こち亀完結で改めて思う、ジャンプ瓶子体制の意思

深く愛してきた人がたくさんいる作品なので、私のようにちゃんと網羅できていない人間があーだこーだというのは気後れするのだけれども、そういう人間ですらやっぱり「こち亀終了」という報に触れれば腰抜かしていろいろ書きたくなる。それくらい、やっぱり偉大な作品なのだ。

15時過ぎにニュースが出てから今こうしていろいろ書き始めている19時前までに、すでに「こち亀」でのリアルタイム検索に引っかかった数は10万6000件超。これだけ偉大な作品となると、マンガ産業や文化といった大きな枠組みでも重大な事件として語られる部分があるだろう。

ただ、そういうのはひとまず置いておいて、私がパッと思ったのは瓶子体制についてだ。

■2011年以降の瓶子体制に見える「世代交代」の意思

『バクマン。』の作中でも編集長交代の様子が描かれたので比較的よく知られていると思うが、現在の週刊少年ジャンプの編集長は10代目、瓶子氏である。同世代なら『幕張』で散々いじられた人と記憶している人も多いのではないかと思う。

瓶子氏が編集長になったのは2011年。以後現在まで編集長職を務めている。

瓶子編集長時代のここ数年、ジャンプについて私は強い印象を持っている。一言でいえば「世代交代」だ。

ここ数年のジャンプは長年雑誌の屋台骨であった作品が次々と幕を下ろしている。一昨年、2014年には『NARUTO-ナルト-』が終了。関連作である『BORUTO -ボルト-』が月1連載しているとはいえ、15年にわたる連載に終止符が打たれた。

今年2016年は『BLEACH』が完結。そして、『こちら葛飾区亀有公園前派出所』が9月に終了する。10年選手だった看板作品が続々と完結し、最終章突入と銘打たれた『銀魂』が終われば、2011年の瓶子体制スタート前からの連載は『ONE PIECE』と『トリコ』、不定期連載の『HUNTER×HUNTER』を残すのみとなる。

■ジャンプ97年体制と単行本の時代

私はジャンプについて(勝手に)1997年以降についてを「97年体制」と呼んでいる。まあ、要するに鳥嶋編集長時代以降なのだけれども、ここから4年ほどの間にスタートした大ヒット作は以後十年以上にわたってジャンプの看板として君臨し続けてきた。『ONE PIECE』『NARUTO-ナルト-』『HUNTER×HUNTER』『BLEACH』といった作品たちだ。

もちろん00年代以降もヒット作品は生み出されているのだけれど、ざっくりと傾向を語るなら連載の長期化傾向が進んだ時代だったといえる。この時期はデータで見ていくと、90年代の後半というのはマンガ雑誌の発行部数がみるみる減少していった時期だ。そして、2005年頃に販売金額ベースで単行本が雑誌を上回る。雑誌の時代から単行本の時代へ移り変わっていった時期だといえるだろう。

誰が何を考えてそうなったかは、ちゃんと取材して掘ってみないことには断言できないが、読者サイドから見たインプレッションでいうのなら、97年体制以降のジャンプは雑誌であると同時に、単行本主義的だったと思う。

雑誌というのは宿命的に新陳代謝を要求されている。特に少年誌はそうだ。本来のターゲット年齢層があり、来るべき時が来れば読者は卒業していく。その分、また新たに若い(本来のターゲット年齢層の)読者を獲得していくというのが、雑誌の基本的な理想像だ。

もちろん読者が長く残ってくれるのは悪いことではない。だが、長期連載作品というのはやはり途中から読み始めるにはハードルが高い。読者層の中心は必然的に作品の連載期間とともに上がっていく。長期連載作が終わることは(『ドラゴンボール』終了がジャンプの部数減の契機となったように)その作品に愛着を持っていた多くの読者を手放すことにもなるが、看板が入れ替わらなければ若い読者層の開拓も進まない。そうすると、雑誌が高齢化していくことになる。少年が少年時代に読むという、少年誌のコアな部分が失われてしまう。

一方で単行本はというと、こちらは基本的に新陳代謝を必要としない。もちろん新規読者を広げていくというのはヒットの条件だが、いずれにしてもいつかは完結がやってくるのが単行本だ。雑誌のように永続をめざすものではないし、完結せずに終わるのが理想ではない。だから、むしろ重要なのは「いかに読者を卒業させないか」ということになる。

そういう意味でいえば、超長期連載が増加していくジャンプは、どちらかといえば雑誌的な動きというよりも単行本的な動きを強めていったといえる。まあ、別にそれはジャンプに限ったことではないのだけれども。

■97年体制がいよいよ終わり、10年代のジャンプが生まれる

いずれにせよ、97年前後に生まれたジャンプの看板は10年以上にわたってジャンプの看板であり続けた。良くも悪くも、2010年頃のジャンプは97年体制下、その延長にあったと思う。

そういう認識の上で書くならば、2011年以降の瓶子体制は、97年体制からの脱却というのを強く感じる。2012年までに『暗殺教室』『ハイキュー!!』『食戟のソーマ』といった新たなヒット作を生み、新しい屋台骨をつくりながら、長期連載作の幕を引く。そして、現連載陣がこれからどうなっていくのかはわからない部分はあるものの、『暗殺教室』のようなメガヒット作品も4年ほどで潔く終了させている。

どこまで意図したものなのか、誰がどういうポジションでどのように方針をコントロールしているかというのは、やはり証言を重ねないと断言はできない。連載の終了だって作家サイドの希望もあれば、編集部からの働きかけもあるだろう。だが、起こっていることだけを追っていくならば、瓶子体制の5年間は97年体制に幕を引き、新陳代謝のスピードをアップさせているように見える。いわば、非常に雑誌主義的なやり方だ。

『重版出来!』でも描かれていたと思うので、認識している人も多いと思うけれど、今の出版社、雑誌には事業計画というものがある。どの作品が年間何冊単行本を出して、どれくらい売り上げる見込み……という見通しを立てながらやっているという(この辺、出版社のなかにいる人間ではないので、雑談で聞いた話や伝聞に過ぎないのであんまり大きなことはいえないんですが。どなたかまた教えてください)。そういうなかで、安定して部数を出し、愛され続けている作品にピリオドを打つというのは、なかなか大変なことのはずだ。

「新しい時代をつくる」という強い意志を感じるという意味で、長期連載終了に寂しさを覚えると同時に、2011年以降のジャンプにはすごくワクワクしていたりもするのだ。

【余談】
週刊連載で雑誌最終回と同時に単行本最終巻刊行って、本当に相当原稿をストックをしている秋本先生以外できないですよね。週刊連載40年というのはこういう偉大さがあってできるものなんだなと震えてます。ともあれ、お疲れ様でした。

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