見出し画像

『大人の本音だだもれ。』23話 忘年会が終わっても油断はできない【Web小説】

第23話 帰りぎわのピンチ!

 忘年会に参加している従業員たちは、おいしい食事といくらでも飲めるお酒で機嫌がよくなり、話に花が咲いてテンションが上がっている。そんなときに終わりはくるものだ。

 酒宴の終了時間がきて偉い人上司の挨拶が始まった。従業員たちは忘年会が始まる直前まで不満があったのに、今は物足りないという気持ちが芽生えている。一丁締めで宴会は終わりとなり、みんな店の外へ移動し始めた。

 会社の忘年会イベントは終わった。ここからは個人の判断になる。

 先に店を出た社員がノリのいい声で「二次会行く人ー!」と募り始めた。何名かは「はい、は――い!」と手を挙げている。ノリノリではないけど、ほかにも二次会へ参加する人たちがいるようだ。

 男性陣はノリがいいけど女性陣は店内で「どうする?」「行く?」と互いに出方を探っている。そんな社員たちとは少し離れたところで、汪花おうかは帰り支度をしている。そこへ木庭こばが声をかけてきた。

「汪花さんは二次会へ行かないんですか?」
「……ええ」

「じゃあ、駅まで送ります」
「いえ、大丈夫です。歩いてすぐですから」

「僕も二次会には参加しないんです。だから送ります」

 このまま木庭と行動を共にすると危険なことは汪花も気づいている。どう切り抜けようか困っていると、十住とすみがやって来て、木庭を向きながら少し強い口調で話しかけた。

「木庭ぁ、俺も帰るから一緒に行こうぜ」

 一緒に帰ろうと言ってきただけだが、十住からけん制する態度が見えたので木庭は黙って彼を見返した。

 木庭はどんな相手にでも合わせるようにして波風を立てないタイプだ。とくに毎日顔を合わせることになる職場の人間関係には注意を払っていて、トラブルにならないようにしてきた。

 ふだんなら十住が声をかけてきたときに面倒を避けようと、すぐに軽く流すはずなのに黙ったままだ。

 十住さん……。
 いつもは無関心のくせに。
 なぜ……?

 汪花を落とすと決めているので一緒に行動するわけにはいかない。邪魔者をどう排除しようか考えをめぐらす。

 社会人も長くなると処世術が身につく。日々を平穏に過ごすには、他人事に首を突っ込まないようにすると楽だ。わかっているから十住は職場では目立たないようにしてきた。そして他人のプライベートな面には関わらないようにしてきた。でも今は違う。汪花を守るという正義感が働いている。

 木庭、おまえの考えは読めてるんだよ。
 汪花さんの逃げ道をなくす気だろ。
 だがそうはさせねえ。
 俺が止めてやる。

 職場では感情を出したことがない十住から、敵意のようなものが向けられている。木庭はただ邪魔したのではなく、強い意志をもっていることに気づく。

 十住さんも汪花さん狙いか……?
 だがあんたには家族がいるだろう。

 温和に見せているけど木庭の本来の性格は負けず嫌いだ。仕事で負けるのはそれほど気にしないが、男として負けるのはプライドが許さない。先輩にあたる十住がけん制してるとわかったけど引く気はない。

 汪花さんは派遣だ。来月にはいなくなってしまう。
 それなのにオフィスではガードが固くてうまくいかない。
 だから忘年会に決行してるんだ! 邪魔するなよ!

 十住も木庭も言葉は発していないけど、同性なので目を見ていれば考えていることはなんとなくわかる。守りたいと思っている十住と、手に入れたいと思っている木庭の間で火花が飛び散る。

 汪花は十住が現れてほっとしたけど、険悪な感じになっている二人を見て、どうしたものかと悩んで立ち尽くしている。そこへトイレから出てきた町家まちやが声をかけてきた。

「汪花さぁーん、二次会へ行かないなら一緒に帰らない~?」
「町家さん!」

 手を振ってやって来た町家に、汪花が駆け寄って抱きついた。突然のことに町家はドギマギしている。

 汪花は抱きついたまま町家に「帰りましょう」と言って笑った。それから十住と木庭に向き直ると、「お疲れさまでした、先に失礼します」と挨拶し、町家を連れて逃げるように去っていった。


▼ 第23.5話第24話 へ ▼


※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


🏝️ 動画 準備中 🏝️
【動画の内容】※音あり(音声「🏝️」)


Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle



この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?