フリーキャッシュフロー(FCF)について
今回も引き続き、会計やファイナンス絡みで、フリーキャッシュフロー(FCF)について記載していく
事業会社では利益概念が先行したり議論になることが多いが、実際は企業経営においては「キャッシュフロー」が最も重要な指標であるといっても過言ではないくらいである。
しかしながら、日本語のサイトや書籍を見ていると、やたらアンレバードフリーキャッシュフローを単にフリーキャッシュフローとして説明している場合が多く、キャッシュフローがそもそも株主に帰属しているのか、それとも債権者と株主の双方に帰属しているのか、記載があいまいなことも多いと感じている。
ここでは、一般的に用いられるアンレバードフリーキャッシュフロー(UFCF)についての説明、およびレバードフリーキャッシュフロー(LFCF)について書いていこうと思う。
アンレバードフリーキャッシュフロー(UFCF)
アンレバードフリーキャッシュフロー(Unlevered Free Cash Flow)とは、Unleveredという名前が示している通り、資本構成を反映していないキャッシュフローである。これは別名FCFF(Free Cash Flow to Firm)とも呼ばれ、コーポレートファイナンスでは重要な概念である
即ち、会社の貸借対照表(BS)にある借入金などの有利子負債にかかる元本返済や金利の支払の影響を反映させていないキャッシュフローであるため、債権者と株主の両方に帰属するキャッシュフローになる。(ゆえにFCF to FIRMになる)
アンレバードフリーキャッシュフローの計算方法は、noteで何度か書いている通り、以下の算式になる
Unlevered FCF = NOPAT (or EBIAT) + Non-cash expenses+ Change in NWC (Net Working Capital) - Capital Expenditure
日本語にすれば、
アンレバードFCF=税引後営業利益 + 非現金支出費用(固定資産・のれん等の償却費)+正味運転資本増減額 - 設備投資
これはDCF法でバリュエーションをする際に基本となる数値で、普通の事業会社のバリュエーションでは事業計画期間のUFCFと継続価値を割り引いて計算する。アンレバードFCFの計算テーブルは参考に以下のようになる
なお、FCF conversionとはFCFをEBITDAで除した数値である。この数値が高くなればなるほど、財務上の安全性は望ましい事を意味している
ちなみに、上記以外にも下記の計算式もOKである
営業活動にかかるCF - 税金等の影響反映後支払利息 - 設備投資
(CF from Operation - Tax adjusted interest expenses - CapEx)
または、
当期純利益+ 税金等の影響反映後支払利息+非現金支出費用+正味運転資本変動額 - 設備投資
レバードフリーキャッシュフロー
レバードフリーキャッシュフロー(Levered Free Cashflow)とは、Leveredの言葉が示す通り、Levered、すなわち企業のBSにある有利子負債の影響を織り込んだキャッシュフローを指す。別名ではFree Cash Flow to Equity (FCFE)という
これを言い換えると、レバードFCFはアンレバードFCFと異なり、株主に帰属するFCFを示しているといえる。
レバードFCFの計算方法は以下の通りである
Levered FCF = Net income + Non-cash expenses + Change in NWC - CapEx + Net debt issued (repaid) OR
Cash flow from Operation - CapEx - Net debt issued (repaid)
日本語にすれば、
LFCF = 当期純利益 + 非現金支出費用 + 正味運転資本変動額 - 設備投資 + 正味有利子負債発行額(返済額)または
営業活動にかかるCF - 設備投資 + 正味有利子負債発行額(返済額)
簡易キャッシュフロー計算書をベースに示せば以下のようになる(黄色いハイライトがレバードFCFの計算に使用した項目である
以上のように、LFCF(またはFCFE)は株主に帰属するキャッシュフローを直接求めにいくので、計算ロジックもUFCFと異なってくる。ポイントは有利子負債発行額(返済額)を計算に反映する点である
バリュエーションにおける留意点
アンレバードFCFとレバードFCFはいずれも、DCF法において使用される重要な数値の一つであるが、計算に際して重要な点は以下の2つである
①:それぞれのキャッシュフローが「EV=Enterprise Value」と「株式価値=Equity Value」のいずれに紐づくか
②:適用する割引率は何か
①について、これはアンレバードFCF・レバードFCF(即ちFCFF, FCFE)の言葉からわかるようにアンレバードFCFは事業価値(EV)、レバードFCFはEquity Valueに紐づけられる
②については、アンレバードFCFは債権者・株主双方に帰属するキャッシュフローなので、加重平均資本コスト(WACC)で割引計算をする
一方レバードFCFは株主に帰属するキャッシュフローなので、資本コスト(Cost of Equity)を用いて割引計算を行い直接的に株式価値を計算することができる
そのため、バリュエーションではFCFの性質と、分母になりうる割引率を念頭に行う必要がある