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#私の作品紹介
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第49話-春、修学旅行2日目〜理美④
理美は膝をついて泣きじゃくっている。
貴志の心を奪った坂木紗霧が憎かった。
貴志の隣は、誰もが羨んでいた特等席。それを手に入れた、坂木紗霧に嫉妬した。
そして紗霧がいなくなり、貴志の心は壊れてしまった。
いくら泣いたところで、それは何の解決にもならない。それがわかっていても、泣きながら謝ることしか出来ない。
出来ないのだ。
理美は泣きながら謝ることしか出来ない。貴志が、2年近く
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第47話-春、修学旅行2日目〜理美③
貴志の涼し気な笑顔を見たのは、いつぶりだろう。無理して作っている表情なのは、潤んだ目元が教えてくれている。
貴志の表情が消えて、激しい憎悪の目線を向けられ、しばらく無言の時間がやってきた。髪を振り乱し、頭を抱えた貴志の声にならない悲鳴は、しかし耳に、心に確かに聞こえていた。
思えば貴志が取り乱す姿なんて、ほとんど見たことがなかった。坂木紗霧を傷つけた。それ以外の理由で貴志が、我を忘れる程怒
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第45話-春、修学旅行2日目〜理美②
「私ね、悟志くんの事が、好きだよ」
湖畔の闇に吸い込まれるように、言葉が紡がれた。河口湖の風は穏やかで、理美の次の言葉をも包み込もうと静かに波音を立てていた。
「悟志くんは、貴志くんの代わりなんかじゃない。
ひとりの男の子として、好きなんだ」
貴志は黙って頷いた。初恋が失われることの痛みは、とても根深い。ひょっとしたら一生をかけても癒やされないんじゃないか?とすら思う。
それを乗り越えて弟
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第44話-春、修学旅行2日目〜紗霧②
修学旅行2日目の夜。宿の和室で修学旅行生達が騒いでいる。紗霧は一人、広縁で外を眺めていた。星も見えなくはないが、和室からの明りが邪魔をしている。炭酸水を口に含んで、テーブルに横たわるスマートフォンを眺める。貴志からのメッセージはまだ開いてもいない。
星が見たいなあ。夜空いっぱいに広がる星が見たい。
外は怖くて出られない。貴志が横にいてくれれば出られるだろうか?それはもう叶わない事なのだけれど
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第41話-春、修学旅行2日目〜紗霧①
貴志と理美が、本栖湖湖畔で並んで富士山を眺めていた頃。紗霧もまた雄大な富士山を視界いっぱいに受け止めていた。
紗霧は今、芦ノ湖の湖畔にいる。奇しくも初恋の人と同刻、湖越しに同じ富士山を見る。その富士山を挟んで、二人は今、まさしく向かい合って立っていた。視界の先、富士山越しに見える空は、同じ空だろうか。
修学旅行2日目。初恋の人は、今どこにいるのかすら、知らない。もう偶然は起こり得ないだろう
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第40話-春、修学旅行2日目〜貴志①
本栖湖湖畔で富士山を眺める。湖の碧と、富士山の蒼と、空の青。透き通るような景色の中、心を静かに鎮めていく。徹夜明けの眠気から開放されて、心も景色と同じように晴れ渡っていた。
昨日会えなかった初恋の人。最愛の人。そして自分のせいで深く傷つけてしまった人。坂木紗霧を想う心。
会えるかもしれないと思った昨日、久しぶりに触れた気がした。紗霧に伝えたかった、自分自身の気持ちに。
俺は紗霧に会いたかっ
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第39話-春、修学旅行2日目〜旅は眠気と共に
修学旅行って、こんなにも怒涛の展開をするものだっけ?将来卒業アルバムを開いた時に、きっと彼らは1日目をそう言って振り返っただろう。
裕に訪れた二度目の恋は見事に散った。瑞穂に至っては初恋が霞んで消えた。
理美は頬を腫らして、貴志は消えた恋人とギリギリの一線で再会を果たせなかった。
中学生…?の修学旅行とは思えない展開で迎えた二日目。
貴志たちの班は、全員が必死に眠気と戦っていた。
「い
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第37話-春、修学旅行1日目〜瑞穂③
「オレ、瑞穂が好きだよ。
付き合って欲しいんだ。二人で遊びに行くような、関係になりたい」
裕の口から思いの丈が旋律となって奏でられた。その音感はとても穏やかで、とても心地よく、瑞穂の心に優しく響くのだった。
しかし…。
嬉しいはずのその言葉。待っていた言葉なのに。
裕が好きだ。好きなのに。
「それはマジのやつ?」
やっとの思いで返したのは、そんな一言だった。
裕は真顔で頷いた。笑顔の
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第36話-春、修学旅行1日目〜貴志⑤
「坂木さん見つけた」
貴志は、理美からの連絡を受けて駆けつけた。しかし初恋の人、紗霧との再会は叶わなかった。そこにいたのはたった一人。赤く腫れた頬を押さえ、茫然と立ち尽くす高島理美だけだった。
「貴志くん…ごめんね」
その一言が、赤く腫れた頬が、全てを物語っていた。紗霧はもうここにはいない。
「ごめん…なさい」
目の焦点が合わないまま、理美はただただ謝罪の言葉だけを繰り返していた。
まただ
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第35話-春、修学旅行1日目〜紗霧④
北村貴志という人を好きだと認識したのはいつだっただろう。後から振り返れば、そうだと思う瞬間は何度もあった。
初めて手紙をもらった時。林間学校の班長会議で遅くなった彼に偶然教室であった時。彼が忙しい母の代わりに、家事を毎日こなしていると聞いた時。
彼が山村裕と二人で、ふざけて笑い合っているのが見えた時。
だけど一番鮮明にあの時だ!と思い出せるのは、あの時だ。林間学校の夜。二人で見上げた星空。
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第34話-春、修学旅行1日目〜貴志④
初恋の人がこの街にいる。自宅から数百キロ離れた街で、奇跡のような偶然があった。
しかも彼女は同じ店で食事をしたらしい。それはいつか二人で行こうと、約束した店だった。
占いを受けて周りを見渡した時、一人の少女に目が止まった。
雑に伸ばした髪。縁の大きな眼鏡。紗霧の面影を見つけることもできなかったけれど。
それでもあの大勢の人の中で、なぜかあの少女だけは気になったのだ。そしてその少女が吸い込
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第33話-春、修学旅行1日目〜瑞穂②
構えた銃にためらいはなかった。自分は今、悪い奴らをこらしめるヒーローなのだ。奴らは物陰から自分たちを狙ってくる。考えろ…。反応しろ…。そして射て!
瑞穂は華麗な銃さばきで敵を打ち倒していく。隣で裕が小さく「さすが」と呟いたのが聞こえた。
「裕、右!」
指示すると同時に敵が弾け飛んだ。
中華街のゲームセンターで、瑞穂は裕と二人、ガンシューティングゲームに興じていた。
観客が声援を送る。まん
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第32話-春、修学旅行1日目〜紗霧③
なんとなく。そう、なんとなくだった。占いの館にいた、中学生の集団がなんとなく気になっただけだった。
スープチャーハンに舌鼓を打った紗霧は、店を出ると、向かいにある占いの館へと向かった。
同じ占い師が空いている様子だったので、その前に立つ。するとなぜか占い師は、自分の顔を見るなり大きなため息を着いたのだった。
「お姉ちゃん…。もしかして、失恋とかしなかったかい?
それも一生を左右するんじゃ
【連続小説】初恋の痛みが消えないまま俺はまた恋をする第31話-春、修学旅行1日目〜理美③
「瑞穂ちゃんたち、なんかトレンド入りしてるっぽいよ」
理美が横浜中華街で検索をかけると、見慣れた制服の後ろ姿が引っかかった。どうやらゲームセンターでとんでもない快進撃を展開しているらしい。
あの二人がガンシューティングなんかしたら、そうなるだろうな。一心不乱にゲームをしている二人を想像したら、自然と笑みがこぼれてくる。
「油断しすぎだよ、貴志くん。
今、普通に笑ってる」
理美の指摘で初めて