三上喜孝

本と映画と音楽についての過去・現在・未来。書ける範囲のことを書いていきます。

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  • 妄想

    1冊の本から広がる妄想

  • いつか観た映画

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    なぜその本を読もうと思ったか。

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    音楽をめぐるあれこれ。

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    本から連想した思い出話。

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妄想・手塚治虫『人間ども集まれ!』(実業之日本社、1968年)

映画『クラウドアトラス』(2012年)は、時代を超えた6つの物語が交錯する、複雑きわまりない壮大な物語である。 6つのエピソードのうちの1つ、2144年の未来社会を舞台にしたエピソードでは、遺伝子操作で作られた合成人間(複製種)たちが登場する。複製種たちは人間(純血種)に支配され、労働力として酷使されていたが、これに疑問を抱いた複製種のソンミ(ペ・ドゥナ)が革命家と出会い、複製種の尊厳を取り戻そうと立ち上がる。 これとほぼ同じモチーフの物語が、手塚治虫の漫画の中にある。『人間

    • いつか観た映画・『クラウドアトラス』(ウォシャウスキー姉妹、トム・ティクヴァ監督、2012年)

      テレビ放映されていた映画『クラウドアトラス』を見たのが2016年のこと。 今まで見た映画の中で、これほど頭を使った映画はない。観終わったあともしばらくはこの『クラウドアトラス』の内容について考え続けていた。 夕飯を食べている最中にも、 「そうか!劇中で作曲される『クラウドアトラス六重奏』っていう曲名は、六つのエピソードを象徴的にあらわしているのか!」 とか、 「そうか!シックススミスの殺され方は、彼の恋人であった作曲家の青年の自殺の仕方と、同じなんだな!」 などと、それまで何

      • いつか観た映画・『メッセージ』(テッド・チャン原作、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、日本公開2017年)

        2017年の公開で、公開と同時に映画館に足を運び、強い印象に残った映画なのだが、いまとなっては細部を覚えていないので、当時書いた備忘録にもとづき書いてみる。 『メッセージ』は、いわゆる「ファーストコンタクトもの」といって、地球の外にいる地球外知的生命と地球人とのはじめての出会いを描いた映画である。 そもそも、地球外知的生命と地球人とは、まったく言葉が通じない。そこで、ある言語学者に白羽の矢が立ち、相手側の言語を理解しようとする。 もちろん、最初は相手の言葉がまったくわからない

        • あとで読む・第51回・水道橋博士『本業2024』(青志社、2024年)

          四半世紀というのは、ひとつの区切りなのだろうか。以前この場でとりあげた岸本佐知子さんの『わからない』(白水社、2024年)は、21世紀に入ってからの岸本さんの単行本未収録の文章を集成し、「四半世紀分のキシモトワールド」(同書帯文)と銘打って、かなり分厚い本に仕上げている。同様に、水道橋博士の『本業2024』も、四半世紀分の書評や解説など、本にまつわる文章を集成し、「書評大全」(「まえがき」)という様相を呈している。 本書の前半は、かつて刊行された『本業』(ロッキング・オン社、

        妄想・手塚治虫『人間ども集まれ!』(実業之日本社、1968年)

        • いつか観た映画・『クラウドアトラス』(ウォシャウスキー姉妹、トム・ティクヴァ監督、2012年)

        • いつか観た映画・『メッセージ』(テッド・チャン原作、ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督、日本公開2017年)

        • あとで読む・第51回・水道橋博士『本業2024』(青志社、2024年)

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        記事

          読書メモ・水道橋博士『芸人春秋Diary』(スモール出版、2021年)

          水道橋博士の『藝人春秋Diary』(スモール出版、2021年)を読むと、人生のあらゆるところで起こっている出来事が、まるで一つにつながっているような錯覚を受ける。一見関わりのない人との出会いも、旅先で体験したふとした偶然も、すべてあらかじめ仕組まれていたのではないかという気になってしまう。 「50歳を過ぎてから、人生の前半生は物語の「伏線」。読書で例えれば「付箋」だらけだと気づいた。その回収に向かい、物語のページをめくるのが後半生だ」(504頁) これは私も常日頃から感じ

          読書メモ・水道橋博士『芸人春秋Diary』(スモール出版、2021年)

          オトジェニック・中島みゆき「ホームにて」

          ここで中島みゆきさんのことを書くのはまことにおこがましい。もちろん私は中島みゆきさんの音楽は好きだが、「ファン」というほど中島みゆきさんの楽曲を追いかけていたわけではないし、曲をコンプリートしているわけでもない。ミュージシャンとしてどのように歩んでこられたのかもよく知らない。私のiPodに入っているのは、『大吟醸』と『おかえりなさい』と、あと1曲だけである。コアなファンの方々からは「お前は何もわかっていない」とお叱りを受けそうだが、思い起こすと書かずにはいられない性分なので、

          オトジェニック・中島みゆき「ホームにて」

          回想・阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎文庫、2020年、初出2018年)

          『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』が刊行された年が2018年ということは、私の娘と同い年ということになる。この本が文庫化された折に手に入れたのだが、文庫化されてからやや経って、中央線沿線の書店に阿佐ヶ谷姉妹のサイン入りの文庫本がゲリラ的に置かれたときがあり、サイン本を求めて中央線沿線の書店を彷徨い、買い直した。我ながらヒマな人生だ。 あらためて読むと姉のエリコさんと妹のミホさんの文体の違いが対照的で、とても面白い。どちらかといえばウェットな文体のエリコさんは人情話を得意と

          回想・阿佐ヶ谷姉妹『阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし』(幻冬舎文庫、2020年、初出2018年)

          いつか観た映画・岡本喜八監督『江分利満氏の優雅な生活』(山口瞳原作、1963年)

          2018年に大林宣彦監督にインタビューしたとき、 「敗戦後の日本映画で1本あげろと言ったら、岡本喜八監督の映画「江分利満氏の優雅な生活」(1963年)を1本あげるだけで十分だ」 と語っていたのが印象的だった。 原作者の山口瞳は東京の国立市に住んでいて、高校時代、親友の小林と、山口瞳の家を自転車で探しに行ったことがある。あとで知ったことだが、私も高校時代に通った「ロージナ茶房」が、山口瞳の行きつけの店だったという。 山口瞳は、もともとサントリーの社員で、コピーライターとして活躍

          いつか観た映画・岡本喜八監督『江分利満氏の優雅な生活』(山口瞳原作、1963年)

          リアルすごろく

          府中市美術館で開催中の「吉田初三郎の世界」展でもらった「ぐるり 初三郎と廻る 京王沿線すごろく」が面白い。 すごろくの作りじたいは至ってシンプルである。A3版の紙の中央に、吉田初三郎が昭和5年(1930)に作成した「京王電車沿線名所図絵」という鳥瞰図がカラーで掲載されている。そこには、当時の京王線の路線図も書かれている。駅名を見ると、現在は存在しない駅や、名前の変わった駅などがあり、青春時代に京王線のヘビーユーザーだった私としては、なかなか面白い。 さて、その鳥瞰図のまわりに

          リアルすごろく

          展示瞥見・「吉田初三郎の世界」(府中市美術館、2024年)

          朝から天候は雨模様だったが、どうやら午後から止んできたみたいなので、小1の娘を連れて、娘がお気に入りの「府中の森公園 にじいろ広場」に行った。天気のいい休日は小さい子ども連れた家族でごった返すのだが、いちにち雨予報の日だったせいか、遊んでいる子どもはほとんどおらず、遊具も並ばずに利用することができた。 ふと見ると、にじいろ広場に隣接する府中市美術館で「吉田初三郎の世界」展が会期中だった。そうだ、この企画展を観に行きたいと思っていたのだと思い出した。考えてみれば7月7日(日)の

          展示瞥見・「吉田初三郎の世界」(府中市美術館、2024年)

          対談は人なり・小林聡美『ていだん』中公文庫、2021年、初出2017年)

          本棚の奥で、以前買った小林聡美さんの『ていだん』を見つけた。以前にも読んだが、久しぶりに読んでみたくなり、休日の昼下がり、さまざまな用事をしている時間を穴埋めするように、少しずつページをめくった。 「ていだん」とは「鼎談」すなわち3人で話すことを意味するが、18組の座組みがどれも素晴らしい。同業である役者だけではなく、小説家、文筆家、音楽家、落語家、絵本作家、劇作家、俳人、料理人、漁師、デザイナー、フードコーディネーター、はては発酵学者など、じつにさまざまだ。こういう場にはめ

          対談は人なり・小林聡美『ていだん』中公文庫、2021年、初出2017年)

          オトジェニック・宮内優里『ワーキングホリデー』(2011年)

          若い友人から、宮内優里さんというミュージシャンの音楽がいいですよと奨められ、初めて聞く名前だなあと思いながら、送られてきた音源を聴いてみたら、これがすこぶるいい。送られてきた音源は星野源さんがボーカルをつとめたものだが、源さんのボーカルとメロディーが溶け込んでいて心地よい。星野源ファンを自認するその友人も、つい最近、人に教えてもらうまでは宮内優里さんのことも、源さんのこの曲のことも知らなかったようである。 さらに友人の情報によると、高橋幸宏さんに見出されたミュージシャンだそう

          オトジェニック・宮内優里『ワーキングホリデー』(2011年)

          いつか観た映画・『茗荷村見聞記』(田村一二原作、山田典吾監督、1979年)

          おぼろげな記憶なのだが。 小学生の頃、『茗荷村見聞記』という映画を、劇場に観に行ったことがある。調べてみると、1979年に公開されたそうだから、私が小学校5年生の時である。 映画サイトの説明を引用すると、 「公害もなく、人間関係の不調和も偏見もない村、ごく普通の老若男女と心身障害者たちが、一緒になってそれぞれに適した仕事について、その日、その日を明るく生きる、ユートビア“茗荷村”の生活を描く。四十年余の長い歳月を精神薄弱児教育ひとすじに歩んできた田村一二の同名の原作の映画化」

          いつか観た映画・『茗荷村見聞記』(田村一二原作、山田典吾監督、1979年)

          あとで読む・第50回・岸本佐知子『わからない』白水社、2024年)

          「心地よい底意地の悪さ」。 これが私の岸本佐知子さんに対する印象である。以前にも書いたが、『ねにもつタイプ』(ちくま文庫)というエッセイ集が大好きで、読んでいると自分がどこに連れていかれるかわからないような感覚に陥ってしまうところが楽しい。 つい最近、最新刊『わからない』を記念したトークイベントが行われたと聞いて、慌ててアーカイブ配信を聴いた。武田砂鉄さんと岸本佐知子さんの対談だったが、以前ラジオでもこの二人の対談を聴いて、なかなか相性のよい二人だなと思ってよく考えたら、二

          あとで読む・第50回・岸本佐知子『わからない』白水社、2024年)

          あとで読む・正岡子規『仰臥漫録』(幻戯書房)

          私が小学校4年~6年の時の担任だったN先生の故郷は愛媛県で、松山東高校出身だった。その後、地元の大学の教育学部で教員免許を取り、数年間、故郷で教鞭をとったあと、東京の小学校に移ってきたのである。 N先生はよく、松山東高校時代の思い出話もしてくれた。その話を聞きながら、早く高校生になりたいと思った。松山東高校は、当時小学生だった私にとって、最も身近な、そして憧れの高校名として、その後も記憶に残り続けた。 N先生は、当時小学生だった私たちに、折にふれて、芸術や文学のお話しをしてく

          あとで読む・正岡子規『仰臥漫録』(幻戯書房)

          あとで読む・第49回・季刊誌『kotoba』56号(2024年夏号)特集「喫茶店と本」(集英社、2024年)

          以前の職場の同僚で、いまは同じ中央線沿線に住む友人のAさんから、たまに思い出したようにメールをいただく。専門分野はまったく異なるが、なぜかむかしからウマが合った。私が好きそうなものに出会った折に、私のことを思い出してくれるのだろう。今日も久しぶりにメールをいただいた。ご本人の語り口そのままに、軽妙でユーモアあふれる内容で、いただいたメールそのものが「作品」といってもいいのだが、私だけを念頭に置いて書いてくれたメールなので、まさか全文を引用するわけにもいかず、さわりだけ引用させ

          あとで読む・第49回・季刊誌『kotoba』56号(2024年夏号)特集「喫茶店と本」(集英社、2024年)