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Three 6 Mafiaの2010年代

2010年代のThree 6 Mafiaの評価の上昇について書きました。記事に登場する曲を中心にしたプレイリストも制作したので、あわせて是非。



最も知られた無名から史上最高のヒップホップグループへ

ラッパー兼プロデューサーのDJ PaulとJuicy Jを中心に、Crunchy Black、Gangsta Boo、Koopsta Knicca、そしてDJ Paulの兄のLord Infamousの六人で構成されるメンフィスのヒップホップグループ、Three 6 Mafia。ホラー的な意匠を纏ったダークな雰囲気、遅めのBPMと手数の多いドラム、三連フロウを多用したラップなどが特徴のグループだ。「Most Known Unknown(最も知られた無名)」という自虐的なタイトルのアルバムをリリースしてから今年で16年が経ち、今では無名どころか「史上最高のヒップホップグループの一つ」と呼ばれるまでに大きな存在となった。Megan Thee StallionやDenzel Curryなど、その影響を語るアーティストも非常に多い。各種メディアのベストアルバム企画でThree 6 Mafiaの1stアルバム「Mystic Stylez」が選出されることも珍しくなくなってきた。
1990年代から活動するThree 6 Mafiaだが、現在のような評価を受けるようになったのは2010年代に入ってからのことだ。なぜ「最も知られた無名」だったThree 6 Mafiaがここまで大きな存在感を放つようになったのか。本稿ではThree 6 Mafiaの(元)メンバーの2010年代の歩みや、彼らを取り巻く状況の変化を辿り、「史上最高のヒップホップグループの一つ」になるまでの流れを整理していく。

Juicy Jのソロでの成功

まずは2010年に入った時点でのThree 6 Mafiaの状況から振り返る。2000年代を通してメンバーが少しずつ脱退していったThree 6 Mafiaは、2007年にはDJ PaulとJuicy Jの二人体制になっていた。2008年にリリースした現時点でのグループ最終作「Last 2 Walk」はエレクトロポップ風味の「Lolli Lolli」やロックバンドのGood Charlotteとの共演曲「My Own Way」など、メインストリームに歩み寄ったような作風(とCrunchy Blackの脱退によるラップ面の弱体化)で賛否が大きく分かれる結果となった。しかし2009年にリリースしたDJ Paulのソロ作「Skale-A-Ton」、Juicy Jのソロ作「Hustle Till I Die」では従来路線の延長線上にあるような作風を多く披露。特に「Hustle Till I Die」は当時勢いに乗っていたGucci Maneをフィーチャーした「30 Inches」が話題を集め、高い評価を獲得した。Lord Infamousとの再合体も多く収録した「Skale-A-Ton」もファンには人気だったが、「Hustle Till I Die」と比べると少し差が生まれてしまった。
Juicy Jの兄でThree 6 Mafiaの準メンバー的なラッパーのProject Patも、Gucci Mane周辺アーティストとの共演を「30 Inches」以前の2009年頃から重ねていた。そして、この兄弟とGucci Mane周辺の接近は、Waka Flocka Flame作品などで知られるプロデューサーのLex LugerとJuicy Jのタッグによる2010年のミックステープ「Rubba Band Business」に繋った。Gucci Maneはもちろん、Rick RossやNicki Minajといった人気ラッパーもフィーチャーした同作は大きな話題を呼び、Juicy Jのソロとしての人気をさらに高めた。Juicy JとProject Patの兄弟とNYのFrench Montanaが組んだミックステープ「Cocaine Mafia」も話題を集めたほか、同年のWiz Khalifaのヒットシングル「Black & Yellow」のリミックスにもJuicy Jは参加。そのままWiz Khalifa率いるレーベルのTaylor Gangと契約し、メインストリームの人気ラッパーとして存在感を強めていった。また、DJ Paulも2010年にミックステープ「To Kill Again: The Mixtape」を発表。メンフィスのベテランのDJ Zirkとの共演といったトピックはあったものの、Juicy Jほどの話題を集めることはなかった。
Juicy Jのサウンドは徐々にThree 6 Mafiaから離れ、よりメインストリームのトラップに接近していった。一方、時代のスタイルを取り入れつつもJuicy Jと比べてアンダーグラウンド志向も大切にしていたDJ Paul。二人の微妙な方向性の違いはこの後さらに顕著になり、Three 6 Mafiaは徐々に実質的な活動休止状態となっていった。

元メンバーのアンダーグラウンドでの活動と後進の登場

脱退した元メンバーたちもこの頃はアンダーグラウンドで静かに活動していた。Koopsta Kniccaは2010年にアルバム「A Murda 'N Room 8」をリリース。2000年代半ば頃にThree 6 Mafiaフォロワーとして登場したアトランタのJ-Green(現JGRXXN)をプロデューサーに迎え、直系のダークなサウンドで一部のコアなファンから人気を集めた。Lord Infamousもこの頃は活発に活動していた。自身のレーベルのBlack Rain Entertainmentからソロ作「Futuristic Bounty Hunter」などをリリースし、Koopsta KniccaやGangsta Booといった脱退組との共演も果たしていた。そして、Three 6 MafiaのレーベルのHypnotize Mindsから2010年にリリースされたLil Loco(現Locodunit。DJ Paulの甥)のミックステープ「Yellow Tape (Murder Scene)」には、Lord InfamousとKoopsta Kniccaが参加した。また、2011年にはShady Recordsに所属していたラッパーのYelawolfがアルバム「Radioactive」収録の「Throw It Up」でEminemと共にGangsta Booをフィーチャー。Gangsta Booはフックとヴァース一つを担当し、実力派ラッパーとして名を上げていたYelawolfとEminemにも負けない強烈な存在感を示した。
J-Greenだけではなく、2010年代初頭にはThree 6 Mafia影響下にあるアーティストが続々と登場していった。その筆頭は、フロリダのラッパー兼プロデューサーのSpaceGhostPurrpとその仲間たちのRaider Klanだ。
SpaceGhostPurrpが2011年に発表したミックステープ、「BLVCKLVND RVDIX 66.6 (1991)」はLil Bなどとの同時代性を備えつつ、Three 6 MafiaやDJ Screwなどの影響を感じさせる妖しい雰囲気の作品だった。また、そのローファイな音質とタイトルやアートワークに記載された「1990」や「1991」といった偽りの年により、まるで古い南部ヒップホップの再発もののような印象を生み出した。Denzel Curryの2011年のミックステープ「King Remembered Underground Tape 1991-1995」など、ほかのRaider Klan作品でも同様の試みが見られた。アートワークの骸骨やアーティスト名の「Ghost」といったホラー的な意匠もThree 6 Mafiaと比較され、これらの作品群により、初期のThree 6 Mafia作品が再注目される流れが生まれていった。また、2011年頃に頭角を現していったNYのラッパー、A$AP RockyもThree 6 Mafia周辺からの影響を感じさせるスタイルだった。メンフィスのヒップホップでよく使われていた三連フロウを巧みに取り入れたラップとダークなサウンドで、SpaceGhostPurrpと共にクラウド・ラップのムーブメントを大きく発展させた。
元メンバーたちのアンダーグラウンドでの活動と、Three 6 Mafia影響下にある後進の登場。これらの動きにDJ PaulとJuicy Jも反応し、Three 6 Mafiaを取り巻く環境はさらに変わっていった。

進む再評価とDa Mafia 6ixの結成

絶好調のJuicy Jは、2011年にTaylor Gang入り後初のミックステープ「Blue Dream & Lean」を発表した。Waka Flocka Flame「Hard in da Paint」やJay-Z & Kanye West「H•A•M」などヒット曲を放ち、売れっ子となっていたLex Lugerも引き続き多くの曲をプロデュース。さらにSpaceGhostPurppやA$AP Rockyといった旬のThree 6 Mafiaフォロワーも客演に迎える抜け目のなさで、これまで以上に大きな話題を呼んだ。2012年にはシングル「Bandz a Make Her Dance」もヒットし、2013年にはアルバム「Stay Trippy」をリリース。順調にメインストリームでのキャリアを重ねていった。一方、DJ PaulもJ-Greenとの交流を深め、2012年に彼との共作曲も含むアルバム「A Person of Interst」をリリース。ダブステップなどを取り入れた新しい試みにも挑戦した。Crunchy Blackは目立った活動が見られなかったが、ほかのメンバーも客演やミックステープの発表などで、そのラップの魅力を現代に繋いでいた。
旬の後進も精力的に活動していた。2012年にはSpaceGhostPurrpがデビューアルバム「Mysterious Phonk: Chronicles of SpaceGhostPurrp」をリリース。Three 6 Mafia影響下にあるそのスタイルをシーンにしっかりと見せつけた。A$AP Rockyも2013年にデビューアルバム「LONG.LIVE.A$AP」をリリース。冒頭を飾る表題曲では「And I take it out to Memphis so shout out to Triple Six」と、Three 6 Mafiaにシャウトアウトを送った。さらに、2013年にはアトランタのラップグループのMigosのシングル「Versace」がヒット。トラップビートに三連フロウで小気味良く乗った同曲以降、三連フロウは至る所で使用されるようになった。そして、そのフロウのオリジネイターとしてLord Infamousの名前が挙げられ、これまで以上にThree 6 Mafiaの過去作品への注目が集まっていった。
こうした流れに呼応するように、DJ Paulは1994年の「Volume 16: The Original Masters」を2013年に再発した。Gangsta BooもSpaceGhostPurrpやRaider KlanのAmber Londonなどとの共演も含むミックステープ「It’s Game Involved」を発表。さらにJuicy J以外の全メンバーが結集したグループのDa Mafia 6ixが始動し、同年にはミックステープ「6ix Commandments」を発表した。JGRXXN(この頃にはJ-Greenから改名)やSpaceGhostPurrp、Yelawolfといった各メンバーと縁のある後進アーティストも参加した同作は大きな話題を呼び、Three 6 Mafiaの存在感を強力に見せつけた。しかし、同作のリリース後すぐにLord Infamousが惜しくも死去。さらに2014年にはGangsta Booがグループを脱退し、Da Mafia 6ixの勢いは長くは続かなかった。
DJ Paulは2014年、DJ PaulとLord Infamousのタッグによる1993年作「Come With Me To Hell Part 1」を再発した。これらの再発の動きと後進の活躍に伴う再評価、Da Mafia 6ixでの活動など複数の角度からThree 6 Mafiaの評価は急速に上昇していった。

「Mystic Stylez」の評価の確立とDa Mafia 6ixのその後

2010年代前半は初期Three 6 Mafiaだけではなく、ブーンバップを継承したNYのPro EraやGファンクを新たなセンスで蘇らせたYGなどの活躍により、1990年代のヒップホップ全体にスポットライトが当たっていた。そしてThree 6 Mafiaの評価が上昇していった2014年、米メディアのComplexは「The Best Rap Albums of the ’90s」と題した1990年代のラップアルバムのベストアルバム記事を発表した。同記事では、Three 6 Mafiaが1995年にリリースした1stアルバム「Mystic Stylez」が75位にランクイン。SpaceGhostPurrpやA$AP Mob、三連フロウに言及して現代のシーンに与えた影響を示した。2015年の「Mystic Stylez」20周年はこのように再評価が進むタイミングで訪れ、20周年を記念したアニヴァーサリーエディションもレコードでリリース(リリース元はオリジナルと同じThree 6 MafiaのレーベルのProphet Entertainment!)。こうして同作は、現在のヒップホップに大きな影響を与えた金字塔としての地位を確立した。
2014年頃は本人たちのリアルタイムの活動も変わらず精力的だった。特に目立ったのが、Da Mafia 6ixを脱退したGangsta Booの動きだ。Gangsta BooはThree 6 Mafia周辺で活動していたラッパーのLa Chatとのアルバム「Witch」、テキサスのラッパー兼プロデューサーBeatKingとのミックステープ「Underground Cassettetape Music, Vol. 1」と二枚の作品を発表。さらに西海岸のエクスペリメンタル系ヒップホップグループのclipping.のアルバム「CLPPNG」収録の「Tonight」や、El-PとKiller Mikeのベテランが組んだユニットのRun The Jewelsのアルバム「Run The Jewels 2」収録の「Love Again (Akinyele Back)」に参加するなど、活動の幅を広げていった。
一方、Lord InfamousとGangsta Booを失ったDa Mafia 6ixは不調だった。2014年にはミックステープ「Hear Sum Evil」、Insane Crown Posseと合体したグループのThe Killjoy Clubでのアルバム「Reindeer Games」と二枚のリリースがあったものの前作ほどの評価は得られなかった。DJ Paulの2015年のミックステープ「Da Light Up, Da Poe Up」やアルバム「Master of Evil」などもあったが、勢いは失われていった。さらに、2015年にKoopsta Kniccaが惜しくも死去。以降、Da Mafia 6ixとしての活動は事実上の休止状態となってしまった。
こうしてThree 6 Mafiaを取り巻く状況が急激に変わっていった2010年代半ば。そして再評価や再発の効果なのか、この頃からThree 6 Mafiaの影響下にあるような音楽はこれまで以上に増加していく。

メインストリーム・アンダーグラウンド問わず浸透するThree 6 Mafiaの影響

2010年代半ばにはJGRXXNやSpaceGhostPurrpのようなアンダーグラウンド寄りのアーティストだけではなく、メインストリームでもThree 6 Mafiaフォロワーが活躍するようになっていった。筆頭はセントルイス出身のプロデューサー、Metro Boominだ。
Gucci Mane周辺から2010年代前半に登場したMetro Boominは、Young Thugと組んだMetro Thuggin’での2014年のシングル「The Blanguage」などが話題となり、Futureの2014年のミックステープ「Monster」でエグゼクティヴ・プロデュースを務めたことから本格的なブレイクを掴んだ。徐々にダークな作風を強く打ち出すようになっていったMetro Boominは、その影響源としてThree 6 Mafiaの名前を挙げていた。「Monster」の成功からFuture作品の常連プロデューサーとなり、2015年にはDrakeとFutureのタッグ作「What a Time to Be Alive」でもエグゼクティヴ・プロデュースを担当。メンフィスと縁がありThree 6 MafiaファンでもあるDrakeに合わせたような、Three 6 Mafia色の強いピアノを使ったダークなビートも何曲か披露した。Metro Boominやプロデューサーチームの808 Mafiaなどの活躍により、Three 6 Mafiaは三連フロウだけではなくビート面でもトラップの源流として語られることが多くなっていった(実際はThree 6 Mafiaだけではないが)。
アンダーグラウンドでも動きがあった。SpaceGhostPurrpとRaider Klanが取り組んでいたダークでローファイな音楽性は「フォンク」と呼ばれるスタイルに発展し、DJ SmokeyやMr. Siscoなどが登場し熱のあるシーンが形成されていった。2015年頃にRaider Klanは活動休止してしまったが、JGRXXNは新たなコレクティヴのSCHEMAPOSSEを結成。GHOSTEMANEやLil PeepといったThree 6 Mafia影響下にあるアーティストを地域にこだわらず招集していった。その中にはLocodunitとLord Infamousの息子のLil Infamousが組んだユニットのSeed of 6ixも在籍。Three 6 Mafiaのファン層を取り込み、アンダーグラウンドで人気を集めていった。また、彼らの多くはThree 6 Mafiaの音楽性を取り入れるだけではなく、楽曲も好んでサンプリングしていたことから、Three 6 Mafiaの過去作品に対する注目もさらに高まっていった。
また、2015年にはRaider KlanのDenzel Curryのシングル「Ultimate」がヒット。リミックスでJuicy Jも招いた同曲をきっかけに知名度が上昇し、そのThree 6 Mafia影響下にある音楽性がメインストリームにも進出していった。2016年には米メディアのXXL Magazineの名物企画「Freshmen Class」でDenzel Curryに加え、フォンクのシーンに接近していた時期もあるLil Uzi Vertが選出。同企画のサイファーでは三連フロウを彼らだけではなく多くのラッパーが披露し、Three 6 Mafiaから発展したものがメインストリームに広く浸透したことを示した。

Three 6 Mafiaの系譜がメインストリームの王道へ

2016年の「Freshmen Class」に選出されていたアトランタのラッパーの21 Savageは、その後同年にMetro Boominとのタッグ作「Savage Mode」をリリース。これまで以上にダークに振り切ったMetro Boominのビートと、21 Savageの冷徹なラップが抜群の相性を見せた同作は、Metro Boominのダークなイメージを一層強力なものにした。絶好調のMetro Boominは、Lil Uzi VertをフィーチャーしたMigosの2016年のシングル「Bad and Boujee」もプロデュース。同曲はMigosにとってもLil Uzi Vertにとっても記録的な大ヒットとなった。もちろんアップデートされているものの、ラップもビートもThree 6 Mafiaの系譜にある曲がここまで上り詰めたのは、時代の変化を象徴する出来事だった。
そして、2017年にはまた異なる方向からThree 6 Mafiaに光が当たった。A$AP Fergのシングル「Plain Jane」、G-Eazyのシングル「No Limit」のリリースだ。この二曲では、Juicy Jが1999年に発表した曲「Slob on My Knob」に似たフロウが使用されていた(「No Limit」のリミックスにはJuicy J本人も登場!)。この頃のJuicy JはVince Staplesのシングル「Big Fish」への参加や、$uicideboy$を起用したミックステープ「Highly Intoxicated」なども話題を集めており、勢いに乗っていた時期だ。そこに旬のフロウのオリジネイターという側面も加わり、その存在感はさらに大きなものになっていった。
また、活動休止したRaider Klanの周辺からも新たな才能が飛び出していった。SCHEMAPOSSEでも活動したLil Peepは、2016年に発表したミックステープ「Hellboy」が話題を集め急速に知名度を獲得していった。Lil Peepは初期はThree 6 Mafiaなどのメンフィスヒップホップフォロワーのような音楽性だったが、徐々にエモーショナルに歌い上げるフロウに舵を切り、サウンドもロック的なギターを用いたものを好むようになっていった。また、Raider Klanの本拠地のフロリダからはSmokepurppとLil Pumpがブレイク。彼らのサウンドはよりダーティな低音が目立つものだったが、その中にもダークなうわものが自然と溶け込んでおり、Raider Klan経由のThree 6 Mafiaの要素は感じられる。ほかにもRaider Klan周辺からはXXXTentacionとSki Mask The Slump Godも登場。その音楽性はエモーショナルでロック的な路線やブーンバップなど幅広いものだったが、Raider Klanから受け継いだダークな曲にもしっかりと取り組んでいた。XXXTentacionとLil Peepのエモーショナルなスタイルは「エモ・ラップ」と呼ばれ、大きなムーブメントに成長していった。しかし、これもかつてThree 6 Mafiaが生み出したGood Charlotteとの共演曲「My Own Way」の延長線上にあると捉えることもできるだろう。
先に成功していたA$AP Rockyはどちらかというとオルタナティヴなイメージが強いアーティストだったが、この頃のThree 6 Mafiaの系譜にあるアーティストはメインストリームの中心として受け入れられることも多かった。異端だったThree 6 Mafiaは、長い時間をかけて王道になったのだった。

地元メンフィスの動きと多様化する引用

こうしたフロリダやアトランタといった他エリアでの動きの陰で、Three 6 Mafiaの地元であるメンフィスのアンダーグラウンドでも新たな才能が育っていた。2017年にはラッパーのBlocBoy JBのシングル「Shoot」がヒット。続くシングル「Rover」も話題となり、Drakeのフックアップも受けて大きな注目を集めた。これらのシングルを手掛けたプロデューサーのTay Keithの作風は、シンプルなピアノループや手数の多いドラムを多用するもの。Three 6 Mafia以外の影響も強かったMetro BoominやSpaceGhostPurrpなどと比べ、Three 6 Mafiaからの影響がよりストレートに出ていた。Tay KeithとDrakeのコンビは2018年のBlocBoy JBのシングル「Look Alive」から始まり、同年にDrakeがリリースしたアルバム「Scorpion」にもTay Keith(とDJ Paul!)が参加。Travis Scottのアルバム「ASTROWORLD」収録のDrake客演曲「SICKO MODE」でも、Tay Keithがプロデューサーとしてクレジットされた。ビートが二回変わる「SICKO MODE」のTay Keithのタグが入る部分では、Drakeも「Slob on My Knob」風のフロウも披露。Three 6 Mafia由来の音楽性をはっきりと見せつけた。
2018年は、Three 6 Mafiaのダークではないビートにも注目が集まった。2018年の大きなムーブメントとなった「Who Run It Challenge」だ。これはThree 6 Mafiaの2000年のシングル「Who Run It」のビートでラップするムーブメントで、シカゴのラッパーのG Herboがラジオ番組で披露したフリースタイルから始まった。勇壮なホーンと手数の多いドラムが印象的な同曲のビートは2018年のヒップホップとも見事に合致しており、A$AP Rockyや21 Savageなど多くのラッパーがこのムーブメントに挑戦した。DJ PaulとJuicy J本人の(別々の)参加も話題を呼んだ。また、UKのアーティストのBlood Orangeがアルバム「Negro Swan」収録の「Chewing Gum」で、Three 6 Mafia周辺で活躍していたKingpin Skinny Pimpの「Looking for a Chewin’」のドラムとDJ Paulの声をサンプリング。A$AP RockyとProject Patを迎えてThree 6 Mafia周辺のムードを出しつつ、スリリングな原曲とは異なるメロウな方向性に仕上げて新たな魅力を引き出した。
2018年はそのほかにも、Rae SremmurdがThree 6 Mafiaの2005年のシングル「Side 2 Side」のリメイク的なシングル「Powerglide」をリリース。Juicy Jも参加した同曲は、DJ PaulとCrunchy Blackのコンビがヴァースを加えた非公式リミックスも誕生した。「Who Run It Challenge」と「Powerglide」の原曲は、これまで参照されることが多かった1990年代の曲ではなく2000年代の曲だ。また、「Chewing Gum」のようにThree 6 Mafia本隊ではない周辺アーティストの作品を参照する例もある。Three 6 Mafiaとその仲間たちが残した多くの作品の中から、いずれ「Mystic Stylez」のように再評価が進む作品も生まれてくるだろう。

Megan Thee Stallionの登場とThree 6 Mafiaの再結成

Three 6 Mafiaの影響やサンプリングがアンダーグラウンド以外でも見られるようになっていった2010年代後半。2018年頃には、またその系譜にスーパースターが誕生した。テキサス出身のラッパー、Megan Thee Stallionだ。2018年のEP「Tina Snow」頃から注目を集め始めたMegan Thee Stallionは、影響を受けたアーティストにThe Notorious B.I.G.やPimp Cなどのほか、Three 6 Mafiaの名前を挙げていた。「Tina Snow」収録の「Big Ole Freak」のヒットで勢いを付けたMegan Thee Stallionは、2019年にミックステープ「Fever」をリリース。同作ではThree 6 Mafiaネタを多く取り入れたほか、Juicy Jもプロデュースと客演で参加した。Juicy JとMegan Thee Stallionのコラボはその後も続き、2019年にはヒットシングル「Hot Girl Summer」を生み出した。
そのJuicy Jも2018年、ミックステープ「SHUTDAFUKUP」を発表。同作は$uicideboy$が多くのビートを担当し、Three 6 Mafiaからのセルフサンプリングも多く導入していた。また、Tay KeithやLil PeepといったほかのThree 6 Mafia影響下にあるアーティストも起用。現行シーンの中心に自身がいることを力強く示した。一方、DJ PaulもアルバムリリースやSeed of 6ixのサポートなど、アンダーグラウンドに根を張って精力的に活動。2019年のアルバム「Power, Pleasure & Painful Things」では、XXXTentacion周辺から登場したWifisfuneralとも共演した。Gangsta Booも2018年にBeatKingとの二枚目のタッグ作「Underground Cassettetape Music, Vol. 2」をリリース。Blood Orangeの2019年作「Angel’s Pulse」収録の「Gold Teeth」など印象的な客演も残していた。Crunchy Blackは目立つ動きはなかったものの、マイペースに活動を続けていた。また、亡くなったLord InfamousもT-Rockとの2019年のタッグ作「Project Meyhem」などがリリースされ、Koopsta KniccaのヴァースもM.C. Mackなどメンフィスのアンダーグラウンド作品で発表されていった。
2018年にはDJ PaulとJuicy Jの不仲が報じられたこともあったが、2019年にThree 6 Mafiaはついに再結成。アメリカ南部を中心にツアーを実施した。ツアーには存命のメンバーのほか、周辺ラッパーのLa ChatとLil Wyte、Project Patも参加。大成功を収め、2020年からは全米を回るツアーも計画された。全米ツアーは最終的には途中から延期になってしまったものの、一連の再結成のニュースは古くからのファンだけではなく10年間で増加した多くのファンを喜ばせた。複数の角度からThree 6 Mafiaにスポットライトが当たり、その評価が変わっていった2010年代の締めには相応しい出来事だった。

再評価の動きもリアルタイムの動きも要注目

メンバー個人での活動や再発の取り組み、後進の活躍などにより「史上最高のヒップホップグループの一つ」となったThree 6 Mafia。2010年代はグループとしての新作リリースはなかったが、2010年代のヒップホップを代表する存在と言えるだろう。しかし、その再評価はまだまだ途中だ。「Stay Fly」などで聴かせたソウルフルなネタ使いや、La ChatやLil Wyteといった周辺アーティストの作品など、再評価が進んでいない部分も多く残されている。2019年にはメンフィスのラッパーのDuke Deuceがシングル「Crunk Ain’t Dead」(DJ Paul & Juicy JがプロデュースしたProject Patの曲「If You Ain’t from My Hood」のメインのビートをそのまま使用!)で、Three 6 Mafiaが重要な役割を担ったサブジャンルのクランクを蘇らせたが、これからもまた違った角度からThree 6 Mafiaとその関連作に光が当たり、新たな魅力が再発見されていくだろう。
そんな中、2020年にはJuicy Jがメジャーを離れ、アンダーグラウンド路線に回帰したアルバム「The Hustle Continues」をリリース。また、Juicy Jは先述のDuke Deuce「Crunk Ain’t Dead」のリミックスにProject Patと共に参加するなど、相変わらずフォロワーと積極的に交流を持って自身をアップデートしている。また、Gangsta BooはRun The Jewelsのアルバム「RTJ4」に再び参加。収録曲「walking in the snow」で、Three 6 Mafiaマナーとは異なるビートを巧みに乗りこなした。そのほかにもDJ Paulが「Big Bizness」や「Sweet Robbery Pt 1」といった過去曲のMVを新たに制作するなど、2020年代に入ってからも様々なトピックがある。再結成したThree 6 Mafiaとメンバー個人のリアルタイムの動き、過去作品の再評価の動きは今後も要注目だ。


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