記事一覧
祖国でなく、違国のまま慈しむということ——『違国日記』(ヤマシタトモコ)
※そんなに詳細には書いてないですが、ネタバレには配慮していないので最終話などにも触れています。
尊重というジレンマ先日ある取材の途中で、通りすがりの子どもと少し話すことがあった。子どもと別れたあと、同行していたカメラマンさんに「もうちょっと楽しそうにできないの?」と言われてしまった。
これにはなかなかがっくりきた。何しろ自分としてはずいぶん愛想よくにこやかに対応したつもりだったから。しかし、子
薬膳が癒やすものは何か? 『しあわせは食べて寝て待て』(水凪トリ)
『しあわせは食べて寝て待て』。
実にいいタイトルだと思う。額に入れて飾っておきたいくらいだ。
『しあわせは食べて寝て待て』(水凪トリ)は、膠原病を患ってフルタイムで働くことが難しくなり、それまでのキャリアプランを捨てなくてはならなくなった38歳の女性・麦巻さんを主人公にしたマンガだ。収入減もあり、引っ越し先を探しているときにちょっと風変わりなおばあちゃん大家と出会い、薬膳の世界に触れることにな
俺マンのジレンマと、たったひとつの約束
年末も年末、残りも数時間となったタイミングで、俺マンについて書かなくてもいいかもしれないことを書いておこうと思う。かなり長い。それは、今考えていることをできるだけ正確に伝えようと思った結果だ。だが、それでもどの程度自分の温度感が伝わるか、わからない。だからこそ、毎年書かずにいたというのも事実だ。
あらかじめ書いておくが、別に今年何かがあったわけではないし、どれかについて名指しで何か思っているわけ
無尽蔵な無垢の愛と、愛すら無力な世界で——「ラブレター」(尾崎かおり)
作家というのは面白いもので、ときおり何かを予見していたような物語を送り出すことがある。たとえば尾崎かおりの『金のひつじ』3巻に収録された短編、「ラブレター」はまさに今このときのために用意されていたのではないかという物語だった。
「ラブレター」はもともと2016年に発表された短編で、それが長編作品である『金のひつじ』の最終巻刊行に際して収録、4月に刊行された。50ページちょっとのこの作品は、ネグレ
「関係はあるけど興味はない私」は、正しさにくたびれている
社会正義に嫌気がさしている。
こういう話をするのは職業上も都合が悪いのであんまりしたくないのだけれど、くたびれているものはくたびれているのだから仕方がない。
社会正義に基づいた個別の主張が間違っているとか正しいとかいう話ではない。むしろたいがいの社会正義に基づいた主張は「なるほど、実に立派だ」と思うし、表現にしろ何にしろ、自由や権利といったものは放っておくとどうしようもないものになってしまう。
レーティング、ゾーニング、あるいは表現規制のものさし
このところ、レーティング、あるいはそれにともなうゾーニングについて、改めて考えていたので、どちらかというと自分のなかでの整理整頓用にまとめておきます。レーティングが出発点なので、多少派生はするものの、軸足に青少年をめぐる話です。
いわゆる「不健全図書」がどうして不健全であり、レーティングされるのか。これについて「青少年の健全な育成に悪影響を及ぼす」「不健全」という言葉で説明がなされることが多いん
彼女たちの告発は、すべての“私”に向けられている
セクハラの問題が提起されるとき、いつも自分自身がそれにどう相対すべきか、わからなくて困惑してしまう。「支持します」も「賞賛します」も「相手が許せない」も、どれも自分のなかではしっくりこない。
そうこうしているうちに、今回もまたスネの傷の突き合いがはじまり、悪者探しみたいな濁流が、いろんなものを呑み込んでTLを流れはじめていたりする。
そういう何もかもを見ながら感じるのは、怒りや義憤とかではなく
『けものフレンズ』の2期が見たいけど、見たくない
世間から遅れること1週間、GyaOの配信で見ていた私もようやく『けものフレンズ』の最終回を見ることができた。テレビで見るなりニコニコ動画の配信を見るなりすればよかったわけだけど、何しろ私は定時に何かをするというのが嫌いな人間である。映画だって上映開始の時間どおりに行かなければいけないというのがイヤで見られないし、定時に教室に入るというのがダメで大学の構内にいるのにまったく授業に出ずに卒業できなかっ
もっとみる鴨居まさねは「女子」を描かない。だから、女の子を描ける……『にれこスケッチ』(鴨居まさね)
4年半ぶりに帰ってきた鴨居まさねは、実に鴨居まさねらしかった。『にれこスケッチ』の話だ。
『にれこスケッチ』は、もうすぐ29歳になる三姉妹の末っ子・楡(通称・にれこ)が主人公の物語だ。子どもの頃から憧れ続けた「かっこいいキヨタくん」との関係、就職と将来のことなど、いわゆる「アラサーもの」の要素がしっかり詰まっている。
だが、面白いのはそれでいて『にれこスケッチ』が、「女子」も「アラサー」も描か
『そこをなんとか』で見える、麻生みことの女神たち
私のTwitterのTLにはものすごく信頼している人が何人かいる。「この人が面白いというなら、これはもう面白いだろう」と思っている人だ。その人たちの審美眼が世の中一般で見てずば抜けて優れているという意味合いではない。私が美しいと思うものとか、悲しいと思うこと、苦しさを感じるものが、すごく近いんだろうな、という人だ。
そんな人の1人が『そこをなんとか』の新刊について「すごくよかった」と書いていたの
こち亀完結で改めて思う、ジャンプ瓶子体制の意思
深く愛してきた人がたくさんいる作品なので、私のようにちゃんと網羅できていない人間があーだこーだというのは気後れするのだけれども、そういう人間ですらやっぱり「こち亀終了」という報に触れれば腰抜かしていろいろ書きたくなる。それくらい、やっぱり偉大な作品なのだ。
15時過ぎにニュースが出てから今こうしていろいろ書き始めている19時前までに、すでに「こち亀」でのリアルタイム検索に引っかかった数は10万6
オッサン初心者はどうしてオッサンを自称するのか
腐ってもライターなんて仕事してるもんだから、何か書くとなると「実のあることを書かねば」と思い続けてきたわけなんだけれども(結果実のある文章になっていたかはともかく)、今年は何だかすっかり疲れてしまっていて、そういうことを考えるのはやめようという気分になっている。何かもう日記みたいな話を書いてやれ、この野郎、みたいな感じだ。
そういうわけで、どうでもいい話なんだけれども、ちょっと前に「30歳くらい
積ん読なんてしないなんて(もう)いわないよ絶対
Amazonが定額読み放題のAmazon Unlimitedを始める。いろいろあるけど、思ったのはあんまり関係ない話だった。だから、この際書いてしまおうと思う。
「紙の本は生もので、欲しいと思った瞬間買っておかないとなくなる」とか「あとで買おうとか、覚えてられない」とか、いろんなことをいってきたけど、もういいだろう。そろそろ認めてしまおう。
私はもはや物欲のために、マンガを買うためにマンガを買