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あおり運転【ショートショート ファンタジー】
うちの辺りはそれほどの山の中というわけではないし、市役所まで車で20分ほどなのだが、どうにも山が多い。
名古屋の友人を連れてきたときトンネルをくぐったら「え?どこにいくの?」と不安げに聞かれたが、なんのことはない家へ向かっていただけである。
ところで、そのいくつかあるトンネルのうち一つに、ある噂があった。私が大学生の頃聞いた話だから、かれこれ20年ほど前からのことだろうか。
大学の友人がさも真実っぽく語っていたのだ。そのトンネルにはぴょんぴょんババアなるものが出るのだと。ぴょんぴょんババアというのは、キョンシーのおばあさんのことらしい。
私はそんなの全く信じていなかった。そんな妖怪だかなんだかわからないもの、存在するはずがないじゃないか。その友人は、昔は心霊スポットめぐりなんかもしていて、大したことないことでも大げさに言うやつだったし。
ところで最近私はクロスバイクにハマっている。
友人に譲ってもらったものに乗っているだけだが、完全にハマってしまって、少しずつだが距離を伸ばして走っていた。この自転車をいじったり、もしくは別なのを買ってもっと長距離乗れたらいいなあと思っていた。
ある日私はいつもとは違う方向へ出かけてみようと思い立った。それで上に書いたトンネルのところへ来たわけだが。
トンネルへ入ってしばらく走ると、後ろから何やら足音が聞こえてくる。たったったったっと、誰か走っているようだが、私の自転車のスピードに余裕で近づいてくる。
そんな馬鹿な、どんな速いスプリンターでも、これほどまでのことはないだろう。
いずれにせよ追いつかれる。向こうは歩行者なのだから歩道を走ればいいのだが、おかしなことに、その時の私はそのスプリンターに先を譲ったのだ。
そのスプリンターは、まさか先を譲られるとは思わなかったらしく虚をつかれた様子だったが、ものすごいスピードに止まれず、先を走っていった。その時見た彼女?の姿は忘れがたい。なんというかサテンの中国服のようなものを着て、両手を前に出し、両足揃えて跳ねていたのだ。これは驚くべきことだ。跳ねていたのにあのスピードで足音が聞こえていたのだ。
そして形相は怒り狂った老婆であった。
私はその時なぜか、無性に腹が立ったのだ。なぜ先を譲ったのに腹を立てられねばならないのかと。
私はがむしゃらにこいだ。今までの最速だ。
そのスピードで彼女を追う。追って追って追い散らかした。
逃げる彼女。追われたのは初めてと見える。
やがてトンネルの出口に差し掛かり、すっと彼女の姿は消えた。
トンネルから出た私は猛省した。これは‥煽り運転ではないのか?例え相手が妖怪だろうと、最初に向こうが追いかけてきたんだとしても‥。
それ以来私は、おとなしい運転を心がけて、クロスバイクライフを楽しんでいる。
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