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小説・詩小説

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小説のようなものや短い詩の物語のようなものなどをまとめたお部屋。
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#短編小説

【詩小説】七日の耳鳴り

【詩小説】七日の耳鳴り

日本酒の一升瓶を咥え
頬が膨らむまで含み
長い列に並んだ人たちの掌に
勢いよく噴射する男
赤い顔
眉間に尖ったいぼ
受付と書かれた名札を
首からぶらさげている
やっと私の順番だ
全身傷だらけで沁みはしないかと
恐る恐る掌を差し出した
他人事みたいに痛みもない
血や土で汚れていた腕も
洗い流されていた

青白い背中は
もう見当たらない
果てしない荒野が広がる

空を見上げた

御影石を
綿菓子にする

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【詩小説】水の奥

【詩小説】水の奥

ひとりの男性俳優が亡くなったとネットニュースが訃報を告げた。
死因は脳出血(脳卒中の一種)。突然死だった。
その俳優はまだ還暦前で僕の思春期にいわゆるゴールデンの時間帯で主役を演じていた。
先輩俳優からは「まだ若すぎる」「順番が逆だ」とやりきれない声が続々と寄せられた。
僕はその俳優の名前を検索してSNSのアカウントを見つけた。数日前に笑顔で仕事への意気込みを綴った更新が最後になったことを知った。

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【掌篇】十月の流れ星

【掌篇】十月の流れ星

銀という名の猫がいた。
実家で飼っていた茶トラのオス猫であった。
熊に立ち向かう狩猟犬の漫画に登場する秋田犬の名前を付けたのは、その猫に強くたくましく育ってほしいと願ったからだった。
なぜ勇敢な主人公にあやかったのかも含め、その理由といきさつの経緯を銀と出逢う少し前まで遡ってみたい。

祖父母の家の裏庭に一匹の野良猫が現れた。当時二十二歳の私は家業を手伝いにほぼ毎日祖父母の家へ通っていた。いつしか

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