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『大人の本音だだもれ。』22話 ドキドキさせてあげるよ【Web小説】

第22話 今度こそ、俺のものに

 忘年会があと少しでお開きになるという時間に汪花おうかは席を外した。トイレへ行ったあと、すぐに席へは戻らず店の外へ出ていった。

 小規模な店舗が並ぶ通りに店はあって、飲食店も数軒あるから歩行者がわりといる。店先に立っていると不審がられるので、店横の細い道に入った。そこで外気に当たり始める。

 店の中は強い暖房がかかっているうえに、大勢の体温で暑くなっている。汪花は熱気とお酒で火照ほてり、ぼうっとしていたのでクールダウンしている。

 ふと空へ目をやった。星を探してみたけど街灯が明るすぎて見つけづらい。そのまま空を眺めていたら足音が聞こえた。近くに人がいるとわかって店へ戻ろうときびすを返した。すると目の前に人が立っている。

 ぶつかりそうなくらい近くにいたので驚き、急停止して顔を上げた。そこにいたのは木庭こばで、柔和な眼差しで汪花を見ている。

 汪花は視線を外すと、無言のまま木庭の横を抜けようとした。ところが進路をふさがれた。今度は反対側を通って行こうとしたけど、やっぱり邪魔をする。

 どうしても通してくれないので、汪花はたまりかねて見上げた。すると木庭は笑みを浮かべたまま見つめている。

 木庭は汪花が席を立ったときからずっと観察していた。店の外へ出たのを見て、チャンスとわかって追いかけた。そして汪花を射止めるためのミッションを実行している。

 本当は壁ドンでいきたかったけど、これでも効果はある。
 女性は強引なところに憧れるんでしょう?

 通す気はないと気づいて汪花は無言で木庭をにらみつけた。それでも木庭は動じず、穏やかな声で話しかけた。

「驚かせてすみません。でもどうしても伝えたくて……。
 汪花さん、あなたに惹かれています。
 俺と付き合ってくれませんか?」

 この状況にはドキドキするはずだ。
 このまま落とす!

 告白のあとは、すぐに行動しないのがポイントで、見つめることで動きを止めておく。そうして見つめたまま顔を近づけていった。

 近づくと汪花が少し後ずさったので肩にやさしく手をかけた。

「すみません。逃がしませんよ」

 ささやくような声で言い、怖がらせないために動きを止めて汪花を見つめる。それから再び顔を近づけていった。

 また汪花がピクリと動いたので再び動きを止めてようすを見る。すると汪花のほうから顔を近づけ始めてきた。

 大胆だな。
 汪花さんからキスしようなんて。

 木庭は流れに任せることにした。汪花のきれいな顔がどんどん近づいてくるのでドキドキする。もう少しで唇が重なりそうなので少し目をふせた。

 そのまま待っていると汪花の顔が横にずれた。直後に首に痛みが走ったので、木庭はあわてて後ろへ下がった。

 えっ! なに!?

 辺りを見回すも自分と汪花しかおらず、何が起きたのかわからない。少しうろたえながら汪花を見るとクスクスと笑っている。

 汪花はぼうぜんとしている木庭の横を通り過ぎ、細い道を出たところでふり向くと、ヒラヒラと手を振って何も言わず店へ戻っていった。

 木庭は首に手を当て、ぽかんと口を開けたまま汪花を見送っていたが、しばらくして落ち着きを取り戻した。

 驚いた……。
 首に噛みついたのか。

 攻略マニュアルに沿って駒を進め、計画どおりに二人きりのシチュエーションまでもってきた。やさしい声で告白して、キスをすれば自分の勝利だと思っていた。まさか反撃されるとは思わず、何が起きたのかわからなかった。

 まるで小悪魔だ。

 たくさんの女性と恋愛してきたけど、これまで小悪魔的な女性に会ったことはなかった。そんなのはドラマの中だけと思っていたのに、形容するヒトが存在している。

 去り際に見た汪花は酔って潤んだ瞳をしていた。艶めかしく見えて、ピンクが差した整った顔は、男心を刺激する色香があって挑発的でぞくぞくした。

 汪花さんから目が離せない。
 手に入れたくなる。

 女性にはやさしく紳士的に振る舞うことを理想としていたけど、汪花を前にして信条が崩れそうな予感がしている。

 木庭は何度か深呼吸し始めた。しばらく続けていると、気分が落ち着いたようで店内へ戻った。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle



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