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『大人の本音だだもれ。』3話 美人さんだけど期待ハズレで残念だ【Web小説】

第3話 仕事はできるけど…

 派遣スタッフの初出社日、ほかの社員はそわそわしている。来るのは女性と聞いているから、とくに男性社員は落ち着きなく、出入り口をちらちら見ている。

「みんな浮つきやがって。派遣だろ?
 正社員になれないくらいだから、スキルに問題アリだろう。
 それに容姿も――」

 現れた女性を見て独り言は止まった。グレーのパンツスーツを身にまとい、髪は後ろに束ねた真面目そうな格好。涼しげな表情でいて、初めての職場に怖気づくようすもなく落ち着いている。

 眼鏡めがねのフレームが印象的で、表はブラックだが裏はモスグリーンの縁取りだ。はじめは眼鏡に視線がいっていたけど、すぐに眼鏡の下にある顔に釘付けになった。

 長いまつげに大きな目をしていて端整な顔立ちに見とれた。彼女は聞き取りやすい声で挨拶をすると一礼した。

 見た目はまあまあ。いや、美人。だけど挨拶に不安を感じた。
 仕事をするには職場の人間とのコミュニケーションが大事だ。それなのに「汪花おうかです、よろしくお願いいたします」は短いだろう。コミュ力の低さが気になった。

 みんなへの紹介が終わると上司が席へ案内した。
 席は俺の隣だ。汪花さんの仕事は書類作成で、机にはノートパソコンとマウス、それに文房具類がすでに用意されている。

 席に着いたらさっそく上司が仕事を頼んできた。パソコンを起動させて汪花さんに操作してもらいながら説明しているけど、相変わらず説明がヘタクソで手際も悪い。

 話があちこち飛んで業務を知ってる俺でもわかりにくいから、彼女がきちんと理解できているのか不安になる。まあでも指導担当じゃないし、関係ないから自分の仕事に専念しよう。

 気がつけば上司は席に戻っていて汪花さんは作業に入っている。必要なデータや資料は上司が渡していたけど、キーをたたく音が聞こえないし、全然進んでいる気配がない。

 もしかしてワープロソフトが使えないのか? 

 さっきからパソコンにコピーしたデータと書類作成に使う資料を見ていて全然手が動いていない。業務手順を理解してなくて、何をしていいかわからずに手が止まっているんだろう。それなら上司の所へ聞きに行けよな。

 何も行動しないからイラつき、目障りになってきたので「わからなければ上司に質問して来たら?」と言おうとしたら資料を読むのをやめて、おもむろにパソコンに手を置いた。

 資料を見ながらタッチタイピングで入力し始め、ショートカットキーを巧みに使って軽快にマウスを動かしていく。

 マジかよ……。

 とまどうようすもなく作業を進めていく。パソコンが使えないかもと思っていたのにかなり慣れている。

 本当に初日なのか?
 なんなんだ、この集中力。

 前から会社ウチにいるみたいだ。派遣は使えない人が多いのに、この人はかなりスキルが高いんじゃないのか?

 俺が派遣初日の汪花さんに持った印象は「クールで仕事ができる人」だ。スキルが高く、しかも美人のスタッフが来たことで何か変わるかもと小さな期待を持った。


 ワイシャツに黒のパンツ、上にカーディガンを羽織るだけかよ。

 今日からオフィスカジュアルになったんだからスカートとかはいて、フリルのついたブラウスを着るとか、もっと女らしさをアピールすればいいのに。髪も黒いゴムで後ろに結ぶだけかよ。シュシュとかつければもっと映えるのに。つまんないな――。


 三日目を過ぎても挨拶だけかよ。

 もっと世間話をしてくるとかコミュニケーション取ればいいのに。ほかの社員とも話していないようだし、コミュ力がなさすぎて社会人として失格だな。まあ、しょせんは派遣。仕事だけはできるってやつか――。


 こうして俺の関心が失せたあと、彼女の歓迎会が行われた。

 歓迎会なんて面倒くさい。
 派遣スタッフにわざわざしなくてもいいんじゃないの?

 気が乗らなかった歓迎会は思ったとおり意味のない宴会になっている。汪花さんは同じ席に座っているだけだ。コミュニケーションを取るためにあるのに、自分から席を立ってお酒をぎに行ったり話しかけたりもしない。

 おまけに汪花さんが飲んでるのはウーロン茶だ。酒の席だからみんなに合わせてビールを飲むべきだろう。

 歓迎会もあった一週間で、俺が汪花さんに対して下した評価は「黙々と仕事をする真面目な派遣スタッフでパソコンスキルだけはある」だった。


 汪花さんに興味がなくなった俺に、また単調な生活が戻ってきた。

 朝、不快な満員電車に乗って出社し、変わらぬルーティンで仕事をこなす。仕事が終わったらまた電車に乗って家へ帰る。これまでと変わらない流れだ。でもビジネスパーソンには、たまに付き合いという仕事上の食事飲みが発生することがある。ある日、俺は得意先に飲みに誘われた。

「じゃあ、これから飲みに行きましょうか」

 来たよ……。
 営業に行くと高橋たかはしさんは必ず飲みに誘う。彼の会社には飲みに付き合ってくれる人がいないのかな?

 いい人なんだけど酔うとおしゃべりになって面倒くさい。でもこれも仕事だ。すぐに笑顔でOKした。

 急なことなので店の予約はしていない。だからネット検索して、近くにあった居酒屋に入った。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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