【くらしの東洋医学 鍼灸で元気に】月経時の気分障害と鍼灸
働く女性の月経の悩みに関する、ある調査結果では、「仕事上で何らか困ったことがある」という回答が、なんと全体の回答の約7割を占めています!
その具体的な内容としては以下のようなものがあり、身体そのものの不調だけでなく、月経に伴う体調不良が原因となり、働く環境や効率にも影響を及ぼしていることがわかります。
・腹痛、イライラ、気分の落ち込みなど心身への影響
・有給の生理休暇制度があるが利用しづらい
・職場の上司や同僚に生理に関する理解を深めてほしい
・月経中は、仕事パフォーマンスが平均で8割程度に低下する
では、月経に伴う心身の不調を最小限におさえ、月経中も普段どおり快適に生活を送れるようにするためには、どうしたらいいのでしょうか?
今回は、月経に伴う様々な症状がどうしておこるのか、また、それを改善させるための方法を、東洋医学的な観点からみていくことにしましょう。
なお、本編の後半では、月経時の気分障害に対する鍼灸でのアプローチについても、ご紹介をしていきます。
1.月経に伴う不調
女性の身体の特性の一つは、妊娠と出産をすることにあります。
女性の体内では思春期を迎える頃から、妊娠と出産に備えた身体づくりがすすみ、月に1回程度、月経がおこるようになります。
月経に伴って、女性の身体は大きく変化をします。
その変化は非常に個人差を伴うため、全く心身の不調を感じず、普通に生活を過ごす人もいれば、月経に伴う諸症状が辛いために普段の生活に支障をきたし、学校や会社をやすんでしまう、という人もいます。
月経に伴う症状の代表的なものには、
情緒不安定、イライラ、抑うつ、不安、眠気、集中力の低下、睡眠障害、自律神経症状としてのぼせ、食欲不振・過食、めまい、倦怠感、腹痛、頭痛、腰痛、むくみ、お腹の張り、乳房の張り
など、があります。
2.月経のメカニズム
月経はどのようにしておこるのでしょうか?
月経を成立させるために必要な、おもな女性生殖器としては、
・卵巣
・卵管
・子宮
・膣
があります。
卵巣内で卵胞が育った後、排卵がおきます。
その後、卵子は、卵巣と子宮をつなぐ管である、卵管を通って子宮へと運ばれます。
この間に、子宮の内膜は、女性ホルモンの作用により厚さを増し、受精した卵子が着床すできるように準備がすすめられます。
妊娠が成立しなかった場合には、この厚くなった子宮内膜が剥がれ落ちて腟から血液と共に出て来ます。
これが、いわゆる『月経』です。
女性ホルモンと呼ばれるホルモンには、「エストロゲン〈卵胞(らんぽう)ホルモン〉」と「プロゲステロン〈黄体(おうたい)ホルモン〉」の二種類があります。
エストロゲンは「妊娠の準備」、「女性らしいカラダづくり」、プロゲステロンは「妊娠の維持」といった役割をもっています。
現代医学においては、これらのホルモンの値は、女性生殖器が正常に機能しているかどうかを数値的に測るための基準とされているようです。
3.東洋医学における月経
では、東洋医学における月経とは何でしょうか。
東洋医学では、月経前は体内で気血(身体を構成するエネルギー、血液のようなもの)が充実して、受胎可能な状態となります。
受胎した場合には、腎・肝・脾・心・肺(東洋医学において身体を構成する臓腑)は協力し合って、胎児に必要な生育環境を提供し、養育するために必要な気血を充実させるために働きます。
受胎しなければ、充実した余分な気血は経血となって、定期的に体外に排出される。これが、いわゆる月経なのです。
東洋医学では、『月経=気血の変動』としてとらえることが特徴であり、その変動に伴ってからだに様々な症状が出やすくなる、と考えます。
言い換えれば、月経の状態ついて知ることは、身体の状態を把握することにつながり、そこから、「月経時におこる諸症状をひきおこしている、根本的な原因」を探り当てることができるのです。
4.月経時の気分と女性のからだ
先に、東洋医学における月経とは何か、についてとりあげました。
ここでは、月経時に、どのような気分の変化がおこりやすいか、をもとに東洋医学的な身体の状態をみていきましょう。
あなたはどのタイプにあてはまりますか?
4-1.月経前のイライラ(肝気実)
月経の前になると、なぜかいらいらして、普段は気にならないような些細なことにも反応をしてしまう。
このタイプの場合、東洋医学では『肝木実』であると考えます。
『肝木実』とは、普段から精神的・肉体的な過剰ストレスによる影響を受けやすく、月経では、子宮=下半身の方向に気血が集まりやすくなることから、身体全体における気血の巡りがスムーズでなくなり、いらいらとした感情がおきやすくなる、と考えます。
鍼灸治療により、普段から気血の巡りを整えておくことで、月経時のイライラを防ぐことが可能となります。
4-2.月経前の落ち込み(心と脾の弱り)
月経の前になると、なぜか心がふさぎネガティブ思考になり、落ち込んでしまうことが多い。
このタイプの場合、東洋医学では『心と脾の弱り』であると考えます。
『心と脾の弱り』とは、普段から精神面で様々な影響を受けやすく、胃腸の働きが弱いために心身にとって栄養源である血を作り出すことが苦手である、ということを指します。
精神活動にとって血の十分な供給は重要あり、月経前には妊娠準備のために血が子宮内に蓄えられためにより多く必要とされることから、相対的に血が不足して月経前には一層落ち込みやすくなる、と考えます。
鍼灸治療により、普段からメンタル的な部分の安定と胃腸の調子を整えておくことで、月経時の落ち込みを防ぐことが可能となります。
4-3.月経後の落ち込みと不安感
月経のピークを過ぎたあたりから、なぜか胸がざわざわして落ち着かなくなったり、不安感が出たり、落ち込みやすくなることが多い。
このタイプの場合、東洋医学では『心血虚や脾腎の弱り』であると考えます。
『心血虚や脾腎の弱り』とは、普段から不安感や胸のざわざわした感じが出やすく、体力的な弱さ及び虚弱体質のために身体のエネルギーが常日頃から不足しがちな傾向にある、ということを指します。
月経では、充実した余分な気血は経血となって、定期的に体外に排出されます。
そのため、もともと気血が不足しがちな虚弱体質の人は、月経のピークあたりから、より気血が不足する方向にむかうため、身体および精神活動に影響が出たり、疲れやすくなったり、落ち込みと不安感を感じるようになる、と考えます。
鍼灸治療により、普段からメンタル的な部分の安定をはかり、虚弱体質を改善して疲れにくい身体に整えておくことで、月経時の落ち込みと不安感を防ぐことが可能となります。
5.鍼灸でのアプローチ
「月経に伴う気分障害は婦人科への通院だけでなく、鍼灸による治療も可能なのか?」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、月経時の気分障害も鍼灸によるアプローチが対応可能な症状の一つです。
その効果は、世界保健機関(WHO)も認めています。
参考リンク:公益社団法人 全日本鍼灸マッサージ師会
現代医学では、月経時の気分障害に関しても、その他の月経時の不調と同様、ホルモン剤の投与で治療をすることが多いようです。
鍼灸では、西洋医学のように検査値に基づいてホルモン値をコントロールすることを目的に治療は行いません。
鍼灸では、先にご紹介したような「つらい気分障害をおこす根本の原因」を見つけ出し、それを正すことによって、気分の安定した、より良い身体づくりをします。
つまり、月経に伴う気分障害も、鍼灸により治療することが可能なのです!
6.月経前のイライラ感に対する鍼灸の施術例
次に、鍼灸による月経時の気分障害に関する施術例をご紹介したいと思います。
一度の施術で使うツボは1つです。施術時間は休憩含めておおよそ1時間程度です。
なお、鍼をする前には、あらかじめ詳しく問診をする必要があり、月経に伴う気分障害の症状だけでなく、他にもある様々な身体の症状(随伴症状といいます)、その人の体質、その時の体調、施術をする時の季節、天気なども考慮する必要があります。
その上で、その人の身体全体の状態(脈、舌、顔色、身体の熱冷のかたより、身体の緊張、手足ツボの反応など)から、トータル的にみて、最も原因にふさわしいツボを選び鍼をします。そのため、月経に伴う気分障害、原因が同じでも、その時々で使用するツボも変えることが必要となります。
【患者】40代前半女性、身長157cm、体重50g
【初診】202X年9月X日
【主訴】月経の約10日くらい前から月経ピークまでの間、イライラ感が制御できなくなる
【問診】発症は30代の半ば、離婚した頃と記憶している。
家族は、夫、自分、子供3人(男子2人、女児1人)の5人家族。離婚、再婚歴あり。
11歳で初潮を迎える。当時は周期、月経の量ともに定まらなかった。月経痛、月経時の気分の変化は感じていなかった。明るくお転婆な性格だった。
高校生の時、離婚した夫とつきあいはじめる。卒業してしばらくしたころには一人目の妊娠がわかり、結婚、出産をする。
元の夫とは結婚して一緒に生活をしていく中で、意見があわずけんかをすることが多かた。子供の前ではなるべく怒ったりしないように我慢をしていたが、我慢をすることで、イライラした感情が自分のなかで目立つようになってきた。この頃から少しずつ月経前の下腹部の痛みを感じ始める。
3年後、二人目を出産する。夫は仕事をしていることから育児にはかかわることがなく、自分ひとりで家事と2人の子の育児をしていた。
夫が仕事から帰宅した後は、あいかわらず些細なことでけんかとなることが多かった。その後、家庭内での大きなトラブルがきっかけとなり、夫との関係性が一層悪くなった。この頃から月経時には月経痛のほかに、イライラが激しくなり、自分でコントロールすることができず、子供に対して大きな声で叱ることが出てくるようになった。
数年後には離婚。離婚した後、子供をつれて実家に戻る。実家に戻ったころから、精神的なストレスが解消して、育児も自分の両親が手伝ってくれるようになった頃は、月経痛、月経時のイライラともに一旦おさまる。
30代のおわり頃、現在の夫と再婚をして、3人目を妊娠、出産する。
夫は家事、育児ともに積極的に参加をしてくれたが、夫の愛情は、2人の男児よりも女児に極端に向いており、育児を一緒にしていると不満と怒りをおぼえることが出てくるようになった。
平日は夫は仕事に出ていることから、自分ひとりで家事一切と育児をしており、忙しく毎日を過ごしていた。
月経が再開した後、月経前になるとイライラが激しくなり、コントロールができなくなった。子どもにあたってしまうことはいけないと思い、治療法を探して、産婦人科にいく。年齢的にホルモン剤の服用は厳しいといわれる。インターネットで他の治療法を探して鍼灸も効果がありそうだと知り、鍼灸での治療を試してみたいと来院をした。
【初診時の月経に関する情報】
・月経周期はほぼ月に1回。最近、遅れがち。
・月経の色は、イライラ感が増してから、濃くなった。
・月経の量は、イライラ感が増してから、やや多くなった。
・月経日数は、5日程度。
・月経時の痛みは下腹部のズーンとした痛み。
・月経前に便秘になる。
・月経前は食欲が異常に増す。
・月経がはじまると同時に、軟便~下痢になる。
・月経前は、肩こりが悪化する。
・月経前は、眠気が激しくなる。
【診断と治療方針】
精神的なストレスにより心身ともに過緊張状態となり、月経前には体内循環が一層停滞しがちになることから、月経前のイライラをコントロールできなくなった、と診断。
従って、心身の緊張を緩めることを中心にした処置を行うことで、普段からの精神的な安定を図るとともに月経前のイライラを改善する。
【日常生活での注意点】
・屋外に出る機会をつくり、気分転換をする。
【経過】
初診 施術直後、身体の緊張がゆるみ、リラックスできたと実感。次回の月経が来るまでの間、週に1回程度、治療を重ねて様子をみる。
2、3診 鍼を受けた後はだるさがない、少し気持ちが穏やかになり、普段もイライラしづらくなったような気がする。子どもや夫に対して怒りの感情が減った。肩こりが減って楽になった。
4診 月経間近となる。下腹部痛が軽く、イライラ感もいつもよりは楽な感じがする。
5診 4診目を受けた翌日には月経がくる。月経中も下腹部痛、イライラ感ともに悪化することなく、生活に支障をきたさない程度で今回の月経をおえることができた。鍼灸の効果には驚いた。もうしばらく、治療を重ねていきたい、と本人の希望があり、治療を継続中。
7.まとめ
今回は月経に伴う不調の中から月経時の気分障害についてとりあげ、症状ごとのタイプや原因、治療方法をご紹介してきました。
東洋医学においても、月経時の気分障害に対して鍼灸でのアプローチが可能なことはご理解いただけたでしょうか。今回はここまでとなります。
それでは、鍼灸でからだも心も元気になりましょう!
鍼灸 あやかざり
千葉駅5分 完全予約制 女性と子ども専門の鍼灸治療院
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