マガジンのカバー画像

2019上半期ベスト10冊

10
運営しているクリエイター

#2019上半期ベスト10冊

運命の恋愛譚の序曲――古宮九時『Unnamed Memory Ⅰ』感想

運命の恋愛譚の序曲――古宮九時『Unnamed Memory Ⅰ』感想

 長いお伽噺の始まりたる第一巻。重々しく始まるかと思えばコミカルに展開される洗練された物語に、きっと楽しみながらも引き込まれるでしょう。

初めに

 心配してた絵は素晴らしく素敵でした。
 油絵と水彩の混ざったような鮮やかでありつつも繊細で、どこか郷愁を誘う幻想的な色使いと言った印象です。しっとりとしたタッチが作品世界によくあってるなぁと思います。
 Act.1の全巻通して口絵の中では一巻の最初

もっとみる
人と、意思と、幸福と。それらを綴る、お伽噺――『Unnamed Memory』

人と、意思と、幸福と。それらを綴る、お伽噺――『Unnamed Memory』

 魔法が当たり前にある世界での、王と魔女による運命のお伽噺――。
 壮大で、重厚で、軽妙で、悲痛で、愉快で、鮮明で――しかし、儚い。そんな叙情詩のような物語に、貴方はきっと引き込まれるでしょう。

初めに

 藤村由紀さん、あるいは古宮九時先生の書いた、永く壮大な物語。

 『Unnamed Memory -名前を持たない追憶-』

 公開から十と余年の時を経てようやく本になったこの小説は、私にと

もっとみる
幻想と共鳴――藤村由紀『ジルコニア』

幻想と共鳴――藤村由紀『ジルコニア』

 職業作家がいなくなった時代の、ある書き手と読み手の交友――。
 法により誰もが本の出版を定められた社会。そこで問われた物語の価値と作家にまつわる物語に、きっと「脳」を揺さぶられるでしょう。

初めに

 最初に断っておきたいことが、二つあります。

 一つ目は、この記事は紹介ではなく感想の記事に近い、前言(参照:私のTwitterのお話その2)を翻したものになります。とはいえ、そもそもネタバレで

もっとみる
友情の青春に灯る謎と功罪――米澤穂信『本と鍵の季節』

友情の青春に灯る謎と功罪――米澤穂信『本と鍵の季節』

 暇を持て余す図書委員二人の解き明かす、功罪潜む日常の謎――。
 男子高校生二人の友情、そして日常と学園に埋まる青春と謎の繊細な陰影に、痛みと切なさを覚えながらもありしいつかを追想させられます。

最初に

 著者の米澤穂信先生と言えば日常の謎というジャンルの推理小説の名手として知られています。代表的なものを挙げると、京都アニメーションにより映像化もされた『氷菓』の物語群、〈古典部シリーズ〉のよう

もっとみる
胸躍り瞠目するは或る男の旅路――筒井康隆『旅のラゴス』

胸躍り瞠目するは或る男の旅路――筒井康隆『旅のラゴス』

 学究の旅に薫るは随所に練り込まれたSF的質感の光る異郷の風――。
 多くの異質な要素を隙なく組み上げたこの物語は、異なる土地の風土風俗を独特の感触を持って味わわせてくれるものです。

最初に

 筒井康隆先生と言えばSF、ということはおそらく多くの読者が一致して持つ見解だと思います。もちろんジャンルの横断的な作品もまた、先生の特徴ではあるのですが。
 そんな筒井先生が世に放ったこの物語は、先生ら

もっとみる
美しくも密やかに心を揺らすもの――住野よる『君の膵臓をたべたい』

美しくも密やかに心を揺らすもの――住野よる『君の膵臓をたべたい』

 紡いだ物語の、贈る言葉と命題の静かな衝撃――。
 ある少年と少女による命の価値と人生を問うこの物語は、結末と題名の意味、そして示された命題の鮮烈さに胸震えさせることでしょう。

最初に

 実は私、幸運にもWeb版を読むことのできた人間なのですよね。
 正確には覚えてませんが、確か読み終わってからそう経たないうちに削除されたように思います。

 ざっと見た感じ「また病気の人との悲恋系か……」なん

もっとみる
本と書店を愛する、全てのひとに――村山早紀『桜風堂ものがたり』

本と書店を愛する、全てのひとに――村山早紀『桜風堂ものがたり』

 ある地方の町、古くからの書店が起こした温かくも胸の高鳴る奇跡――。
 読者の心の温度を自在に導くこの物語は、読むと体の奥底から込み上げる心地よい熱を感じられるものでしょう。

最初に

 作者の村山早紀さん、実はこのお名前は私が今年の4月にTwitterを始めてから知った方なのですよね。今のところ『桜風堂ものがたり』と『星をつなぐ手』しか読めていないのですが、正直なところTwitterを始めてか

もっとみる
才人達の盛大な競演――恩田陸『蜜蜂と遠雷』

才人達の盛大な競演――恩田陸『蜜蜂と遠雷』

 個性豊かな才人達の、音楽のぶつかり合い――。
 色彩鮮やかな「音楽の物語」を描き出すこの小説は、〈シンプルに読むことが楽しい〉ものであると言えるでしょう。

最初に

 恩田陸さんと聞くと、まず私がイメージするのは『夜のピクニック』の作者である、ということでした。
 青春小説の金字塔であり、中高の読書感想文における推薦図書の常連と化している、あの作品です。あの小説の楽しいところは登場人物たちの繊

もっとみる
noteのお話(書きさしでふらふら)

noteのお話(書きさしでふらふら)

 こんにちは、あるいはこんばんは。冴月です。

 今回はnoteに書く予定の企画のお話をしたいと思います。……と言っても本当に短いものなのですが笑

 このツイートに挙げた本の紹介を書く……というだけのことです。

 ただし、『Unnamed Memory』に関しては二巻分、『ジルコニア』に関しては関連作である『緩慢な表象と虚ろな幻想』(クリックで「小説家になろう」の作品ページに跳べます)と別にn

もっとみる