見出し画像

回想・笹山敬輔『笑いの正解 東京喜劇と伊東四朗』(文藝春秋、2024年)

正直に告白すると、…というほど大げさなことではないのだが、子どもの頃は、ドリフターズやひょうきん族よりも、伊東四朗さんと小松政夫さんのコンビが好きだった。土曜のお昼に放送していたTBSテレビの『笑って!笑って!!60分』とか、月曜の夜に放送していたテレビ朝日の『みごろ!たべごろ!笑いごろ!』は毎週欠かさず見ていた。「電線音頭」も小学生の頃に繰り返し踊っていた。同時期にNHKテレビで日曜の夜に放送されていた三波伸介さんの「お笑いオンステージ」も好きで、とくに「てんぷく笑劇場」というコメディのコーナーがお気に入りだった。三波伸介さんと伊東四朗さんがかつて「てんぷくトリオ」を組んでいたと知ったのは、少し後になってからのことである。
中学生になると、YMOにハマり、その縁でラジオで高橋幸宏さんと共演していた三宅裕司さん率いる「スーパー・エキセントリック・シアター」のラジオコントを知り、中学3年生のときだったか、『ディストピア西遊記』(1984年)という舞台を巣鴨の300人劇場まで観に行った。その頃から三宅さんはラジオやテレビの露出が増え、土曜日の夜10時に日本テレビで『いい加減にします!』(1984~1985年)という30分のコント番組を持つに至り、そこで共演した伊東四朗さんとの掛け合いには死ぬほど笑った。
大学生の頃、三谷幸喜という脚本家の存在を知り、三谷さんが主宰する東京サンシャインボーイズの舞台を何度か観に行った。三谷さんは佐藤B作さん率いる東京ボードビルショーへも脚本を提供していて、名作『その場しのぎの男たち』(1992年)ではじめて伊東四朗さんの舞台を生で観た。
2007年に伊東四朗さんの70歳を記念して上演された、伊東四朗主演、三谷幸喜脚本、三宅裕司演出の『社長放浪記』(2007年)は、これまでの私の「お笑い遍歴」の伏線を、すべて回収してくれるような最高の喜劇で、私にとってきわめて祝祭的な舞台だった。もっとも生の舞台を観ることはできず、DVDで何度もくり返し観た。この本には三谷幸喜さん、三宅裕司さん、佐藤B作さんの発言も引用されていて、私にとっては「公文書」である。
私は、コントとも演劇ともつかぬ「喜劇」「軽演劇」「コメディ」が、ずっと好きだったのだということに気づいた。
そういえば中学3年生のときの文化祭で、クラスのみんなや担任の先生を巻き込んでコメディの台本を書いて上演したことがあった。いまから思うと顔から火が出るほど恥ずかしいが、私の原点はそこにあるのかもしれない。
この本は2024年3月までの伊東四朗さんの活動を描いている。2024年6月、伊東四朗さんは新橋演舞場で三宅裕司さんたちと「熱海五郎一座」の舞台に立ったそうだ。大竹まことさんのラジオ番組で阿佐ヶ谷姉妹のエリコさんがその舞台を観に行き、伊東四朗さんの変わらぬエネルギーに圧倒されたと話していた。シティーボーイズ然り、コントと演劇の狭間にある喜劇や軽演劇やコメディの文化がこの先もずっと続いてほしいと思う。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?