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ショートショート

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ショートショート『あの人は世界のアイドル』

ショートショート『あの人は世界のアイドル』

店内には昔の80年代のアイドルの曲が流れていた。

「この前、少女の拉致監禁事件があったよな。少女を拉致監禁するような変態よりは、アイドルオタクの方が人間的にずっとマシなんだろうな」とヨシオが言った。

「そりゃあそうだろうけど、アイドルオタクは犯罪者予備軍ではないし、そういう言い方は失礼じゃないのか?」と巌男が言った。

「アイドルに犯罪抑止力があるかどうかは定かでない」とヨシオが言った。

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ショートショート『インドのレンガ職人』

ショートショート『インドのレンガ職人』

『インドのレンガ職人』

「インドジョークって聞いたことある?」
幼なじみの村上くんはそう言って話し始めた。
「一人の男がインド を旅してたんだ。そしたらある日、大きな河の流れる街で、一人のレンガ職人を見掛けたんだとさ。そのレンガ職人は出来上がったレンガを何個も何個もハンマーでぶっ叩いて小さくして、どんどん積み上げていたんだ。外は猛烈に暑いし、とんでもない重労働だよ。そんなことずっとやってたら死ん

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『オオモノヌシと箸墓伝説 大和古代史の謎を解く』

『オオモノヌシと箸墓伝説 大和古代史の謎を解く』

『オオモノヌシと箸墓伝説 大和古代史の謎を解く』

オオモノヌシは三輪山の主。モモソヒメはその妻。
オオモノヌシは夜しかモモソヒメのところに通ってこない。
ある日「あなたのお顔が見たい」とモモソヒメが言った。
「見ても驚くなよ」とオオモノヌシが言ってモモソヒメは小さな箱を渡された。
「キャ~ッ!」箱の中には立派な一匹の白蛇。
「このオレを辱めたな。今度はお前に恥をかかせてやる」
そう言ってオオモノ

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「エホバの証人どこへ逝く」

「エホバの証人どこへ逝く」

丸い三角形は存在しない。よって神は存在しない。

もし仮に天国とか地獄とかがあったなら、イエスも使徒も歴代の教皇も殉教者も、モーセやイザヤやエゼキエルなどの預言者も、ムハンマドや歴代のスルタンやカリフも、親鸞や日蓮も、みーんな地獄に落ちている。そしてその信者たちも。

神は最悪だ。粗暴で恥知らずだ。
神はまるで悪臭を漂わせて千鳥歩きをしているお喋りな大便器の化け物のようだ。
その信者は大便器を排泄

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『人魚姫の夏』

『人魚姫の夏』

『人魚姫の夏』

女が駅で甘栗を売っていた。先週も見た顔だ。オレよりも少しばかり若いようだった。
「一袋下さい」
「ありがとうございます。500円になります。丁度ですね。ありがとうございました」
「次の週末の天気は良くないらしいね」
「台風来てるみたいですね」
「台風で天気が荒れても、君の笑顔は太陽のように眩しいよ。びっくりだね。栗だけに」
それを聞くと彼女は「グラッチェ」と言って笑ったのだった。

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ショートショート『秋茄子男根奇譚』

ショートショート『秋茄子男根奇譚』

秋茄子は嫁に食わすなの「秋茄子」とは、男根のことである。

秋は収穫の季節。農家の繁忙期。そんな時に嫁が男根で遊んでばかりでは、一族の存亡の危機に繋がるという昔からの戒めの言葉である。
「嫁に秋茄子ばかり食わせてると、その年は良い年越しが出来へんぞ!」
農家の若者達がお互いに冷やかしあっている光景が想像される。
茄子は収穫期になると、毎日飽きる程に良く実る。前日に小さかった実が一晩で大きく成長する

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『名刀 麒麟斬り兼元』

『名刀 麒麟斬り兼元』

『名刀 麒麟切り兼元』 佐々木越百

十年以上前のことになりますが、私の事業も軌道に乗ってまいりまして、気の利いた趣味の一つも欲しいなと考えていたんです。ずっと仕事に追われていたんで、少しは自分自身を見つめ直す時間も必要なのかなと。昔からの友人に相談したところ、「それなら日本刀がいい。いい店があるから紹介しよう」なんて言うんで、言われるままに上野の刀屋さんに行ったんです。その日は友人の都合が悪く

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『メの話』

『メの話』

『メの話』

「今日は『メの話』という、まぁ、取るに足らない話なんやが、些細な事から人生の物凄く大事な事というか核心というか、そういうもんに気付くっちゅう、そういう話をしようと思う」
べらんめえな語り口のお坊さんだった。厳つい体格で如何にも酒に強そう。天然パーマだろうか?きっと髪は染めている。お不動さんに風貌が似ている。
そこは関東にある由緒ある古寺。巨樹や大きな堂宇、庭や境内や仏像や門、とにかく

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『ナイーマ』

『ナイーマ』

『ナイーマ』

メルクリウスは商売人や盗賊の守り神。子供の頃に読んだ神話の本にそう書いてあった。子供心に不思議に思ったものである。何故、神様が盗賊の味方なのかと。

そして何故かナイーマ。ジョン・コルトレーンの名曲。曲名は彼の前妻の名前。アンニュイな曲調。テナーサックスの絶妙過ぎる緩急の付いた奏法。聞くたび毎にいつも心潤されてしまう。濃密な夜を過ごした男女が迎えた朝の目覚めを思い浮かべてしまう

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『ひまわりのサムライ』

『ひまわりのサムライ』

俺は女と住んでいた。ボロい平屋だったが小さな庭があった。俺は庭の片隅にひまわりの種を撒いた。ひまわりは順調に成長していった。小さな種から大きく太い茎が日々背を伸ばしていく様子を観察するのは、その夏の俺のささやかな喜びとなった。水は毎日やり、酒が分解されて臭いが増した俺の体内の水分も茎回りの土の上に振る舞った。茎はあっという間に俺の身長に追い付き、その翌日には既に俺は追い抜かれていた。蕾は充実し、花

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ショートショート『毎日が夏休み』

ショートショート『毎日が夏休み』

「死にたいけれど、死ぬ勇気がない。どうすればいいですか?」

男は全く死ぬつもりなどなかった。それまで自殺未遂もしたことはなければ、誰かに死にたいなどと小言を洩らした事もなかった。
ただSNSで「死にたい」とか「自殺」とか「リスカ」とか、そんなキーワードで検索すると呆れるくらいにたくさんの人々が毎日せっせと投稿を繰り返していて、それを知ってから自分でも試してみたくなったのだった。

リスカ画像のア

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『ベーコンレタスサンドとカルボナーラの券売機』

『ベーコンレタスサンドとカルボナーラの券売機』

駅ビルの3階には大きな書店があり、そこにはベストセラー作家の新刊が平積みにされていた。私は一冊手に取って適当にめくってみた。
小説の中で主人公の男はパスタを上手に茹で、サンドウィッチも器用に手早くこしらえていた。

〈三角に切ったサンドウィッチの切断面はかなりセクシーだ。それを横向きではなく手で縦方向に持ち、ハムやレタスなどの具材の一層一層の重なりを愛おしむようにして食べればモアセクシーだ。具はハ

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『秋茄子と食えない老母』

『秋茄子と食えない老母』

今朝は秋茄子の入った美味い味噌汁を飲んだ。明日も明後日も作ろうと思う。
秋茄子がたくさん出回るこの季節になると、必ず言われるのが
「秋茄子は嫁に食わすな」
という謎のフレーズ。
先日、新聞か雑誌に
「秋茄子はよめに食わすな」の“よめ”とは漢字で“夜目”と書き、嫁ではなく実はネズミを意味している。「秋茄子をネズミに食べられては勿体ないですよ」という先人からの戒めの言葉
と書いてある記事を読んだが、

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『大きくもなくノッポでもない古時計』

『大きくもなくノッポでもない古時計』

もう大昔の話だが、私も大学を卒業する際にはそれなりの卒論を書いたのだ。

そのゼミの卒論にはテーマや主題などといったうるさい決まり事はなく、書く人本人の全くの自由裁量だった。適当な日記でも書いて提出しておいてもよかったのだが、私は何故か『大きな古時計』という誰でも歌えて超メジャーな曲の歌詞を卒論のテーマに選んだ。我ながら妙な選択をしたものだと思う。音大生でも芸大生でもないのに本当にどうかしていたな

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