マガジンのカバー画像

重要文化財

24
何度も読み返したい、スキ以上の記事たち。
運営しているクリエイター

#スキしてみて

レタスを食べなさい

レタスを食べなさい

あれは30手前の、
恋に悩んでいた頃のお話。

当時の私は
やたらめったら仕事が忙しく、
彼氏からも放置されており、
「結婚」というものについて焦りと憧れと諦めの気持ちの中でモヤモヤしていた。
このまま仕事だけ頑張って、
恋愛ごとを忘れることができたらどんなに楽か。

わりと切実に悩んでいたところに、
同僚から
「よく当たる占い師がいるらしい」と情報が入った。
恋愛や仕事の悩みをかかえている時の占

もっとみる
【ショートショート】事故物件ですよね? (2,573文字)

【ショートショート】事故物件ですよね? (2,573文字)

 その日、化粧品が届く予定になっていたから、ピンポーンの音に警戒ゼロでわたしは扉を開けてしまった。当然、佐川の青い制服を着た人が立っていると思ったら、山伏みたいな格好をしたおじさんがそこにいたので戸惑った。

「遅くなってすみません。こちらがご連絡頂いた事故物件ですよね?」

 もちろん、そんな連絡はしていない。ただ、違いますと答えるには度肝を抜かれ過ぎていたし、山伏が問答無用で室内へ入ろうとする

もっとみる
罵倒教室  (短編小説)

罵倒教室 (短編小説)

「名前はルイといいます。30代前半の男性、会社員です。会話の中では、家庭環境のこと、両親のことには触れないでください」
こんな風に自らを紹介をした男は、一週間限定で私の講師となった。

心の穴を埋めたい私が選んだのは「罵倒教室」だった。
講師はアイコンを見る限り、紹介どおりの年齢の男性に見えるが、文字のやり取りだけで真実を判断することは不可能だ。

土曜から始まった罵倒教室は、最終日を迎える今日、

もっとみる
ゆで卵男 (短編小説)

ゆで卵男 (短編小説)

体の右側がいつもより騒がしい気がして、僕は詰めていたイヤホンを外した。

「ゆで卵を食べたいんだ」

はっきり聞こえるその声は、大声で主張している。
その前に、僕がいるここはどこだっただろう。
目の前にはノートパソコン。その隣には皿があり、卵の殻と粗塩が少々乗っている。
あまりに作業に没頭していて瞬時に思い出せなかったが、ここはカフェで、僕は朝食を取っていたようだ。

「目玉焼きじゃ代わりにならん

もっとみる