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グローバル資本主義の問題点

2021年6月のG7において、法人税の国際的な最低税率を15%以上にするという合意がなされた。これにより大手グローバル企業は、事業を展開する国において税金を納めなければならなくなる。

この合意は、行き過ぎたグローバル資本主義に歯止めをかけるための一歩となるのだろうか。

この記事では、グローバル資本主義社会を生きる私たちが知っておくべき、その仕組みと弊害についてまとめる。


グローバル資本主義の背景

戦後、アメリカ主導の新自由主義政策により、グローバリゼーション(ヒト・モノ・カネの国境を越えた流れ)が加速した。貿易・金融の自由化や民営化、規制緩和などが「ワシントン・コンセンサス」にまとめられ、1990 年代には資本移動の自由化に対する熱狂が生まれた。

新自由主義型グローバリゼーションは、国際通貨基金(IMF)・世界銀行・世界貿易機構(WTO)などの国際機関によって促進され、各国は「国際競争力の強化のため」と、法人税の減税や緊縮財政、規制緩和、労働組合影響力低下政策を行った。

しかしこの動きは、「労働者階級から資本家階級へ」あるいは「より脆弱な地域からより豊かな地域へ」の富の再配分を促した。また、富と権力の集中は、超国家的権力を持つ社会層(Transnational Capitalist Class:TCC)を生み出した。彼らは、アフリカやラテンアメリカの土地を安価で買いあさり、現地の人々の権利や生活を奪っている。

金持ちと貧乏の世界的な分極化が進行する中、世界中の富を囲い込んでいる世界トップ200のグローバル企業が雇用するのは、世界の労働力の内たったの0.75%にしか満たない。


過剰な競争

グローバル資本主義によって推進される競争圧力は、個人の「自由と利益」を最大化するどころか、長時間労働などにより個人のストレスレベルを高める。「自由と利益」を得たのは、世界で最も安い労働力、労働者に対する最小限の健康保障・労働環境、最大限の減税措置と補助金を求めて移動するグローバル企業だ。

競争に有利な巨大なアグリビジネスは世界の小規模農家を脅かし、大型スーパーマーケットは安い輸入品を販売することで地方の生産や市場を崩壊させている。

グローバル企業は、国際ビジネス競争に勝ち残り、さらなる市場拡大・独占を目指すために、生産の効率性やコスト削減を追求している。これによる弊害の食品産業における例として、以下のような点が挙げられる。

大量生産用の養鶏場の鶏は、遺伝的に同一で、密に閉じ込められ、病気になりやすい。さらに、大量の廃液による地域の衛生環境汚染リスクを伴う。 
グローバル企業はコスト削減のために資源・商品の長距離輸送をおこなっているが、貿易ベースの食料システムは現在の世界人口を持続的に養うことができない。世界人口分の食品が生産されているにもかかわらず、企業によって食品流通がより厳しく管理されているため、約8億7000万人が栄養失調に苦しむ一方で、世界中で生産された食品の40%以上が最終的に廃棄されている。


脅かされるアイデンティ

グローバル資本主義のもとで「世界中の多様な文化」が「消費者としての単一文化」に置き換えられており、人々のアイデンティティは脅威にさらされている。

<ラダック地方の例>
・インド政府から助成を受けた輸入食品が、地元製品の半分の価格で販売されており、「食の自立」は「世界的な食料システムへの依存」に取って代わられている。
・学校では、地元の資源から家を建て、食べ物を育て、動物を飼うなどのラダックの生き方や文化を学ぶ代わりに、グローバル資本主義社会で生き残るためのスキルを訓練され、子供たちは暗に伝統文化を見下ろすように教えられる。
・経済的および政治的権力は首都に集中し、村人の影響力は弱められ、若者たちは仕事を求めて村から都市部に流れている。

グローバル資本主義によってもたらされるこのような状況下で、地方に住む人々の心理的および物質的な不安が助長され、彼ら自身の文化に対する自信が失われている。 


環境破壊

グローバル資本主義社会では、以下のような環境問題が引き起こされている。

・商品の大量生産/消費により膨大な廃棄物が生まれ、搾取される地域の陸上および海洋環境が化学物質や放射性物質で汚染されている。
・商品の生産/輸送/処理過程に生じる化石燃料の燃焼は、温室効果ガスによる地球温暖化を進め、生態系の損失、病気や害虫の移動、砂漠化、異常気象などの問題を引き起こしている。
・森林伐採、過度のアグリビジネスや過放牧による瘦せ地の増加・水不足、過剰漁獲とそれに伴う生態系の崩壊が進んでいる。
※油、ダイヤモンド、木材、水、遺伝資源、農地などの資本の国境を越えた売買は、マフィアネットワークによって支えられ、犯罪に深く関与していることも多い。

「世界中の資本を独占し、できるだけ短期間に、より多くの儲けを手に入れる」というグローバル資本主義の論理に、自然は従っていない。人間はきちんと寝なければ生きられないし、木は一度切ってしまったら成長するまでに何十年とかかる。グローバル資本主義と自然、これら二つの論理は相容れない。


グローバル資本主義が永続するしくみ

グローバル資本主義社会では、企業の買収と統合が進み、独占企業による税金や株式の操作が行われる。また、グローバル企業はサプライチェーンとデリバリーチェーンを監視し、人々の行動に関する膨大なデータをもとにデジタルテクノロジーやソーシャルメディアを巧みに駆使して、マーケティングや世論操作を行う。※以下関連記事

さらに、グローバル資本主義を構造的に支える「ビジネスの世界で必要なスキルのために人々を訓練する各国の教育システム」の構築・維持費用のほとんどは、企業自身ではなく人々の納税によって支払われている。

このように、グローバル資本主義社会は、グローバル企業の成長が加速し、その搾取構造と格差増大が永続するようなしくみになっている。


まとめ

本記事では、グローバル資本主義社会におけるグローバル企業への資本の蓄積に関してまとめたが、資金のあるグローバル企業だからこそ人々の生活や環境のためにできることも多々あるため、その存在を一概に問題視すべきとも言い難い。ただ依然として、グローバル資本主義によって生じている問題にどのように対応していくかは人類の大きな課題である。

冒頭に述べたG7における大手グローバル企業への課税に関する今回の合意では、対象が利益率の高い企業に絞られたことで、主にAmazonやGoogle、Facebookなどの米系デジタルサービスが標的となったが、これをきっかけにグローバル企業を制御する国際的な動きがさらに加速すれば、グローバル資本主義による問題の改善糸口も見えてくるかもしれない。


参考資料

Harvey, D. (2010) The enigma of capital: and the crises of capitalism. Oxford University Press. 

Woodin, M. and Lucas, C. (2004) Green Alternatives to Globalisation: A Manifesto. London, Pluto Press.

Wall, D. (2005) Babylon and beyond: the economics of anti-capitalist, anti-globalist, and radical green movements. London, Pluto Press.Latham

Robinson, William I. (2014) Global Capitalism and the Crisis of Humanity. Cambridge University Press.

 Norberg-Hodge, H. (2018) Localisation: a strategic solution to globalised authoritarianism. Available at: https://longreads.tni.org/localisation-solutionauthoritarianism

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