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『大人の本音だだもれ。』27話 「してあげたい」という想い【Web小説】

第27話 一緒に長い時間を過ごしていきたい

 独り身でいることが寂しくなったからパートナーがほしいと思ったんじゃない。パートナーがいる人たちが互いに想い合っているところに素晴らしさを感じたからだ。

 「幸せ」と感じることは人によって違うから、いろんなカタチがあるだろう。俺の中では「長い時間をともに過ごしていきたい人」に出会い、パートナーになれたら幸運だと思う。

 一緒に喜びを分かち合うことで倍のうれしさを共感する、悲しいことがあったら俺が癒やしてつらさを減らしてあげたい――。

 俺がこんなふうに思えるようになったのは、社会人になって世の中をわたっていくうちに、物事を多面的にとらえるようになったからだ。

 良い面と悪い面、おおやけになっていることの裏に隠している事情など、物事の真実は一つだけとは限らない。

 だからいろんな角度から見聞きして、自分で行動を選択していかなければならない。そうやって経験を積んでいくことで価値観が生まれる。

 この世界は素晴らしいことが多い。思いやり・助け合い・やさしさ・愛情など、人を幸せにしてくれることがあふれている。でも陰陽という言葉があるように、嫌なことも存在する。

 人はそんなに強くない。嫌なことに遭遇してしまった場合、一人でいると心が折れそうになったり虚しさに襲われることがある。でも心の支えがあれば、打ちひしがれて沈んでいく気持ちを引き上げてくれる。

 俺は心の支えとなるのは、パートナーの存在だという答えを出した。それからは「彼女」ではなく「パートナー」を探すようになった。でも探すとなると、なかなか見つからないものだ。

 一時の付き合いではなく、この先ずっと一緒にいたい人。何年も探し続けてやっとめぐり会えた。その女性が汪花おうかだ。

 汪花はつらいことがあっても暗い顔を見せない。深く掘り下げて聞けば苦労話は出てくるだろう。でも汪花は苦労を話すことを嫌う。「聞いてもつまらないでしょ。テンション下がるからやめようよ」と言って笑うんだ。

 本当は吐き出してすっきりしたいはずなのに、自分のことだからと一人で我慢する。気を使うのはいいことだけど、一人で抱え込もうとする姿にせつなくなる。だからお酒を飲ませてリラックスさせてから、さりげなく聞き出すようにしている。

 汪花からストレスをなくしてあげたい。
 苦労を減らして楽にしてあげたい。
 そんな想いがわいてくる。

 俺が勤めている会社の派遣が終わるときに汪花の連絡先を聞いた。俺はすぐに彼女に連絡して食事に誘った。そのあとも連絡を取り合い、定期的に食事をする仲になった。そして食後に街歩きを楽しむようにもなった。

 汪花のことを知っていくうちに、俺は「してあげたい」という気持ちを彼女に持つようになった。この「してあげたい」という気持ちを持つようになってから、俺の中で変化が起きた。

 昔の俺は「してほしい」とばかり思っていて相手に求めていた。求める気持ちはただの私欲で際限がない。だから求めるほど虚しくなって埋まらない部分が心のどこかにあった。

 ところが汪花に対して「してあげたい」という思いを持つようになると、穏やかな気持ちになり、やさしくなれる自分に気づいた。充足感を得られて、虚しさや孤独を感じなくなる。そんな気持ちにしてくれる汪花と一緒にいたくて何度も誘い出した。

 汪花といると気が楽だ。裏表がないから腹を探る必要はなく、俺自身も飾らなくていい。食事しながらたわいない話をして笑う。それだけなの心地よく、汪花の隣はなぜかとても落ち着く。

 自分の家にいても無性に帰りたいという思いがわいて孤独を感じることがある。おそらく心のどこかで安心できる場所を探しているのだろう。そんなときは言い知れない不安に駆られるのに、汪花がいるとそうならないんだ。

 汪花のそばにいると帰るべき場所を見つけたというか、安心できる家にいるような気分になるというか……。とにかくずっといたいと思える心地よさがあって平穏になる。そんなふうになるのは彼女といるときだけだ。

 穏やかで満ち足りた気分にしてくれる唯一の存在。
 そんな汪花のそばにいたい。
 そして守りたい。

 どんどん汪花への想いが強くなって、絶対に彼女をパートナーにすると決意したんだ。

 汪花は俺のことをどう思っているんだろう?
 少なくとも素顔を見せても大丈夫だと安心しているようだけど……。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle



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