『視憶』

両眼を開けた途端、新しい世界が広がった。

生まれた時から、右眼が見えなかった僕に、

幸運にも移植の順番が回ってきた。

二つの眼で、当たり前の視界を知る喜び。

今まで見えなかったものまで、見える。

いや、右眼だけに、視界にないものが見える。

車のハンドル。割れる窓ガラス。君の顔。

君?誰だ?僕の知り合いじゃない。

この眼の持ち主だ。彼が最期に見たもの。

愛しい人の顔が、くっきりと映って見える。


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