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生成AIと分析AI:その違いと用途

生成AIブームと分析AI:ビジネスにおけるAI活用の新潮流

こんにちは、広瀬です。

近年のAI技術の進歩は目覚ましく、特にChatGPTに代表される生成AIの登場は、世界中に大きな衝撃を与えました。画像、音楽、文章、プログラムコードなど、人間が創造してきたものをAIが生成できるようになったことで、ビジネスにおけるAI活用への期待はかつてないほど高まっています。

しかし、この生成AIブームの影で、見落とされがちなAIが存在します。それは、分析AIと呼ばれる、従来からビジネスに活用されてきたAI技術です。

分析AIは、データ分析、予測、意思決定などに用いられ、企業の業務効率化や収益向上に大きく貢献してきました。生成AIが新しいコンテンツを生み出すのに対し、分析AIは既存のデータから価値を引き出すことに重点を置いています。

本稿では、Harvard Business Review (December 13, 2024) の、情報技術とビジネス分野の世界的権威トーマス・ダベンポート教授による記事「How Gen AI and Analytical AI Differ - and When to Use Each(生成AIと分析AIの違い - そして、それぞれをいつ使うべきか)」を参考に、生成AIと分析AIの違いを解説し、それぞれのAIをどのように使い分けるべきか、ビジネスにおけるAI活用の最適な戦略について考察していきます。

特に、「分析AI」は比較的新しい言葉で、学術的な論文や専門的な記事などで使われることが多く、一般的な認知度はまだ低いという点も踏まえ、分かりやすく解説することを目指します。

生成AIと分析AI、それぞれの特性を理解し、ビジネス目標達成のための最適なAI活用戦略を検討する一助となれば幸いです。

How Gen AI and Analytical AI Differ - and When to Use Each
著者紹介


Thomas H. Davenport(トーマス・H・ダベンポート)
情報技術とビジネス分野の世界的権威。ハーバード大学で博士号取得後、マッキンゼー、アクセンチュアでITリサーチディレクターを歴任。ボストン大学、バブソン大学で教鞭を執りながら、情報技術活用と知識マネジメントに関する研究で多くの業績を残す。『ワーキング・ナレッジ』『分析力を武器とする企業』など、世界的ベストセラーを多数執筆。

Peter High(ピーター・ハイ)
テクノロジー、デジタル、イノベーション分野のコンサルティング会社Metis Strategyの創設者兼社長。Fortune 500企業の経営層に、デジタル変革、イノベーション、リーダーシップに関するアドバイスを提供。『Implementing World Class IT Strategy』など、IT戦略に関する著書を出版。Technovationポッドキャストのホストとしても活躍。

筆者(広瀬)注釈



1. 生成AIと分析AI:2つのAI

本章では、生成AIの台頭により見落とされがちになっているものの、依然として重要な役割を担う分析AIのについて、より深く理解するために、目的、能力、手法、データ、ROI、そしてリスクという6つの観点から、それぞれの特徴を比較していきます。

1.1 目的と能力の違い

  • 生成AI
    新しいコンテンツを創造することを目的としています。テキスト、画像、音楽、プログラムコードなど、人間が作り出すようなものをAIが生成することで、様々な分野で創造性を発揮します。

  • 分析AI
    既存のデータから洞察を導き出すことを目的としています。データ分析、予測、分類、意思決定など、データに基づいたビジネス上の課題解決に貢献します。

1.2 手法の違い

  • 生成AI
    ディープラーニングを基盤とした複雑なアルゴリズムを用いて、大量のデータからパターンを学習し、新しいコンテンツを生成します。例えば、TransformerGAN (敵対的生成ネットワーク)といった技術が用いられています。

Transformer
自然言語処理において革新的な成果をもたらした技術です。文章中の単語の関係性を捉える能力に優れており、高精度な翻訳や文章生成を可能にします。ChatGPTもこのTransformerをベースに開発されています。

GAN (Generative Adversarial Networks)
日本語では「敵対的生成ネットワーク」と呼ばれ、2つのニューラルネットワークを競わせることで、よりリアルなデータを生成する技術です。GANは、偽造者鑑定士の役割を担う2つのネットワークで構成されます。偽造者は、本物そっくりの偽物データを作成しようとします。鑑定士は、偽物データを見破ろうとします。この2つのネットワークが競い合うことで、偽造者はより精巧な偽物データを作成できるようになり、最終的には人間が見ても本物と区別がつかないほどの高品質なデータが生成されます。

GANは、画像生成、音楽生成、創薬など、様々な分野で応用されています。

筆者(広瀬)注釈
  • 分析AI
    統計的な機械学習
    の手法を用いることが多いです。教師あり学習教師なし学習強化学習といった手法があり、それぞれ異なる目的の分析に用いられます。

1.3 データの違い

  • 生成AI
    テキスト、画像、音声など、比較的非構造化データと呼ばれるデータを扱います。これらのデータから、人間の言語や感性を学習し、新しいコンテンツを生成します。

  • 分析AI
    数値データやカテゴリデータなど、構造化データと呼ばれるデータを扱うことが多いです。これらのデータから、統計的な分析や予測を行います。

1.4 投資収益率(ROI)の違い

  • 生成AI
    コンテンツ制作の自動化や効率化によるコスト削減、顧客エンゲージメントの向上による収益増加といった効果が期待されます。

  • 分析AI
    データに基づいた意思決定による業務効率化、リスク管理、不正検知による損失削減、顧客ターゲティングによる収益増加といった効果が期待されます。

1.5 リスクの違い

  • 生成AI
    著作権侵害
    偽情報生成プライバシー侵害といったリスクが懸念されます。また、生成AIの出力結果が倫理的に問題ないかどうかの判断も難しい場合があります。

  • 分析AI
    データの偏り
    による差別、セキュリティ侵害悪用といったリスクが懸念されます。

データの偏りによる差別

人材採用
過去の採用データに偏りがあり、男性ばかりが採用されてきたような場合、AIは男性を採用する方が有利だと学習し、女性を不利に扱ってしまう可能性があります。
ローン審査
過去のローン審査データに偏りがあり、特定の地域や属性の人々に対して融資が拒否されてきたような場合、AIは同様の属性の人々に対して融資を拒否する可能性が高くなります。
犯罪予測
過去の犯罪データに偏りがあり、特定の人種や民族が多く逮捕されてきたような場合、AIは同様の人種や民族を犯罪者予備軍とみなし、差別的な対応をしてしまう可能性があります。

AIによる差別は、個人の権利を侵害し、社会的な不平等を助長する可能性があるため、大きな問題となっています。AIの開発者や利用者は、データの偏りによる差別を防ぐために、以下の点に注意する必要があります。

データの多様性を確保する
特定のグループに偏らないよう、多様なデータを収集しAIの学習に用いる。
AIの出力結果を監視する
AIが出力した結果に偏りや差別がないか、常に監視する。
AIの公平性を評価する
AIの公平性を評価するための指標やツールを用いて、AIが差別的な結果を出力していないか確認する。
説明可能なAIを開発する
AIがなぜそのような結果を出力したのか、その根拠を説明できるようなAIを開発する。


AIは、社会に多くの利益をもたらす可能性を秘めた技術ですが、同時に倫理的な課題も抱えています。データの偏りによる差別を防ぎ、AIを公平で倫理的な方法で活用していくことが重要です。

筆者(広瀬)注釈

このように、生成AIと分析AIは、目的、能力、手法、データ、ROI、リスクのいずれにおいても異なる特性を持っています。それぞれのAIの特徴を理解した上で、適切な活用方法を検討することが重要です。


2. AIの使い分け:目的と状況に応じた選択

生成AIと分析AI、それぞれの特徴を理解したところで、次は「どのように使い分けるか」という視点に移りましょう。

組織は、それぞれのAI技術の特性を理解し、自社の戦略やビジネスモデル、リスク許容度などを考慮しながら、最適なAIを選択する必要があります。

2.1 生成AIが適しているケース

生成AIは、以下のようなケースで特に有効です。

  1. 新しいコンテンツを生み出したい
    小説、詩、脚本、音楽、画像、デザイン、プログラムコードなど、創造的なコンテンツを生成したい場合に最適です。

  2. 人間の作業を効率化したい
    文章作成、翻訳、要約、校正、データ入力など、これまで人間が行っていた作業を自動化し、生産性を向上させたい場合に役立ちます。

  3. 顧客体験を向上させたい
    顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズされたコンテンツやサービスを提供することで、顧客満足度を高めたい場合に有効です。

  4. イノベーションを促進したい
    新しいアイデアや製品を生み出すためのブレーンストーミングやプロトタイピングに活用することで、イノベーションを加速させることができます。

具体的には、以下のような業務で生成AIが活用されています。

  • マーケティング
    広告コピー、キャッチコピー、商品紹介文などの作成。

  • カスタマーサポート
    チャットボットによる顧客対応。

  • ソフトウェア開発
    プログラムコードの生成、バグ修正。

  • デザイン
    ロゴ、イラスト、Webデザインなどの作成。

  • 研究開発
    新薬開発、新素材開発。

2.2 分析AIが適しているケース

分析AIは、以下のようなケースで特に有効です。

  1. データから洞察を得たい
    顧客データ、販売データ、市場データなどを分析し、ビジネス上の課題を発見したり、意思決定の材料にしたい場合に最適です。

  2. 予測や分類を行いたい
    将来の需要予測、顧客の行動予測、リスク予測、不正検知など、予測や分類に基づいた意思決定を行いたい場合に役立ちます。

  3. 業務を効率化したい
    在庫管理、生産管理、物流管理など、データに基づいた最適化により、業務効率を向上させたい場合に有効です。

  4. 意思決定の精度を高めたい
    データに基づいた客観的な分析により、より精度の高い意思決定を行いたい場合に役立ちます。

具体的には、以下のような業務で分析AIが活用されています。

  • 金融
    リスク評価、不正検知、融資審査。

  • 医療
    診断支援、治療計画策定、創薬。

  • 小売
    需要予測、在庫管理、顧客ターゲティング。

  • 製造
    品質管理、生産計画、予知保全。

  • 人事
    人材採用、人事評価。

2.3 2つのAIを組み合わせたケース

2つのAIを組み合わせたケースを以下に示します。

  1. 顧客対応の自動化
    生成AIを搭載したチャットボットで顧客からの問い合わせに対応し、分析AIで顧客のニーズや感情を分析することで、よりパーソナライズされた顧客対応を実現することができます。

  2. マーケティング
    分析AIで顧客をセグメント化し、生成AIでそれぞれのセグメントに最適な広告コピーやマーケティングコンテンツを作成することで、マーケティング効果を高めることができます。

  3. 商品開発
    生成AIで新しい商品アイデアを生成し、分析AIで市場における需要や競合との差別化などを分析することで、より成功確率の高い商品開発を行うことができます。

  4. 人材育成
    分析AIで従業員のスキルや能力を分析し、生成AIでそれぞれの従業員に最適な研修プログラムや学習コンテンツを作成することで、人材育成を効率化することができます。

このように、生成AIと分析AIを組み合わせることで、様々なビジネスシーンでより効果的なAI活用が可能になります。

組織は、それぞれのAIの特徴を理解し、自社の課題や目的に合わせて、生成AIと分析AIをどのように組み合わせるかを検討していく必要があります。


3. AIの民主化:誰もがAIを活用できる未来へ

近年、AI技術は目覚ましい発展を遂げていますが、その恩恵を享受できるのは、高度な専門知識を持つ一部の人々に限られていました。しかし、生成AIの登場は、この状況を大きく変えようとしています。

生成AIは、複雑な操作や専門知識を必要とせず、誰もが簡単にAIを利用できるAIの民主化を促進する力を持っています。同時に、分析AIも、ユーザーフレンドリーなツールやプラットフォームの登場により、AIの民主化に貢献しています。

3.1 生成AIによるAIの利用促進

従来のAIは、専門的な知識やスキルを持つデータサイエンティストやエンジニアでなければ、扱うことが難しいものでした。しかし、生成AIは、自然言語による指示や対話を通じて、誰もが直感的にAIを利用することを可能にしました。

例えば、ChatGPTのような生成AIツールは、ユーザーが自然言語で質問や指示を入力するだけで、AIがそれに応答し、文章作成、翻訳、要約、情報検索など、様々なタスクをこなしてくれます。

3.2 分析AIによるAIの利用促進

分析AIも、近年では、専門知識がなくても利用できるツールが登場しています。Google Cloud AutoML、Amazon SageMaker Canvas、Microsoft Azure Machine Learning Studioなど、ノーコードで機械学習モデルを構築できるサービスが提供されています。

これらのツールを使えば、ビジネスユーザーでも、データ分析、予測、意思決定などにAIを活用することができます。

3.3 企業におけるAI活用事例

では、企業はどのように生成AIや分析AIを活用し、AIの民主化を進めているのでしょうか?いくつか具体的な事例を見てみましょう。

  1. TIAA
    金融サービス企業のTIAAは、生成AIを活用することで、全社員がAIに精通し、AIを活用できるような環境づくりを目指しています。社内にAIギルドネットワークを構築し、従業員へのトレーニングやリソース提供を行っています。

  2. ブリストルマイヤーズスクイブ
    製薬会社のブリストルマイヤーズスクイブは、生成AIによって、分析AIの利用障壁が下がると考えています。読み書きができれば誰でも生成AIと対話できるため、AI技術を活用できる人材の幅が広がると期待しています。

  3. CIGNA
    医療保険会社のCIGNAは、生成AIが複雑なツールや分析結果へのアクセスを民主化し、より多くの従業員がデータやAI技術を活用できるようになると考えています。

  4. MetLife
    保険会社のMetLifeは、従業員に対するAIに関するトレーニングや情報提供が、従業員の満足度や定着率向上に繋がると考えています。

これらの事例から、企業が生成AIや分析AIを活用することで、従業員のAIリテラシー向上、AI活用促進、そして企業全体のイノベーション創出を目指していることが分かります。

3.4 AI人材育成の重要性

AIの民主化を進めるためには、AI人材の育成が不可欠です。AI技術を理解し、適切に活用できる人材を育成することで、企業はAIの力を最大限に引き出すことができます。

AI人材育成には、以下のような取り組みが重要です。

  • AIに関する教育
    社員向けにAIの基礎知識、活用方法、倫理的な問題などに関する教育プログラムを提供する。

  • AIツールの導入
    社内でAIツールを導入し、従業員が実際にAIツールに触れ、活用する機会を設ける。

  • AIコミュニティの形成
    社内にAIに関するコミュニティを形成し、従業員同士がAIに関する知識や経験を共有できる場を設ける。

  • 外部との連携
    大学や研究機関、AIベンダーなどと連携し、最新のAI技術やノウハウを習得する。

AIの民主化は、AI技術の進化と人材育成の両輪によって実現されます。企業は、AI人材育成に積極的に投資することで、AIの力を最大限に活用し、競争力を強化していくことができるでしょう。これからの企業は、AI人材の育成は必要要件かもしれません。


4. まとめ:AIを使いこなす

生成AIと分析AIの違い、そしてそれぞれの活用方法について解説してきました。最後に、AIの今後の発展と、組織におけるAI活用の重要性について改めて考えてみましょう。

4.1 生成AIと分析AIの今後の発展

生成AIは、コンテンツ生成の分野でさらなる進化を遂げると予想されます。より高精度で、より人間らしい表現力を持つAIが登場し、人間の創造性を支援するだけでなく、新たな創造性を生み出す可能性も秘めています。

分析AIも、進化を続けています。データ分析の自動化、予測精度の向上、説明可能性の向上など、様々な分野で研究開発が進められています。

また、生成AIと分析AIを組み合わせた新たなAI技術の登場も期待されます。例えば、生成AIで生成したデータを分析AIで分析したり、分析AIの結果を生成AIで解釈したりすることで、より高度な分析や意思決定が可能になるでしょう。

4.2 組織におけるAI活用の重要性

AI技術は、もはや一部の専門家だけのものではありません。生成AIの登場により、AIは誰もが活用できるツールへと進化を遂げつつあります。

組織は、生成AIと分析AIの特徴を理解し、それぞれのAIを適切に使い分けることで、業務効率化、コスト削減、収益増加、顧客満足度向上など、様々なメリットを享受することができます。

AIは、もはや単なる「技術」ではなく、ビジネスを成功に導くための「戦略的ツール」と言えるでしょう。

そして、真にAIを使いこなし、ビジネスを変革していくためには、生成AIと分析AIの両方を理解し、それぞれの強みを活かすことが重要です。

生成AIは、新しいアイデアやコンテンツを生み出し、人間の創造性を拡張します。分析AIは、データに基づいた洞察を提供し、より良い意思決定を支援します。

この二つを組み合わせることで、組織は、新たな戦略やビジネスモデルを創出し、データ主導の文化を育み、生産性を向上させ、より良い意思決定を行うことができるようになります。

逆に、両者の違いを理解せず、どちらか一方のAIに偏った活用をしてしまうと、AIの潜在能力を最大限に引き出すことができず、ビジネス変革の機会を逃してしまうリスクがあります。

AIを使いこなし、競争優位性を築くためには、以下の点が重要です。

  1. AIリテラシーの向上
    全社員がAIに関する基礎知識を習得し、AIを適切に活用できるような環境を作る。

  2. AI人材の育成
    AI技術を深く理解し、AI開発や活用を推進できる人材を育成する。

  3. データ活用の強化
    AIの精度向上には、質の高いデータが不可欠。データ収集、蓄積、分析の体制を強化する。

  4. 倫理的な問題への対応
    AIの倫理的な問題を理解し、責任あるAI開発・活用を行う。

AI技術は、今後も進化を続け、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与えていくでしょう。組織は、AI技術の進化を常に 把握し、AIを戦略的に活用することで、変化の激しい時代を生き抜き、持続的な成長を遂げることができるでしょう。


今日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。

参考情報


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広瀬 潔(HBR Advisory Council Member)
いつも読んでいただき、ありがとうございます。この記事が少しでもお役に立てたら嬉しいです。ご支援は、より良い記事作成のために活用させていただきます。