マガジンのカバー画像

小説【麻子、逃げるなら今だ‼︎】

28
小説に初挑戦
運営しているクリエイター

#私の仕事

【小説8】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜急転〜

【小説8】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜急転〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

8.急転

 麻子は講座を修了したことをハローワークの担当者と女性就労支援の絹田さんに報告に行った。
実習報告書のコピーを見せると両者とも「私の目に狂いはなかった」と喜んでくれた。
 夫はゴールデンウイーク明けに一度帰宅したものの翌日には次の出張先に出掛けて行った。
お陰で今後暫くはパートのことを知られずに済みそうだ。
深く考

もっとみる
【小説9】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜嫉妬〜

【小説9】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜嫉妬〜

全話収録フィクションです⤵️

前日譚•原案ノンフィクション⤵️

9.嫉妬

 パート介護職員の前田麻子は、職場の異動と末息子進の大学進学が重なり疲れていた。
異動したばかりのユニットでは「入学式だから休みたい」とは言い出せなかった。
夫から進の入学金や授業料について「今は払えないけど必ず払うから一時的に立て替えておいて」と言われたのが心配の種。
会社を辞めても生活は変わらないと豪語したくせに。

もっとみる
【小説10】麻子、逃げるなら今だ〜罠〜

【小説10】麻子、逃げるなら今だ〜罠〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

10.罠

 次男進の大学から封書が届いた。
 「もう後期の授業料かぁ…」
麻子のパート収入、長女由美が毎月入れてくれる5万円、つもり貯金で払えない訳ではない。
長男修は生活費こそ入れてくれないが、アルバイト先のスーパーでお米や野菜を買って帰って来てくれる。
それも絶妙なタイミングで。
進は定期代や昼食代を自分で賄っている。

もっとみる
【小説11】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜落とし穴〜

【小説11】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜落とし穴〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

11.落とし穴

 「前田さん、良かったね」「もしかして未だ知らないの?」
朝から口々に言われるんだけれど?
前日が休みだった麻子には何のことだかさっぱり判らない。
 「谷川課長、本社に異動だって」
まさか、本当?
社内メールを確認したいが各ユニット2台しかないパソコンは夜勤明けと早出の職員が介護記録を入力するのに使っている。

もっとみる
【小説12】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜波乱〜

【小説12】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜波乱〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

12.波乱

 パート介護職員麻子の休職は2ヶ月半に及んだ。
勤務中の怪我なので労災だ。
給付金は支給されるし医療費負担もない。
当初は痛みで眠ることも自力で移動することもできなかったし、まさか自分が労災で休職するなんて夢にも思っていなかった。

 浴室清掃中に呼びかけられ排水溝に踏み外した右脚は、グレーチングを受けるステンレ

もっとみる
【小説13】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜車酔い〜

【小説13】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜車酔い〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

13.車酔い

 労災から復職した前田麻子は、デイサービスで働き始めた。
管理者に対しては嫌な感情を抱いてしまったが、職員は概ね歓迎ムードだった。
有料かデイかには関係なく職員には以前から挨拶をしていたし、休憩時間が一緒になると他愛ない世間話をするくらいには親しくしていたのが好印象だったようだ。
右脚の傷口は塞がっていたが、痛

もっとみる
【小説14】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜昇格〜

【小説14】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜昇格〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

14.昇格

 前田麻子がデイサービスに異動になってからの2年間で、職場も家族も随分と変わった。
 夫は出張の予定を家族の誰にも伝えなくなった。
勝手に行って勝手に帰って来る。
その前段階だったのだろう。
麻子が準備した食事に手をつけなくなった。

 ベテランパート職員の離職が相次いだ。
ご家族の転勤に伴う退職なので恨みようも

もっとみる
【小説15】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜ご褒美と戸惑い〜

【小説15】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜ご褒美と戸惑い〜


全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

15.ご褒美と戸惑い

 介護保険上、デイサービスは「通所介護」とよばれている。
 介護保険を管轄しているのは厚生労働省で「介護保険法」という法律があるが、都道府県•市町村によりローカルルールのようなものがある。
 前田麻子の職務である「生活相談員」というのは、主にご利用者とご家族と担当ケアマネジャーの間の報•連•相を担う。

もっとみる
【小説16】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜表彰〜

【小説16】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜表彰〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

16.表彰

 前田麻子は明日行く予定のケアマネジャー事業所の住所と PC上の地図を見比べては、いかに効率的に営業回りができるかをシミュレーションしていた。
 麻子がデイサービス生活相談員になった当初、前管理者が営業を一手に引き受けていたから、まさか自分が外回りをするとは思ってもみなかった。
 社用車の研修は受けていない。

もっとみる
【小説17】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜喪失〜

【小説17】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜喪失〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

17.喪失

 前田麻子がデイサービスのリーダーになってからの2年間で、職員の4分の1程が入れ替わった。
殆どが夫の転勤による遠方への転居だ。
 今の管理者に不満は多々あるが、採用面接に麻子が出られるようにしてくれたのは功績だ。
既存職員が振り回されるようなミスマッチや短期離職が随分と防げた。
麻子が採用をプッシュした職員はご

もっとみる
【小説18】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜ため息〜

【小説18】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜ため息〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚、原案(ノンフィクション)⤵️

18.ため息

 「前田さん、施設長が呼んでたよ」
総務の新井さんから声をかけられた麻子は「朝っぱらから?」とオフィスへ急いだ。
 「お父様のこと大変でしたね。
これは会社からの弔意金ですからお返しは無用です。お納め下さい」
施設長が深々と頭を下げ、不祝儀袋を手渡してくれた。
ふと何年か前の義父のときのことを思い出した。

 

もっとみる
【小説19】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜撃沈〜

【小説19】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜撃沈〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

19.撃沈

 夫が出張に出かけたのはいつだったのか、仕事に忙殺されている麻子には思い出せない。
以前なら、一枚物のカレンダーに家族の予定を書き込んでいたのに。
4人だけの生活に慣れ、今では3人の子ども達の予定も把握していない。
 子どもと言ってもとっくに大人だから仕方ないわね。
自分の予定だって書かないもの。
せめて父のお骨

もっとみる
【小説20】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜斜陽〜

【小説20】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜斜陽〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

20.斜陽

 小山様のデイサービス利用は半年で中止となった。
担当ケアマネジャーが娘様から「亡くなった」と聞いただけで死因は仰らなかったらしい。
娘様からは一言の挨拶すらない。
 あのドタバタは一体何だったのだろう。
麻子ひとりに被せられた(と、麻子は思っている)罪は誰にも思い出されることなく、5年後には記録ごと処分されてし

もっとみる
【小説21】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜乖離〜

【小説21】麻子、逃げるなら今だ‼︎〜乖離〜

全話収録(フィクション)⤵️

前日譚•原案(ノンフィクション)⤵️

21.乖離

 麻子がお弁当を食べていると、看護師と半日勤務の職員も休憩に来た。
翌日に出勤する予定の職員も、溜まった介護記録を閲覧しに出社し、そのまま合流した。
567の所為で休憩場所が分断されているから、デイサービス職員しか入ってこない。
 「前田さんとゆっくりと話したかったんだけど、忙しそうで話しかけられなかったのよ」と

もっとみる