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何度も読み返したい、スキ以上の記事たち。
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2024年6月の記事一覧

とんかつエレジー

とんかつエレジー

家を出る前から、今日の夕飯はあの店で食べると決めていた。

昔、近所に住んでいた頃に、家族3人でたまに通っていたあのとんかつ屋さんのことだ。

東京の有名店ののれん分けのお店だから、味はもちろん間違いないけれど、それ以上にひたすらおいしいとんかつを揚げることに集中しているいかにも職人気質な無口のおやじさんとひとりひとりのお客さんの様子を見ながら本当に必要な時にだけ本当に絶妙なタイミングで声をかけて

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【随筆】たまにね、そうじゃなかった世界線を想像することがあるんだ

【随筆】たまにね、そうじゃなかった世界線を想像することがあるんだ

どえらい久しぶりにnoteに戻ってきた。そしていっとうはじめに目についた記事が、とてもよかった。読んでスキをして、僕も、久しぶりに書こうと思った。バラクーダさん、ありがとう。

それでだ、
たまにね、そうじゃなかった世界線を想像することがあるんだ。という話。

直近で言えば、ランニングと筋トレをしなかった世界線だよ。
たぶん、そっちの世界であれば僕の今はきっと、ぶくぶくと太った豚野郎だったと思う。

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短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

短編小説 | バースデーバルーン | 創作大賞2024

 妹の頭が徐々に大きくなっていく。病気じゃない。
 わかっているんだ。家族の誰もが。だけど何も言えやしない。
 傷ついても、恥ずかしくても、怒っても、どうしたって、妹の頭は大きくなって、その成長を止めることは出来ない。

 (一)

 妹は僕の八つ下で、ぼくにとっては目に入れても痛くない存在だった。だけど、そんな例えですら口にするのも憚られるくらい、妹の頭は大きくなっていた。
その始まりはた

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『マッドマックス:フュリオサ』

『マッドマックス:フュリオサ』

貴種流離譚としてMAXな出来。『マッドマックス 怒りのデス・ロード』の前日譚であるため前作で登場したキャラクターおよび場所および名称が次々と出てきて楽しく、「これがああ繋がってたのか~」という答え合わせ的な喜びがあります。そしてそれは『怒りのデス・ロード』に対して新たな視点、新たな読み方を与えるという行為でもあり、その点で『ゴッドファーザーPartⅡ』が行っていることと近い。楽園から出ることを余儀

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