第3詩集『わたしたちの猫』試し読み

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記事

唱え終えると夏がきていた。|詩「夏の観測席」

口に含めば、甘くあふれ出すきみの名前。
見つけてしまった。
幾度も口ずさみ、断ち切ることなく味わっていく。
それが合言葉のように、唱え終えると夏がきていた。

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   夏の観測席
                 文月悠光

窓ぎわ 右の列の三番目 ひじかけつき
観測席はそこにある。
発車時刻を待つバスの中、
わたしは坂道の向こうを見すえ、待

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たったひとりの「わたし」を見抜いて。|詩「ばらの花」

あなたを守る
たったひとりの「わたし」を見抜いて。
わたしにとって
「わたし」はひとりきりだから。
あなたはあなたを
裁くことができますか。
自らのとげを
愛することができますか。
とげを愛してもらえなければ
花は花を生きられない。

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   ばらの花
                 文月悠光

弱さは見世物ではないから、
花びらを重ねて

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足りないことはうれしいことだ、|詩「砂漠」

腐ることをおそれたから
いきものになりはてたのかな。
(夜に冷蔵庫を覗いたことある?)
(あたたかいんだ)
(砂漠みたいでね)

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   砂漠

                 文月悠光

触れるので
そこにやわくからまるので
ひじから先はいつも熱い。
つま先までの関節ひとつひとつに
きみを眠らせておく。
(体温だけで話はできる)
言葉を

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ひとときお付き合いありがとうございました♡
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あなたが誰かのものになっていく。|詩「片袖の魚」

あなたが誰かのものになっていく。
触れることもせず、
祈るように見つめるわたし。
彼らの暮らす水槽は
あまりに澄んでいたから。

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   片袖の魚
                 文月悠光

あなたが誰かのものになっていく。
その過程がわたしにはよく見えるだろう。
両袖ならば触れ合えたのに、
わたしは片袖にのみ火を放った。
片袖に生まれた

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