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本のはなし

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読書記録や、本をめぐるエッセイをまとめています。
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#日々のこと

運ばれるわたし

運ばれるわたし

読書が能動的な営みであるかと聞かれたら、わたしは「ノー」と答える。かといって、読み手は受け身に徹しているかというとそうでもない。

先月、『夜ふかしの本棚』という本を読んでいたら、朝井リョウさんが『雪沼とその周辺』(堀江敏幸)を紹介されている箇所にあたった。

そこには、好きだと感じた文章はその人を運んでくれるという意味のことが書かれていた。優しくも鋭い読書論が、心に残って仕方がない。

『夜ふか

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最近読んだ本たち(気ばかり走った12月分)

最近読んだ本たち(気ばかり走った12月分)

年が明けた。時が過ぎるのは早すぎるといつもぼやいている私は、年末が近づいた頃からへんに開き直ってしまっていた。「まあ、もうすぐ2024年になっちゃうよ。しゃーない」。そう思っていたので、年越しは落ち着いて迎えられた。よかった。

ただ、12月は忙しくて気が急いてしまい、あまり本が読めなかった。

『悲しみの秘儀』 若松英輔

悲しみにフォーカスしたエッセイ集。11月に義父を亡くして、ぼんやりとした

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最近読んだ本たち(バタバタ、でもまったりな9月分)

最近読んだ本たち(バタバタ、でもまったりな9月分)

なに、もう10月なの。やだこわい、なにそれ。

最近、そういうことばかり呟いている。だって、あと3ヶ月で今年が終わるなんて、どういうことなのか理解しがたい。理解したくない。

年始の抱負は立てない派の私でも、今年のお正月には「いい年にするぞ」なんて意気込んだ。

はたしていい年になっているのかどうか確信が持てないままに、10月。おそろしいことだと思う。月日って残酷だ。

『小津安二郎 老いの流儀』

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生きていく人たちの物語

生きていく人たちの物語

フォローさせていただいている菅野浩二(ライター&編集者)さんによる短編小説集『すべて失われる者たち』が出版された。

以前から、noteに執筆されていた短編小説たちを拝読していた。

重苦しい描写があれば胸がぎゅうっと縮こまるように感じるし、やりきれない心情を描いた場面ではため息が出てしまう。いい意味で心に波を立てる文体と表現にいつも「ああ、筆力ってこれなんだ」と思っていた。

今回出版された『す

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最近読んだ本たち(駆け抜けた8月分)

最近読んだ本たち(駆け抜けた8月分)

8月はあれこれ立てこんでいて、忙しかった。夏休みがあったので、娘たちの昼食をつくり、遊びにも参加し、もちろん仕事もした。

終えてみると、駆け抜けた感じ、達成感が大きい。一つの山を越えては「なんとかなるもんだ」と、息をつく。そんなことを繰り返して、ここまできた気がする。

『旅をする木』 星野道夫

写真家としてアラスカで暮らした、星野道夫のエッセイ集。

アラスカの州都・ジュノーや、オーロラの町

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最近読んだ本たち(見返り美人な7月分)

最近読んだ本たち(見返り美人な7月分)

7月はわりと有意義に過ごせた気がする。仕事も子育ても、勉強も。

「あんた、ちょっといいひと月だったでしょう」と振り返ってにやりと笑ういい女みたいな、そんな月。なかなかの見返り美人でいらっしゃった。

『欲望の見つけ方』 ルーク・バージス

発売当初から読みたかったのに、買おうとするたびに売り切れだった。やっと買えて、手もとにやってきてくれた。嬉しい。

「模倣の欲望」理論を提唱したルネ・ジラール

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女らしさについての雑感あれこれ

女らしさについての雑感あれこれ

ジェーン・スーさんと中野信子さんの『女らしさは誰のため?』を読んだ。

女性性やジェンダーについて論じる書籍は数あれど、これはカジュアルな対談形式で「女らしさ」を扱っているところがとても意義深いと思う。いまいち納得感を得られない項もあれば、「あー、それ! それよ!」とページに向かって叫びたくなる箇所もある。女子会に参加しているノリで「女らしさ」について考えられる。

とくに、社会から求められる「女

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小さい川さんから世界は開く

小さい川さんから世界は開く

双子の娘たち(5歳)が夢中になっている本、それは『長くつ下のピッピ』と『ルドルフとイッパイアッテナ』。

しばらく前に「もう絵本読んでくれなくていいからね!」と言われたものの、寝る前には少しくらい読み聞かせる。

次女は『長くつ下のピッピ』の主人公・ピッピのおてんばぶりに一目惚れ(一耳惚れ?)で、私がひとつの章を読み終えるまで決して眠りに落ちない。

どちらも小学生向けの本なので、文章のなかにちょ

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最近読んだ本たち(走り去った6月分)

最近読んだ本たち(走り去った6月分)

6月はいきなり台風による大雨に見舞われた、気がする。1か月も経つと記憶がおぼろげになるのが悲しい。

以前、5月は逃げていったと書いたけれど、6月は走りさっていった。手もとに一瞬たりともとどまらぬ時の流れ、どうにかならないものだろうか。

『出版翻訳家なんてなるんじゃなかった日記』 宮崎伸治

村井理子『本を読んだら散歩に行こう』のなかで紹介されていた一冊。もちろん私は出版翻訳家ではないけれど、読

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500円で手に入る、本まわりのしあわせ

500円で手に入る、本まわりのしあわせ

本を読むのが好きだ。

昨日までは片桐はいりさんの『わたしのマトカ』を読んでいた。各所で絶賛されていたので思わずぽちっとネット購入したのだけれど、噂に違わぬ素晴らしいエッセイ集だった。

映画撮影のためフィンランドで過ごした日々を綴ったもので、片桐さんならではのユーモアと茶目っ気が詰まっている。フィンランドに住む人々のあたたかな表情までも見えるように感じられる作品。

演技だけでなく、エッセイの才

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最近読んだ本(逃げていった5月分)

最近読んだ本(逃げていった5月分)

「2月は逃げる、3月は去る」なんていうけれど、4月も5月も、とんでもなく早足で逃げていった。もうゴールデンウィークがのっけからリズムを狂わせにかかっていたので、どんくさい私にはどうしようもない。

そんなこんなで、5月に読んだ本たち。

『むらさきのスカートの女』今村夏子

おもしろいのひと言。奇妙なスタートに心を持って行かれたと思ったら、そのままラストまで突っ走ってしまった。夜中の1時に読み終え

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