マガジンのカバー画像

【特集】詩人グレース・ヒバード

15
19世紀末から20世紀初頭に活躍した、アメリカの女性詩人グレース・ヒバードにまつわる作品をまとめたマガジンです。
運営しているクリエイター

#アメリカ文学

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その14 ~ミモザの木の下で~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その14 ~ミモザの木の下で~

ミモザの木の下で
Under a Mimosa Tree

露のしずくたちが風に揺れる草に残り、
陽光に照らされる蜻蛉がすばやく舞うと、
唸る風に吹かれる〈イトスギ〉の木が黒ずんだ大枝を上げる――
雲一つない青を湛える空へと。
ハチドリが黄金の杯から蜜を吸い、
生け垣に隠れて鳥が歌ると、
花に囲まれて舞う蝶が教えてくれる――
我が魂にも羽があると。

今回、紹介いたしましたのは、グレース・ヒバード

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その13 ~海辺のサンフアン~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その13 ~海辺のサンフアン~

海辺のサンフアン
San Juan by the Sea

夕日を浴びる貴方を見た、
海辺の麗しいサンフアンを、
帯状に連なる黄金の光輪のような
西の空だった。
海の紺碧色が
空の橙色に交われば、
やがて極淡の黄金色に変わり
天上では星が一つ耀いた。

このたび、紹介しましたのは、グレース・ヒバード(1835-1911)というアメリカの女性詩人が1893年の詩集Wild Poppiesに収めた作品

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その12 ~夜の海~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その12 ~夜の海~

夜の海
Night at Sea

蝋燭の火のごとく、幾多もの星が燃え
海の深くをも広く照らす
夏の景風のごとく、幾多もの風が戦げば
眠ろう、平穏につつまれて

父なる神が星を照らし
嵐の乱した海淵を静めれば
その御声は風を意のままになさった
ゆえに眠ろう、平穏につつまれて

このほど、紹介したのは、グレース・ヒバード(1835-1911)というアメリカの女性詩人が1893年の詩集Wild Pop

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その11 ~つぐない~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その11 ~つぐない~

つぐない
Compensation

空一面に黒の雲がかぶさり
見えるのは星一つだけ
嘆きがもれた、絶望のあまり
「眩い星よ、私を照らせ」

たゆたう紫の雲に
星は隠される
だが、あの雲たちがかつていた地に
うるわしい月が皓々とかがやく

今回、上掲しましたのは、アメリカの女性詩人であるグレース・ヒバード(1835-1911)が1893年の詩集Wild Poppiesに所収した作品です。原文は、こ

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その10 ~りんごの花~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その10 ~りんごの花~

りんごの花
Apple Blossoms

快い春のある日のこと
あの女はあの男にりんごの花を渡した
意味を知らぬまま

「私の心はあなたのもの」と花がささやいた

けれども、あの女の恋心はなぜか
いかめしく冷淡な男を避けるようにさすらった

桃色がかった白い可憐な花が
老齢のりんごの木からふらりと離れるように

男は、女の温和な青い目を見た刹那
昔から語られる素敵な話を思い出した

女の頬をさっ

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その9 ~ブルーベルの花~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その9 ~ブルーベルの花~

ブルーベルの花
Bluebells

姿なき空気の指に触れられ
ブルーベルの花々が調べを共鳴る
海を越え、帰途について
空を行く鳥のように私の想いは飛んで行く

鳥たちの歌る木々の下で
ブルーベルの生う「川岸と土手」に

彼らと私の住みかがある――麗しのブルーベルの調べ
それを聞く者がほかにいただろうか。

このたび、紹介したのは、グレース・ヒバード(1835-1911)というアメリカの女性詩人が

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その8 ~花菱草~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その8 ~花菱草~

花菱草(カリフォルニアの州花)
Wild Poppies: The State Flower of California

ぬくぬくと穏やかな風にゆれる
黄金の花菱草よ、見事なり。
この世の最上の美をほこる地を
象徴するに、そなたは相応しい。

黄金の花菱草よ、誰に植えてもらったか。
世界が生まれてすぐにこの地にいたのか。
朝が色彩を入れてくれたのか。
そなたが映し出すのは日没の色なのか。

人の

もっとみる

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その7 ~希望~

希望
Hope

果てなく続くものか、わびしく希望が無いばかりの朝が。
終われば、見えてこよう
薔薇、黄金、紫水晶の色をたたえる輝きが、
ルビーワインの色調が。

果てなく続くものか、霧と漂流の雨に
包まれた夜が。
雲がたゆたえば、顔をまた出すだろう
あまたの星が。

このほど、紹介したのは、グレース・ヒバード(1835-1911)というアメリカの女性詩人が1902年の詩集California V

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その6 ~ポンペイにて~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その6 ~ポンペイにて~

ポンペイにて
At Pompeii

雲なき蒼穹のもとで、
 束縛されぬ西風に吹かれて、
生を、この生を神に感謝し、
 我は立つ、死せるポンペイに。

鳥の啼かぬ静寂は、
 蜜蜂を呼び起こすことは露もないが、
生を、この生を神に感謝し、
 我は立つ、死せるポンペイに。

このたび、上掲したのは、グレース・ヒバード(1835-1911)というアメリカの女性詩人が1902年の詩集California

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その5 ~夢で会ってくれた人~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その5 ~夢で会ってくれた人~

夢で会ってくれた人
He Came to Me in a Dream Last Night

昨夜の夢で会ってくれた
 愛しい人が、今や天にいる人が。
私の額に、手に口づけをして
 やさしい言葉をたくさんかけてくれた。

どれほどの年月が経ったかと
 かけがえのない存在は他にいないと
最愛の声を聞けて、最愛の顔を見られた
 うれしさを口にした。

目が覚める、野鳥のさえずりに
 するどく差しこむ光

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その4 ~我がためにあらず~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その4 ~我がためにあらず~

我がためにあらず
Not for Me

(K・イカディの日本語の文に倣って)

庭園の塀のかなたで
うららかな一輪のばら
堂々と伸びゆく。
「誓って貴方のためにあらず」と
風がささやく
庭園の塀のはるか上で。

庭園の塀に
白いばらが寄りかかる
優雅に伸び伸びと。
誓って我がためにあらずと、
この身が愛の悲願を夢見る途中、
花びらが落ちゆく、雪のように。

今回、紹介したのは、アメリカの女性詩人

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その3 ~愛を歌おう~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その3 ~愛を歌おう~

愛を歌おう
A Love Song

もしも私たちがあの砂浜にいる海鳥で、
 どこかへ翔び立とうと私が翼を広げれば、
ああ、愛する者よ、ひと時の住まいとなった岸から
 ついてきてくれようか、白い行雲の上まで。

もしも私が砂浜にいる海鳥で、
 翼で蒼穹へと舞い上がれるのなら、
この翼をほかならぬ喜びで広げ、
 貴方について行こう、白い行雲の上まで。

このほど、紹介したのは、グレース・ヒバード(1

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その2 ~日本の蝶々の唄~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その2 ~日本の蝶々の唄~

日本の蝶の唄
Japanese butterfly song

死を経て私は
白い翅の蝶に生まれ変わる、
 我が花嫁ティスィは星のよう。
きゃしゃな翅では昇れそうにない
 桜の上にひろがる空までも
 このままなら、美しいティスィのもとにも。

もしも私が星なら、
風吹く空を敏速の翅で舞い上がり
 こちらに来てくれようか。
もしも私が小さな白い雲なら、
我が花嫁を隠せるだろうに
 見上げる者たちの目

もっとみる
【翻訳】詩人グレース・ヒバード その1 ~異教の少女、太陽に祈る~

【翻訳】詩人グレース・ヒバード その1 ~異教の少女、太陽に祈る~

異教の少女、太陽に祈る
A Pagan Girl's Prayer to the Sun

(紀元前500年のこと)

太陽よ、我が民が幾年も崇めてきた御神よ。
今や海に沈みそうになるも
空にとどまる赤き火の球、
そのままであらんことを、我が祈りをお聞きになるために。

闇の地を光で照らし、
花、虹に色彩をもたらし、
あふれんばかりの光で
蓮の杯を充たされるお方よ、我が悲しみを聞きたまえ。

輝け

もっとみる