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【劇評・やや賛】映画『ボーはおそれている』(前編)(ネタバレ有り)

今日もお読みくださってありがとうございます!

不穏なタイトル画像ですみません!
『哀れなるものたち』と同様、後編でちゃんとした画像を掲載します。

3月中旬に観ていたので、一か月近く経ってしまいましたが、3時間寝ずに観たのに何を観たんだか全くわからなかった、という体験を書き留めておきたくて書きます。

本題の前に 概観

アート系の先輩の影響で観に行った

アート系の尊敬する先輩がSNSで観たと書いていたので、興味が出て観に行きました。
見た直後の感想は、「い……意味わからん!(ちょっとイライラ)」、「NFM(Not For Me)」と思っていましたが、その後ライムスター宇多丸さんの映画評などを聞いて、「やや賛(やや賛成)」に修正しています。
そもそも、「い……意味わからん!(ちょっとイライラ)」という体験ができたし、くらたのやや相貌失認的な特徴も自認できて、得たものは多かったです。

NFM = Not For Me とは?

ノット・フォー・ミーって、ライムスター宇多丸さんのラジオ『アフター6ジャンクション』で宇垣美里アナウンサーが使っていた言葉だったのですが、とてもいい言葉です(2023年夏の帝国劇場『ムーラン・ルージュ』の感想を述べる回で言っていた)。

『劇場版スパイファミリー』はハッキリと否定派、酷評派でしたけれど、『ボーはおそれている』の最初の感想は「わたしには合っていなかった」という感じでした。『劇場版スパイファミリー』は、何が表現されているかわかったうえで「ふざけんな(怒)」と思いましたが、今回の『ボーはおそれている』は、何かが表現されているのだとは思う、何かがものすごいのだとは思う、だけどわたしには合っていなかった、という感じ。

もう公開終わっていますが、いつものとおりネタバレ有りです。ネタバレなしで観たほうが面白いとは思うので、今後初見の予定のある方はご注意ください。


概要

『ヘレディタリー /継承』『ミッドサマー』の アリ・アスター 監督✕『ジョーカー』ホアキン・フェニックス 最狂コンビから、貴方の精神に挑戦状。怪死した母の元へ向かう帰省が、人生を狂わせる旅へ変貌する帰省スリラー映画『ボーはおそれている』 2024年2月16日(金)全国公開

くらたが仕入れた事前情報では、毒母親と息子の相克を描く「ホラーコメディ」とのことでした。毒母親と息子かあ、普段観ないテーマ。公式サイトもけっこうおしゃれでかわいい雰囲気に作られています。
ふだんホラーは観ないけど、「コメディ」がつくなら観れるかも、と思って観に行きました。

お客さんは平日昼間にしてはけっこう入っていて、くらたを入れて10人くらい。男女半々。ひとりのお客さんが多かったです。

ここから先は、まずくらたが勝手に思ったことを述べて、その後ライムスター宇多丸さんのラジオで仕入れた情報を補記します。その180度ひっくり返った感じが面白かったので。

1 事前情報なしのくらたが感じたこと

エログロ猟奇ディストピア

全編にわたって、エロ・グロ・殺人・ドラッグなど、猟奇的・ディストピア的な異常描写が多くて、こういうところがくらた的には Not For Me。

そうした描写も、「精神疾患ぽい主人公ボーにとっては世界はこう見えているんだろうなあ」と勝手に思い、同じ「主人公にとって世界はこう見える」でも『哀れなるものたち』で描かれた美しさとは全く別物だなあと思いました。
そもそもこの、「主人公は精神疾患なんでしょ」というのが、雑な決めつけだったと後に反省することになるのですけれど。

暴力やドラッグの蔓延る荒れた街のアパートに住む気の弱そうなおじさんのボーが、自宅の風呂場で錯乱して真っ裸のままはだしで道路に飛び出し、泣き叫びながらおまわりさんに「助けてください!」と駆け寄ったら逆に拳銃を突き付けられるシーンがあって、まったく話が通じない場面があります。
ここでは、「自分たちには理解しえない行動をとる人にはその人の、内的な合理的整合性があるんだろうなあ」と思いました。

ホラー「コメディ」……?

あまりコメディらしい描写がなかったように感じました……。
上記の「裸でおまわりさんと対峙するシーン」や、最後の山場で、ボーが昔から母親によく閉じ込められた実家の屋根裏で巨大な男性器の形をした怪獣が出てくるのは、あのあたりがコメディ?
全編通して笑ってる人はいなかったのですが、どうだったのだろう……。

この点についても、のちに宇多丸さんのラジオを聞くことによって、なんとなくわかるようなわからないような、くらいの感じになります。

荒唐無稽な展開にも乗れず

4つの大きな場面に分かれていたのですが、荒唐無稽な展開も、わけがわからないまま鼻っ面を引き回されてるみたいであんまり……。
次の場面に行く場転のしかけも、車に轢かれて気を失って目が覚めたら次の場面に進んでいる、みたいな身体的に痛い描写が多かったです。進んでも進んでもナイトメアみたいな感じだし、次の場面もきっと楽しくないって思ってちょっと辛かった。

この感じ、何かに似てると思ったら、大学時代付き合いでよく行った大学演劇や小規模劇団演劇の素舞台の中小演劇でした。思春期を少し複雑高等にしたアングラ感。

ホラーファンから、二度とホラー映画を観に来るなと言われそうですね……すみません!

女性キャラが terrible!

作中「terrible(ひどい、おそろしい)」と言うせりふが何度も出てきますが、terrible なのはボーの母親をはじめとする女性キャラの造形。ステレオタイプ的な、ヒステリックで淫猥な、嫌なキャラばっかりでした。
同監督作品はホラー映画の中でマザーフッドを扱ってきていると公式サイトで読みました。

このことについても、宇多丸さんのラジオで目からうろこの解説を聞くことになります。宇多丸さんの文化的成熟度ってほんとにすごいよね。

くらたの相貌失認判明

ショックなことに、くらたは外国の人の顔を見分けられないことがわかりました。これまで気が付かなかったのが不思議なくらいに見分けられない。
でも確かに少し前から若いアイドルとか見分けられない……。

終盤、旅路の間に主人公ボーが巡り合ってきた人々のほとんどすべてが、ボーの母親が経営するモナ・ワッサーマン社(以下、MW社)の息がかかっていたことがわかります。「MW社のポスターにそれらの人々が写っているのをボーが発見する」ことでそれが判明する仕掛け。ですが、相貌失認くらたはそこに写っている人たちがこれまでボーが巡り合ってきた人だと認識できず、この重要な伏線回収の意味が理解できませんでした。

Oh!Terrible! くらたはほんとにこの映画に向いてない!

強引なまとめ

3時間は長かったなあ……というのが正直な感想でした!

宇多丸さんの解説を聞いて、「面白くないんじゃなくて、面白いところをくらたが知識・能力不足で理解できなかったのだ」ということが後からわかるのですが、だからと言ってもう一度見直すには……長いなあ、という感じでした。

殺戮、吐き戻しなど苦手なシーンはたくさんありましたが(それも『哀れなるものたち』より直接的で苦手だった)、意外と、最後まで観られたのは発見でした。
かなり序盤に帰った人が1人いらっしゃいました。気持ちはわかる。最初のシーンから「あれ、これわたし大丈夫だった?なんでこれを観に来たんだろう」と、思いっきりドン引きしてしまったので、映画の世界に入り込み過ぎずに一線を引いたのが、よきにつけ悪しきにつけ、とりあえず最後まで見通せた理由かと。

手元のメモには、

吐き戻しシーンや性描写は『哀れなるものたち』と共通していて……「ゲロとセックスと血を過激にに映せばアート」みたいな符牒でもあるのか?
逆に言えば、どれだけ退廃的に露悪的におどろおどろしく作ろうとしても、特殊効果を使わないで描くモチーフには限界があるという感じなのかしら。今『DUNE2』の予告編をさんざん映画館で見せられているが、SFがああいう形でみたことのない映像体験を開拓するのとは対照的。
おじさんがひたすら酷い目に遭って行くコメディなら絵本『へろへろおじさん』(佐々木マキ/福音館書店)のほうが好き。

なんて書いてあって、散々ですね(苦笑)。
『DUNE』は1も2も見ていません。見ていない奴が何をぬかしているんでしょうか。また、『へろへろおじさん』はオススメなのでリンク貼っておきます。コテンパンにやられた、と思う日におすすめです。おじさんじゃなくても共感できます。

初見で「良かった」と思えたのは、ボー少年時代の子役さんがかわいかったことかと、エンドロール。ボーの乗っていたボートがひっくり返って、しんとした中のそれをひたすら映し続ける中でエンドロールが表示されていきます。ボーは浮かび上がってこないから怖いのだけど、ただ黒バックに名前がズラズラ出るのより好きでした。

ライムスター宇多丸さんの批評を聞いたのちの話は、明日書きます。
今日もお読みくださってありがとうございました!

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