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【詩】

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私の創作した詩を載せてゆきます
運営しているクリエイター

#統合失調症

本

むかしは本の虫だったが
二十六歳頃から
あまり読まなくなった
一人暮らしを始めたときからだ
マンガも小説も聖書も
読むと云ったら詩くらい

代わりにぼくは人生を読んでいる
そこから学び取ってきた
ぼくの人生で接するものは
どれも本だと思っている

冬の嵐も 夏の台風も
歌番組もユーチューブも
彼女の微笑みも友のLINEも
牧師先生の説教も
祈りの時間も
すべてが本だと思っている

この世に本でない

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歯車じゃない

歯車じゃない

かかりつけの病院で
事務員が替わっていた
診察を終え薬局へ
受付の子がまた違う
ここはときどき
薬剤師も入れ替わる

速く安く正確に
若く美しく文句を云わない
より便利な部品を
探してるらしい
古くなるだけで捨てられる
泣き笑い
恋も呼吸もするのに

どこもそうだ
どれだけの悲劇が
世界中で起こっているのか
熱意は下がる
プライドも失せる

「人の命は地球より重い」
きれいごと言うなよ
誰も信じち

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救い

救い

ある人からぼくの作品が
人さまをお救いしますように
そう伝えられた…どうだろ?
人を救うのは無理でも
少しでも人の心を癒やすような
そんな詩を描けたらと思う

鳥頭なので
忘れちゃうかもしれないけど
そう云うのも少し
積極的に描いてゆきたいな
そんなことを思いながら今夜も
台所でラーメンをすする

けれど

けれど

詩を描きたいのに描けない
ワタワタすることが
ときにある
そう云うときは
できるもの できるもの
いいのじゃなくて嫌になる

けれど創作するしかない
それしかぼくにはないから
ふつうの人にできることが
できなかったりする
それがなにかとかここでは
いちいち口にしないけれど

得難い経験

得難い経験

病気は嫌なものだが
経験することによって
人の痛みを
自分のことのように感じる
感受性が与えられる
苦しい思いをしないと
一人前になれないのと
どこか似ている

と云うのもぼくが
不治の病である
統合失調症の患者だから
軽々しく云えるのであって
バリ健康な人が口にすれば
石が飛んでくるかも
でも、いつか経験して
よかったと思えたらな…

十代の頃

十代の頃

十代の頃はなりたい自分と
現実のギャップに
よく涙していた
でも誰にも打ち明けられず
ベッドで膝を抱えていた

好きな女性に手紙を送り
文通することになった日
天にも昇る気持ちだった
手紙を書いている間だけは
愉しいのに終わると哀しい

けっきょくは独りか。
その子にも
悩みは伝えられなかった
ただ愉しげに
場を盛り上げるだけ

深夜のラジオに熱中した
パーソナリティーの語りが
胸に響く――苦しい

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ぼくなんです!

ぼくなんです!

何年か前に
詩人の谷川俊太郎さんに手紙を書いた
「詩を千作書きました」と記したら
すぐに返事をいただき
――叱られた

「あなたは何になるつもりですか?」
「詩では食べてゆけませんよ」

そんなことを云われた
でもぼくはもう
二千作以上書いてしまった
また手紙を送れば叱られるだろうか

「どうしても書いてしまうんです」
「書かずにいられないんです!」

こう云っても叱られるだろうか
しょうがないで

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十代の頃の苦しみを思うと
あの頃なぜ詩を
書いていなかったのかと思う
苦しさをまるごと言葉にして
吐いていればつらさも
少しは楽になった気がして

でもあのときは書いていなかった
代わりにぼくが
詩を書いてあげなきゃいけない
今の痛み、哀しみ、愉しみを
詩にしなくちゃいけない

言葉は今しか吐けないから
今、口にしよう
痛み哀しみ愉しみを
あなたしか吐けない言葉で
あなたしか語れない語り口で
口に

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発病直後

発病直後

「今日こそなんとかしてやる!」
そう誓いながら毎日登校していた
それが病気だとは信じなかったが
なにかおかしいとは思っていた
クラスの好きでもない女子が
異常に気になってその子を
始終見ていたら気づかれて
それからは下を向いて
授業を受けるようになっていた
その女子を見ずにいられなかったから

授業中ずっと下を向いているのに
「見てる」「見てる」と
ぼくを非難する声が聴こえる
ぼくがその子を
まだ

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十六歳

十六歳

夢を描いて真剣に生きて
誤解を受けて差別されて
そんなことを繰り返していた
十六の頃 すでに
統合失調症を発症していた

逃げたいのに逃げ場がない
友人はみな去り
孤独の中でうろたえていた
世間が化け物小屋に見えた
生きるのが地獄になった

差別を受けたのは
旧友からだけではない
いとこ、床屋のオヤジ、
宗教家、下級生、ただの知人
やけくそにもなるよ!

涙ながらに酒を注いだ
呑んで呑んで
吐いて

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