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『ゴジラ-1.0』感想 命を賭けたゴジラとの綱引きバトル開幕
シン・ゴジラについてわたしは「日本人が総出となりがっぷりよつでゴジラと戦う映画」と書いた記憶がある。もちろん、これは比喩である。実際ゴジラと土俵で一線見えたわけではない。あの作品では官民がその叡智を集結し、一丸となりゴジラを叩き潰そうとしたのであった。そのことを表現したかったのだ。
一方、ゴジラマイナスワンもそのコンセプトを踏襲しているのだが、肝心の決戦の模様は、どちらかといえば、あれはどう見て
『善き人』感想 Goodを求めたその先に
ナショナルシアターライブで公開されている『善き人』を見てきた。C・P・テイラー作 。ドミニク・クック演出。出演は、デヴィッド・テナント、エリオット・リーヴィー、シャロン・スモール。幕間には、日本ではあまり知られていない、この劇作家を紹介する短いドキュメンタリーも流れる。
ナショナルシアターライブ作品はこれが初鑑賞となるわたし。わくわくしながらTOHOシネマズ日本橋に向かったが、劇場は満員御礼の状
『ガールズ&パンツァー 最終章 第4話』感想 みぽりん不在で大洗が勝つ方法
私を含む全世界のガルパンおじさんたちに衝撃を与え、奈落の底に叩き落としてくれたあの第3話からはや2年。待望の4話が公開された。継続高校の地の利を活かした攻撃、見え隠れする謎の腕利きスナイパーの存在、何より軍神、西住みほ不在という大ピンチの中、大洗女子学園に勝ち目はあるのか。
私は生まれてこの方、スポーツ観戦というものに全く楽しみを見出せなかった人間だ。やきうを見ながら怒ったり喜んだりなどして興奮
映画『バービー』レビュー 性器という厄介者とともに生きる
先ほど見てきた。あ、ねたばれ注意でお願いします。
ます本作の特筆すべき点は、女性の解放を謳うバービーと男性社会、その両者が表裏一体の存在である、とはっきり言い切っている点である。それもバービーの生みの親であるルースハンドラーの口を借りて、である。私はこのセリフ、妙に腑に落ちたのである。
というのも、作中の言葉を借りるならば、両者は辛い現実を乗り越えるための、ある種の幻想や虚像なのだということ。
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME 3』感想 苦痛からの解放を描く
ブラックパンサーやアントマンといったスタメンによる期待の新作が、ことごとく不発でこのところ絶不調な感じのマーヴェル。だが、この映画は大変よかった。
思えば、GotGに出会ったのが9年前ということで、月日の流れの速さを覚えずにはいられないなぁという感じだ。兎に角、見ているこちらの期待値にもバフがかかるというもの。結果としては、期待を上回るものが出てきた感じだ。
今回でGotGシリーズは一旦完結、
誰かの成長や成功を、感動ポルノとして描かない選択『ぼっち・ざ・ろっく!』最終話の衝撃
ぼっちざろっくの最終話が凄いのである。ただ、私自身何が凄かったのかよくわからなくて、視聴から3か月近く経ってしまった。そんな時に、こんな動画を見た。
22年に公開されたアニメ、『ぼっち・ざ・ろっく!』の最終話での、各国のファンの反応を集めた動画だ。どの配信者のリアクションも良いが、取り分け一番右下、はしっこの男性のリアクションに注目してほしい。
調べてみると彼は「わさもん Anime Reac
『シン・仮面ライダー』感想 コスプレ集団の素人演劇+クレショフ効果?みたいな映画
2023年3月21日追記、タイトルと内容も一部変更しました。知ったかしたらいかん。
いいところを先にあげておこうか。まず怪人、この映画では○○オーグと称されているが、そのデザインがよかった。序盤のクモオーグと西野七瀬が演ずるヤンデレハチオーグはよくて格好いい。おまけにモビルスーツのように目が光る。
格好いいといえば、後述するこの映画で何度も登場するモンタージュやキャラのブツブツ独り言シーンを除
『イニシェリン島の精霊』批評 わたしの心に勝手にふみこまないでね、あなた。みたいな映画
ある日突然、友人や家族から一方的に絶縁を突きつけられる。恨まれたり、嫌われたりするような覚えはないのに。よくある話という訳でもないが、こうした不条理は決してありえないという訳でもない。人間、そういう目にあうとまるで自分がカフカやディーノ・プッツァーティーの小説に出てくる登場人物になったかのような気持ちになるものだ(こういう経験は私も人生に何度かあるし、実はしてきた自覚もある)。さて、イニシェリン島
もっとみる『新生ロシア1991』映画評 ロシアに向けた爆弾入りのエール
12月に見た『ミスター・ランズベルギス』にせよ、ウクライナで大変な非難を浴びた問題作『バビ・ヤール』にせよ、サニーフィルムが配給してロズニツァの名をこの国に定着させた群衆三部作のうちの『国葬』や『粛清裁判』にせよ、セルゲイ・ロズニツァがロシアにその支線を向けて映画を作る極めて特異な作家であることは、もはや論を俟たない。そして本作『新生ロシア1991』も然りではあるのだけれども、既存作品とはまた違い
もっとみる樋口毅宏『民宿雪国』書評 これは、読者のモラルへの挑戦状である
先日私は、樋口毅宏氏の著作の回収騒ぎについて、その経緯や本の感想について、文章にまとめた。
今回は私が樋口の小説の中で最も衝撃を受け、かつ現在でも普通に読める小説を紹介したい。『中野正彦の昭和九十二年』は終盤壮大なスケールで、この国が今後歩んでいくだろう破滅と絶望の未来を描く。いっぽうこの小説はまた別のベクトルで、この国の過去から現在に至る道筋を、一人の年老いた画家の視点でたどっていく。それを読