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ショートショート

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#ファンタジー

春の雨【ショートショート ファンタジー】

春の雨【ショートショート ファンタジー】

春の雨はさらさらと降る。小雨だから20分傘を差さずにいても、そんなに濡れない。それでも、仕事帰りに濡れながらみみを探すのはまいる。
最近私は目が見えづらく、動くものくらいしか見えなかった。帰宅するともうすでに暗かった。しかし玄関のドアをするっとみみが通り抜けるのは、うっすらと見えた。あれは本気で外へ出たかったのだ。おむかえなんかの時は、玄関でちょこんと待っている。
「みみちゃん、ぬれるから帰ってお

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春の縁側ランチ【ショートショート ファンタジー】

春の縁側ランチ【ショートショート ファンタジー】

お腹痛くて動けなくて、でもお腹すいでたので、猫のみみに一階から焼きそば持ってきてと頼んだ。

みみはお箸もきちんと持ってきてくれた。

けど、みみにはお皿は大きくて、バランスを崩して階段の最後の段で蹴躓いて、やきそばは床にぶちまけられてしまった。

みみはえーんえーんと泣いている。

私はみみをギュッと抱きしめて
「ごめんね、難しいこと頼んだね」
と言った。

みみはまだ泣いている。
「わたしが、

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ラムネ菓子【ショートショート ファンタジー】

ラムネ菓子【ショートショート ファンタジー】

街角で座っている占い師のおばあさんがいた。

真っ黒なマントを頭から被り、鷲鼻で。

ここってほんとに日本だよね?そんな風情だった。

なに占いかと思ったら、易者さんみたい。なんかあのおみくじみたいな棒がいっぱい入った入れ物が置いてあった。

ちょっと、と呼び止められて、平日の帰りでさっさと帰りたいのに足を止める俺もお人好しだなあ。

占いなんて信じたこと一度もないのにさ。

大体呼び止められると

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召喚したから密入国(ショートショート ファンタジー)

召喚したから密入国(ショートショート ファンタジー)

自転車修理に苦戦していた。
寝転がって地団駄踏んでいた。

「ああー!もう!こんな時、自転車に詳しい弟がそばにいれば!えーい、召喚するぞー!しょう、かん!」
もちろん、私にはそんな特殊能力は‥なかったはずだった。

ところがなぜか召喚できてしまった。
「う‥‥ぐ‥‥」
気づいたら私の上に弟が立っていた。

「おねえちゃん!え?なんで?」
「と、とりあえず降りて救急車呼んで‥」

寝転がったまま召喚

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帰省バス(ショートショート 微ホラー)

仕事帰り、駅のロータリーからバスに乗った。
駅には帰省や旅行の客ばかりだったのに。
まったく、なんで僕だけお盆に出勤してるんだろう。

家へ帰るいつものバスに乗る。
いつも止まる停留所には停まらない。お盆休み中で利用者の層が違うのだろうか。

うとうとしていた。暑かったし、お盆休みもなく働いてなんだか気分が疲れていたのだ。

ぼうっとした頭で窓の外を眺める。

どこだろうここは。
見たこともない草

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魔法のクレヨン(ショートショート ファンタジー)

魔法のクレヨン(ショートショート ファンタジー)

ある日魔法使いが現れて、なぜか僕に魔法のクレヨンを三色くれた。一色につき一つ、自分の好きなものをかけるんだそうだ。そして書いたものは実物になるんだそうだ。赤、青、黄色。何を書こうか。

青はつねづね憧れていた海にした。
名古屋港からずーっと岐阜まで海を引っ張ってくるように青い線を書いた。反対側が海につながると、名古屋港より北の愛知県は海の中へ。愛知県民の方ごめんなさい。でもどうしても海が欲しかった

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眠れぬ夜の【ファンタジー ショートショート】

眠れぬ夜の【ファンタジー ショートショート】

明日は朝から会議だっていうのに眠れない。
別に眠れないのに理由はない。
睡眠薬をのんで、トイレへ行くといっちょ前にふらつくのに、全く眠れはしない。
導入剤は切れてしまい、2回目を飲んだ。

ここ最近急に熱くなってから、どうにもうまく眠れない。
酒でも飲んでこようかと階段を降りると、途中ポワンとした不思議な光がある。
妖精?そんな童話じみたことをふと思いつく。

驚かさないようにそっと近づく。
なん

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あおり運転【ショートショート ファンタジー】

あおり運転【ショートショート ファンタジー】

うちの辺りはそれほどの山の中というわけではないし、市役所まで車で20分ほどなのだが、どうにも山が多い。

名古屋の友人を連れてきたときトンネルをくぐったら「え?どこにいくの?」と不安げに聞かれたが、なんのことはない家へ向かっていただけである。

ところで、そのいくつかあるトンネルのうち一つに、ある噂があった。私が大学生の頃聞いた話だから、かれこれ20年ほど前からのことだろうか。
大学の友人がさも真

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ミシシッピアカミミガメの恩返し【ショートショート ファンタジー】

ピンポーン。玄関のチャイムが鳴った。
「はーいどちらさま?」
「こないだ助けて頂いた亀です。恩返しにきました」
「恩返し?」
「はい、乙姫様から竜宮城へお連れするよう言われまして」

詳しく話を聞いて、ならばせっかくだしと、連れて行ってもらうことにした。

こないだミシシッピアカミミガメを拾った境川を下っていく。これを木曽川へ合流して海へ出るということなのだろうか。

「すみませんね、僕ウミガメじ

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サイのカワラ

サイのカワラ

ある男がサイの川原で石積みをしていた。完璧にできた。美しくできた。

それをルーチンワークと鬼が崩しにやってきた。鬼は足を軽く蹴り上げる。

「させるかぁー!何人たりとも俺の作った石積み、崩させねえ!」

男は鬼の足を取って放り投げる。

鬼は初めてのことにビクついている。今まで亡者から攻撃を受けたことなんてなかった。仲間を呼んでくるも仲間も戦いに慣れておらずどうにもその男を止めることができなかっ

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かまいたち美容室【ファンタジー ショートショート】

かまいたち美容室【ファンタジー ショートショート】

ある夏の日のこと。
前髪が伸びたな。切らないとな。働いてないので美容院代はない。自分で切るしかないなあ。などと考えていた。
暑いがお金がないので、窓を開けて扇風機対応だ。暑いからなおさら切りたいのだが。
面倒くさいなあと、擦り切れた畳にごろ寝していたら、窓からつむじ風が入ってきた。なんだろうと目を凝らすと、そこには3匹の狐のようなイタチのような獣がいた。
「すみません、勝手にお邪魔して。どうもかま

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満員電車【ファンタジー ショートショート】

満員電車【ファンタジー ショートショート】

僕は知っている。
午前2時に妖怪列車が通るのを。

ある晩、僕は夜中、鳥の声で目を覚ました。
気になった僕は、パジャマのままこっそり家を抜け出して、それがどこから聞こえるのか探しに行った。
どうやらアヒルの声だった。
僕の家から道を一本挟んで向こうに、洋服の縫製をしている会社があった。
どうやらアヒルの声はそこの屋上からしているようだった。
なぁんだ、あそこでアヒルを飼ってるんだなあ、そう思って帰

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魔法のクリスマスツリー【ファンタジー ショートショート】

魔法のクリスマスツリー【ファンタジー ショートショート】

4歳のトモヤはクリスマスが大好きだった。クリスマス飾りをすると、クリスマス、きれいだねー。トモくんクリスマスだあいすき!とはしゃぐ。
我が家は12月の初めからツリーやガーランドを飾り始め、12月26日には片付けることにしていた。
しかしトモヤが生まれてからはそれが大変になった。片付けを阻止されるのだ。
だから、彼の寝ている間に、気づかれないくらい少しずつ片付けていき、大晦日までになんとか完了させる

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ガラスの山の魔法の実【ショートショート ファンタジー】

ガラスの山の魔法の実【ショートショート ファンタジー】

すみません、めっちゃ長くなりました^^;いつものショートショートの2倍強くらいあります。

もしそれでも読んで頂けたら、泣いて喜びます(ToT)

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ガラス山の魔法の実
小学校で噂になっていることがあった。
学校の窓から見える三角山の向こうには、切り立った、地獄の針の山のような山があって、その頂上には魔法使いが住んでいるらしい。

「カズト、お前今

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