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『大人の本音だだもれ。』19話 モテる人は心理戦が得意?【Web小説】

第19話 神聖にも毒にもなる「酒」

 もしかしてと思ったけど読みはアタリだな。

 木庭こば汪花おうかのようすから、直感で空腹時のアルコールに弱いかもしれないと思った。そこで自分から乾杯をうながしてお酒をすすめた。予想は当たって一杯目なのにもう頬がピンク色になっている。

 酔わせることはできた。
 あとは酔いがさめないように飲ませ続ける。

 忘年会に合わせて汪花用の攻略マニュアルを練り、最初のミッションはうまくいった。早くも酔いが回り始めた汪花を見て胸が躍る。

 1対1の状況だと逃げることができるし、すっぱりと断ることもできる。しかしほかの従業員がいる場合、そうはいかないのが大人の心情だ。

 毎日顔を合わせるオフィスで周りに不仲と気づかれたら気を使わせてしまうことになる。それだと忍びないので強く出れない。木庭はそんな心理もわかっていて行動している。

 木庭はすぐに自分のグラスを空けると、追加のビールを頼みつつアルコール度数が高いソルティドッグを二つ頼んだ。追加のドリンクが届いたらビールは手元に残し、ソルティドッグを二人の前に置いた。

町家まちやさんと汪花さんの分も頼んでおきましたよ」
「あら、木庭くん、ありがとう」
「……ありがとうございます」

 町家はうれしそうに受け取ったけど汪花の返事は少し遅かった。

 木庭に告白されて以降、汪花は警戒している。オフィスでは距離を取り、決して二人きりにならないように注意してきた。でも隣の席に座られると避けることはできない。しかも断りづらい状況をつくってくる。

 新しいドリンクがあると注文できないよね?
 汪花さん、どんどん飲んでよ。

 やさしい男性に見えるけど、木庭の素顔を知っている汪花は用心しながら飲んでいく。

 汪花の横に座る町家は、木庭がドリンクを注文してくれたことに喜んだ。ソルティドッグは彼女が好きな飲み物だ。

 木庭くん、私の好みを知ってるのね。
 気にかけているのかしら?
 うれしいわ。
 もしかして…… 私に気がある!?

 町家は若い男性が自分に気を使っていると思い込んで舞い上がっている。ところが木庭の思惑は別にある。汪花に警戒されているから彼女を直接攻めることはできない。だから町家を通して酔わせる作戦を静かに進めていく。

「町家さん、飲んでいないじゃないですか?
 会社持ちですから好きなのを飲んでください。
 汪花さんも遠慮なさらずに」

 木庭に乗せられた町家はご機嫌になり、飲むペースが速くなる。汪花はできるだけお酒を飲まないようにしてるが、木庭が目を光らせている。

 木庭は町家に話を振って、真ん中にいる汪花を話の輪に入れて逃がさないように固める。そして事あるごとに二人にグラスをすすめる。

 機嫌が良くなっている町家は楽しみながら飲んでいる。そして知らず知らずのうちに汪花を囲うことに一役買っている。グラスに入っているお酒は徐々に減り始める。

 三人の向かい側にいる十住とすみは、周囲の会話に積極は加わらないで、ちびちびとビールを飲んでいる。

 十住は営業しているときは愛想がいいけどオフィスにいるときは寡黙だ。話しかければきちんと対応するけど、自分から雑談してくるタイプではない。男性社員とつるむことはなく一人でいるのを好む。

 忘年会でもオフィスにいるときと変わらないように見える。しかし表情に現れていないだけで十住はさっきから興奮している。

 目が潤んでる。ほわんとしてると、あどけなく見える。
 唇は紅をさしたようで色っぽいなあ。

 もう一度見たいと思っていた汪花の酔った姿が目の前にあってよく見える。ふだんはクール系美人で表情の変化が少ないのに、子どもっぽい表情が見え隠れする。

 大人っぽく見せたいけど、やんちゃな部分が残る子ネコみたいだ。
 そう、気取った子ネコだな。
 ツンデレで守ってあげたくなる。

 酔っているときの汪花を知っているのでネコの二面性とかぶる。オフィスでは見ない姿にギャップ萌えして、十住は心の中で絶叫していた。

 店内は複数のグループが忘年会をしているからにぎやかだ。あちこちで話が盛り上がっているなか、次々と料理が運ばれてくる。食事とともにお酒の注文もどんどん入り、みんなのテンションは上がっていく。


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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