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『大人の本音だだもれ。』2話 30代男性は久々にワクワクしている【Web小説】

第2話 新しく来る人は一体どんな人だろう?

 ビール腹を見つめる男は頭も気になっている。顔を洗ったときに以前よりてっぺんの頭皮が見えてると思ったのだ。ハゲるのではと心配している男は十住とすみといい、30代の既婚者で子どももいる一般的なビジネスパーソンだ。

 十住はオフィス街の一角にある企業に勤めている。小さな会社に新卒入社する者はなく、常に人が足りない状態だ。社員が残業してなんとかやりくりしているけど、繁忙期はどうしても回らなくなる。繁忙期が到来して、十住が所属する部署にも派遣社員がやって来た。そのことがきっかけで平凡だった生活に変化が訪れた。



 今年も派遣社員が入ると通達があった。派遣スタッフが入るのは恒例になっているから別に驚きはしない。ただどんな人なのかが気になるだけだ。

 仕事を頼むと嫌そうな顔をする人、パソコンが使えなくて全然仕事にならなかった人とか、派遣って当たりハズレがある。苦い思い出が浮かんで思わず苦笑した。

 社会人になる前は、親父の姿からサラリーマンは会社にへいこら尽くしている社畜、生きがいは仕事だけという仕事中毒者のイメージしかなかった。

 ダサい大人と嫌っていたのに、気づけば俺も同じ道を歩いていた。嫌だなと生活を改めた時期もあったけど、今では社畜も仕事中毒も通り過ぎて、何も感じなくなったオッサンだ。

 大学生まで未来の俺は、稼いだカネで好きな物を買い、あちこち旅行しまくって自由を満喫してると想像していた。なんの苦労もなく、楽しいだけの毎日。それが社会人だと思っていた。

 大学を卒業して社会人になってみると、大人の世界のルールについていけずに最初はとまどった。

 敬語で話す、仕事相手におべっかを使う、付き合いのため楽しくない飲食にプライベートな時間が削られる。こんなにつまらなく、息苦しい世界が日本の社会の実態とわかるとガッカリした。

 でも、いいところもある。いろんな業種の人たちと出会えることだ。
 自分一人だと好きなことにしか関心が向かないから、どうしても偏った領域にしか踏み込めない。ところが会社を通じて人とつながると、人を通して発見があり世界が広がる。新しい世界を知れば知識が広がるし、生活に刺激をもたらしてくれる。

 それと、もうひとつのいいところはカネだ。
 勤労の対価として給与が得られると満足感がある。苦労した分、ちゃんと評価されたら気分がいい。成績を出して得たカネで、服を買ったりおいしい物を食べたり、旅行したりとゆとりのある生活が送れるのは恵まれていると思う。

 がむしゃらに働き、時には罵声を浴びて悔しい思いをしたこともあった。でも経験したことは全部自分のかてとなっている。学生のころと比べたら強く成長した今の自分を誇りに思っている。

 それに俺は仕事を通じて素敵な女性と出会って恋に落ち、結婚して子どももいる。世間では不況といわれているけど、ありがたいことに俺はそこそこいい給与をもらっている。年に数回、やさしい妻にかわいい子どもたちと旅行もする。なんの不自由もなく生活できているから幸運な男だろう。

 でも……でもな、つまらないんだよ。

 仕事はまったく同じものなんてない。家族と出かけるときは訪れる場所を変えるようにしている。同じじゃないはずなのに、同じ日々を繰り返しているように感じる。昔みたいに衝撃を受けて心に残るくらいの感動がなくなってしまった。

 なぜ感動しなくなったのだろう。
 いつから周りが色あせて見えるようになったんだろう。

 感情の変化が少なくなり、機械が流れ作業をするように一日が過ぎる日ばかりを送っている。幸せで恵まれているのにつまらない。心が動かないまま年を取っていくのかと虚しい毎日だったけど変化が起きた。

 今の俺はある思いにとり憑かれている。それは「もう一度、見たい!」。このもう一度見たいという感情にとらわれている。

 原因はわかっている。

 人の二面性に興味がわかないか?
 それが異性だったら、なおさら魅かれないか?

 そう、俺はいわゆる「ギャップ萌え」に見事に引っかかった。あの人のあの姿をもう一度見てみたい。今はそのことで頭がいっぱいで、学生のころみたいにワクワクした気持ちになっている。

「会社へ行くのが楽しみだと思えるのは、あの人が来てからだ」


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※小説投稿サイト『カクヨム』で投稿していた小説を推敲してnoteに公開しています。


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【動画の内容】※音あり(音声「🏝️」)


Web小説『大人の本音だだもれ。』

第1話

  • 【あらすじ】

  • 1話 会社の忘年会はなんのためにある?

第2話

会社に新しい人が来るときは期待してしまう

第3話

美人で仕事はできる。でもコミュ力がね

第4話

30代の枯れたオッサンをとりこにしたのは

第 4.5 話 小休憩(1)

物事に変化を与えるのはいつも「人」

第5話

朝礼で増員の発表があって職場の空気が変わる

第6話

自分より若いコが来て40代女性は焦りを感じてる

第7話

結婚願望はある。でも大っぴらには言っていない

第8話

仲が良くても酔っぱらいに向ける視線は厳しい

第9話

これまでの対応は社交辞令だったの?

第10話

本来の性格がわかるとき

第10.5話 小休憩(2)

モテる人っていますよね?

第11話

社内恋愛は避けてきたけど迷ってしまう

第12話

酔っぱらいの相手は大変

第13話

恋愛モードに完全に切り替わった

第14話

恋の作戦スタート!

第15話

勝利するには布石を打つ

第16話

俺の攻略マニュアルは完璧。恋の勝者は

第16.5話 小休憩(3)

会社の忘年会の裏側ではこんなことも

第17話

忘年会がスタートする前からモノゴトは始まっている

第18話

フラれても再挑戦! 諦めないこの男は策士だ

第19話

攻略するために選んだアイテムは「酒」

第20話

大人だから態度には出さない。でも脳内で叫んでいる

第21話

おじさんは若いコが心配だ!

第22話

強気で駒を進め今度こそあのヒトを落としてみせる

第23話

送り狼のピンチに騎士ナイトが参上!

第23.5話 小休憩(4)

オトナたちはどんな恋愛をしているのかな?

第24話

オトナの男の恋

第25話

嫉妬、羨望…。職場でもあること

第26話

「彼女」よりも「パートナー」を探したくなったきっかけ

第27話

人が強くなる瞬間

第28話 【最終話】

パートナーになったら絶対に彼女から引き出したい!



カクヨム
 神無月そぞろ @coinxcastle


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