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老婆の罪に寄生する孤独

子にとって母親は世界中心。神様みたいな物だ。母に捨てられたくなく、母を決して捨てられず、愛してしまう遺伝子がきっと刻み込まれている。

誰もが母を真っ直ぐと好きになりたいのだ。どんな罪があろうとも心の父母は殺せないのだ。現実の父母がどうあろうとも、心の父母は自分にしか殺せないのだ。

嫌いになれたならば、葛藤も無く、このお話はなかったかも知れない。

月を殺した孤独な老婆がいた。これはそんなお話。

ある晩、老婆が5分間分の月を手で潰し殺してしまった。空に手を伸ばして掴み取るふりをして、ただ単に遊んでいただけで、悪意は無い。自分の暇を遊ばせたら、手に潰れた月が貼り付いた。

驚いた事に、見上げる夜空には月は変わらず存在している。

どう言う事だろうか…。確かに老婆の手には潰れた月と直感する物が、ほんのりある体温が生き物と老婆に教えている。

老婆が手にした5分間分の月は一体なんだろうか…。本当に月なのかどうかすら…

皺々の手に潰れた発光物が気持ち悪い。

いつも通りの夜空の夜月に、自分のした事は何て事無い事かもしれないと安心を抱く。

では、手で潰した月はどうするか…。

その辺に捨てる、新聞紙包んで燃えるゴミへ、この場で燃やす…。

月は手に磁石の様に必死に貼り付き取れない。気持ち悪いと呟く老婆の溜息は臭くドブへと流れる。

海で手を洗ってみるも、何故か海は月を拒み水に掌が入ってゆかない。

土に埋めようと思い立ち、深く深く自分の腕ごと掘り埋めた。

そして、恐る恐る腕を引き抜くと、泥で汚れた手だけが戻ってきた。土から薄明かりが漏れているが、もう気にする気力はない。

ホッとし、中々の重労働に疲れた体を引きずってやっとの思いで帰宅する。

次の日、やはり心配で一昼夜、夜空を観察した。0時からの5分間、夜空には月が居なかった。

次の日も次の日も次の日も…。

まずいな…。しかし、5分くらいなら月が無くても大丈夫か…。それなのに老婆は、孤独な曲がった腰を揺らし、月を埋めた場所へとのろのろと歩いてゆく。誰かが呼んでいる。

土は静かに唯の闇であった。老婆は安堵するも、次の瞬間には掘り返し始める。何かに促される様に老婆は無心で掘り返す。その背中はとても小さく小さく震えている。

殺された月は溶けて土と混じり、黒銀色の粘土のような物になっていた。

老婆は粘土の様なその鉛を見て何故か涙を流す。そして、大事に大事にお腹に抱えながら帰路した。

次の日の0時に粘土が死んだ我が子の形に変わり始めそして、老婆に言う。

「やっと、家に帰してくれたんだね。ありがとうお母さん。」

遥か昔、老婆が虐待して殺し埋めた子供が帰ってきた…。

また殺して埋めなければと焦る心を、子供から漏れる優しい光に包まれ体も心も動かなくなる。

罪に囲まれ囚われ生きた孤独だった老婆に子供は、

「どんなお母さんだって大好きなんだ。嫌いなろうとすると、僕自身が辛くなっちゃうんだ。いつも一緒にいたいんだよ。愛しているから。だから、全部大丈夫なんだよ。次はお父さんだよ。」

笑顔ではしゃいでいうのだ。

あぁ…あそこは、2人を埋めた場所だったのか。

では、夫は何時の月を殺せば埋めれば私は夫に会えるのだろうか…。

自分の罪も忘れ、毎夜夫の月を探しながら、月を次々と殺す日々が始まった。息子と手を繋いで。老婆は毎夜泣いて夫の月を求めた。もうそこに孤独は無く、只々月の死骸が増えるだけの日々。

ある日、息子が

「お母さんお父さんが来るよ!!」

瞬間、流れ星が老婆を貫き刺した。月では無かった。星となっていた夫。

夫と息子は、2人で老婆を抱きしめて愛して、抱えて空に登りはじた。それは約束された事の様に淡々と行われてゆく。

「お母さんの事、嫌いになれなかったよ。」2人は呟き微笑む。

毎夜殺した月の残骸と一緒に、家族は夜空に帰ってゆく。

暗闇になっていた夜空に、夫と息子が月を作り直し世界に日常が静かに戻る。

魂まで死んでしまった老婆をいつまでも2人は抱きしめて宇宙こ隅で過ごした。

これは老婆が見た夢か幻か走馬灯でしょうか。

さようなら孤独な老婆よ…。

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