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『大人の本音だだもれ。』20話 誰でもギャップには弱い!?【Web小説】

第20話 オモテには出さないけど感動の嵐

 テーブルに置かれた小籠包しょうろんぽう汪花おうかがじっと見ている。隣で町家まちやが箸を伸ばして食べ始めたのを見てから声をかけた。

「町家さん、熱い?」
「そんなに熱くないわよ」

 安心した顔になって箸を取ると汪花も小籠包を食べ始めた。ところが彼女にはまだ熱かったようで、はふはふ言いながら食べている。

 格闘の末、やっとで一つ食べ終わると満面の笑みを浮かべた。目をキラキラさせてすぐに次へと移る。ふーふーと懸命に冷まして今度は慎重に口へ持っていく。食べることに夢中になっていて、顔にはうれしそうな笑みがこぼれている。

((( カワイイ!! )))

 汪花を見ていた町家・木庭こば十住とすみの三人は、声には出さなかったけど同時に叫んでいた。

 オフィスにいるときの汪花は仕事に集中しているので無表情だ。ほとんど表情を変えないクール系美人が子どものような表情になると破壊力がある。

 汪花は皿にあった分を食べ終えてしまうと、あからさまにガッカリした顔をして箸を置いた。町家はキュンとなり、持っていた小籠包を差し出して聞いてみた。

「汪花さん、よかったら食べる?」
「いいのっ!?」

「ええ。どうぞ」

 汪花はうれしそうに町家を向くと、口を開けてきた。突然のことに驚いたけど、無邪気な顔で待っている。町家はドキドキしながら小籠包を口へ運んだ。汪花は口にぎりぎり入った小籠包を満足げにほおばり始める。

 甘えモードの汪花さんってかわいすぎるっ。
 ヤバイ、興奮してきた。

 木庭は想定外の姿に下半身が反応して思わず目をそむけた。別のことを考えるようにして興奮を抑える。

 なんだよ、あの顔は! かわいすぎるっ!
 いつものクール顔がこんなに変わるのか!?

 十住は子ネコのツンデレと汪花が重なって、尊いと感動している。この奇跡がずっと続けと、脳内で拝みながら汪花の映像を記憶に焼き付けている。

 本当においしそうに食べる!
 見ているだけでほっこりするわ。
 それに感情が表情に出まくりでかわいすぎよおぉ――!
 無邪気な感じはまるで犬のスピッツだわ!

 あどけない汪花を見ていたら町家は実家にいる白くてフワフワとしたスピッツを思い出していた。一度思い浮かべると、犬好きの面が出てしまう。

「実家でスピッツを飼っているんだけど、なんか汪花さんに似ていて思い出しちゃった」
「スピッツ? 長毛の白い犬のこと?」

「えっ? 知っているの?」
「うんっ、犬は好きだから」

 動物の話は興味のない人からすれば面白くない話題だ。ところが汪花は目をキラキラとさせている。町家は自慢の愛犬を紹介したくなり、「写真を見る?」と聞くと、「ぜひ!」と言ってきたのでスマートフォンで撮った写真を見せた。

 写っているのはドッグランで走っているスピッツ。ほかにジャンプしている姿や変顔など、飼い主以外にはあまり魅力が伝わらないものばかりだ。

 それでも汪花は楽しそうに写真をスライドしていって、「ここはどこの公園のドッグラン?」「たくさん犬がくるの?」とか「なんでこんな変顔になってしまったの?」などと質問していた。

 アルコールでリラックスしている汪花はガードがゆるんでいる。子どもっぽさが出ていて、くだけた口調で話すようになっており、表情もゆるんで話すたびに楽しげな笑い声と笑顔がこぼれる。

 汪花さんって、こんなにかわいいんだ。
 表情がコロコロ変わって、目を輝かせて話す。
 楽しいことが伝わってきて、私までうれしくなる。
 もっと喜ばせてあげたいわ。

 職場の汪花は敬語なのでカチッとしているし、仕事中は集中力がすごくて人を寄せつけないクールさがただよっている。真面目な人というイメージが一変して、あどけない姿に町家はめろめろになっている。

 ギャップが! ギャップがあぁ――!!
 萌える! 萌えるうぅ――!!
 神サマ、ありがとうっ。

 おじさんでもギャップには弱い。十住はここ数年、感情が大きく動くようなことはなかった。でも今は推し活をしているかのように気分が高揚して充足感がある。

 だがさすが大人だ! 十住は表情には出さず、食事に集中しているように演じて心の中でもだえ叫んでいる。

 クールな美人バージョンと、無邪気でかわいいバージョン。
 どっちも素敵じゃないか!

 木庭は前にアタックして失敗したときに、汪花が勝気な性格だとわかった。そこに惹かれて落としてみせると宣言したけど、くわえて子どもっぽい部分も併せ持っていたことにさらに惹かれていく。

 初めて見た汪花の一面に釘付けになっていたけど、木庭はふと我に返った。攻略マニュアルを思い出し、今夜、絶対落とすと改めて決意し、次の作戦へ移ることにした。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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