おのしゅんすけ
火曜土曜更新のブログです。自分の勉強のために綴っています。ぜひ。
木曜更新短編小説(一話完結)のまとめです。楽曲を元に小説化することが多いです。ぜひ。
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客様がやって来ました。今日はどんな小説に出会えるのでしょうか。 不定期連載短編でおのしゅんすけが読んだ小説を紹介するマガジンです。
船乗りの卵が練習船での日々の成長を赤裸々に綴った…と言えば聞こえが良いですが、要は実習であったあれやこれやをヌルッとサクッとまとめたものです。 電波状況次第では穴を開けたり、精神状態次第ではサボったり… 暇つぶし程度に、ぜひ。
航海士を目指す大学生が2022年4月からの実習のあれこれを綴る日記です。サボったりやる気を無くしたりしながら日々を生きています。ぜひ。 (4/5〜4/14は実習が中断していたので日記はありません)
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客…
「災難だったな。地獄の中の地獄で有名だぞ、あの部署」 仲のいい同期が肩を叩きながら慰めてくれた。 「作業量がべらぼうに多いって噂だぜ。大丈夫なのか」 「大丈夫じ…
「いってきます!」 彼は元気よく家を飛び出した。今日も今日とてなんてことない朝…… ……なんてことはない。 今日は月曜日。それもただの月曜日ではなかった。2月15日…
シン・始皇帝。そう呼ばれる英雄が数百年前にいたとかいなかったとか。そんな伝説がぼんやりと年寄りの間で口伝えに受け継がれていた頃の話。 シン、と表記しているのはど…
椅子に座って早20分がたっただろうか。 何かをふと思い立って机に向かってペンをとったのだが、座ったころには何を思い立ったか忘れてしまった。 椅子に座ってからは思い…
寒さ、と一言で言っても様々な寒さがあると私は思っている。 私には好きな寒さがある。『寂しい寒さ』だ。 休日明けの月曜日。鉄筋コンクリートのオフィスに朝早くに1人…
大都会。そこで暮らす若者たちが集まる渋谷の中心は日本中の喧騒が集められたのかと思うほどに騒がしい。 そのノイズに飲まれないように声を張り上げ、でも軽い口先から吐…
パシャッ…… 僕は何も無い青空をフェンダー越しに覗いた。 僕はいつからか、景色だけをカメラに収めるようになっていた。その写真は枚数だけが溜まっても画角は何ひとつ…
風が吹いた。 カタカタッ…… 散歩に出ようと思い立ち、その支度をしている男の部屋の窓が風によって音を立てた。 「随分と強い風だな」 男は窓際に立ち、外を見た。 道路…
キュッ……キュキュッ…… リノリウムの床と上履きの擦れる音が人が少なくなった廊下に響いている。 僕は答え合わせをしていた赤ペンを置いて立ち上がり廊下に出た。 グ…
1枚の枯葉が風に押されて冷たいアスファルトの上を滑っていく。笑う君の顔がぼんやりと霞み始めた。 「わ、もう真っ暗だ」 「ほんとだ。寒くなって来たし、帰ろうか」 …
ザッ…… 僕は暗い路地裏から大通りを覗いた。そこには溢れんばかりの人が行き交っていた。 僕が育った故郷ではこんな噂があった。 『トウキョウに行けば何でもある。あ…
ギギッ… 手にくい込むほど強く握ったフェンスは錆だらけで今にも切れてしまいそうだった。 下から煽るように強い風が吹き上げて、フェンスにぶら下がった看板がガンガン…
さっきまで手に持っていた箸を置いて代わりにジョッキを握るようになった頃。僕は居酒屋の喧騒の中でさくらの横に座っていた。 さくらは桃色の口角を上げて僕に話しかけた…
2021年7月8日 21:28
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客様がやって来ました。今日はどんな小説に出会えるのでしょうか。ーーーーーーからん、からん……いらっしゃい。お好きな席へどうぞ。今日はどんな小説を?「『リバース』って、ご存じですか?湊かなえ先生の」えぇ、もちろん。作中に
2021年4月1日 21:15
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客様がやって来ました。今日はどんな小説に出会えるのでしょうか。ーーーーーーからん、からん……いらっしゃい。お好きな席へどうぞ。今日はどんな小説を?「今日は『ペスト』でも読んでみようかと」少し話題になった小説ですね。ごゆ
2021年3月25日 23:19
「災難だったな。地獄の中の地獄で有名だぞ、あの部署」仲のいい同期が肩を叩きながら慰めてくれた。「作業量がべらぼうに多いって噂だぜ。大丈夫なのか」「大丈夫じゃねぇよ。でも仕方ない。俺が悪いんだ」そう言って大きめのお猪口を煽る。「ほんと。上のやつも責任取ればいいのにな」「そうだけど。ちゃんと規定の人数を誘導しなかった俺が悪いんだ」「まぁお前の仕事は単調だったもんな」そう
2021年2月18日 21:07
「いってきます!」彼は元気よく家を飛び出した。今日も今日とてなんてことない朝…………なんてことはない。今日は月曜日。それもただの月曜日ではなかった。2月15日。そう、バレンタインの翌日である。世の男子高校生はウキウキソワソワ、しかしその面持ちは平然を装っていた。彼、この話の主人公ももれなくそうであった。いつもの通学電車。いつもと同じ時間、いつもと同じ扉から彼が乗り込んだ駅の2駅
2021年1月28日 23:11
シン・始皇帝。そう呼ばれる英雄が数百年前にいたとかいなかったとか。そんな伝説がぼんやりと年寄りの間で口伝えに受け継がれていた頃の話。シン、と表記しているのはどんな漢字なのか誰もわからないからだ。新時代の幕開けとして『新』という説。真の皇帝という意味で『真』という説。神に最も近づいたということで『神』という説。そして最も有力なのが、かつて治めていた時代のこの地の名前を取って『秦』という説。
2021年1月21日 21:14
椅子に座って早20分がたっただろうか。何かをふと思い立って机に向かってペンをとったのだが、座ったころには何を思い立ったか忘れてしまった。椅子に座ってからは思い立ったことを思い出すというけったいな作業をかれこれ続けている。そもそも思い立った事って考えついたものじゃないんだから、思い出そうにも脳みそのどこの引き出しに入っているか分からない。見失ったリモコンを「どこかで見た気がする」とリ
2021年1月14日 21:38
寒さ、と一言で言っても様々な寒さがあると私は思っている。私には好きな寒さがある。『寂しい寒さ』だ。休日明けの月曜日。鉄筋コンクリートのオフィスに朝早くに1人、もしあなたが学生なら講義室でもいい、部屋の奥の窓際の席に腰掛ける。エアコンの唸り声は聞こえるが、雪男の腹の中に入ったかのように冷たく重たい空気が少しずつ自分の体に染み込んでいく。手の親指の付け根辺りが少しずつ薄く紫色になり始め
2020年12月24日 22:40
大都会。そこで暮らす若者たちが集まる渋谷の中心は日本中の喧騒が集められたのかと思うほどに騒がしい。そのノイズに飲まれないように声を張り上げ、でも軽い口先から吐き出される声が聞こえてきた。「ねぇ。お姉さん、いま暇?」私は眼鏡越しにその気持ち悪い髪型をした男を睨みつけた。「……忙しいですけど?」「えぇ?そんなこと言わないでさ、こんな時間にこんなところにいるなんて暇でしょ?」「ご
2020年12月17日 22:21
パシャッ……僕は何も無い青空をフェンダー越しに覗いた。僕はいつからか、景色だけをカメラに収めるようになっていた。その写真は枚数だけが溜まっても画角は何ひとつ変わっていない。その理由はわかっていた。写したい「被写体」が無くなってしまったからだ。僕がファインダーを覗くようになったのは大学1年生の夏休み前。大学の中庭のベンチに腰掛ける彼女を思わずスマホのカメラに収めたあの日だった。カ
2020年12月10日 21:47
風が吹いた。カタカタッ……散歩に出ようと思い立ち、その支度をしている男の部屋の窓が風によって音を立てた。「随分と強い風だな」男は窓際に立ち、外を見た。道路には落ち葉が舞い、風が運んできた砂が飛び交っていた。「……眼鏡にするか」男は普段使わない眼鏡を探してあちらこちらの引き出しを開けてはひっくり返した。「どこにしまったかな。ここかな?」普段あまり開けない引き出しを
2020年12月3日 21:16
代々マスターの趣味に彩られた町外れの変わった喫茶店。小説と珈琲好きのマスターがここを訪れる読書家達をこだわりの珈琲でもてなす。さて、今日も1冊の小説を抱えたお客様がやって来ました。今日はどんな小説に出会えるのでしょうか。ーーーーーーからん、からん……いらっしゃい。お好きな席へどうぞ。今日はどんな小説を?「今日は『ニホンブンレツ』を」懐かしいですね。最近、文庫化されたようで。
2020年10月29日 20:38
キュッ……キュキュッ……リノリウムの床と上履きの擦れる音が人が少なくなった廊下に響いている。僕は答え合わせをしていた赤ペンを置いて立ち上がり廊下に出た。グラウンドからはまだ部活動に励む生徒のかけ声が聞こえてくる廊下を僕は奥へ奥へと歩いた。廊下の角を曲がり、夕陽が差し込まない肌寒い廊下を抜けて渡り廊下に出ると音が聞こえ始めた。ピアノの音だ。いつもこの時間になると音楽室のピアノ
2020年10月24日 20:58
1枚の枯葉が風に押されて冷たいアスファルトの上を滑っていく。笑う君の顔がぼんやりと霞み始めた。「わ、もう真っ暗だ」「ほんとだ。寒くなって来たし、帰ろうか」「そうだね。じゃあまた明日ね」「うん、じゃあね」僕と彼女はそれぞれ反対方向に歩き出した。僕はすぐに足を止めて振り返った。金木犀の木がある曲がり角。そこに自転車の君が消えていくまで見送った。暗くなった夕暮れの空を見上げて
2020年10月22日 21:01
ザッ……僕は暗い路地裏から大通りを覗いた。そこには溢れんばかりの人が行き交っていた。僕が育った故郷ではこんな噂があった。『トウキョウに行けば何でもある。あの地こそ我々のユートピアだ』僕らは小さい頃からその噂を信じて育った。そして、オトナの仲間入りをした頃に僕はこの街に出てきた。しかし、それは風の噂による洗脳で僕が想像していた世界は蜃気楼のように存在しないものだった。確かにこ
2020年10月15日 23:07
ギギッ…手にくい込むほど強く握ったフェンスは錆だらけで今にも切れてしまいそうだった。下から煽るように強い風が吹き上げて、フェンスにぶら下がった看板がガンガンと音を立てる。フェンス越しに見える街にはこの建物の影が伸びていく。ここからの景色はあの頃見てた景色とすごく似てて懐かしく思えた。俺は噛んでたガムをフェンスに貼り付けるとそのすぐ横に左足をかけた。「おい!落ち着けって!」後
2020年10月8日 21:19
さっきまで手に持っていた箸を置いて代わりにジョッキを握るようになった頃。僕は居酒屋の喧騒の中でさくらの横に座っていた。さくらは桃色の口角を上げて僕に話しかけた。「ねぇ、いぶき。耳貸して?」「なんだよ」僕が差し出した左耳をさくらは甘噛みした。「っ!なんだよ、急に」「へへ、びっくりした?耳、噛まれると気持ちい?」「気持ちいいも何も。びっくりしたよ」「ごめんごめん、冗談。