Metro Boomin徹底解説 (with WooRock)
セントルイス出身でアトランタを拠点に活動するプロデューサーのMetro Boominについて、新潟のビートメイカーのWooRockと話しました。WooRockのプロフィールはこちら。
記事に登場する曲を中心にしたプレイリストも制作したので、あわせて是非。
Metro Boominの何が凄いのか?
アボかど:今年はMetro Boominの年だと思う。まず「Coachella」に出た。さらに映画「Spider-Man: Across the Spider-Verse」のサウンドトラックも作って、これからFutureとのアルバム、JIDとのアルバム、あとLil Durkとのアルバムが控えている。全部が今年中に出るかはわからないけど、それでも出るものもあるはず。
でも、その存在感や功績の割には「Metro Boominの何が凄いのか?」ってあまり言語化されていないような印象がある。そこで今回は自分の視点だけじゃなくて、ビートを作っている人の視点も交えてMetro Boominについて解説してみたい。というわけで聞きたいんだけど、まずWooRockはMetro Boominのどんなところが凄いと思っている?
WooRock:今のMetro Boominに関しては、色々な音を組み合わせる能力が凄いと思います。クレジットを見ると色々なループメイカーやミュージシャンの名前があるじゃないですか。色々な人の音を組み合わせるコンポーザーとしての能力がMetro Boominの凄さの一つとしてあると思います。それって「ただループを使っているだけ」と捉える人もいるかもしれないですけど、簡単そうに見えても誰にでもできることじゃない。Metro Boominの作風は時期によって移り変わりがありますけど、今に関してはそこですね。
アボかど:なるほど。確かに良いサンプルパックをいくらかき集めてきても、誰でもMetro Boominになれるかと言われたら無理だよね。でも最初からそういう人だったわけじゃなくて、移り変わりを経て今そのスタイルになっている。その変化を時系列で振り返って見ていきたいんだけど、シーンに出てきたのは多分2010年前後のことだよね。
WooRock:Metro Boominの地元のセントルイスで一緒にやっていたラッパーもいるはずですけど、メジャーどころだとBig Seanが2010年に出したミックステープ「Finally Famous Vol. 3: Big」に入っている「Hometown」がありましたよね。
アボかど:Big Seanとは後にコラボアルバム「Double or Nothing」を出すけど、この時から既に繋がっていたんだね。この時期はMetro Boominと関係が深いGucci Mane一派が凄く元気だったから、その流れなのかな。もしくはホストDJのDon Cannon経由か。あとは2011年にFrench Montanaのミックステープ「Mister 16: Casino Life」に参加しているよね。この頃のMetro Boominのビートはまだ「誰かっぽい」感じがする。
WooRock: Three 6 Mafiaとか好きそうな感じなのと、今と比べるとクランクみたいな鳴りのシンセを使っていますよね。
アボかど:French Montanaの「Call It Dat」なんかを聴くと、マジでLex Lugerだなと思う(笑)。でも、この時からドラムの複雑なプログラミングとかはヤバいよね。とはいえ、この頃はまだMetro Boominのことを認識している人はそこまで多くなかったと思う。
WooRock:そうですよね。2011年くらいでは俺もまだ特に印象的な曲はないです。
活動初期からマインド的な部分は特出していた
アボかど:じゃあ2012年に行ってみよう。この年はOJ Da Juicemanのミックステープ「Cook Muzik」で何曲か作っていたり、あとGucci ManeやReese LAFLAREなんかとやっているね。でも、まだ開花する前って感じがするな。
WooRock:そうですね。まだどこにでもいるプロデューサーって感じです。
アボかど:格好良いビートを作ってはいるんだけどね。ただ、Reese LAFLAREの「P.S.A.」って曲はドロッとした声ネタを使ったダークな曲で、今に繋がる部分はあると思った。でも、この時期はMetro BoominというかReese LAFLAREが所属していたコレクティヴのTwo-9がヤバいんだよな。
WooRock:2012年はTwo-9がヤバい時期でしたね。確かこのくらいの頃にはMetro Boominはセントルイスからアトランタに移住していたはずです。モアハウス大学に進学して。
アボかど:この頃からアトランタ作品でプロデュース仕事が目に見えて増えていくよね。この時期はSonny Digital周辺の人という印象がある。
WooRock:Sonny DigitalとかDJ Spinz、Southsideなんかと交流があったっぽいですね。一緒に出ているビートメイク動画もいっぱいあります。
アボかど:この頃のSonny Digitalのインタビューを読んだら、「ほかのプロデューサーの手助けをしていきたい」みたいなことを言っていたんだよね。この頃は2011年にYCのヒット曲「Racks」があって一足先に人気が出ていたから、まとめ役みたいな感じになっていたのかもしれない。
WooRock:人気的にはSonny Digitalが頭一つ抜けていましたけど、マインド的にはMetro Boominもこの時から負けていなかったみたいですよ。母親に音楽をやりたい話をしたら最初は反対というか心配されたそうなんですけど、Metro Boominは一緒に仕事したいラッパーを調べてリストを作っていたらしいんです。それを母親に見せて説得して、母親の運転でセントルイスからアトランタまで通っていたって話があって。やっぱりその時から本気度みたいなものは頭一つ抜けていたんだと思います。
アボかど:それを見せてわかるということは、Metro Boominのお母さんもヒップホップに詳しいよね。そもそもヒップホップ好きな人らしくて、The FaderのMetro Boominインタビュー記事でもMetro Boominが「お母さんのコレクションからIce CubeやMC Lyte、Yo-YoやLauryn Hillを聴いていた」って話が出てくる。Ice CubeとYo-Yoの名前が出てくるとG好きとしては西海岸ヒップホップ好きそうなのが気になるんだけど(笑)。あと、このインタビューでは「2Pacを聴いて育った」とも話している。NellyとE-40、ChingyとDJ Quikみたいなセントルイスとウェッサイの人たちの共演曲も多いし、セントルイスでは西海岸ヒップホップの人気が強かったのかもしれないね。
Metro Boominに大学の推薦状を書いたMaestro
アボかど:それで、Metro Boominのモアハウス進学について興味深い話があるんだよね。アメリカの大学入試って先生とかからの推薦状が必要になることが多いみたいなんだけど、Metro BoominはLil Wayneの「3 Peat」やIce Cubeの「Gangsta Rap Made Me Do It」とかを作っているMaestroってプロデューサーから推薦状を書いてもらったらしいんだよ。Maestroはモアハウスの優秀な卒業生で、ジャズバンドやオーケストラとかでキーボードを弾きながらヒップホップのビートを作っていたという経歴の人。ヒップホップやR&Bのプロデュース以外にも映画のサントラ仕事とかもやっている。
セントルイスとも微妙に縁があって、Nelly主演映画の「The Longest Yard」のサントラに入っているChamillionaireとDavid Bannerの曲「Talking That Talk」にキーボードで参加していたり、2006年にシングル「Chain Hang Low」がヒットしたJibbsと曲を作っていたりするんだよね。Metro Boominとどうやって繋がったのかはわからないけど、そんなキャリアのある人から推薦状を書いてもらうってことは、ひょっとしたら師弟関係みたいな可能性もあると思う。
WooRock:何の繋がりもなかったらそうはならないですよね。
アボかど:師弟関係まで行かなくても憧れの存在くらいな感じで、リスペクトしているんじゃないかな。「3 Peat」のビートとか今聴くとちょっとMetro Boominっぽさあるし。作風的にはそういう複雑なドラムプログラミングも得意だし、あとキーボードを弾ける人だからそれを活かすような曲も作る感じ。Gファンクみたいな西海岸ヒップホップっぽいのもいける。今はヒップホップシーンの第一線でやってはいないみたいだけど、Metro Boominの作風に繋がるものもあると思う。あとMaestroはDem Franchize Boyzとも一緒に曲を作っていたんだけど、Futureが2006年にMeathead "Da" Futurr名義で出した「All Outta State」ってシングルにDem Franchize BoyzメンバーのPimpinが参加しているんだよね。人脈的にも近い。
WooRock:確かに重要な人のような感じがしますね。
アボかど:話はだいぶ逸れちゃったけど、2013年のMetro Boomin仕事を見ていこう。このくらいからMetro Boominが目立ち始めたよね。
WooRock:Futureのシングル「Karate Chop」とか2013年でしたよね。「Tony Montana」とかもありましたけど、俺は「Karate Chop」がFutureにとって大事な曲だったんじゃないかと思います。Lil Wayneも参加したリミックスも出ましたし。
アボかど:「Karate Chop」のビートはSonny Digitalが作りそうな感じだよね。
WooRock:シンセが強めに鳴っていますよね。
アボかど:まだ確立されていない感じがする。でもFutureのキャリアをさらに一歩押し上げた曲だよね。Metro Boominの相方といえば「Savage Mode」のイメージが強いから21 Savageの名前が挙がりやすいと思うんだけど、振り返ってみるとFutureの方が昔からずっと一緒にやっているし相方感は強いかも。
WooRock:俺もFutureの方が相方っぽい立ち位置だと思います。曲も沢山ありますし。
アトランタの年だった2013年
アボかど:2013年はそもそもアトランタヒップホップが熱かった年だと思う。Rich Homie Quanの「Type of Way」やMigosの「Versace」もこの年だし。Metro Boominはこの頃にそんな熱いアトランタのシーンでスーパー売れっ子になっていたわけだけど、この年にはソロのミックステープも出しているよね。
WooRock:「19 & Boomin」ですね。あれに入っている「Intro (Future Speaks)」のビートが当時からめちゃくちゃ好きでした。Metro Boominや808 Mafia、Zaytovenとかが集まっている動画があるんですけど、それの最後の方で流れているビートがこの「Intro (Future Speaks)」のビートなんですよ。その動画を観て俺はビートを作り始めました。「Intro (Future Speaks)」は喋りだけでラップはない曲なんですけど、ビートスイッチしていく感じとかも凄い好きなんですよね。
アボかど:それがきっかけだったんだ!「19 & Boomin」の客演を見ていくと、Ace HoodやCurren$yなんかもいるけど、基本的にはGucci ManeやFutureの周りを中心にした当時のアトランタ勢って感じだよね。あとTwo-9のCurtis Williamsもいる。
WooRock:Young ThugやBankroll Freshもいましたよね。あとCa$h Out。俺Ca$h Outめちゃくちゃ好きなんですよね。ヒットシングルの「Cashin’ Out」は今でも聴きます。
アボかど:クラシックだよね。今思うとCa$h Outは凄かった。Rich Homie Quanもだけど、もっといけそうなポテンシャルはあったと思う。
WooRock:クレジットを見るとプロデューサーではTM88やSouthsideがいますね。Dun Dealもいる。Dun Dealももっと凄くなると思っていたんですけどね……。
アボかど:Metro Boominってこの頃から共同プロデュースをよくやっているよね。一番早いわけではないと思うけど、それまではプロデューサーのソロ作で別のプロデューサーの音がガンガン入るってあまりなかったと思う。
WooRock:みんなで集まってビートを作っていたからこうなるんでしょうね。「俺もやる!」みたいな感じというか。
アボかど:アトランタではOrganized Noizeが3人でやっていたり、セントルイスにもThe Trak StarzやTrackboyzみたいなユニットがいたけど、先人たちと違ってMetro Boomin世代はメンバーを固定せず流動的な感じでやっているよね。ある意味ジャズとかのミュージシャンが集まってセッションするノリに近いのかもしれない。
WooRock:それをトラップでやっていくという。やっぱり集まれる場所があるのがデカくて、それでお互いに刺激を受けて成長していったんでしょうね。
アボかど:その感じだと誰がどこを作ったのかわからなくなることもありそうだから、もしかしたら実際は世に出ている以上にMetro Boominが関わっていたビートがあるかもしれないよね(笑)。
Travis Scottとの制作など活動の幅を広げた2014年
WooRock:2013年だとLudacrisともやっていますよね。ミックステープ「IDGAF」で。
アボかど:しかも結構買われているよね。3曲も使われている。やっぱこの頃には、アトランタで一番ホットなやつみたいな扱いにはなっていたんだろうね。2013年はアトランタヒップホップ自体がホットだったから「この勢いでいっぱい作品を出さなきゃ!」ってなっていて、集団でスピーディに制作するMetro Boomin周辺がそれに応えられたから人気が上がっていったみたいな感じなんじゃないかな。
WooRock:2013年からアトランタが席巻していきますよね。
アボかど:そうだね。やっぱりMigosやRich Homie Quanのインパクトがデカかった。でも俺がMetro Boominを認識したのは2014年くらいからだったな。
WooRock:俺も正直そのくらいですね。前から名前は見たことあったんですけど、気になり始めたのは2014年です。
アボかど:何きっかけだった? 俺はMetro Thugginの「The Blanguage」から。Drakeの曲をサンプリングしているのが珍しいと思ったんだよね。
WooRock:俺はTravis Scottのミックステープ「Days Before Rodeo」に入っている「Skyfall」ですね。あれは今でも一番好きな曲です。ああいう曲を作っている人いないと思うんですよ。
アボかど:「Days Before Rodeo」はマジでヤバかったね。
WooRock:ですよね。この時からTravis Scottがアトランタのシーンに加わっていったような印象です。
アボかど:Young ThugやRich Homie Quanとも絡み始めたよね。今見ると「Days Before Rodeo」はMetro Boomin制作曲多いな。
WooRock:DJ Dahiと作った「Mamacita」とか。あれめっちゃ好きなんですよね。ドラムの感じとか凄いと思います。
アボかど:あれは間違いなくMetro Boominのドラムだよね。あとこれのRich Homie Quanがヤバいんだ。このくらいの時期のRich Homie Quanは凄かった。
WooRock:一緒にMVにも出ていましたよね。
アボかど:そうそう。Rich Homie QuanとTravis Scottの組み合わせも好きだったからまたやってほしいな。あと2014年といえばさ、Futureの「I Won」もあったよね。全然FutureっぽくもMetro Boominっぽくもない曲(笑)。
WooRock:多分初めてKanye Westと作った曲ですよね。これ誰のディレクションなんですかね? 謎の曲です。でもFutureは格好良いですよね。
アボかど:Futureは格好良いんだけど、なんかかなりポップ寄りな感じだったよね。Metro Boomin単独じゃなくて、R. CityとNick Seelyのクレジットもある。一人で作ったわけじゃないにせよ、これいけたMetro Boominは凄いのかもしれない。
試行錯誤を経て作風を確立
アボかど:あと2014年だとiLoveMakonnenの「Tuesday」もあったよね。あれは大きかった。
WooRock:当時のアトランタヒップホップってめちゃくちゃおかしかったと思うんですけど、「Tuesday」はさらに上を行くおかしさでしたよね(笑)。
アボかど:一際おかしかったよね(笑)。あれが出た時はまだ共作のSonny Digitalの印象の方が大きかったな。でも今聴くとMetro Boomin色の方が強いビートだと思う。
WooRock:この曲はリミックスでDrakeが乗ったのも大きかったですよね。
アボかど:多分「Tuesday」のリミックスがDrakeとMetro Boominの初タッグだよね。
WooRock:そうですよね。アトランタ周りではいっぱい作っていましたけど、この辺りから広がり始めた。
アボかど:Nicki Minajともやっていたよね。Nicki Minajと曲を作るっていうのは、Metro Boominがアトランタを越えて売れっ子になったっていう証拠だと思う。あとYGのアルバム「My Krazy Life」に入っている「1AM」もあったよね。あれは西海岸ヒップホップっぽい曲なんだけど、Maestroの存在を踏まえると自然な流れなのかも。ウェッサイを通っているのも間違いないし。
WooRock:「一回作ってみるか」みたいな感じだったのかもしれないですね。売れ始めた頃だから引き出しの多さを見せつけたかったのかもしれません。
アボかど:それこそFutureの「I Won」も(笑)。なんかいい曲を作るけど、「これがMetro Boomin」っていう印象はまだない感じだよね。
WooRock:Futureといえば、アルバム「Honest」の後にミックステープ「Monster」も出ていますよね。これはMetro Boominがエグゼクティブプロデューサーもやっているんですけど、恐らくその立場で関わるのは初めてだったと思います。
アボかど:それはデカいね。この頃からMetro Boominが本格的に盟友みたいな感じになったんだろうな。
WooRock:そしてこの流れがアルバム「DS2」に続いていくみたいな。「Monster」だと「Codeine Crazy」が一番好きですね。プロデュースはTM88ですけど。
アボかど:「DS2」は大きかったよね。あれが出た2015年からMetro Boominは本格的に才能を開花させていく感じがある。
WooRock:「DS2」もMetro Boominがエグゼクティブプロデューサーをやっていて、11曲作っていますよね。俺的には「DS2」でMetro Boominの個性が確立した感じがありました。
アボかど:そうだよね。覚醒した感がある。「DS2」は今でもMetro Boominと絡んでいる人が結構いっぱい参加しているよね。
WooRock:Allen RitterやFrank Dukesがいますよね。
アボかど:そう思うと、本当にMetro Boominがやりたい放題やったアルバムなんだろうね。
信用を得た2015年
WooRock:「DS2」はサウンドも今のMetro Boominの感じですよね。一番ヒットしたDrakeとの「Where Ya At」もそうですけど、この頃を境にビートがミニマルになっている気がします。そんなに派手なビートがない。
アボかど:暗いビートが増えたよね。
WooRock:それがFutureと合うんですよね。俺は正直「Honest」やミックステープ「Dirty Sprite」の時はそこまでFutureにハマっていなかったんですけど、「DS2」を聴いて完全にやられました。このアルバムをきっかけにFutureもMetro Boominも前以上に注目しようと思いましたね。
アボかど:あとFutureといえば、Drakeとのミックステープ「What a Time to Be Alive」も2015年だったよね。あれもMetro Boominがエグゼクティブプロデューサーをやっている。これもかなりFuture寄りの作品だったけど、その鍵を握るのがMetro Boominだったのは興味深いよね。
WooRock:あのミックステープだと「Diamonds Dancing」が好きですね。今聴いても格好良い。
アボかど:俺はやっぱり「Jumpman」だな。あと2015年だと、Travis Scottのアルバム「Rodeo」でもMetro Boominは活躍していたよね。「3500」とか。
WooRock:「3500」いいですよね。多分Zaytovenがピアノで、あとMIKE DEANやAllen Ritterもいて。Metro Boomin周りのプロデューサーが集まっている感じがあります。
アボかど:Allen Ritterって確かループメイカーみたいな感じの人だよね?
WooRock:自分でビートも作っているんですけど、キーボードをめちゃくちゃ弾けるタイプの人みたいですね。ループ作りの方が得意なんじゃないかと思います。
アボかど:そういうのは時代の変化って感じがするよね。昔だったらキーボード弾いているだけだとプロデューサーとしてクレジットされていなかったのが、今ではされるようになったみたいな。あと2015年だとUncle Murdaのシングル「Right Now」もあった。曲としてはそんなに重要ではない気がするけど、「If young Metro don’t trust you, I’m gon’ shoot you」のタグの元ネタはこれなんだよね。Futureがこのくらいの時期にめっちゃMetro Boomin大好きだったのがわかる。
WooRock:一緒に作っている中で、Metro Boominのマインドやプロダクションワークに惹かれたんでしょうね。
アボかど:あとMetro Boominって結構ディレクションするタイプなんじゃないかな。だから言わせたのかもしれない。「ちょっと俺のことラップしてくんねー?」みたいなさ(笑)。
WooRock:かもしれないですね。「タグで使いたいからやってよ」みたいな(笑)。
「Savage Mode」の成功などの快進撃
アボかど:2015年の目立つところだと、ほかにはPusha Tのアルバム「King Push – Darkest Before Dawn: The Prelude」の「Intro」をやっているよね。
WooRock:これDiddyが関わっていますよね。
アボかど:この間のシングル「Creepin’ (Remix)」より一足早くね。その「Creepin’」に客演している21 Savageとも2015年には一緒にやっている。この時に相性の良さを感じて2016年の「Savage Mode」に繋がるんだろうね。でさ、この2016年のMetro Boominがちょっと凄すぎる。
WooRock:この年はヤバいですよね。それまでとは仕事量が違う。
アボかど:作品単位だと、やっぱり「Savage Mode」が出たのが超デカかったよね。
WooRock:あれは転換期でしたね。Metro Boominだけじゃなくて、21 Savage的にもあの作品は重要だったと思います。
アボかど:あのEPが話題になったことでMetro Boominのイメージや立ち位置が完全に固まったよね。21 Savageも「XXL Freshman Class」に選ばれたりして注目が集まっていた時期だったけど、あのEPが決定打になったと思う。
WooRock:今になっても「Savage Mode」と同じくらい暗い作品って多分出ていないですよね。全部半端なく暗い。あれを通したMetro Boominも凄いし、それに応えた21 Savageも凄いと思います。「No Heart」とかヤバいです。
アボかど:「No Heart」はヤバい。「X」も好きだな。あと「Ocean Drive」も結構好きだった。とにかく全曲が凄い作品で、俺はMobb Deepの「The Infamous」の現代版みたいな印象を受けたな。
あと2016年は「Savage Mode」も重要だったけどさ、Kanye Westのアルバム「The Life of Pablo」に入ったのも大きかったよね。あまりKanye Westの話はしたくないんだけど、やっぱり触れざるを得ない……。
WooRock:「Father Stretch My Hands Pt. 1」ですよね。あれはタグの入り方が気持ち良すぎる。
アボかど:わかる。あれはMetro Boominがシーンの頂点、超一流のところに仲間入りした瞬間だったと思う。あとMigosのシングル「Bad and Boujee」もこの年だったよね。Post Maloneのシングル「Congratulations」もだよ。
WooRock:Futureのシングル「Low Life」も。
アボかど:「Low Life」で絡んだThe Weekndともアルバム「Starboy」に入っている「Six Feet Under」で一緒にやっているよね。Lil Uzi Vertのシングル「You Was Right」もこの年。2016年のMetro Boomin、どうなっているんだ(笑)。仕事量も多いし、いい曲も出すぎ。
でも2017年はさらに凄い
アボかど:「Bad and Boujee」はドラムの複雑な組み方がヤバいよね。
WooRock:ヤバいですよね。あと、あの曲は808のベースがヤバいと思うんですよ。Thundercatが「ベースの役割を更新した存在」としてMetro Boominを挙げているんですけど、「Bad and Boujee」を聴くとウワネタは同じだけど3回808のベースが変化していて、ベースの進行の変化で展開させているんですよね。そういうところがThundercat的に良かったんじゃないかと思います。「Bad and Boujee」は俺の中ではベースがメインの曲ですね。
アボかど:ウワモノは超シンプルだしね。Migos絡みだと、Quavoが客演しているPost Maloneの「Congratulations」も良い曲だったな。The Weekndもそうだけど、この年はMetro Boominがラップだけじゃなくてよりポップな歌モノもいけるのを証明した年でもあると思う。
WooRock:ポップ寄りの曲でもポップの音じゃないのが、この時のMetro Boominの凄さですよね。サウンドはトラップというか。
アボかど:ヒップホップのセールスが伸びたっていう時代の変化もあると思うけど、「I Won」みたいな方向には行っていないよね。さらに、そういう華やかなところでもやりつつ「Savage Mode」みたいな作品も出している。Lil BやHoodrich Pablo Juan、Young Nudyとか渋いところとも作っているしね。
WooRock:この頃のYoung Nudyはまだそこまで注目されていない時期でしたよね。
アボかど:Young Nudyとは今でも絡んでいるし、お気に入りなんだろうな。とにかく2016年のMetro Boominは凄かった。でも、2017年はもっと凄いよね。この年はおかしい(笑)。まずアルバム/ミックステープ単位でコラボしたのがNavとの「Perfect Timing」、21 SavageとOffsetとの「Without Warning」、Big Seanとの「Double or Nothing」と3枚ある。あとGucci Maneの「Droptopwop」も連名じゃないけど全曲Metro Boominが作っているから実質タッグ作だよね。
WooRock:俺あれめっちゃ好きでした。あと全曲でのコラボではないですけど、21 Savageがソロで出した「Issa Album」も14曲中9曲がMetro Boominでしたよね。これだけ出ているってことは、恐らくこの1.5倍から2倍くらいは作っていると思うんですよ。絶対未発表曲もあるじゃないですか。
アボかど:確かに。21 Savageもこの年は超頑張っていたよね。ラップも急激に上手くなっていったような印象がある。「Savage Mode」が良すぎたから、違うことを頑張ろうとしていたのかもしれない。
WooRock:「Issa Album」も「Savage Mode」的な暗い曲はあまりなかったですよね。「Nothin New」くらい。「Bank Account」なんてちょっとコミカルな感じもありました。
Metro Boomin流サンプリングビート
アボかど:「Bank Account」もそうだけど、この年のMetro Boominはサンプリングにハマっていたっぽいよね。
WooRock:Big Seanとのアルバムもサンプリングが多かったですよね。「Go Legend」とか「No Heart, No Love」とか。
アボかど:あとサンプリングのビートだとFutureの「Mask Off」もこの年だったね。あの曲は本当に凄かった。リミックスのKendrick Lamarもヤバかったけど、そもそもビートが格好良すぎたよね。
WooRock:「Mask Off」はシンプルなのに全てが一つになっている感じが凄かったですね。
アボかど:完璧なビートだったよね。あとサンプリングのビートだと、Kodak Blackの「Tunnel Vision」もあったな。あの曲はイントロで「Ayy, lil' Metro on that beat」って言っているけど、聴いた瞬間に「これ絶対新しいタグになるじゃん」と思った(笑)。あれもKodak Blackが言いたくなっちゃったのか、それともMetro Boominが言わせたのか気になる。
WooRock:探せばほかにもそういうのありそうですよね。あるけど使われていないものもあるでしょうし。
アボかど:いっぱい曲出していたしね。頑張りすぎ。でも2018年になると仕事量が急激に減るよね。4月には引退宣言もしたし。
WooRock:2018年に出たMetro Boominのソロアルバム「NOT ALL HEROES WEAR CAPES」のレコードの裏ジャケに、2017年12月から休みに入ったみたいなことが書いてあるんですよね。Big Seanとの「Double or Nothing」って、向こうだと酷評されていたらしいんですよ。俺はめっちゃ好きなんですけど。あれだけやっているのに評価されないことに疲れたのかもしれないですね。
アボかど:Navとの「Perfect Timing」も評価は低かったしね。
WooRock:Offsetとの「Ric Flair Drip」とかヒット曲もあったんですけどね。
アボかど:この激務で思うような評価が得られなかったら、そりゃ嫌になるわな……。それで2018年は休んでいたわけだけど、それでもポツポツ曲は出ていたよね。Rich The Kidの「Lost It」とか好きだったな。
WooRock:あれはヤバかったですね。あとGunnaの作品にも参加していました。Metro Boominって結構Gunnaを推していますよね。
アボかど:確かに。ミックステープ「Drip Season 3」でもエグゼクティブプロデューサーをやって、5曲も作っているもんね。
傑作ソロアルバム「NOT ALL HEROES WEAR CAPES」
アボかど:そんな2018年のMetro Boominだけど、12月にはソロアルバム「NOT ALL HEROES WEAR CAPES」を出したよね。
WooRock:休み始めたのが2017年の12月とあるので、ちょうど一年ですね。ここで気持ちを新たに再出発した感じがあります。
アボかど:このアルバム凄いよね。生演奏をいっぱい入れるようになったり、明らかにそれまでと違う側面を見せている。ストリングスのPeter Lee Johnsonと絡み始めたのもここからだと思う。
WooRock:Allen Ritterもキーボードを弾いていますよね。何きっかけなんですかね?
アボかど:「Mask Off」のビートに合わせて演奏する「Mask Off Challenge」が流行ったじゃん。あれで自分の作った曲を演奏してもらうことに可能性を感じたんじゃないかな。「Mask Off Challenge」動画は見つけられなかったんだけど、Peter Lee Johnsonはあれ以前からヒップホップやR&Bのヒット曲をヴァイオリンでカヴァーするのをやっていた人で。「Congratulations」が入っているPost Maloneのアルバム「Stoney」にも参加しているから、その流れでMetro Boomin作品と関わるようになったんじゃないかと思う。
WooRock:結構昔からいる人なんですね。
アボかど:そうだね。意外なところだと、Nujabes周辺の活動で知られるラッパーのSubstantialとジャジーヒップホップ系プロデューサーのMarcus Dによるユニットの、Bop Alloyが2011年に出したリミックスアルバムに参加している。綺麗なストリングスが得意な人だね。そういう人がMetro Boominと繋がるのは面白いと思う。
WooRock:なるほど。あと生演奏以外にもループメイカーが作ったサンプルも、この辺りから上手く使うようになりましたよね。今のコンポーザー的な作り方が確立した印象です。
アボかど:ある意味Kanye Westみたいな感じだよね。Southsideが「Trap Ye」ってミックステープを出していたけど、Metro Boominの方がKanye West度は高いと思う(笑)。あと、このアルバムの時からMetro Boominは全曲に違うラッパーを入れるんじゃなくて、同じ人を何曲も起用してアルバムを構成しているよね。
WooRock:そうですよね。一緒にスタジオに入って何曲も作って、結果的にそうなるのかも。
アボかど:Wizkidも2曲いるしね。アフロビーツやっていたのは驚いたな。でもちゃんとMetro Boominの音になっていて凄かった。
WooRock:元々なんでも作る人でしたけど、自分のスタイルを保ったまま違うスタイルを取り入れるのは凄いですよね。俺はこのアルバムをきっかけにアフロビーツを聴くようになったんですけど、そういう人も案外多いんじゃないかと思います。
セントルイスよりもアトランタ寄り
アボかど:このアルバムはタイトルに「HERO」って入っているけど、Metro Boominってヒーローネタ好きだよね。この前のスパイダーマンもそうだし。
WooRock:日本のアニメの「ワンパンマン」や「僕のヒーローアカデミア」も好きらしいですよ。俺もヒロアカは好きなんですけど、「セントルイス・スマッシュ」って必殺技があるんですよ(笑)。
アボかど:それはセントルイス出身のMetro Boominとしては嬉しいポイントかもね(笑)。Metro Boominの「Metro」もセントルイスの地下鉄「MetroLink」から取っているらしいし。でも意外と地元のラッパーとはそんなに作らないよね。Nellyとか、あと最近だとSminoとか。
WooRock:Sminoはシカゴのイメージの方が強いですね。
アボかど:それは確かに。Sminoはかなりシカゴっぽい音楽性だけど、JIDとやった流れでやってくれないかな(笑)。あと比較的最近だと30 Deep GrimeyyとNWM Cee Murdaもセントルイスだね。この辺はハードなスタイルだし合いそう。
WooRock:合いそうですね。でもやっぱり、Metro Boominはどちらかと言えば地元よりもアトランタ寄りの人ですよね。
アボかど:そうだよね。2019年のMetro Boomin仕事を見ても、やっぱりアトランタ作品への参加が多い。
WooRock:Offsetのアルバム「Father of 4」はほぼMetro Boominでしたよね。
アボかど:この年のMetro Boominの代表作はこれだよね。このアルバムは凄かったな。Big RubeやCee-Lo Greenが参加していることもあるけど、なんとなくDungeon Familyっぽさが強いと感じた。そのノリでFutureがいないのが不思議(笑)。このアルバムでもPeter Lee Johnsonが絡んでいるよね。
WooRock:あとDoughboy Beatzもいますね。この人はMetro Boominが2017年に立ち上げたレーベルのBoominati Worldwideに所属しているんですけど、契約したのはこの年だったみたいです。
アボかど:結構ベテランの人だよね。過去にはJibbsと作っていたり、あとWaka Flocka FlameやOJ Da JuicemanみたいなMetro Boominと近いところともちょくちょくやっていたはず。そんな目立たない人だけど、こういうベテランをレーベルに引っ張ってくるのは興味深い。あと「Father of 4」といえば、Metro BoominとSouthsideでSO ICEY BOYZってユニットを組んだ話があったよね。
WooRock:ありましたね。
アボかど:でもその後は何もしていない。今思うとなんだったんだろう(笑)。
ラップだけではなく歌モノのプロデュースでも活躍
アボかど:2019年はJames Blakeともやっているよね。
WooRock:James Blakeの憂鬱な感じとMetro Boomninのサウンドは合いますよね。Metro Boominが参加したJames Blakeのアルバム「Assume Form」にはTravis Scottも呼んでいましたけど、Metro BoominがTravis Scottを呼ぶ時には歌寄りのアプローチをさせるイメージがあります。
アボかど:Metro Boominは元々Nellyを聴いてラップを始めた人だから、歌フロウが好きなんだろうね。Futureもそんな感じだしさ。そういう風にディレクションしているのかもしれない。
WooRock:Gunnaもそれで好きなのかもしれないですね。Metro Boominとよくやっていて歌っぽくない人は21 Savageくらい。あと2019年のMetro Boominだと、Solangeともやっていますよね。
アボかど:「Stay Flo」ね。John Carroll Kirbyも関わっているけど、そういう普通にしていたらMetro Boominと交わらなそうなところを組み合わせるSolangeのセンスは凄い。曲も格好良いし。でも、Metro Boomin的にはこの後SolangeともJohn Carroll Kirbyとも絡んでいないよね。単発コラボって感じ。歌モノだと、The Weekndの「Heatless」もシングルとしては2019年リリースだったよね。
WooRock:Solangeと違って、The Weekndとは何回かやっていますよね。「Low Life」とか。この曲はアルバム「After Hours」の中でも一番好きでした。
アボかど:超格好良いよね。そういえばこの曲も「Metro Boomin turn this ho into a moshpit」とMetro Boominの名前を歌っているけど、タグになりそうでなっていないな。
WooRock:使っていい人と使っちゃダメな人がいるのかもしれないですね。契約の関係とかで。
アボかど:それはありそう。2019年は仕事量的にはそこまで多くないし、やっぱり2016~2017年頃とはモードが違う感じがするね。
WooRock:アルバムの準備期間みたいな感じだったんじゃないですか?次の2020年には21 Savageとのアルバム「Savage Mode II」が出ていますし。
アボかど:確かに。2020年も仕事量はかなり少ないよね。Lil DurkやYoung Nudyとやったのと、The Weekndの「After Hours」に4曲で参加したくらい。あのアルバムはOneohtrix Point Neverの参加が話題になったけど、Metro Boominも同じくらい活躍しているよね。そう思うと2019年から2020年にかけてのMetro Boominは歌モノの仕事が多い気がする。
セントルイスの先人とMetro Boomin
アボかど:21 Savageとの「Savage Mode II」はMorgan Freemanの喋りが重要だよね。
WooRock:映画みたいなアルバムを作りたかったんでしょうね。
アボかど:Metro Boominって多分映画好きだよね。インタビューでも「ホラー映画のサントラから影響を受けた」って言っているし。そういえばセントルイスで最初にメジャーレーベルと契約したラッパーのSylk Smooveの初期のアーティストロゴが、映画「Super Fly」風なんだよね。Chingyもそう。Chingyは2003年のアルバム「Jackpot」でも映画ネタのリリックがあるし、Metro Boominも同じセントルイスの先輩に倣って映画の要素を……ってのは流石にないか(笑)。
WooRock:それはわからないですけど(笑)。ビートの展開の付け方にも映画音楽の影響はありそうですよね。それをラップが映えるヒップホップのシンプルなビートの中でやっていく感じが凄いと思います。
アボかど:確かに。あとこのアルバムはスクリュー版が出たのも大きなトピックだけど、セントルイスのシーンって結構昔からテキサスのシーンと近かったと思うんだよね。Sylk Smooveが1991年に出したアルバムもUGKやGeto Boysと通じるファンキーなサウンドだし、Honee Comb Recordsっていうセントルイスのレーベルが1996年に出したコンピレーションもScrewed Up Clickみたいな感じだった。そのコンピはアートワークもPen & Pixelだし。
あとNellyもLil’ FlipやPaul Wallと曲を作っていたよね。Metro Boomin的にはTravis Scottとの交流もあるけど、テキサスのヒップホップとチョップド&スクリュードには昔から親しんでいたのかもしれない。
WooRock:テキサスといえば、2021年にはDon Toliverともアルバム「Life of a DON」でやっていますよね。俺Don ToliverとMetro Boominの組み合わせがめちゃくちゃ好きで、何曲か一緒にやっていますけど全部外れがないと思います。Don Toliverの才能も凄いですけど、それを引き出すMetro Boominもやっぱり凄い。
アボかど:このアルバムに入っている「Swangin' on Westheimer」はMario Winansもクレジットされているよね。知り合ったのは結構前だったみたいだけど、ここからの「Creepin’」でのMario Winans「I Don’t Wanna Know」ネタは興味深い流れ。そういえばMetro Boominプロデュースじゃないけど、「After Hours」のタイトル曲にもMario Winansが関わっていたよね。
WooRock:あと2021年はColdplayともやっていますね。これは謎の仕事です(笑)。Juice WRLDの「Burn」とかもありましたけど、ここら辺にはもうアルバムプロデューサーって感じにシフトしている気がします。
アボかど:そうだよね。提供よりは自分の作品。
WooRock:振り返ってみると2018年が転機ですね。
「HEROES & VILLAINS」とMPC
アボかど:2022年はGunnaのアルバム「DS4Ever」で3曲やっているよね。提供はそのくらい。2022年のMetro Boominはやっぱりアルバム「HEROES & VILLAINS」だよね。これは凄いアルバムだった。
WooRock:これ三部作なんですよね。そういうところにもMetro Boominの映画好きを感じます。
アボかど:「Savage Mode II」から続いてMorgan Freemanも参加しているしね。このアルバムはストリングスの使い方と凝った展開が印象的だったな。
WooRock:あと、この頃のMetro BoominはMPCを使っているのも特徴ですよね。MPCはコロナで家にいる時間が増えてよく使うようになったらしいですよ。ドラムは結構MPCで作っているんじゃないかと思います。
アボかど:A$AP Rockyとのスタジオセッション動画にもばっちりMPC2000XLを使う姿が映っていたよね。あれが出た後すぐにDrum DummieがMPCでビートを作る動画を出していたけど、そういうハード回帰みたいなものが起きた気がする。この前出たJPEGMAFIAとDanny Brownのアルバムも全曲SP-404で作ったらしいし、Travis Scottも最近のインタビューで「ニューアルバムはほとんどMPCで作った」って話していたし。全員がMetro Boominの影響なのかはわからないけど、面白い流れだよね。
WooRock:実は俺も最近DJ KOLさん(新潟のビートメイカー)がMPC2000XLを貸してくれて、ちょっと使ってみたんですよね。
アボかど:同じ機材を使ってみてどうだった?
WooRock:FL Studioに慣れすぎているから難しいんですけど、たまにはこういうことをやるのもいいですね。あのアルバムだと、「Umbrella」のスネアの感じとかはMPCの音なんじゃないかと思いました。あとはやっぱり「Feel the Fiyaaaah!」はMPCなんだなって感じがしますね。
アボかど:なるほど。「Feel the Fiyaaaah!」は途中までドラムレスで、Westside Gunnがやりそうな感じで進むよね。
WooRock:あれはラップしづらそうですよね。あのフロウを生み出せるA$AP Rockyは凄い。
アボかど:あとThundercatがベースを弾いているよね。しかもいわゆる「リズム隊」としてのベースの入れ方じゃなくて、ThundercatのMetro Boomin分析の回答編みたいな感じがあった。元ネタに入っているベースだけでグルーヴは出ていて、Thundercatのベースはメロディを付け加えるものとして入ってくる。
WooRock:「Bad and Boujee」とかと同じトラップのスタイルですよね。トラップは808に音階を付けてベースとして使いますけど、それを普通のベースに置き換えるみたいな。
アボかど:本来ドラムだったはずの808に音階を付けてベースとして使うのって、今更ながら凄い発明だよね。アマピアノのログドラムもパーカッションのベース化って意味では近い発想だと思う。Thundercatの発言もそうだけど、トラップが他ジャンルに与えた影響ってうちらが思っている以上に大きいんだろうな。
個性豊かな面々をまとめる力
WooRock:このアルバムだと、Honorable C.N.O.T.E.も2曲で参加していますよね。「Spider-Man: Across the Spider-Verse」のサントラにも参加していましたけど、Metro Boominのお気に入りプロデューサーなんでしょうね。俺もめちゃくちゃ好きです。
アボかど:遡ると「Savage Mode II」にも参加していたよね。あと俺は「HEROES & VILLAIN」だとJohan Lenoxの参加が気になったな。
WooRock:アボかどさんが前レビュー書いていた人ですよね。
アボかど:そうそう。あのアルバムは良かった。Johan Lenoxは元々オーケストラをやっていて、Kanye Westの「Yeezus」の曲をベートーベンのスタイルで演奏するコンサートをきっかけにMIKE DEANと繋がり、その流れでKanye West関連作に関わるようになったみたいな人なんだよね。
WooRock:俺はBig Seanのシングル「Single Again」で知りました。
アボかど:いたね。Metro BoominともBig Sean経由なのかも。クラシックの素養を感じさせるストリングスを作る人で、ソロ作だとビートも面白いよね。Johan Lenoxのソロ作を聴いてから「HEROES & VILLAIN」を聴くと、明らかに「これJohan Lenoxのストリングスだな」ってわかる感じがある。「Spider-Man: Across the Spider-Verse」のサントラにも参加していたし、Peter Lee Johnsonと並んでこれからMetro Boominの右腕みたいな感じになっていくのかもしれないね。
WooRock:それにしても、Metro Boominの周りにはいい人が集まっていますよね。Johan Lenoxいて、Peter Lee Johnsonいて、Allen Ritterいて……あとPrince 85。この人はトロント出身で、壮大なサンプルを作る人ですね。Boominati Worldwide所属のDAVID x ELIもいい。この人たちはドイツ出身らしいです。これだけ色々な人たち、しかも個性豊かな人たちをまとめるMetro Boominは凄いと思います。
アボかど:Johan Lenoxのストリングスに顕著だけど、ちゃんとその個性を活かしているのも凄いよね。去年のアルバムの客演の方を見ていくと、やっぱり21 Savage好きなんだろうなって感じがある。
WooRock:そうですよね。基本21 SavageとTravis Scott、あとFutureとYoung Thug。今後はDon Toliverもそこに加わるような気がします。「Too Many Nights」とか、あれインストだけで聴いたら歌モノにできるビートじゃない(笑)。あれに乗せられるDon Toliverはヤバいです。「Around Me」も好きですね。Metro Boominはこのアルバム作る時、Don Toliverに「Dr. Dreの『2001』におけるNate Dogg役をやってほしい」と言ったらしいですよ。
アボかど:なるほど。あのラッパーともシンガーとも呼びづらい感じは確かにNate Doggっぽい。あとDon Toliverって曲も凝るよね。ギターソロ入れたりするし、声をエディットしたりディレイを強めにかけたりする。ああいう普通のヒップホップじゃないことをやろうとするところも含めて好きだな。
NY勢が多数参加した「Spider-Man: Across the Spider-Verse」
アボかど:Don Toliverって、2015年にシングル「Flicka Da Wrist」がヒットしたラッパーのChedda Da Connect周辺の人なんだよね。Don Toliverの初期作品には「Flicka Da Wrist」のプロデューサーのFred On Emも参加していたりする。ラップスタイルもBig MoeやChalie Boyみたいな感じだし、Travis Scott以上にテキサスのシーンど真ん中の人だと思う。
WooRock:Don Toliverは「Spider-Man: Across the Spider-Verse」のサントラにも何曲か参加していましたよね。あれも全部ヤバかった。
アボかど:最近のDon Toliverは絶好調だよね。ソロアルバム「Love Sick」も良かったけど、そういえばあのアルバムにはMetro Boominいなかったよね。もしかしたら今後タッグ作の予定があって、それ用に残しているのかもしれない。
WooRock:もう良すぎて終わるんじゃないですか?
アボかど:終わる(笑)。あと「Spider-Man: Across the Spider-Verse」サントラの話だと、いつもよりNYの人が多い印象があったな。A$AP Rockyも2曲で出てくるし、A Boogie Wit Da Hoodieもいるし、Nasまでいる。スパイダーマンの舞台がNYだからっていうのがあるのかもしれない。
WooRock:最後のNasのやつ熱かったですよね。ドラムとかブーンバップみたいな感じだけど、MIKE DEANとPrince85のシンセがめちゃくちゃ格好良い。
アボかど:Metro Boominなりにブーンバップやったみたいなビートだったよね。Hit-Boyがちょっと前に出したシングル「Slipping Into Darkness」で「Metro Boominがブーンバップやっているの一回も聴いたことない」ってディスっていたけど、それを気にしていたんじゃないかと思う(笑)。ビートもそうだし、わざわざHit-Boyと縁が深いNasを呼んでいるあたりも。意図が違ったとしても、見事なアンサーにはなっているよね。
WooRock:あと俺は3曲目のFutureとLil Uzi Vertの「All The Way Live」も好きでした。これJohan Lenoxいますね。
アボかど:この曲にはChris Townsendも参加しているけど、この人もBoominati Worldwide所属っぽい。Johan Lenoxはストリングスがモロだよね。
WooRock:ストリングスが入ってきたら、Johan LenoxかPeter Lee Johnsonのどっちかが関わっていますよね。これシンセじゃなくて生楽器なんですかね?
アボかど:恐らくそうだと思う。贅沢。あとフィリーのLil Uzi Vertもそうだけど、今回NYだけじゃなくて東海岸って括りでも結構色んな人いるよね。Coi Lerayもニュージャージーの人だし。
Metro BoominとFlying Lotusの共通点
アボかど:「Calling」のA Boogie Wit Da Hoodieも意外だったよね。相性も良かった。
WooRock:でもこの曲はSwae Leeが一番いいですね。
アボかど:Metro BoominってSwae Lee好きだよね。初めて一緒にやったのは多分Travis Scottの「Rodeo」に入っていた「Nightcrawler」だと思うんだけど、あれを聴いた時は驚いたな。俺は正直Rae Sremmurdの「No Flex Zone」がヒットしていた時は全然Swae Leeにピンと来ていなかったんだけど、「Nightcrawler」で完全にやられた。
WooRock:Swae Leeとは「NOT ALL HEROES WEAR CAPES」でも2曲で呼んでいますし、Big Seanとの「Double or Nothing」でも一緒にやっている。いいコンビですよね。
アボかど:そういえば「NOT ALL HEROES WEAR CAPES」にも参加していたWizkidが今回もいて、アフロビーツをやっているよね。Metro Boominのビートじゃないけど、EI8HTとOffsetの「Silk and Cologne (Spider-Verse Remix)」もその流れで聴ける曲だった。
WooRock:今回Metro Boominが関わっていないビートもありますよね。さっき話したHonorable C.N.O.T.E.とか。
アボかど:Boominati Worldwideもプロデューサーを中心に契約しているみたいだし、今後はプロデューサーのフックアップをやっていくのかもしれないね。
WooRock:それもありそうですよね。今後の話だと、やっぱり提供は減っていきそうな気がします。自分のアルバムと並行してコラボアルバムやサントラを作るみたいな活動が中心になるんじゃないですかね?
アボかど:映画好きなの伝わってくるし、サントラ仕事は増えそうだよね。ある意味トラップ版のFlying Lotusみたいなポジションになるかもしれない。Flying Lotusはたまにしか提供しないけど自分のアルバムは凄いし、レーベルからもいい人を送り出したりしている。あの感じだよね。
そういえばFlying Lotusも「Jazz The New Chater 6」のインタビューで「様々な細かいパーツを繋ぎ合わせて、そこから作品を作り上げるんだ」と話していたし、Metro Boominとはそういう意味でも似ていると思う。
WooRock:二人とも音をまとめる力が凄いプロデューサーですよね。
アボかど:Flying LotusはJ DillaやMadlibのフォロワー、Metro BoominはDrumma BoyやLex Lugerのフォロワーみたいなところから出発したのに共通点が出てくるのは面白いね。作風的には全然違うんだけど、ThundercatやSolangeとか一緒に作ったことのあるアーティストもいるし。案外これからFlying Lotusみたいに楽器を覚えたりする可能性もあるかもしれない。
Metro Boominは俺らにとってのヒーロー
アボかど:「Metro Boominは何が凄いのか?」と言うと、やっぱり成長を止めないところだよね。
WooRock:最近出たインタビューでも「新しいチャレンジが好き」だと言っていました。最初はみんなと同じようなビートを作っていたけど、常に色々なことを試して進化していますよね。Sonny DigitalやSouthside、TM88みたいな同時期に出てきた人たちも凄いんですけど、やっぱり成長という意味ではMetro Boominが一番。あと、今ってサンプリングやるとお金にならないって言うじゃないですか。それでもMetro Boominはサンプリングを使う。そういう文化的な火を消さないところも凄いと思います。
アボかど:スクリュー版を出したり、MPCを使ったりするのもそうだよね。Maestroがインタビューで「南部のサウンドはベースがヘヴィで808が鳴っているもの。でも、これは遡ればRick RubinやRussell Simmonsが始めたものなんだ。だから今の南部のサウンドは、ラップの始まりの地である東海岸のサウンドが次のレベルに発展したものに過ぎない」と言っているんだけど、Metro Boominもそういう風にヒップホップの歴史が入った上で今のことをやっている感じがあると思う。
WooRock:伝統を大事にしている感じがありますよね。
アボかど:Nas呼ぶくらいだしね。あと初期はさておき、ある程度のところからはトレンドを変に追いすぎていないのもMetro Boominの良さだと思う。
WooRock:そうですよね。「HEROES & VILLAINS」では一応ジャージークラブっぽい曲もありましたけど、キックのパターンだけで全然違う。アフロビーツはやるけど、ドリルやレイジはやらない。トレンドを意識しすぎず、自分の表現したいことを突き通す感じが凄いと思います。そこにMetro Boominのヒップホップマナーを感じますね。
アボかど:SolangeやColdplayとも曲も作っているけど、自分のアルバムはあくまでもヒップホップだしね。アフロビーツをやっても、必ずヒップホップ畑のラッパーも呼ぶし。あとヒップホップ/R&Bが初めてアメリカで一番売れている音楽ジャンルになったのは2017年のことだけど、この時期ってちょうどMetro Boominが超ハードに頑張っていた時期と重なるから、Metro Boominがヒップホップをその立ち位置に導いた部分もあると思う。もちろんMetro Boominだけの功績じゃないけどさ。
WooRock:Coachellaの時もヒット曲連発でしたもんね。それにしても、ラップをしないプロデューサーでここまでの偉業を成し遂げたのって多分初めてじゃないですか? Kanye WestもDr. DreもPharrell Williamsも、みんなラップをしていたから存在感が強かったところあるじゃないですか。でもMetro Boominはそうじゃない。
アボかど:Coachellaの時もDJと煽りだけだったよね。しかも、それだけで超格好良いという。
WooRock:Metro Boominを見ていると、マインド次第でどこまでも行けるんだって思いますね。まさに俺らにとっての「ヒーロー」です。
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