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エッセイ

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どうでもいいような、だけどあるとちょっとウレシい毎日のことです。
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2021年1月の記事一覧

せかいのえほん

せかいのえほん

「せかいのえほん」は、青く丸いマークがついている棚にあります。
「うみべのまちで」という絵本を手に取り読みました。近くでは、少女がしゃがみ込んで本を読んでいます。シンケンです。紫色のワンピースを着て、紫色のカチューシャをつけていました。
「おかあさん、みるくのはんたいはな~んだ」という声が、部屋の中に響きました。「く・る・み、でした〜」と続けて聞こえてきたので、わたしは心の中で「み・る・く、く・る

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ちょうどよい

ちょうどよい

平日の朝の終わり頃、電車は空いていました。窓のそばの席に座っていると、陽光が差し込んできて、わたしは、太陽が燃えているんだねと思い、「太陽の表面温度は六千度と言われています。なぜ、言われている、なのかというと実際に太陽まで行って測ったわけではないからです。地球は太陽から約一億五千万キロのところに位置しています。これは、水が、液体の状態で存在できる程度の気温が長期間維持できる距離なのです。われわれ生

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七草がゆのかわりに

七草がゆのかわりに

 今日は、あなたと一緒に食べるために七草がゆをつくります。でも、家には大根しかないので、これでつくります。すみません。でも、お正月のあとの胃腸をいたわるという目的はクリアしているし、お昼の三分クッキングでやってたんです、大根がゆを。
 土鍋でお米と大根を煮ます。わたしは料理が得意とは言えないのですが、今日は絶対焦がさないように慎重にやるので安心してください。お米が柔らかくなったら葉っぱもいれます。

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チーズおかき

チーズおかき

 午後になってもしんしんと冷える日、分厚い小説を読むのに疲れた時なんかには、チーズおかきをちょっとつまみます。二枚の丸いおかきにチーズがはさまっていて、片側のおかきはリング状になっている。そこからつるつるしたチーズクリームが見えています。おいしそう。
 たとえ小説の舞台がボストンの洒落たレストランでも、わたしはわたしの世界、たとえばおばあちゃんちの玄関に、帰ってくるのです。幼き日、おばあちゃんがビ

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あんバタートースト

あんバタートースト

 ぜんざいのためのあずきが余ってしまったら、それを言い訳に大きなスプーンで好きなだけすくいあげ、こんがり焼いたトーストの上に、バターと一緒にのせる、それだけ。
 あとは、なんだっていいのです。窓の外は眩しく晴れていてもいいし、つめたい小雨でもいい。襟に細かいレースがついたワンピースを着てもいいし、ドーナツ柄のパジャマを着たままでもいい。飼っているちいさなミドリガメが、ごきげんに愛嬌をふりまいてもい

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みかん

みかん

 みかんは、いちばん親しみ深いくだものです。「お」をつけて「おみかん」と呼びたくなるのですから。
 たとえば、りんごやぶどう、バナナも身近だし、おいしい。でも、ふとアダムとイブや、美術館の静物画が思い出されたり。ワイナリーの広大な畑や、あのCDジャケットが浮かんだり。ちょっと、かっこよすぎるのです。苺は、アイドルみたいなあの子。さくらんぼは赤い口紅のお姉さん。桃はチャイナ服のセクシーなガール。あん

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あまざけ

あまざけ

 近所の神社ではお正月に甘酒がふるまわれています。雪がちらつく中の初詣、みんなその湯気に寄っていく。あるいは「あまざけ」という言葉に引き寄せられて。甘酒との出会いは幼い頃、お正月か、ひな祭りかに親戚からもらった瓶詰めのもの。白っぽい瓶に、うすもも色のラベルが貼ってあって、わたしはウワッと色めき立ち、これ飲んでいいの? と大人たちの顔色を伺う。お酒なのに?飲んでいいの?あまいの?という気持ちで。
 

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伊達巻き

伊達巻き

 数の子も昆布巻きも煮しめも、重箱の中におさまった食べ物はどれも好きだけれど、特に愛らしく思えてしまうのは伊達巻き。わたしは伊達巻きのことが大好き。どういうところが好きなのか、甘い味? ”伊達”という名の通り、花形の存在だから? フリルみたいに、なみなみっとしているから? 伊達巻きについてちょっと調べてみると、「伊達巻きとは、卵料理のひとつ。長崎においては、カステラ蒲鉾と呼ばれる」
 カステラ蒲鉾

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お雑煮

お雑煮

 元日の朝ごはんにはお雑煮を食べます。具は丸もちと、水菜だけ。お餅をトースターで焼いている間に、水菜をざくざく切ってすまし汁をつくります。透き通ったつゆの中に、白と緑、そのシンプルさが気に入っています。お餅のふくれたところにつゆがしみるとふやふやになるので、そこから食べます。ふやふやには水菜がひっついてくるのでおいしく、つゆを飲み干そうとするとき、お椀の底に溜まっているふやふやもおいしいのです。三

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