の涙」が、世の中を席巻したアコースティックバージョンではなく、オリジナルのバンドバージョンだったのがよかった。
「木蘭の涙」は、何といってもオリジナルのバ

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オトジェニック・村下孝蔵「踊り子」(1983年)

オトジェニック・村下孝蔵「踊り子」(1983年)

小椋桂さんのことを書いていたら、村下孝蔵さんのことを思い出した。背広を着てギターを奏でながら歌う姿がよく似ていた。村下孝蔵さんも、サラリーマンをしながらシンガーソングライターをしていたんじゃなかったかな。
村下孝蔵さんといえば「初恋」が有名で、私が思春期のど真ん中のときの代表曲である。しかし私は「初恋」よりも「踊り子」という歌が好きだった。
村下孝蔵さんの歌は情感のこもった内容が多いのだが、曲調は

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あとで読む・第45回・山本周五郎『季節のない街』(新潮文庫、1970年、初出は1962年)

あとで読む・第45回・山本周五郎『季節のない街』(新潮文庫、1970年、初出は1962年)

テレビ東京で金曜日の夜に宮藤官九郎(クドカン)脚本の『季節のない街』という連続ドラマをやっているのを知った。すでに昨年、映画配信サービスで全話配信されていたそうだが、私はどの配信サービスにも加入していないので、もっぱら地上波放送頼みである。
原作は山本周五郎で、黒澤明監督が1970年に『どですかでん』というタイトルで原作を映画化したことで知られる。クドカンさんが、『季節のない街』を映像化するとなれ

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オトジェニック・小椋佳「想い出してください」(1980年)

オトジェニック・小椋佳「想い出してください」(1980年)

昨年(2023年)の春、比較的大きな企画展示を担当した。初めての体験で、準備はかなり大変だったけれど、支えてくれるスタッフをはじめ、人間関係の幸運に恵まれ、それはそれは楽しい時間だった。

企画展示には展示図録というものを作らねばならず、そのためには、展示作品の写真を集めなければならない。もし写真がなければ、先方から展示作品をお借りするよりも前に、あらかじめ写真を撮りに行かなければならない。企画展

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いつか観た映画・『天間荘の三姉妹』(北村龍平監督、2022年)

いつか観た映画・『天間荘の三姉妹』(北村龍平監督、2022年)

当時4歳だった娘と2人で『天間荘の三姉妹』を観に行ったのは、若い友人にのんさん主演の映画『さかなのこ』(2022年)を薦められて、娘と二人で観に行ったことがきっかけである。この映画がきっかけで、娘はのんさんのファンになった。
私はといえば、のんさんのファンであることはもちろんだが、『さかなのこ』が、私が大好きな映画『南極料理人』の沖田修一監督の作品であることで俄然興味を持ち、さらに劇伴音楽がこれま

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牧野富太郎『なぜ花は匂うか』(平凡社、2016年)

牧野富太郎『なぜ花は匂うか』(平凡社、2016年)

2018年のこと、ふとしたことが縁で、アジア・太平洋戦争中にマーシャル諸島で亡くなった日本兵の佐藤冨五郎さんが死の直前まで書いた日記を解読するお手伝いをした。鉛筆書きが薄くなり、肉眼では読みにくかったものが、職場の赤外線ビデオカメラによって鮮明に映し出されたときの衝撃はいまも忘れない。そのときの興奮は、大川史織編『マーシャル、父の戦場』(みずき書林、2018年)にエッセイとして書いた。同年、佐藤冨

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オトジェニック・坂田明『ひまわり』(2006年)

オトジェニック・坂田明『ひまわり』(2006年)

東日本大震災で津波の被害を受けた岩手県陸前高田市に初めて訪れたのは、2012年5月末のことである。
道中、友人のKさんの運転する車の中でかかっていた音楽が、ふいに私の胸を打った。映画「ひまわり」のテーマ曲とか、「見上げてごらん夜の星を」とか、「遠くへ行きたい」とかといった印象的なメロディを、アルトサックスの独特の音色で奏でているCDである。
高校時代に吹奏楽でアルトサックスを吹いていた私は、そのC

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