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発病直後


「今日こそなんとかしてやる!」
そう誓いながら毎日登校していた
それが病気だとは信じなかったが
なにかおかしいとは思っていた
クラスの好きでもない女子が
異常に気になってその子を
始終見ていたら気づかれて
それからは下を向いて
授業を受けるようになっていた
その女子を見ずにいられなかったから

授業中ずっと下を向いているのに
「見てる」「見てる」と
ぼくを非難する声が聴こえる
ぼくがその子を
まだ見てると云うのだ
これでもか?!
さらに顔を腕で巻くようにして
授業を受けるようになった
それでもときどき声が聴こえる
苦しくてしかたなかった

昼休みは弁当を食べたら
図書室で過ごす
そこだけが穏やかに息ができる
唯一の場所であった
でも一時間経てば地獄に戻る
その繰り返しをしていた

最初のテストを受けたら
クラスで三十八番だった
下から四番目
あたり前だ
先生の声だけ頼りに
授業を聴いているんだから
夏休みになった

宿題をこなすだけで
四十日間の休暇は終わった
バイトする時間はなかった
一日だけ登校して
宿題をぜんぶ提出したが
その次の日から
登校拒否を始める
本当に暑い八月だった

引き篭もるようになる
九月に入り母が
休学届を出してくれた
精神科を受診する
薬が出て夜は眠れるようになった
しかしクラスの女子の
声が始終聴こえる
それはぼくを
非難するばかりだった

次の年のクリスマス間近
ぼくは高専を中退した
なんと淋しいクリスマスだろう
担当の精神科医からぼくは
数年後、統合失調症だと告げられる