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南部のオーガニックなヒップホップの系譜

カルチャー誌「Rolling Stone Japan」2022年5月号のRobert Glasper特集にて、最新アルバム「Black Radio III」の客演アーティストの紹介を書きました。

3月25日発売です。特集では音楽評論家の柳樂光隆さんによるRobert Glasperのロングインタビューや人物相関図、東京を拠点に活動するバンドのWONKがRobert Glasperの魅力を語るインタビューなどが収録されています。

「Black Radio III」の先行シングルとなった「Black Superhero」には、Big K.R.I.T.Killer Mikeという南部のラッパー二人が参加しています。Big K.R.I.T.は2017年のアルバム「4eva Is A Mighty Long Time」収録の「The Light」でRobert Glasperを迎えており、今回で二回目の共演です。また、それ以前から生演奏を多く導入してきました。

Killer Mikeは近年ではRun The Jewelsでの活動で知られていますが、誌面でも書いた通り元々はOutkast周辺から登場したラッパーです。2003年にリリースしたアルバム「Monster」ではMr. DJAndre 3000が制作したソウルフルなビートに乗っていますが、ここでも生演奏は使われていました。

南部といえばクランクやバウンス、トラップなどに代表される打ち込みでクラブを揺らすようなビートが盛んな地域です。しかしその一方で、Big K.R.I.T.やKiller Mikeのように生演奏も導入したオーガニックなスタイルもしっかりと根付いています。そこで今回は、こういった南部のオーガニックなヒップホップの系譜を振り返ります。プレイリストも制作したので、あわせて是非。


UGKやScarfaceの活動とGファンクの影響を受けたテキサス

サンプリングによるビートメイクが盛んだったNYなどと違う、生演奏を多く導入したスタイルは1990年代初頭から南部の各地で生まれていました。Robert Glasperの出身地、テキサスではBun BPimp CによるデュオのUGKが1980年代後半から活動。1992年には初のEP「The Southern Way」をリリースし、「カントリー・ラップ」と呼ばれる生演奏を盛り込んだソウルフルなスタイルを提示しました。

UGKのプロダクション面を担うPimp Cは、トランペット奏者だった父の影響で幼い頃から音楽に親しみ、複数の楽器を習得した人物です。このエピソードが語られたScratch誌のインタビューでは、義父からヒップホップについて「あんなものはただのノイズだ。音楽を入れたらマシになるかもしれない。お前はできるはずだ」と言われたことをきっかけに生演奏をビートに取り入れたというエピソードも話しています。

生演奏の導入は、ベイのToo $hortや西海岸のDr. Dreも以前から行っており、Pimp Cが元祖というわけではありません。その点についてはPimp C本人も同インタビューで話しています。しかし、チャーチでも演奏していたPimp CのアーシーなサウンドはUGKの個性を確立。そしてそのスタイルはテキサスはもちろん、南部ヒップホップ全体に影響を与えていきました。

また、この頃のテキサス勢ではScarfaceも重要な人物です。UGKと同じく1980年代後半から活動するScarfaceは、グループのGeto Boysでの活動などを経て1991年のアルバム「Mr. Scarface Is Back」でソロデビュー。この頃はまだブーンバップ要素の強いNY的なサウンドでしたが、1993年の2ndアルバム「The World Is Yours」などでは生演奏を取り入れた南部スタイルを聴かせています。

Scarfaceの周辺からは、リラックスしたファンクを聴かせるDevin The Dudeも登場。そのほかDJ ScrewがミックスにDr. Dreなど生演奏を使ったGファンクを好んで収録し、その周辺コレクティヴのScrewed Up Clickの曲でもメンバーのLil Kekeによる1997年作「Don't Mess Wit Texas」収録の「It's Going Down」のように生演奏を導入する例がありました。こういった取り組みにより、1990年代のテキサスでは生演奏も導入したファンキーなサウンドが根付いていきました。


ブラック・ミュージックの聖地、メンフィスでの生演奏の導入

Robert Glasperの音楽性はブラック・ミュージックの過去との繋がりを感じさせるものですが、そんなブラック・ミュージック史において重要な地の一つとして挙げられるのがメンフィスです。メンフィスはMemphis Minneなどブルースの偉人を多く送り出し、Staxのようなソウルの名門レーベルもありました。NPRが行ったメンフィス出身のラップデュオの8Ball & MJGのインタビューによると、メンフィスには昔のバンドメンバーの子どもが多く「2、3人おきに歌や楽器が上手い人がいた」といいます。

そしてその8Ball & MJGは、初期からブルージーでソウルフルなスタイルを聴かせてきたパイオニアの一組です。同インタビューでは、8Ball & MJGが駆け出しの頃にブルースのイベントをやっていたクラブで活動していたエピソードが語られています。1993年の1stアルバム「Comin' Out Hard」でデビューした8Ball & MJGはUGKらと共に後進からの尊敬を集め、後にBig K.R.I.T.とも共演しています。

8Ball & MJGと並ぶメンフィスのパイオニアとしては、ラップグループのThree 6 Mafiaが挙げられます。ホラー映画から影響を受けたダークな音楽性で知られる同グループですが、1995年にリリースした1stアルバム「Mystic Stylez」にも「Long Nite」「All Or Nothin'」のようなソウルフルな曲が収録されています。メンバーのDJ Paulがキーボードを弾いた曲もあり、そのおどろおどろしいイメージの陰で生演奏を導入してきました。また、Three 6 MafiaのDJ Paul & Juicy JがプロデュースしたKingpin Skinny Pimpの1996年作「King of da Playaz Ball」では、より西海岸G的な要素が強い曲にも挑んでいます。

同作収録の「Midnight Hoes」「Pimpin' and Hoin'」でキーボードを弾いているPlaya Gは、メンフィスの隣・ナッシュビル出身のラッパーです。1996年にリリースしたソロ作「Pimp Shit」はその鍵盤が冴え渡った名作で、多くの南部ヒップホップファンを虜にしてきました。Three 6 Mafiaほど目立ちませんが、初期メンフィスのヒップホップをナッシュビルから支えた偉大な人物の一人です。

メンフィスではそのほか、Al KaponeTelaなどもソウルフルな路線に挑戦。生演奏も巧みに取り入れつつ、南部ならではのサウンドを作り上げていきました。


アトランタのDungeon Familyの活躍

Killer Mikeを輩出したアトランタでは、ラッパーのSpeechが率いるグループのArrested Developmentが1990年代初頭から生演奏を取り入れていました。同グループが1992年にリリースした1stアルバム「3 Years, 5 Months and 2 Days in the Life Of...」では、サンプリングを用いつつも生のギターやサックスなども取り入れたソウルフルな作風を披露。各種メディアでも高い評価を集めました。

しかし、Arrested Developmentはその功績に反して後進からの言及があまり見られないグループです。アトランタでの生演奏の導入は、その後に登場したOutkastと仲間たち、Dungeon Familyが重要な役割を担いました。

Dungeon Familyの中心となっていたのは、プロデューサーグループのOrganized Noizeです。ソウルシンガーとしての顔も持つSleepy Brownを擁する同グループは、ソウルやファンクに根差した生演奏のグルーヴをヒップホップに落とし込むスタイルを早くから行っていました。Dungeon Family所属ラップグループのParental Advisoryが1993年にリリースしたアルバム「Ghetto Street Funk」などでその手捌きを見せつけ、同年にリリースされたOutkastの重要曲「Player's Ball」をプロデュース。翌年にリリースされたOutkastのアルバム「Southernplayalisticadillacmuzik」もヒットし、以降もGoodie Mobなどが登場し高い評価を集めました。

Outkastは1996年にリリースされた2ndアルバム「ATLiens」からセルフプロデュースも始めますが、その作風もやはりOrganized Noizeの流れを汲んだ生演奏を用いたものでした。1998年の3rdアルバム「Aquemini」では、Robert Glasperとも縁があるErykah Baduもフィーチャー。Pファンクの大御所、George Clintonも迎えてヒップホップとほかのブラック・ミュージックを接続するような試みに挑んでいました。Dungeon Familyはそのファンクネスに満ちたスタイルで南部ヒップホップの先駆者となり、後進のラッパーに大きな影響を与えていきました。


ジャズ発祥の地、ルイジアナでの生演奏

ジャズ発祥の地、ルイジアナでも生演奏を取り入れる動きが初期から見られました。人気レーベルのCash MoneyのハウスプロデューサーだったMannie Freshは、キーボードやベースといった様々な楽器を操るマルチミュージシャンとしての側面も持っていました。1990年代のCash Money作品といえばJuvenileの名曲「Back That Azz Up」などバウンス路線が目立ちますが、アルバムに収録されたメロウな曲では生演奏を取り入れた(と思しき)曲も多く発見できます。B.G.が1999年にリリースしたヒットアルバム「Chopper City in the Ghetto」収録の「Cash Money Roll」は、終盤にはセッションのような楽器を活かした展開も登場する隠れ名曲です。

Cash Moneyと並んでルイジアナを代表するレーベル、No Limitも生演奏を取り入れていました。オーナーのMaster Pは元々ベイで活動していたこともあり、Too $hortなどの系譜に連なるGファンク的な路線にもたびたび挑んでいました。ルイジアナに戻ってからも、Mo B. Dickらによる生演奏を導入。UGKとも絡みつつ、南部マナーのファンキーなスタイルを聴かせました。

そのMaster Pが1997年にリリースしたシングル「I Miss My Homies」でギターを弾いていた、Happy Perezも重要な人物です。以前こちらの記事でまとめています。

この記事でも書いた通り、Happy Perezは元々ギタリストとしてキャリアをスタートしました。そしてPimp Cなどの影響を受けてビートメイクを始め、C-Loc率いるConcentration Campのメンバーとしてプロデューサーとしての活動を本格化。Young Bleedなどの作品で生演奏も取り入れたファンキーなビートを提供していきました。

Cash MoneyとNo Limitは、1990年代後半から本格的にブレイク。バウンスビートをメインストリームに届け、Outkastらと共に南部ヒップホップの時代を作っていきました。そして2000年代に入ると、これら先人の取り組みを継いだ新たな世代が登場。南部のオーガニックなヒップホップを繋いでいきました。


David Bannerの登場とアトランタ勢の影響

Big K.R.I.T.の故郷、ミシシッピでもオーガニックなヒップホップの先人がいました。David BannerKamikazeによるデュオ、Crooked Lettazです。1999年のアルバム「Grey Skies」にはPimp Cも参加し、UGKの影響を感じさせる南部マナーのサウンドを聴かせました。

David Bannerはその後ソロ活動に移行し、2000年には1stアルバム「Them Firewater Boyz, Vol. 1」をリリース。同作にはテキサスのPimp CやDevin The Dude、ルイジアナのYoung Bleed、メンフィスのTelaの作品に参加していたJazze Pha、Dungeon Family周辺から登場したアトランタのPolow(Da Don)と先述した名前やその周辺アーティストを多く迎えていました。

2003年のシングル「Rubber Band Man」でそのDavid Bannerをプロデュースに迎えていた、アトランタのT.I.もソウルフルなビートを好んで使っていました。Parental AdvisoryのKPがフックアップしてシーンに登場したT.I.は、2001年に1stアルバム「I'm Serious」をリリース。Jay-Zの影響を感じさせるNY的なスタイルを取り入れつつ、「Ghetto Street Funk」にも参加していたDJ Toompも迎えてDungeon Familyの系譜を新たな形でシーンに届けました。2003年には先述した「Rubber Band Man」を含むアルバム「Trap Muzik」をリリース。前作の延長線上のスタイルで人気を拡大し、「トラップ・ミュージック」全米進出の一歩を踏み出しました。

T.I.は人脈的にはDungeon Familyと近かったラッパーですが、そのDungeon Familyもシーンに登場した後にメンバーを増やしていました。その中の一人がKiller Mikeです。2000年のOutkastのアルバム「Stankonia」収録の「Snappin' & Trappin'」でその声を聴かせたKiller Mikeは、2003年には先述した1stアルバム「Monster」をリリース。時流のクランクなども少し取り入れつつ、Dungeon Family印のソウルフルなスタイルで高い評価を集めました。

2000年代前半にはそのほか、Arrested Developmentからの影響を語っていたケンタッキーのNappy Rootsなどが登場。1990年代の南部勢の要素を継承したスタイルを聴かせてきました。しかしその一方、南部でもNY的なブーンバップ系譜のスタイルを追求するアーティストも多く活動してきました。


K-Otix周辺やJustus Leagueらによる南部のブーンバップ

1990年代のテキサスではUGKやScarface、Screwed Up Clickといったアーティストの陰でラップグループのK-Otixがブーンバップ作品を制作していました。そんなK-Otixの周辺から登場したラップグループのExampleは、2001年にアルバム「Progressions: The Austin St. Suites」をリリース。ラストを飾る「Jamo Meets I.E.」では、ジャズピアニストのJason Moranを迎えていました。また、ExampleのメンバーだったKayはRobert GlasperやChris DaveLuke AustinらとヒップホップバンドのThe Foundationを結成。ヒップホップとジャズのクロスオーバーをさらに進めていきました。

しかし、こういった試みがUGKやScrewed Up Clickの文脈と切り離されているかというとそうではありません。「Progressions: The Austin St. Suites」収録の「Southern Rap Phenomenon」にはBun Bが客演しており、Chris DaveとLuke AustinもScrewed Up Click周辺で活躍するR&BシンガーのBilly Cookが2000年にリリースしたアルバム「Certified Platinum」にプロデューサーとして参加しています。やはり同じテキサス勢なのです。

また、南部産ブーンバップといえばノースカロライナのコレクティヴ、Justus Leagueが挙げられます。ラップグループのLittle BrotherKhrysisなど多彩な面々が揃っていた同コレクティヴからは、プロデューサーの9th WonderがJay-Zなどを手掛けて2000年代前半にブレイク。NYなどほかのエリアのものとは一味違う、芳醇なソウル感覚が光るブーンバップで注目を集めました。そしてLittle BrotherのメンバーのPhonteは、複数の楽器を操るオランダのプロデューサーのNicolayとユニットのThe Foreign Exchangeを結成。2004年にアルバム「Connected」をリリースし、高い評価を獲得しました。

Justus League周辺は、ブーンバップ界の期待の新人として人気を拡大していきました。K-Otixとも交流のあるテキサスのStrange Fruit Projectが2006年にリリースしたアルバム「The Healing」にも、Chris DaveやErykah Baduと共にLittle Brotherや9th Wonderが参加。共に南部のブーンバップを追求していきました。また、そのほか南部では以前こちらの記事で書いた通り、フロリダでもBotanica Del Jibaro周辺などがブーンバップに挑んでいました。

ブーンバップはノースカロライナ以外の南部において主流のスタイルではありませんでしたが、その試みは後進に受け継がれていきます。そして、その試みはRobert Glasperとのコラボレーターにも繋がっていきます。


テキサス新世代の活躍と頂点に立ったUGK

Mike Jonesの名曲「Still Tippin'」のヒットなどにより、2000年代半ば頃からテキサスの新進ラッパーたちが快進撃を進めていきました。クラシックのようなストリングスをバウンスビートに巧みに落とし込んだ同曲を手掛けたのはSalih Williams。Screwed Up ClickのBig Moeが2000年に発表したヒット曲「Barre Baby」をプロデュースした人物です。

Salih Williamsは音楽一家で育ち、兄弟と共にSixx AMというソウルバンドで活動していたことが兄弟のTomar Williamsのインタビューで語られています。そしてその後ヒップホップのプロデューサーとしての活動を始め、先述した「Barre Baby」などを制作。そして「Still Tippin'」のヒット以降、Paul Wall「Sittin' Sidewayz」Chingo Bling「Like This N Like That」などの名曲を次々とプロデュースし、テキサス勢の快進撃を支えました。トランシーなシンセを鳴らしたビートも作っていましたが、その手腕はミュージシャンとしての経験に裏打ちされたものでした。「Sittin' Sidewayz」のようなファンキーな曲では特にそれを強く感じることができます。

そんな新進ラッパーの快進撃により、ベテランのUGKやScarfaceも勢いを増していきました。特にBun Bは相方・Pimp Cが2002年に収監されたことを機に客演活動に注力し、ありとあらゆるラッパーの作品に参加。相方が不在の間にUGKの評価を高めていきました。そして2006年にPimp Cが出所し、2007年に満を持してUGKとしてのアルバム「Underground Kingz」をリリース。多少トレンドを取り入れた曲もありましたが、そのソウルフルでブルージーなスタイルをチャートのトップに持って行きました。

しかし、同年にPimp Cは惜しくも死去。多くのヒップホップファンがその死を悼み、NYのQ-Tipも2008年のアルバム「The Renaissance」収録の「Life is Better」で「R.I.P. Pimp C」とラップしました。なお、同曲でキーボードを担当したのはRobert Glasperです。

2000年代のUGKの活躍は、後進の多くのラッパーに影響を与えました。周辺からもプロデューサー兼ラッパーのCory Moが登場。生演奏を取り入れたカントリー・ラップを継承し、次代に繋いでいきました。


アラバマの新型カントリー・ラップとアトランタのDJ Burn One

「Undergroud Kingz」以降、ラップマニアの間でカントリー・ラップの人気が高まっていきました。そしてその流れに乗って一部で大きな人気を獲得したのが、アラバマのラップデュオのG-Sideです。

G-Sideは同郷のプロデューサーチーム、Block Beattazのプロデュースで2008年にアルバム「Starshipz & Rocketz」をリリース。エレクトロニックなシンセも用いてスペイシーな要素をカントリー・ラップに注入した、アラバマ流のスタイルを提示しました。こういった作風はBlock Beattazのシグネチャー・サウンドで、ほかにも同郷のアジア系ラッパーのJackie Chainが2008年にリリースしたシングル「Rollin'」などでも同タイプのビートを聴くことができます。そのほかラップグループのPaper Route Gangstazなども注目を集め、アラバマの新型カントリー・ラップは多くのラップマニアを虜にしていきました。そしてそれはDiploにも届き、Paper Route Gangstazは2008年にDiploと組んだミックステープ「Diplo & Benzi Present: Fear & Loathing in Hunts Vegas」を発表。DiploもBlock Beattazのマナーを意識したようなビートを聴かせ、アラバマのヒップホップを多くのリスナーに届けました。さらに、アラバマからは高速ラップを得意とするラッパーのYelawolfが登場。2010年に発表したミックステープ「Trunk Muzik」が話題を集め、メインストリームにも進出していきました。

そして、その「Trunk Muzik」のホストを務めていたアトランタのDJ、DJ Burn Oneは2010年頃からプロデューサーとしての活動を開始。初期はサンプリング中心でしたが、後にミュージシャンのGo! Ricky Go!Walt Liveと共に制作チームを結成して生演奏の導入を進めていきました。HipHopDXの取材では、DJ Burn Oneが影響を受けたアーティストとしてOrganized NoizeやPimp Cのほか、Thee 6 MafiaやPlaya Gの名前も挙げています。その南部のエッセンスを煮詰めたカントリー・ラップは高い評価を集めていきました。

アラバマ勢とDJ Burn Oneはじわじわと人気を拡大していき、A$AP RockyStalleyなどの作品にも参加。同時期に盛り上がっていたクラウドラップと共に、カントリー・ラップで2010年代前半のシーンを彩りました。


Big K.R.I.T.の登場とJustus Leagueによる生演奏の導入

Block BeattazやDJ Burn Oneが人気を拡大していった2010年代前半には、ミシシッピからBig K.R.I.T.も登場しました。Big K.R.I.T.はカントリー・ラップ全盛期の2010年にミックステープ「K.R.I.T. Wuz Here」を発表。Pimp Cを思わせるラップと歌、ソウルフルなプロダクションで人気を集めました。同作でブレイクを掴んだBig K.R.I.T.は、David Bannerも迎えた2011年のミックステープ「Return of 4Eva」も続けて高い評価を獲得しました。

そして、ヒップホップバンドのThe Rootsのシングル「Make My」への客演を経て発表した2012年のミックステープ「4eva N a Day」では生演奏も導入しました。同年のメジャーデビューアルバム「Live from the Underground」ではさらにそれを推し進め、Keyon HarroldB.B. Kingなどの演奏をフィーチャー。客演にも8Ball & MJGやBun Bらを招き、南部のオーガニックなヒップホップの正統後継者としての自身の姿をはっきりと示しました。

初期のBig K.R.I.T.は(ソウルネタの時の)Three 6 Mafiaを思わせるサンプリング主体の作風だったこともあり、ブレイク後にはLittle BrotherのPhonteなどブーンバップ方面への客演もいくつかこなしていました。そして、そのPhonteとBig K.R.I.T.の共演曲「The Life of Kings」を手掛けていた9th Wonderは、「K.R.I.T. Wuz Here」と同年に同じミシシッピのDavid Bannerとのタッグ作「Death of a Pop Star」をリリースしていました。

9th Wonderはサンプリングベースで知られるプロデューサーですが、同作は生演奏を多く導入した作品です。David Bannerもキーボードを弾いており、そのほかにもE. JonesWarryn Campbellなどがミュージシャンとして参加しています。この頃の9th Wonderは生演奏を積極的に導入しており、2011年にリリースしたソロアルバム「The Wonder Years」では、西海岸のTerrace Martinを数曲でフィーチャーしています。また、Phonteの周辺にもキーボード奏者のZo!などが集まり、これまで以上に生演奏を積極的に取り入れるようになっていきました。こういったJustus League周辺による生演奏の導入は、同郷のJ. Coleにも受け継がれていきます。

Big K.R.I.T.はその後、2013年のミックステープ「King Remembered in Time」収録の「Life Is A Gamble」で9th Wonderと再びタッグを組みました。そして2014年のアルバム「Cadillactica」ではTerrace Martinとも共演。Robert Glapser周辺人脈との交流が徐々に増えていきました。


南部のオーガニックなヒップホップの現在

そして2017年、先述した通りBig K.R.I.T.はアルバム「4eva Is a Mighty Long Time」収録の「The Light」でRobert Glasperとの共演を果たしました。同作にはこれまでにも共演経験のあるTerrace MartinやKeyon Harroldらも参加。ヒップホップ畑のプロデューサーもMannie FreshやOrganized Noize、Cory Mo…と南部のオーガニックなヒップホップのオールスターが集結しています。客演にもUGKやDungeon Familyの面々、さらにRobert Glasperとも縁の深いBilalJill Scottも参加。生演奏のヒップホップに関わる様々な文脈を取り入れるような人選で、傑作を手にしました。

また、Robert Glasperも2016年のアルバム「Everything's Beautiful」収録の「Violets」で9th Wonderをプロデューサーに迎えてPhonteをフィーチャー。Terrace MartinとJustin TysonChristian Scottと組んだスーパーグループのR+R=Nowの2018年作「Collagically Speaking」では、(南部出身ではありませんが)Block Beattazとのタッグで多くの名曲を生んだStalleyを「Reflect Reprice」に招いていました。

2019年のミックステープ「Fuck Yo Feelings」では「This Changes Everything」でフロリダのDenzel Curryをフィーチャー。2020年には9th Wonder(とKamasi WashingtonとTerrace Martin)も交えたプロジェクトのDinner Partyを結成し、以前からの交流を大きな形にしました。

UGKやDungeon Familyなどが始め、その後David BannerやCory Moなどが受け継ぎ、DJ Burn OneやBig K.R.I.T.などが現在に繋いだ南部のオーガニックなヒップホップ。近年でもそのほかJ. Coleやその周辺アーティストによる試み、Killer MikeとEl-Pが組んだRun The JewelsとKamasi Washingtonの共演、Travis Scottの2018年作「Astroworld」でのThundercatの参加…など、数多くのトピックがあります。

先日もDenzel Curryがアルバム「Melt My Eyez See Your Future」で、Robert GlasperやKarriem Rigginsなどを迎えていました。Big K.R.I.T.のソロ作「Digital Roses Don't Die」や、Bun BとCory Moのタッグ作「Mo Trill」もリリースされたばかりです。この文脈がどう発展していくのか、今後も要注目です。


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