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引きこもりの少女に与えられた犬

引きこもりの少女に与えられた犬

17才の高校を中退した少女は部屋に引きこもり永遠と自室で眠っていた。

そんなある日、心配した少女の両親が子犬買った。

この子犬の力で、娘が部屋から出てこないかと祈る気持ちで、ドアの隙間から手紙と子犬の写真を入れる母親。手が震えている。

少女の部屋は2階の1番隅に。

きゅんきゅん、きゃんきゃん鳴く子犬の声が少女にも届いている筈だと母は祈る。

少女は夜中そっとリビングの子犬のサークルを見に行

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君と繋がる

8月3日あの日は月曜日だった。

朝からサウナの中にいる様な、暑い夏の朝だった。

あの日君は仕事場にこなかった。

次の日、君が24階建のマンションから飛び降りたと聞いた。

同じ歳、私は4月20日生まれで、君は5月20日生まれだった。

早朝の夜明け、冬ならばまだ夜に所属する様な時間。君は白日の早朝に逃げる様に落ちに行った。

声が、自分とは違う声が右斜め上から聞こえて苦しいと話した事があった

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正義

正義

ある女の子のお話し。

彼女が生きている時代、正義とは何か?正論とは何か?良く議論され、正義が強者になる時代だった。議論さえ上手ければ勝ち、利を得られる。結果さえよければ、そんな勝ち負けがあちこちで行われていた。

そんな時代に生まれた彼女は、思春期になっても、尖った所がなく、故に棘で誰かを不意に傷つける事なかった。

でしゃばる事もなく、故に彼女の存在で転んでしまうような、彼女を景観の目障りだと

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私の尊さが助けてくれた

私の尊さが助けてくれた

人々の実り豊かな涙が穀雨となる季節。
豊かな国の貧しさが独立し勝ち得ているように感じた。

私の神経質な魂は、緊張で震え、情感が注意深い努力と優しさで、それらを必死に集め結集させ、結合させ、結晶ように健気に輝く何かを創ろうと試している。
心中で保ち続けたそれは、きっと礎石となり像(プライド)となる種。きっと…そう願って私は生きている。



既成の表面的な美しさでは無い、それを、泥臭い中のキラと

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好きな彼

好きな彼

初夏の海のマジックアワー。

「夕方は寒くなって来たね。」

そう言って後ろから私を抱きしめて温めてくる彼。私の髪に鼻を埋めて、手を握りあい。周りが暗くなるほどに強く手を握りあう。大好きよ。

「そろそろ家に帰ろうか。」

私は彼を誘って、手を繋いだまま歩いて、私達の家に帰り始める。その間彼は一言も喋らず手の強さが熱い。本当に痛いくらい力強い…。どうしたの?

家に帰りつき。手洗い終わるなり、

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青い時代の恋

青い時代の恋

私に会うとポーカフェイスの貴方の耳が赤く染まる。だから思い切って聞いて見る。

「すきなの?」

「なにが?」

「私が」

「なんで、そう思ったの?逆に聞くけどさ。」

「貴方の耳が真っ赤だから。」

すると顔まで真っ赤にして、彼は下を向き立ち尽くしてしまった。私はえへって笑って走って逃げちゃった。

逃げて立ち止まって振り返り、

「勝手に踏み込んでごめん!でも、まってるの私!私の扉の鍵はあな

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全ては仕組まれている

全ては仕組まれている

体はもう仕組まれていた。

生まれる前に私の体の仕組みは殆ど揃い、そこへ私の心が生まれた。体へ私の心は落ちて、もう拾えない。引き返せない。

生まれたいと願った訳でなかった。

せめて愛の結晶で生まれたかった。雪の結晶のようなキラキラと輝く愛の形の子供として…。



命が性欲使い、地位や名誉、体裁欲を餌に、男女に子を作らせ笑っている。

世間の体裁で出来た表面的な人形たちを笑ってる。

子供、

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どこからアブラムシ

どこからアブラムシ

羽の付いたアブラムシが何処から飛んできて、私の毛穴に卵をうんだ1週間前。私は気づかなかった。

7日後、毛穴から羽を持たないアブラムシが次から次から出てきた。全身の毛穴から羽の無いアブラムシが次から次に出てくる。ゾワゾワと細い足で歩き、ザワザワと私を埋め尽くしてゆく。肌の下で騒めくアブラムシを感じて、気が狂いそうになる。

急いでシャワーで流そうとするも、危機を察した羽の無いアブラムシは私の毛穴の

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失恋

失恋

貴方と別れて私は豊かになっている事に気づいた。貴方は本当に凄い人。



捨て猫の汚れを落として白猫にした貴方。だから、私の汚れも落としてくれる気がしたの。

あなたは眩しくて、私の色の事なんて考える隙なくなった。恋って全てが真っ白に盲目になっちゃうのね。私は貴方の輝きの色に塗り変わったわ。



毎日、毎日が同じ繰り返し。結局同じ繰り返しだったけど、貴方の色を貰って、同じ毎日の中に新しい私は

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老婆の罪に寄生する孤独

老婆の罪に寄生する孤独

子にとって母親は世界中心。神様みたいな物だ。母に捨てられたくなく、母を決して捨てられず、愛してしまう遺伝子がきっと刻み込まれている。

誰もが母を真っ直ぐと好きになりたいのだ。どんな罪があろうとも心の父母は殺せないのだ。現実の父母がどうあろうとも、心の父母は自分にしか殺せないのだ。

嫌いになれたならば、葛藤も無く、このお話はなかったかも知れない。



月を殺した孤独な老婆がいた。これはそんな

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初恋

初恋

初夏の少し暑い日だった。

急な坂から、カラカラと綺麗な細工が施された一本の口紅が転がってくる。

坂の上の人が落としてしまったんだろう。若者は急いで坂を駆け上がる。若い筋肉が脈打ち隆起しながら上へ上へと道路を蹴り上げ、登ってゆく。汗とともに。

坂の上に着くと、その先に更に階段があり、少し遠くにポニーテールを揺らして女の子が登っているのが見えた。高校生らしき女の子の口紅だろうか…若者は大きな声で

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恋(誠実な男) Honest piano man

恋(誠実な男) Honest piano man

夏の初め、君と抱き合いハンモックに乗り揺れて愛を語り合った。

夜空を見上げ、星座を共に探した時間が流れる。2人の息がお互いを撫で、優しく水の瞼の中で1つになる幸せの深夜。

裸で抱き合い、笑顔で頬を寄せ合う2人を月の光が照らし、君が艶やかに冷たく輝いて青く白光するから、お互いの体温が恋しくなる。

キスは熱く、抱擁はもっと熱く、君の細い手首、首が赤く紅潮し、ハンモックも徐々に僕達を包み込み、月と

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言えなかった、愛してる

言えなかった、愛してる

母が突然死んだ。

啓蟄、煙突の穴から白蛇が母を連れて空に進んでいく。

母の姿思い出そうと池に映る白蛇を見るも、池に投げ入れた花にどこからともなくアブラムシが無数に纏わりついて母の姿を記憶ごと隠す。

煙突の穴の中は真っ黒に煤け、奥底に母の抜け殻がカランと白く残っていた。

白く

カランと

軽い音で

燃え殻脱いで母は去った。

残るは焦げた煤の色や灰色の白黒の俺たち。

蛇は霧雲となり空に

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好きだよ

好きだよ

君に言えなかった、好きだよ。をずっと胃に持って消化できずにいる。

君の化粧ボックスから掠め取った赤い口紅が俺の姿見の鏡の前に、鑑越し裏も見えるように床に立たせて置いてある。

いつも床に口紅は立って居る。ふとすると、足で触って蹴り飛ばし、さらさらと惰性で君は転がって行ってしまう。

邪魔な君にはお似合いの場所だろ。と俺は口紅を通して鑑の君と話す。ぽろぽろと音する優しい蓋はしっかりしまり、君の優し

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