レバードFCF、アンレバードFCF、資本構成
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レバードFCF、アンレバードFCF、資本構成

Kaoru

今回はレバードFCFおよびアンレバードFCFの理解と、それらを用いたバリュエーションの違いはどこから来るのかという点を書いていく。
Levered FCFとUnlevered FCFを理解する際には、それぞれのキャッシュフローがBSのどのステークホルダーに帰属しているかを理解する必要がある。

以前上記については下記記事において説明しているので、時間がある方は参考にしてみて欲しい。

レバードフリーキャッシュフロー:Levered FCF, LFCF

LFCFはLeveredと書いてある通り、会社の資本構成を反映したキャッシュフローになる。有利子負債の返済(Mandatory payment)をおよび付随する利息支払をキャッシュフローの計算に反映することで株主に帰属するキャッシュフローを直接計算できるという特徴がある。従い、LFCFを株主資本コスト (Cost of Equity:CoE)により現在価値に割り引き直接的に株式価値(Equity value)が計算できる
なお、上記の特徴によりLevered FCFをFCF to Equity (FCFE)ともいう。

アンレバードフリーキャッシュフロー:Unlevered FCF, UFCF 

UFCFは一般的な事業会社におけるDCF法によるバリュエーションで使用されるキャッシュフローの種類であり、ご存じの方も多いと思う。
Unleveredと書いてある通り、借入金等の有利子負債を考慮せず、資本構成に影響されないキャッシュフローを計算することができる。
当該キャッシュフローに基づき計算される価値はdebt free, cash free baseでEnterprise value(EV)となる。 

LFCFとUFCFの違い|計算例

ここでは、簡単な財務3表モデルを用いながらLFCFとUFCFの差異を見ていく。まず、PLは下記の想定で考える。

粗利率とEBITDAマージンはそれぞれ70%、25%で一定と仮定

借入金に関する利率は本設例のために1%で仮置き、税率は日本の法定実効税率の30.62%とする。
次にBSは下記の想定で考える。

BS作成上、後ほどLFCFとUFCFによるバリュエーションの比較を容易にするために、2021年度のCash残高はゼロ、D/Eレシオも上記ではゼロとして2021年度末のネットデット=0と仮定する。

また、BSプロジェクションでは長期借入金(Long-term debt)の返済期間は8年としている
(⋆後ほど説明するが、D/Eレシオが一定に保てているか否かが分かるように、Key statsのところにNWC(純運転資本:Net Working Capital)、D/Eレシオを記載している。
参考に、モデル作成上の主要な変数は以下のようにまとめている。

上記の結果、プロジェクション期間におけるCFSは下記のようになる。

 まず上記財務3表を用いてLFCFを計算してみよう。本設例では間接法によるCFSを作成しているので、それをベースに考えると当期純利益:Net Incomeからスタートし下記のような流れになる。

次に、アンレバードFCF(UFCF)は下記の通り計算される。

通常のDCFモデルにあるように、EBITから始まりEBIAT(NOPAT)の計算、の加算、運転資本増減額、Capex等の項目を反映し計算する。UFCFとLFCFの計算結果の差異原因のテーブルは下記のようにまとめられる(今回のケースでは一致しているが)


なお、上記でInterest expenseとあるのは税引き後の数値であることに留意されたい

LFCFによるバリュエーションと、UFCFによるバリュエーション結果の差異

ここまでで、LFCF、UFCFの違いが分かったところで、もしあなたがある事業会社のM&A案件にアサインされている時にクライアントは以下のように聞くかもしれない。

「DCF法はアンレバードFCFで行うことは理解しています、ただ事業計画は財務3表含まれていて有利子負債の返済計画も記載されているのならレバードFCFで実施しないのはなぜか」

このような質問が投げられた際にプロフェッショナルとしてバリュエーションの理論、背景を理解した上で回答することが重要である。以下にLFCFによるバリュエーションと、UFCFによるバリュエーション差異がどうして生まれるかを考察していく。 

まずは、LFCFによるバリュエーションとUFCFによるバリュエーション結果を比較してみる。因みに、LFCFおよびUFCFをそれぞれ株主資本コスト、WACCを使用して計算される現在価値は(それぞれ継続価値を含んで)、株式価値、および事業価値となることは最初に押さえておきたい。

ここで両者が一致するケースは以下の前提であることを確認しておく
①:D/Eレシオ=0(借入なし)
②:D/Eレシオの水準はプロジェクション期間通じて一定

 次に、D/Eレシオ≠0であるものの、D/Eレシオがプロジェクション期間を通じてWACC計算時と同じ数値であるシナリオを設定する。毎期のエクイティの変化(期首の純資産+当期純利益ー配当支払=期末純資産という式と仮定する)に応じて、毎期のDebt残高が上記D/Eレシオをもとに計算され、Debt増減がそのままCFSに反映されるというロジックである。
この場合、計算上エントリー時点のequity, debtの残高により計算される当該D/Eレシオも同じ数値30%となるが、諸前提は以下のようにまとめられる

この時のバリュエーション(LFCFとUFCF)の結果は下記の通りとなる。

EVに対する差異は454となっており、LFCFにより計算されるEVとの乖離率は-5.9%である。若干の差異はあるものの、プロジェクション期間中のD/EレシオをWACC計算時に採用した最適資本構成:30%として一定としているため、そこまで大きな乖離が無いものと見受けられる。

次に、資本構成(D/Eレシオ)が毎期借入金を定額弁済することにより、プロジェクション上のD/Eレシオが、WACC計算時に最適資本構成として採用したD/Eレシオから変化する場合を確認する。
念のため主要条件のサマリーを下記の通り示しておく。

Switchのみ0に変更、他は上記ケースと同一

この時、LFCFをもとに計算される株式価値と、UFCFをWACCにより割り引いて計算されるEVからネットデットを控除して計算される株式価値は以下のような差異がある。

結論から言うと、LFCFにより計算されたEVの方が1,529百万円小さくなっており、乖離率も26.7%と大きくなっている。これは期中の有利子負債返済の影響と税効果後の支払利息が影響しているものと見受けられる。


以上を踏まえると、一番最初にあったクライアントの質問「事業計画は財務3表含まれていて有利子負債の返済計画も記載されているのならレバードFCFで実施しないのはなぜか」という質問に対する適切な返し方は、
「レバードFCFにより直接的に株式価値を計算する方法も仰るとおり確かに存在するものの、これはWACC計算時に採用した最適資本構成が対象会社において継続するという前提でないとUFCFを用いてDCF法によりバリュエーションした結果と大きく差異が出てしまい、平仄が取りづらい。
現時点でのバリュエーションを考える際は、コア事業の価値(EV)を求め、それにバリュエーション基準日のネットデット等を加減算して株式価値を出すことが適切である」

両者の差異の原因

上記の差異の原因は、端的に言えばエントリー時点のWACC計算において採用した最適資本構成がプロジェクション期間を通じて一定か、有利子負債の返済計画に応じてプロジェクション期間のD/Eレシオが変化するか否かによるものである。

WACCの計算では、コーポレートファイナンスの教科書で習うように、最適資本構成となるD/Eレシオを決定することが肝要になる。
上記を敷衍すると、LFCFを株主資本コストにより割引計算し直接株式価値を計算しているのであるから、EVを計算する際における使用するUFCFも資本構成とは無差別とは言いながらも、プロジェクション期間も当該最適資本構成が維持されなければ、UFCFとLFCFにより計算される株式価値(Equity value)には大きな差が生まれることになる、という理解ができる。

今回の設例で使用したモデルは以下にあるので、興味のある方は参考にしてみて欲しい。

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