マガジンのカバー画像

本のはなし

22
読書記録や、本をめぐるエッセイをまとめています。
運営しているクリエイター

記事一覧

読んで、つなぐ

読んで、つなぐ

すっかり時間が経ってしまったけれど、7月はじめに堀江敏幸『雪沼とその周辺』を読み終えた。雪沼という小さな地方都市に住む人々の生活と、心の表情が描かれる短編小説集だ。

実は堀江敏幸さんの作品を読むのははじめてだ。その穏やかな筆致と美しい日本語をここちよく感じながら読み進め、ふと思った。

「雪沼って、実際にある地名なのかな」

自然現象の名を冠した地名は案外少ないらしいことを、昔、ある小説で知った

もっとみる
最近読んだ本たち(2024年6月分)

最近読んだ本たち(2024年6月分)

6月もあっという間に過ぎていったけれど、マイペースに読書できた。夜はだいたいソファに丸まって本を読むわたしのことを、家族は「ダンゴムシ化している」と言う。

わりと面倒くさいダンゴムシだと我ながら思う。どうせならかわいくておちゃめなダンゴムシになりたい。

『すべて真夜中の恋人たち』 川上未映子

本屋さんで一目惚れして購入した一冊。文庫版は、夜の静謐さを映した暗いブルーグレーに、光がちらつくよう

もっとみる
その気配を感じたから

その気配を感じたから

あるべきじゃないものがはさまっていた。

このあいだ、子どもの頃に大好きだったエッセイ集『まず微笑』を記事のなかで取り上げた。

三浦朱門、曽野綾子、遠藤周作の各氏によるこの本は、わたしが小学校の頃に繰り返し読んだ一冊だ。キリスト教系の小学校に通っていた当時、シスターに薦められて、母に買ってもらった(著者のお三方はカトリック信徒)。

「あのエッセイがまた読みたいなあ」、そう思ったのだけれどもう新

もっとみる
きらきらとうつうつと、めらめらと

きらきらとうつうつと、めらめらと

西加奈子さん『サラバ!』を読み終えた。わたしは読書記録のなかでできるだけネタバレをしないように心がけているが、これくらいは言ってもいいだろう。

この本は、一人の少年が成長していく過程を描いた、強烈な、そしてせつなくもまぶしい記録だ。なんと充実感のある作品だったことか、とまだぼんやりしている。

物語の中盤でわたしがいちばん心奪われたのは、主人公である歩くんが中学に入った頃の描写たちだ。学校生活が

もっとみる
最近読んだ本たち(2024年5月分)

最近読んだ本たち(2024年5月分)

2024年5月の5冊5月前半は落ち着いていて、本を読みつつゴールデンウィークを満喫できた。

後半は忙しかったので、読書はやや失速。毎月言っているけれど、「もっと読みたいなあ」と思った。

ひと月に50冊読みます! なんていう方はどんな暮らしをしていて、どんなふうに読んでいるのだろう。羨ましい……!!

『傲慢と善良』 辻村深月

ベストセラーになった小説をわたしがタイムリーに読めることは少ない。

もっとみる
運ばれるわたし

運ばれるわたし

読書が能動的な営みであるかと聞かれたら、わたしは「ノー」と答える。かといって、読み手は受け身に徹しているかというとそうでもない。

先月、『夜ふかしの本棚』という本を読んでいたら、朝井リョウさんが『雪沼とその周辺』(堀江敏幸)を紹介されている箇所にあたった。

そこには、好きだと感じた文章はその人を運んでくれるという意味のことが書かれていた。優しくも鋭い読書論が、心に残って仕方がない。

『夜ふか

もっとみる
読書のコスパ

読書のコスパ

小説を一冊、読み終えた。物語からテーマがはっきりと浮かび上がってくるような作品だった。だらだらとストーリーが続くのではなく、背景にある筆者の考えに手が届きそうな感覚があった。こういう作品に会えたとき、表現力ってすごいなあ、といつも感じる。

そんななか、思春期に出会った「わけわからん小説」たちを思い出す。

梶井基次郎の『檸檬』も謎だったし、カフカの『変身』も意味がわからなかった。わたしは思考が浅

もっとみる
最近読んだ本たち(2024年4月分)

最近読んだ本たち(2024年4月分)

4月は出会いの月とよく言われるけれど、ほんとうにそうで。いろいろな方面で新しいつながりができてよかったなー、としみじみしている。

月の前半は娘たちが春休み、または午前中授業ということで、限られた時間内で仕事に追われた。それでも、ちょっとは本を読む時間を確保できた。よし!

残るは「エクササイズをしたあと眠くなってしまう問題」だ。「筋トレしてから本読もうっと」などと思っていると、睡魔に襲われて読め

もっとみる
最近読んだ本たち(2024年2月3月分)

最近読んだ本たち(2024年2月3月分)

2月はのんびりするつもりが、結局なんだかんだであわただしく過ぎていった。とりあえず確定申告を無事終えられてほっ。

3月もあまり読めず(春休みだから?)。

1冊、どうにも合わなかった本があった。タイトル非公開のままレビューを書きたい。

『絶対悲観主義』 楠木建

2022年に読んだものを、もう一度読んだ。ちゃめっ気とユーモアが見え隠れする文章がとても好きだ。

「心配するな、きっとうまくいかな

もっとみる
最近読んだ本たち(2024年1月)

最近読んだ本たち(2024年1月)

1月は怒涛の月。なぜか毎年そうなる。いろいろな人が、新年の抱負とともにスタートダッシュを決める時期だからだろうか。とくに抱負を立てない意識低い系としては、ちょっと気おくれしてしまって、まごつく。そして、雑務がたまっていくのだ。

2024年1月の4冊『これが生活なのかしらん』 小原晩

これめっちゃおもしろいよ、と友人に貸し出していたのが、戻ってきたばかり。いや、おもしろいという表現は不適切かもし

もっとみる
最近読んだ本たち(気ばかり走った12月分)

最近読んだ本たち(気ばかり走った12月分)

年が明けた。時が過ぎるのは早すぎるといつもぼやいている私は、年末が近づいた頃からへんに開き直ってしまっていた。「まあ、もうすぐ2024年になっちゃうよ。しゃーない」。そう思っていたので、年越しは落ち着いて迎えられた。よかった。

ただ、12月は忙しくて気が急いてしまい、あまり本が読めなかった。

『悲しみの秘儀』 若松英輔

悲しみにフォーカスしたエッセイ集。11月に義父を亡くして、ぼんやりとした

もっとみる
最近読んだ本たち(ゆっくりさんな11月分)

最近読んだ本たち(ゆっくりさんな11月分)

時の流れは早いと毎月書いていて、自分で嫌になる。悲しいくらい同じことを書いている。けれど今月も書く。ほんと、早いよねえ。だって、11月もすごい勢いで過ぎていったから。

気持ちが上すべりする原因がたくさんあった。本を読んでいる場合じゃなかろう、との心の声もときどき響いた。それでも少しは読んだ。ときに読書は現実逃避のための手立てだ。そしてときに本は心を救う道具でもある。「いいなあ、本って」と思わされ

もっとみる
最近読んだ本たち(秋をかみしめた10月分)

最近読んだ本たち(秋をかみしめた10月分)

もう11月。こわい。

……最近、こういうことしか言っていない気がする。先月も「もう10月だなんておそろしい」と書いていた。こわいのは時の流れじゃなくて自分の脳内だということにやっと気づいた。今年もあと2ヶ月、後悔のないよう突っ走る所存である。

『書く仕事がしたい』 佐藤友美

「読んでなかったんかーい!」とツッコまれそう(誰に……?)な、ライター界隈では有名な一冊。平易な言葉が連なる親しみやす

もっとみる
最近読んだ本たち(バタバタ、でもまったりな9月分)

最近読んだ本たち(バタバタ、でもまったりな9月分)

なに、もう10月なの。やだこわい、なにそれ。

最近、そういうことばかり呟いている。だって、あと3ヶ月で今年が終わるなんて、どういうことなのか理解しがたい。理解したくない。

年始の抱負は立てない派の私でも、今年のお正月には「いい年にするぞ」なんて意気込んだ。

はたしていい年になっているのかどうか確信が持てないままに、10月。おそろしいことだと思う。月日って残酷だ。

『小津安二郎 老いの流儀』

もっとみる