マガジンのカバー画像

エガオが笑う時

83
運営しているクリエイター

2023年12月の記事一覧

クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(終)

クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(終)

「エガオちゃん?」
 マダムが私の顔を心配そうに覗き込んでいる。
「ぼおっとしてどうしたの?」
「えっ?」
 私は、目を大きく瞬きして周りを見る。
 マナも、4人組も、スーちゃんも心配そうにこちらを見ている。
 カゲロウも無精髭に覆われた顎に皺を寄せている。
 私は、顔を上げる。
 月と星が煌びやかに光る澄んだ夜空が目に入る。
 そこには流星鳥の群れはいなかった。
「もう行っちゃったよ」
 ディナ

もっとみる
クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(3)

クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(3)

 それはすぐにやってきた。
 鈴の音に似た音。
 空を切り裂くような銀色の光。
 そして目が焼けるような荘厳で夢物語のような光景。
 それは暗い夜空を迷うことなく羽ばたく銀色の炎に包まれた大きな鳥の群れだった。
 4人組もマナの顔が花火のように華やぐ。
「今年も来たわね。流星鳥」
 マダムがそっと私の肩に手を添えてゆっくりと引き寄せる。
 マダムの頬と私の頬が触れ合う。
「まさかエガオちゃんとこう

もっとみる
クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(2)

クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(2)

「楽しみね」
 ワイン色の身体の線が綺麗に映えるドレスを着たマダムが隣に座って金色の髪にそっと自分の頬を私の髪の上に乗せて聞いてくる。
 果物のような甘い香水の匂いがマダムの髪や頬を通して伝わってきて心臓が跳ねそうになる。
「はい・・・とても・・」
 私は、羞恥と興奮に頬を赤らめて声を上擦らせる。
 そんな様子を同じテーブルに座る4人組が楽しそうに見ている。
「そのドレス・・とても素敵よ」
 そう

もっとみる
クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(1)

クリスマス番外編 エガオが笑う時 騒がしい聖夜(1)

 それは幼い頃の記憶だ。
 それが何歳だったのか?いつ頃のことだったのかは覚えていない。
 だだ、ものすごく寒かったことだけは覚えている。
 グリフィン卿による訓練の後、身体中が痛みと疲れで悲鳴を上げ、ご飯も喉に通らないままにお風呂にも入らないで自室で眠ろうとした。
 しかし、寒さと痛みと疲れでどうしても眠れない。
 その変わりに何とも言えない心細さで不安になっていく。
 この頃にはほとんど笑わな

もっとみる
エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(終)

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(終)

「そんじゃ始めますか」
 そう言ってカゲロウは、キッチン馬車の中に入るとフライパンや仕込んだ鍋を準備し始める。
 私は、カウンター越しにむすっと頬を膨らませて彼を睨む。
 マダム達はもう席に座っている。
 チャコとマナは、2人で青い傘の円卓に座り、昔話に花を咲かせている。あの2人ならきっと時間の隔たりなんてすぐに乗り越えるだろう。
 サヤとディナとイリーナは黄色の傘の円卓に座って日々の楽しいこと、

もっとみる
エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(3)

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(3)

 フレンチトーストを食べ終えるとカゲロウはアップルティーを淹れてくれた。
 今日は凄いな。
 私の大好物のオンパレードだ。
 カゲロウの淹れてくれたアップルティーは匂いだけで充分に満足出来るもので、いつまでも嗅いでいたい甘さと酸っぱさ、そして心を豊かにする匂いだ。
「鎧のない生活には慣れないか?」
 カゲロウの言葉に私は顔を上げる。
「なんかずっと戸惑ってるだろう?」
 カゲロウは、本当に凄い。

もっとみる
エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(2)

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(2)

「エガオ!」
 全ての円卓を準備い終えるとカゲロウがキッチン馬車の中から声を掛けてくる。
「はいっ」
 私は、小走りでキッチン馬車まで駆け寄る。
 しばらく運動してなかったのと、身体の軽さに何度かバランスを崩しそうになる。
 料理を運ぶ時、気をつけないとな。
 キッチン馬車の前に立つと口の中いっぱいに広がるような甘い香りが漂ってきて三度、お腹が鳴りそうになるのを私はぐっと押さえる。
 そんな私の仕

もっとみる
エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(1)

エガオが笑う時 最終話 エガオが笑う時(1)

 赤い傘を広げると赤い幌が朝の柔らかい光に照らされて林檎のように輝く。
 朝ご飯を食べてない胃袋はそれだけで盛大に音を鳴り響かせ、私は思わず頬を赤らめる。
 キッチン馬車の隣で寝そべったスーちゃんにもその音が聞こえたようで面白そうに嘶く。
 私は、ぷっと頬を膨らませてスーちゃんを睨みながらも赤い傘を円卓の中央に差した。
 キッチン馬車の中ではカゲロウがタンクトップに白いエプロンを付けてせっせと仕込

もっとみる
エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(5)

エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(5)

 次の瞬間、私の足は旋律を刻む。

 武舞踏連弾

 タッタッタッタッタッタッタッタッタァ!

 私は、柄の振るい、石畳の上に散らばる大鉈と鎧の残骸を空中に打ち上げる。
 異変に気づいたマナが猟獣の如く私を睨み、熱線を放出する。
 しかし、私はもうそこにはいない。
 大鉈と鎧の残骸と共に私も空中へと舞い上がる。
 熱線が石畳を砕き、炭化させる。
 戦乙女のプレートに爪先を当て、思い切り蹴り上げて落

もっとみる
エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(4)

エガオが笑う時 第10話 一緒に帰ろう(4)

 カゲロウの手から離れると私は大鉈を握り立ち上がる。
 もう2度と立てないのではないかと思っていた身体に力が入る。
 心の奥の奥から湧き上がってくる。
 私は、スーちゃんと戦っているマナを見る。
 マナの中を這いずり回る醜いヌエの顔をした無数の魔印を睨みつけながら戦略を組み立てる。
 私は、半月に抉れた大鉈をじっと見る。
 そして青白い炎に囲まれた空間を見回す。
 これじゃあ・・・ダメだ。
 私は

もっとみる