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記事一覧
【毎週ショートショートnote】半分ろうそく
あと半分.......、あと半分.......。
雲ひとつない空の下、子どもたちが賑わう公園のベンチに一人の男が座っていた。
防風ストールを羽織った40代後半の川戸守は、燭台の上にある火の灯ったろうそくを大事そうに見守っていた。
そのろうそくは既に半分まで溶けており、八重咲きの雛菊のように全方位均等に蝋が垂れ下がっていた。
「おじさん何見てるの?」
頭に長いろうそくと燭台を乗せた少年が、ジャ
【毎週ショートショートnote】伝書鳩パーティー
「週末のパーティー出席するよな?」
「もちろん。それにしても上は酷いことをする。今まで一緒に仕事してきたパートナーを俺たちに食わせるなんてさ」
「野生に放つのはよくないし、ただ殺処分するだけだと可哀想だからってことらしい」
「楽しいパーティーがお通夜みたいな空気になること間違いないな」
「まあICTが充実した世の中で、あいつらを使ってやるのは厳しいし。仕方ないさ」
「古いものや非合理なも
【毎週ショートショートnote】心お弁当
妻が作ってくれたお弁当は、すっかり冷えきっていた。
縦9cm、横14cm、高さ5cmのチタン製の箱は、保温性・保冷性に優れており、熱伝導率も低い。それにもかかわらず、表面は氷塊のようにひんやりとしていた。
月と街灯が照らし出す公園には人っ子一人おらず、閑散としていた。無駄に広い空間のわりに遊具はなく、点々とベンチが置いてあるだけだった。地面には、砂に混じって雪がカビのように繁殖していた。
僕は年
【毎週ショートショートnote】ブーメラン発言道
「赤コーナー吉田ミヨコ、青コーナー吉田タカシ、レディーファイッ!」
鬼の形相で対峙する夫婦の間には、10mほどの一本道が引かれている。
赤い円の上に立つミヨコは、力いっぱい息を吸い込むと、熱した貝殻のように開眼した。
「昨日の夜どこ行ってたんじゃー」
ミヨコが発した言葉がそのまま具現化し、コンクリートのように固まっていく。その言葉の塊(コトダマン)は、青い円の上に立つタカシの元へ一直線に飛ん