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『大人の本音だだもれ。』17話 忘年会は飲んで食べて楽しむだけじゃない【Web小説】

第17話 いろんな思いが渦巻く宴会

 師走しわすは忙しい月だ。仕事量が増えるだけでなく会社の行事もあったりする。同様にプライベートも忙しくなる月で、Xmasイベントのあとは年末の大掃除も控えている。

『イベントを楽しみたい。でも仕事の締め切りが迫っている』
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『仕事を片付けた。イベントを楽しむぞ!』
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『イベント楽しかった! でも次の締め切りが迫っている』
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『イベントを楽しみたい』

 短期間で楽しみとプレッシャーがやってくるせわしい月で、体力を使うし感情も大きく動く。

 ほとんどの人が「こんな時期に会社の忘年会なんてやるなよ!」と思っているだろう。しかし忘年会は十二月に行われる。会社が従業員に対して「一年間、お疲れさまでした」とねぎらうための行事だからだ。

 仕事納めが数日後にせまっているこの日、某都市にある とある会社の忘年会が始まりそうだ。

 「本日貸し切り」という札が入り口に掛けられている店がある。駅から徒歩圏内の立地の良さ、それに店内が広めなので忘年会の会場にうってつけだ。今日は忘年会の予約が複数入っている。まだ早いのにすでに二人の女性が六人掛けのテーブルに着いている。


 端の席に座ることができてよかったわ。

 開始時間よりかなり早く到着したのはパートで働いている町家まちやだ。一番乗りの理由は席の確保。目立たない席で忘年会をやり過ごすつもりでいる。でも孤立するのは嫌なので、同じ非正規雇用でヘルプに入った汪花おうかと一緒に来ており、隣の席に座らせた。

 町家は本来、宴会好きなのだが忘年会には参加したくなかった。全員参加なので出席しているが、苦い思い出が浮かんでくる。

 少し前に汪花の歓迎会が行われた。そのときに町家は酔っぱらって周りに迷惑をかけてしまった。休みが明けて出社したときにきちんと謝罪した。そのあとは以前のように明るく振る舞っているけど、気まずく感じている。

 もう失態はさらせないわ。
 今日は絶対飲みすぎないようにしなきゃ!
 すみでおとなしくしておこう。

 町家はこれから始まる忘年会のことを考え、憂鬱ゆううつになっている。でもおもてには出さず、汪花とおしゃべりして気を紛らわせていると入店があった。

「お疲れさまです」

 入ってきたのは木庭こばだ。「二人とも早いですね」とさわやかに話しながら迷うことなく汪花の隣に座った。町家は自分で座席を決めたのに残念そうな顔をした。

 木庭くんが隣になるなら、私が汪花さんの席に座ればよかったわ。

 木庭は女性から人気のある男性社員だ。町家も好意を持っていて望みは薄いとわかっているけど何度かモーションをかけている。隣の席はそのチャンスになるから逃がしたのは痛手だ。それでも期待が高まる。

 オフィス以外で木庭くんと話せる機会はないわ。
 いい機会だから、いろいろ話しちゃおう!

 町家の乙女心が目覚めて、自然と髪に手がいき整え始めた。木庭はオフィスにいるときと変わらない態度で二人に話しかける。

「忙しいときですけど、せっかくだから忘年会楽しみましょう」
「そうね!」

 町家はうれしそうに返すと、さっそく雑談へ持ち込む。会話が広がっていると、また入店があった。

 次に来たのは十住とすみだった。急いで来たのか少し息が上がっている。

 十住は先に到着している三人に「お疲れさま」と小さな声で挨拶しながら向かい側の席の端を陣取った。ふだんなら人がいないテーブルへ行き、端の席へ座るのに珍しいことだ。町家が気をきかせて話を振った。

「仕事を切り上げてきたんですね?」
「……はい。区切りがよかったので……」
「あんなに仕事があったのに。さすがだわ」

 町家のほうが年上なので気さくに話しているが、ほかの従業員は絡みにくい人と思っている。オフィスにいるときの十住はいつも無表情で口数が少ない。それに人と距離を置いているような感じがあるからだ。

 みんながそう感じるのも無理のないことだ。大人なのであからさまに態度には出さないが、十住本人が意識して距離を置くようにしている。そんな十住だが珍しく気になっている人がいる。

 くそっ、遅かったか。
 汪花さんの隣は木庭に取られた。
 あいつはいつもは時間ギリギリに会場入りするから油断していた。
 まあ、でも向かい側の席のほうが汪花さんがよく見える。

 汪花はオフィスでは十住の隣席にいる。しかし二人は仲が良いわけではなく、ふだんは挨拶を交わすだけで会話をしたことがない。そんな関係なので十住の行動はオフィスだと変だと思うが、宴会の席なので誰も気にしていないようだ。

 十住が来たあとは、続々とほかの従業員たちも入店してきた。思い思いに席に着いていき、半分くらい席が埋まったところで木庭が動いた。

 汪花さんの隣は確保できた。 
 席を取られないように荷物を置いて、と。
 よし、作戦に移るか。

 木庭は席を立つと店のスタッフのところへ行き、何やら話を始めた。

 開始時間の五分前に全員そろうと、タイミングを計ったかのように人数分のビールが運ばれてきた。そして時間どおりに忘年会がスタートした。

 

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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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